第14話 稼働試験 初回
俺とユナさんはグレンの親父を連れて一度塔へと戻った。
少々の休憩を行った後、遂に稼働試験の準備を始めることに。
「ま、まずは試作機を身に着けて頂けますか?」
俺にとっても遂に来た。
ユナさんの研究室に保管されていた試作型魔導鎧、それを身に着ける瞬間がやって来たのだ。
俺とユナさんはグレンの親父を外で待たせつつ研究室へ。
「装着方法は従来と同じなのですか?」
「は、はい。そうです」
ならば話は早い。
魔導鎧に近付き、最初の一手は魔導鎧の胸装甲に手を掛ける。
二つのストッパーを外すと、魔導鎧の胴体がガパッと開いた。次に首の部分を後ろに倒す。
次に自分の両足を中に入れて魔導鎧の脚部へ通し、右腕左腕を通す前に内部にある起動スイッチをパチンを弾く。
起動スイッチを入れると、胸の装甲裏に設置されているエレメントエンジンが『ヴゥン』と音を鳴らした。
正常起動した合図だ。
起動したエレメントエンジンは七色の光を放ちつつ、魔導鎧に火を入れる。
腰の部分に装着されたマナジェルタンクから伸びるチューブからマナジェルを吸い上げ、活性化させて全身にエネルギーを行き渡せ始めた。
最後は両腕を通した後、背中をぴったりと付けてから胴体を閉める。
倒れていた兜部分を被るように正しい位置へ戻せば装着完了。
「……問題ありません」
両手を何度か握り、魔導鎧の指を兜のバイザー越しに確認。
細部までが滑らかに動く。
そのまま歩き出しても問題なく、同時に生身の時よりも体が軽く感じられる。
最大の利点である『身体能力の増加』が正常に働いている証拠だ。
「じゃあ、外に行きましょうか」
俺はそのまま歩き出すが、魔導鎧の肩幅が広くてスムーズにドアを通れない。
体を斜め横にしつつ壁を傷つけないよう通り、更には階段の壁も傷つけないよう体を傾けて降りていく。
せっかくカッコいい鎧を身に着けているのに、傍から見たら滑稽すぎるだろうが仕方ない。
綺麗に掃除した壁を傷つけるよりマシだ!!
慎重に外へ出ると、今度は塔の横に簡易的な台と案山子を配置していく。
案山子は標準的な藁で作られた物ではなく、なんと鋼の案山子だ。
頭部を模した部分なんて鋼の塊。ただの剣や槍では絶対に破壊できず、傷をつけるのが精々といったところの代物だ。
本来なら重量のある案山子でも、身体強化の利いた今なら楽々持ち上げられてしまう。
すごいぞ、魔導鎧!
「ぶ、武器を取り付けましょう」
案山子を配置したら試作品の装着へと移るのだが、今回の試作品は腕と一体化している物だ。
ぶっ太い杭が貫通した長方形のパーツに、やや太めの腕がくっついていると言えばいいだろうか?
腕の先にある手はちゃんと五本の指があるし、手の傍にはトリガー付きのグリップが生えているのだが。
これをどう装着するのだろう? と内心首を傾げていると、工具を持ったユナさんが魔導鎧の腕にある留め具を次々に外し始めた。
最終的にはスポッと左腕部分だけが抜け、生身の腕が丸見えの状態に。
「し、試作品に腕を通してもらえますか?」
「分かりました」
中腰になりながら台の上にある試作品へ腕を通すと、ユナさんが試作品と鎧を結合するコネクタと呼ばれる部分を接続。
最後はグレンの親父が留め具で固定していく。
「よし、完了だ!」
留め具が完全に締まった後、俺はゆっくりと腕を持ち上げた。
「ど、どうですか? 」
「軽く持ち上げられます。腕の接続は正常のようです」
飛び出す杭とそれを発射させる部分が一体化した腕は、従来の腕よりも随分と大きい。
となれば重量もかなりあるはず。
しかし、魔導鎧のおかげで重量は感じられず、腕を持ち上げても生身の腕を持ち上げる時と全く変わらない。
腕をぐるぐる回そうと思えば回せてしまえそうだ。
「て、手の位置にあるグリップを握って下さい。そこにトリガーがあると思いますが、それを押すことで杭が射出される機構です」
それを握るとトンファーを持った感じに似ているが、人差し指が掛かる位置にトリガーが取り付けられているのが分かる。
「ど、動作は分かりますね? 殴りかかって、杭の先端を密着させた状態でトリガーを引く。そ、それだけです!」
「承知しました。早速試してみましょう」
正直、ワクワクしてきた。
転属してのんびりとした生活を、なんて考えてはいたが……。
こうして最新の技術を真っ先に体験できるのは心が躍る。
「では、いきますね」
このワクワクを案山子にぶつけてやろう。
いつの日かこの兵器が正式採用された時、元同僚達に「それを試験したのは俺なんだぞ」と自慢してやろう。
「フッ!」
足に力を入れ、力強い一歩を踏み出す。
魔獣を殺す時と同じよう、本気で案山子に殴り掛かり――
「ここだッ!!」
腕が伸び、杭の先端が案山子に触れる瞬間にトリガーを引く。
ガツンッ!!
高速で飛び出した杭の先端は鋼の案山子に食らい付き、そのまま頭部を模した部分を完全粉砕。
飛び散る鋼の破片が宙を舞う中、試作品の後端にある排出口からはブシューッ! と勢いよく白い煙が排出される。
成功だ!
威力は申し分なし! これなら硬い鎧を纏うロックラプトルさえ貫ける!
俺のワクワクは頂点に達し、脳から分泌される成分が俺のテンションをどうにかしそうだった時――
『パァンッ!!』
甲高い音が鳴った。
試作品のある腕からだ。
同時に左腕部分がブルブルと震え出し、次の瞬間には左腕に『重さ』が戻っていく。
重たい! と感じた瞬間には、左腕部分だけが欠落して地面に落ちてしまった。
「……あの、外れました」
俺は露出した生身の左腕をユナさんとグレンの親父に見せながら手を振る。
「……衝撃に耐えきれなかったようです」
「留め具が弾けてたな」
近寄ってきた二人がよく調べてみると……。
「あー、腕との結合部分が歪んでらあ」
「魔導鎧は肩にもダメージがあるみたいです。腕間接の疑似筋肉も千切れていますね」
高火力が生む衝撃に耐えきれず、結果として試作品も左腕全体もオシャカになってしまったようだ。
「こりゃあ、威力を落とすか左腕全体を強化しないといけねえかもしれねえなぁ」
「うーん……。ニールさんはどう思いますか?」
ここは正直に言おう。
遠慮しても利益にはならない。
「魔獣と戦う騎士の観点からすれば威力は落としたくありませんね。自分としてはむしろ、もっと威力を上げてドラゴンの鱗さえも貫ける威力が欲しいです」
「ドラゴンの鱗を一撃、は無理だろうな。現実的じゃねえ」
「だったら、ロックラプトルは確実に貫きたい」
恐らく、今の威力なら硬い鉱石を纏う個体もいけるはず。
威力を落とせば岩や鉄を纏う個体が限界、といった感じになってしまうだろうか?
それだとあまり、この試作品の意義が発揮できない気がする。
「……威力は維持する方向で進めましょう。魔道具を装着する腕の強化を図ってみます」
「ほう、できるのかい?」
グレンの親父が問うと、ユナさんは自信たっぷりに頷きを返した。
「魔導鎧は設計の段階で拡張性を残していますから。肩から先を丸ごと別物に交換することも可能です」
つまり、次は試作品の威力と衝撃に見合う『専用の腕』を作るということらしい。
「単純に強度を上げるだけですから、設計にはそう時間は掛からないはずです」
「よし、分かった! 設計図が上がったら店に来い! またすぐに仕上げてやらぁ!」
「はい! よろしくお願いします!」
初回の試験は失敗に終わった。
だが、これは意味のある失敗だ。次に繋がる失敗だ。
次の試験に向けて、俺もやる気に満ち溢れているユナさんを支えて上げなくては。
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