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第18話 実践試験 2


 王都近郊に出没する二種の魔獣を討伐した後は一時休憩。


 水分補給を行いながらも殺害した魔獣の死体を土に埋めようとしていると――


『グワァグワァ!』


 滅多に聞かない、独特な鳴き声が林の奥から聞こえてきた。


「これは……」


 ランディ氏は声を漏らしながらも、アルフレッド殿下を背に隠すよう立ち位置を変える。


 近衛騎士である彼さえも警戒する鳴き声の主は、傭兵や騎士団を警戒させていた魔獣。


「ロックラプトルですね」


 鳴き声の正体を口にすると、ランディ氏は真剣な顔で頷く。


 王都近郊に移動してきたというロックラプトルはまだ殲滅されていなかったようだ。


「鳴き声が近い。血の匂いを嗅ぎつけたのかもしれません」


 彼の言う通りだ。


 今日はやや風が強いし、匂いに敏感なラプトル種が気付くのも十分にあり得る。


「殿下の身を最優先しましょう。街道を行く者には申し訳ないが、死体は放置して――」


「いや、もう遅いようです」


 殿下を王都まで退避させようとランディ氏が提案するも、向こうの方が早かった。


 既に林の中から走る音が聞こえてくるし、頻繁に鳴くラプトルの鳴き声が徐々に近付いてきている。


「……二人で仕留めますか?」


「いえ」


 ランディ氏は腰のヒートブレードに手を掛けるが、俺は首を振って否定した。


「最悪、自分が囮になります。ランディ殿は退避の準備を。皆を頼みます」


「いや、待ちたまえ」


 皆を連れて退避して欲しい旨を伝えるが、それに待ったをかけたのはアルフレッド殿下。


「ロックラプトルは硬いと有名だろう? それを撃滅してこそ、新兵器の完成と言えるのではないかね?」


「承知しております。ですので、討伐するつもりです」


 皆の安全が確保された上で討伐する。その考えを口にするも、アルフレッド殿下はご不満な様子。


「僕も見届けよう」


 アルフレッド殿下はニヤリと笑いながら言った。


「殿下、それは……」


「部下を置いて逃げる将が下から好かれると思うかね? 僕はただでさえ嫌われ者なんだ。直属の部下くらいには好かれたいじゃないか」


 本気で言っているのか否かは不明だが、アルフレッド殿下はこの場に留まるという。


 護衛のランディ氏を強く制止してまで、だ。


「ニール。君はロックラプトル倒すだろう?」


「勿論です」


「ならば、大丈夫だ」


 内心で「どう大丈夫なんだよ」と頭を抱えたが、平民騎士の俺が殿下の命令を拒否するなどあってはならない。


「……ランディ殿、あとは頼みます」


「承知しました。ご武運を」


 俺の内心を察してくれたのか、ランディ氏は労わるような苦笑いをくれた。


「ユナさんも十分に下がってて下さいね」


「は、はい……。ニ、ニールさん! 頑張って!」


 彼女の応援を頂きつつ、俺は兜のバイザーを閉じた。


 左手を握り締めつつも林に近付くと――見えた。


 体長は一メートル半程度の個体だが、全身に纏う特徴的な鎧にはチラリと鉱石らしき部分が見える。


 まだマシな方と称される岩の鎧を纏った個体ではなく、むしろ最悪な部類に入る個体のようだ。


「グワァ! グワァ!」


 向こうもこちらを認識したのか、頭部を覆う兜を突き出しながらスピードを上げる。


 邪魔な木々はいとも簡単に薙ぎ倒し、歪な形をした鎧が樹皮に擦れると痛々しい傷跡を残して。


 独特な鳴き声を上げて突っ込んで来るロックラプトルは、林を出る瞬間にピョンと飛ぶ。


「グワァァッ!!」


 強靭な脚が生み出すジャンプ力を披露しつつ、自由落下に合わせて頭部を突き出してくる。


 まるで空から落ちてくるハンマーのような、人間殺しの一撃を早々に披露してきたのだ。


 ……これに合わせるのは少々リスクが高すぎるか?


 騎士団の部隊としての戦闘なら嬉々として合わせるが、今は護衛対象がいる状態。


 俺が戦闘不能になればランディ氏に迷惑が掛かる。


「…………」


 故に相手の攻撃を避けるという選択肢を取る。


 落下してくるロックラプトルを避け、返しの一撃で仕留めようと考えた……が。


「グワァァッ!!」


 血の匂いを嗅いで興奮しているのか、ロックラプトルはいつも以上に好戦的だ。


 頭を地面に叩きつけた後、間髪入れずに尻を振る。


 トゲ状の鎧を纏う尻尾を振っての牽制、からの姿勢を戻して飛び掛かり。


「チッ」


 全て躱すが、間合いを離すまいと今度は噛みつき攻撃を連打。


 纏う鎧だけじゃなく、口にびっしりと生えた鋭利で細かな歯も驚異的な武器である。


「…………」


 対峙する者としてはどこを狙うかが重要だ。


 ロックラプトルが纏う鎧の強度は胴体部分が一番硬い。次点で頭部となっている。


 ここまではどの個体も共通で、ロックラプトルの中では「生き物として弱点になる部分を重点的に覆う」と共通した認識を持っているのだろう。


 個性が出る部分は尻尾、脚、首だろうか?


 個体によってはこれらの部分が生身丸出しになっていることも多く、そこを弱点と判断するのだが……。


 この個体は『全身鎧』だ。


 王都近郊にロックラプトルが出現したとの情報が入って以降、傭兵や騎士団が対処していたにも関わらず生き残っていたのも納得の重装備と言えるだろう。


 普通のやつらならお手上げ状態。


「だが……」


 こちらにはユナさんとグレンの親父が作り出した兵器がある。


 俺は二人が作った兵器の質と威力を信じる。


 それが特別開発室の一員となった俺の新たな信念であり、胸を張って戦える最大の要因だ。


 であればこそ、狙う箇所にアタリはつけない。


 シンプルに――


「ぶち抜くッ!!」


 噛みつき攻撃に対してのカウンター。


 伸びた首をスウェーで避け、返しの一撃に相手の首目掛けて左フック。


「獲ったッ!!」


 トリガーを押し込み、首に向かって杭が射出された。


 バゴン! と強烈な音と共に首に纏う鎧が破裂するように散る。


 魔導技術の力によって射出された杭は鎧を粉砕し、それでも尚止まらない。


 杭は首を貫通し、ロックラプトルは首が串刺しになった状態になった。


 首を貫いた杭には血が滴り、脱力したのを見て勝利を確信したのだが……。


「グアァ……」


 まだ生きてやがる。


 首を貫かれて串刺しになった状態でも、兜の隙間から見えるロックラプトルの目は死んでいなかった。


 まだ諦めない。せめて、道連れにしてやると言わんばかりに弱々しくも口を開け閉めして噛みつこうとしてくるのだ。


「終いにしてやる」


 俺は杭を抜いてから再セット。


 空いている右手でロックラプトルの口を掴んで開かないようにすると、下顎に杭を接触させた。


 バゴン!


 最後は下顎から脳天を貫く一撃でトドメ。


「…………」


 さすがはドラゴンもどきと言うべきか。


 その生命力には毎度驚かされるが、今回は兵器の方が随分と上だった。


 近い将来、今は脅威とされるラプトル種も簡単に仕留められる時代が訪れるのだろうか?


 そんな想いを抱かずにはいられなかった。



 ◇ ◇



「――お見事!」


 ニールの戦闘を後方から見守っていたランディは思わず声を出してしまった。


「……失礼しました」


「いや、構わんよ」


 ランディはコホンと咳払いしながら謝罪するが、アルフレッドはそれを嬉しそうに笑う。


「しかし、実に素晴らしい方ですね。堅実な戦い方をしながらも、魔導鎧の特性を生かした大胆な動きもできる。それにあの度胸といったら」


 ニールは基本に忠実な騎士だ。


 下手な小細工よりも相手の動きを観察してから後の一撃を選ぶタイプ。


 だが、特筆すべきはその度胸だろう。


 相手と対峙した時、ニールは恐れない。


 冷静かつ大胆に。


 彼の戦い方を観察していると、度胸がありすぎて「戦闘狂なの?」とも取れる動きをすることもあるが。


「だとしても、騎士として優秀と言わざるを得ません。あれが本当に第四部隊に?」


「まぁ、上に上がるのは確実だっただろう。良い人材を得られたものだ」


「最初から見抜いていたのですか?」


 この一言はアルフレッドがこの場に残り、ニールの戦いを見守ると判断したことへのものだろう。


 ニールが強く、勝てると確信していたから「退避しない」という選択肢を取ったのだろうと。


 しかし、アルフレッドは「いや」と首を振る。


「最初の面談時は紙の経歴書しか情報がなかったよ。ここまで優秀な騎士だとは思っていなかった」


「では、どこで確信が?」


「面接の後、()に言われてね。気に入ったか? と」


「……ああ、あの御方の策ですか」


 ランディとアルフレッド、両者共に同じ人物の顔を思い浮かべているようだ。


「クリフ様の許可も得たのでしょうか?」


 ランディの言う『クリフ様』とは騎士団の管理を任されている第二王子のことだ。


「問題無いと言っていたね。これからの国防政策には必要だと説得したんじゃないかな?」


 年々増加する魔獣被害に対し、騎士団は強い装備を求めている。


 もちろん、優秀な人材も必要となるのだが。


「上に上がって潰されたくはないとも言っていたね。ほら、第一と第二部隊は魔獣とも人とも戦うじゃないか。そこで潰されるのは惜しいと」


 時には国外へも出る第一、第二部隊。


 苛烈な戦いの中、それに耐えきれずに肉体的にも精神的にも潰れてしまう者も少なくはない。


 中には国外の貴族や国に魅了され、引き抜かれてしまう例も。


「なら、王家の傍に置いた方がいいとね」


 そういった部分も含めて、ニールを送り込んだ人物は王家が掴んで離さないようにしておくべきだと考えたようで。


「なるほど。あの御方らしい考え方です」


「だろう?」


 ランディは納得したとばかりに表情を戻し、アルフレッドは心底楽しそうに笑みを浮かべ続けていた。


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― 新着の感想 ―
良い感じにテスト出来て良かったですね! 御方が気になりますが、大分お偉方なのでしょうね、、、 どこかで会っていたのかな、ニールさん!?
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