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第15話 稼働試験 二回目……と


 最初の稼働試験から二週間後。


 ユナさんとグレンの親父による改修は続けられ、遂に第二回目の試験が実施されることになった。


「これが杭デール君試作二号と専用左腕です!」


 改修ポイントは主に魔導鎧の左腕部分。


 魔導鎧の左肩から腕に掛けて、従来の形よりもゴツく太いマッシブな形に。


 これは装甲内部にあるフレームや疑似筋肉の耐久性を増加させたためだ。


「内部機構の耐久性を増加させたことで、杭デール君の衝撃にも耐えられるはずです」


 続けて試作兵器である杭デール君試作二号だが、こちらは俺の要望通りに威力据え置き。


 射出後の杭を戻す巻き取り機構、排熱機構などは改良を加えたが、威力に関しては全くいじっていないとのこと。


「これで試してみましょう!」


「はい、分かりました」


 ユナさんとグレンの親父が見守る中、魔導鎧を装着して――前回と同じく鋼で作られた案山子の前に。


「行きます!」


 二人に合図を送ってから強く一歩を踏み出し、左腕を案山子の頭部目掛けて振りかぶる。


「フッ!」


 短く息を吐き、腹に力を入れ、腰を捻りながら殴り掛かって。


 バゴンッ!!


 前回と同じように拳が接触する瞬間、高速で杭が射出された。


 杭は案山子の頭部を木っ端みじんに粉砕。


 ここまで前回と同じ。


 問題は改良された腕が耐えられるかどうか。


 粉砕と同時に内部に溜まっていた熱を逃がすべく、後端の排熱口から勢いよく白い煙が排出される。


 そして、問題の腕は――動く!


 前回のように重さが戻ってくることもなく、肩をぐるぐる回すことも可能。腕を曲げたりしても問題ない。


「動きます!」


 俺が結果を伝えると、ユナさんとグレンの親父がワッと喜びの声を上げた。


 ただ、これは最低限の目標といったところ。


 完全に問題がクリアしているかどうかは、改良された腕部をバラしてみないと分からない。


 ユナさんとグレンの親父は早速とばかりに腕部を解体していく。


「……前回破損していたフレームも疑似筋肉も問題ありませんね」


「関節部分のパーツが変形しているってこともない。問題無しだ!」


 前回の結果としては、肩と腕の関節を支えるフレームが歪んでしまっていた。


 更には腕を動かす際の補助として使われる疑似筋肉は完全に断裂した状態だった。


 だが、今回の改良を経て前回の問題点は全て克服できたようだ。


「次はどうする? 耐久試験か?」


「そうですね」


 改良された腕部と試験兵器が何回の攻撃に耐えられるのか。


 これは正式採用されるか否かに関して重要な情報だ。


 一撃で使い捨て、なんて兵器はコストパフォーマンス的によろしくないからな。


「このまま続けるか?」


「継続したいですが、案山子を用意しないと――」


 と、二人の会話を聞いている時だった。


 王城の玄関がある方向から一人の騎士と共にこちらへ歩いてくる人物の姿が見えた。


「やぁ、試験の調子はどうだい?」


 やって来たのはアルフレッド殿下だ。


 いつも執務室のドアを守っている近衛騎士――ランディ氏に護衛されながらのご登場。


 試験を行う旨は前々から通達していたので、結果が気になったのか確認されに来たのだろう。


「アルフレッド殿下。丁度、一度目の試験が完了したところです。前回の失敗は克服されました」


 俺が騎士礼を行いながら結果を伝えると、アルフレッド殿下は嬉しそうに「そうか」と笑ったのだが……。


「そうか、そうか。それは――ん?」


 殿下は笑みを浮かべながらも、ユナさんの隣に立つグレンの親父を見て固まる。


「ん? ん~?」


 そして、彼の顔をまじまじと見つめると……。


「……もしかして、貴方はクリストファー卿?」


 クリストファー()


 家名? 貴族みたいな? グレンの親父は平民のはずでは?


 訳が分からず内心で首を傾げていると、グレンの親父は眉間に皺を作りながらも殿下へ頭を下げた。 


「殿下、お久しぶりにございます」


「ど、どういうことですか?」


 ユナさんも大変動揺しているのか、ササッと俺の背に身を隠しながら問うた。


「……いや、僕も目を疑ったよ。彼はスイオン王国のグレン・クリストファー伯爵だ。隣国の筆頭国家認定鍛冶師がどうして我が国に?」


 スイオン王国とは我らがフォルトゥナ王国の東側にある国だ。


 フォルトゥナ王国とは同盟を結んでいる良き隣人、といった国である。


 続けて、国家認定鍛冶師についてだが、こちらはフォルトゥナ王国の王宮鍛冶師みたいなもの。


 腕の良い鍛冶師が国に認められたという称号であり、スイオン王国における国防兵器の製造や開発に携わる者達を指す。


 加えて、驚きなのはグレンの親父が『筆頭』と呼ばれていたこと。


 これは国家認定鍛冶師の中でも一番腕が良い鍛冶師ということだ。


 ただ、もっと驚きなのはグレンの親父が隣国の貴族であることなのだが……。


「……おや――貴方は貴族様だったのですか?」


「よせやい。いつも通りに喋れよ」


 俺が口調を改めて問うと、グレンの親父は心底嫌そうな表情を浮かべて言った。


「家督は息子さんに渡して引退した、とまでは聞いていたが」


 アルフレッド殿下が更なる情報を明らかにすると、グレンの親父は表情をそのままに「そうです」と頷いた。


「まぁ、全ては自分の不徳が致すところと言いますか。妻が亡くなってから、家や家業は息子に任せました。今はもう家とは関係無く、ただのグレンです」


 彼の言葉を要約するならば『家は捨てた』あるいは『家を出た』といったところか。


 家のしがらみを嫌って独立を夢見る若い男ならまだしも、グレンの親父がそういった状況になったということは……。


「ふむ……。あまり詳しくは聞かない方が良さそうだね」


「そうしてくれると助かります」


 やはり、何かしらの事情があるようだ。


「事情はともかく、国家認定鍛冶師の元筆頭とは。腕が良いのも納得だ」


 俺が感想を呟くと、後ろに隠れていたユナさんも顔をひょこりと出しながら何度も頷いていた。


「ハッ。んなモンは過去の栄光よ。今はただの大物好きな鍛冶親父だ。ニールも嬢ちゃんも遠慮しないでくれよ? いつも通りにしてくれや」


 今は平民なんだからよ、と。


「クリストファー――おっと、グレン氏が協力してくれるなら我々としては大歓迎なのだが問題無いのかね?」


「問題ありません。出来れば、このまま力になりたく。腕が腐るまで槌を振らせて頂ければ幸いにございます」


 アルフレッド殿下が改めて確認を求めると、グレンの親父は引き続きの協力を申し出た。


 こちらとしては「ありがい」以外の言葉がない。


「ならば改めて。グレン殿、我々に力を貸してほしい」


「承知しました。殿下」


 二人は握手を交わすと、アルフレッド殿下が「フフ」と悪戯な笑みを浮かべる。


「これは報酬を弾まねばな。他に取られないよう、ガッチリ掴んでおきたい」


「心配はご無用ですよ。今の私は興味のあるモノしか作りません」


 続けて「お嬢ちゃんが作る物には大変興味がある」と。


「そうか、ならば引き続き頼むよ。必要な物は何でも揃える。私は本気だよ」


「……承知しました。その際は遠慮なく頼らせて頂きます」


 最後にグレンの親父は殿下の本気を見たのか、綺麗な礼を返した。


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