表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/44

天使はクソ、古事記にもそう書いて──

「…………」


半年ぶりに訪れたその村は、一見以前と何も変っていないように見えた。


商業都市ザースデンの北にある人口二〇〇人ほどの小さな農村。つい一年前まで連邦に所属していたその村は、現在は教国の領土となっている。


住民たちは表向き全員が教国に帰化したものとされており、遠目にはかつてと変わらぬ穏やかな人の営みが紡がれているように見えた。


きっと俺も事情を知らなければ素直に胸を撫でおろしていただろう。


いや、今でも心のどこかでは願っているのかもしれない。


死んだ筈のかつての仲間が実は生きていて、ただ村で穏やかに暮らしているだけなのだと。


だが──


『────?(ギョロ)』


賊や獣除けのため村を覆うように設けられた外柵の補修をしていた男が、二〇〇メートル以上離れた場所にいる俺の気配を察知し、ぐるりとかぶりを巡らせる。驚異的な感知能力ではあったが、素早く茂みに身を隠した俺を発見することはできず、首を傾げてすぐに補修作業に戻った。


──有り得ない。


気づかれそうになったことではなく、その後のお粗末な動きに毒づく。


気づいたことをこちらに察知させるあからさまな動作も、あっさりと警戒を解いてしまったことも俺の知るかつての同僚であれば有り得る筈がないほど無様なものだ。これではまるで無防備な背中を射殺してくれと言っているようなものではないか。


そうして疑いの目で見てみれば、おかしいのはその男だけではなかった。歩き方、重心、視線や意識の置き方、村に住むかつての仲間たちは自分の知る彼らとは見た目以外何から何まで別物だった。


彼らだけでなく他の村人たちの動作にも違和感──人の骨格フレーム、筋力には似つかわしくない、ほんの微かなぎこちなさが見て取れる。


──そもそも、今や連邦との最前線だってのに、碌に防衛のための兵士も配置せず呑気に暮らしてるって時点でおかしいんだけどな……


常識的には連邦侵略の橋頭保としてこの村の拠点化を進めるべきところ、教国はそうせず村を放置していた。連邦に村を取り返し、またその後維持する余力がないためそのままになっているが、通常では考えにくい戦略だ。


当初はザースデン方面の攻略に興味が薄いのか、あるいはザースデンの戦力を誘引する狙いがあるのかと想像していたが……


「………ふぅ~」


大きく息を吐き、覚悟を決めておもむろに立ち上がる。


刻印による透明化も解除し、俺の姿は村から丸見え。案の定、数秒と経たず外壁の補修をしていた男が俺に気づいて振り返る──


──ヒュン!!


『ぐぁっ!?』


それと同時に精霊の魔力で編まれた氷の矢が男の足を射抜く。氷は瞬く間に男の下半身を覆いつくし、その身を地面に縫い付けた。


──クラウスなら、こんな無防備に攻撃を受けるはずがない。


そう理解していながら急所を射抜けなかったのは俺の迷いだ。


しかしその迷いも、直後に目の前で起きた光景によって断ち切られた。


『グォォォォォォォォッ!!!』


咆哮と共に男の皮膚が青黒く変色し、その身体が鬼のように膨張していく──


──ヒュン、ヒュン!!


当然、俺にそんな変身を待つ理由などない。氷の矢で男の頭部と胸を射抜き、今度こそその命を絶ち切った。


『────』


バタン、と凍った男の身体が地面に倒れ砕ける。


「…………うん。覚えたての属性弓でも、十分に通用するな」


敢えてそんな言葉を口に出し冷静さを維持する。仲間を■して動揺するのは後でいい。じきに今の叫びを聞いた村の連中が集まってくる。


にわかに騒がしくなった村の後背を突くべく、俺は刻印で姿を隠し移動を開始した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


★精霊契約実戦報告スレ



53:氷弓兵

──という感じで、村人に成り代わってた教国の異形にもちゃんと精霊の力は通用したよ。

属性相性で無効化とか吸収を持ってる奴に当たったらアウトだろうけど、そこはまあチームアップで何とかなるんじゃないかな。

問題は継戦能力というかMP?

相手は大体二〇〇前後いたんだけど、一射一殺でも後半は矢を出すのがしんどくなってきてさ。

最後は冷気を剣に纏わせて白兵戦。ガチでギリギリだったね。

魔匠はゲームだとMP効率がいいからいけると思って油断してたわ。

事前の試射だと三〇〇射ぐらいはできたんだけど……実戦だとMP消費五割増しぐらいに考えてた方がいいかもね。

あと──


54:名無しの転生者

ストップストップ氷弓兵!

理解が追いつかないからちょっと待って!!


55:氷弓兵

…………?


56:名無しの転生者

不思議そうにすんな!

精霊の力を試してみたって言うから、精々野良悪魔一、二体と戦ったとかそういう話かと思ってたのに、何をどう間違ったら初戦で正体不明の異形二〇〇体相手にソロで拠点攻略かましてみました、なんて話になるんだよ!?


57:名無しの転生者

う、うむ。

改めて文字にされるとインパクトが強いな。


58:名無しの転生者

氷弓兵。君はいつも情報量が多すぎるのよ。


59:名無しの転生者

そういうとこだぞ~(震え)


60:名無しの転生者

えっと、話を整理すると……

・氷弓兵が所属していた傭兵団は一年前のザースデン防衛戦に参加して壊滅した。

・その後、教国に占領された村で死んだ筈の仲間を発見。

・怪しいとは思っていたけど、力が足りずに手を出せずにいた。

・精霊と契約して、対応が可能になったと判断。

・調べてみたらやっぱり村人は全員異形になってたので、その村を攻め滅ぼした……マ?


61:氷弓兵

ざっくりそんなとこだね。

補足すると、俺がいた傭兵団は元々ザースデンの前線基地としてその村の守りを担当してたんだよ。結局、多勢に無勢で負けちゃったんだけどね。

その後村がどうなったか気になって様子を見に行ったら、何故か村人だけじゃなく死んだ筈の同僚がピンピンして一緒に暮らしてるじゃん?

確認しようと思って近づいても反応がおかしいしさ~。

で、この前掲示板でこの世界が『デモンズガーデン』ベースかもって話を聞いて、死体を操られてる可能性に思い至って仕掛けてみた感じ。


62:名無しの転生者

軽い……いや、別に重苦しい雰囲気になって欲しいわけじゃないけど、氷弓兵はそれでいいの?


63:氷弓兵

う~ん。別に思うところが無いわけじゃないけど、傭兵稼業なんてやってりゃ敵を殺して、その死体を無碍に扱わざるを得ないこともあったわけよ。

なのにいざ自分たちが逆の立場になったら文句言うってのは筋が違うでしょ。

守れなかった村の人には申し訳ないと思うけどね。


64:名無しの転生者

……うん。本人が納得してるなら無関係の俺らがどうこう言うことじゃないな。


65:名無しの転生者

だな。別に俺らも氷弓兵を責めたいとかじゃないわけだし。


66:氷弓兵

>>64、65 気を遣わせてスマン。

正直俺も色々あって冷静じゃないのかもだし、おかしいところがあったらどんどんツッコんでくれ。


67:名無しの転生者

うんうん。そこは仕方ないよね。

それじゃ早速で悪いけど、正直僕らは精霊契約の実戦報告より、君が戦ったっていう異形のことが気になってる。

疑うわけじゃないけど、画像データとかは見せて貰えるかな?


68:氷弓兵

りょ。死体だから慣れてない人は気をつけてね?

【画像リンク ××××-××××】


69:名無しの転生者

……おおぅ。これは、中々──


70:名無しの転生者

食事前で良かった……(飯食えそうにないので良くはないです)


71:名無しの転生者

で、実際これは何なんだろね?

ファンタジーの定番だと屍鬼グールとかオーガとかに近い感じだけど。


72:★管理人

いや、アンデッドにしては腐敗した様子がないし、一般的な生物と比べても不自然な部分が多すぎる。

むしろ人間素体の合成獣キメラと言った方が近いんじゃないか?


73:氷弓兵

流石管理人、鋭いね。

遺体の心臓は得体のしれない核みたいなのに挿げ代わってた。

そこから全身に触手みたいなのが伸びて寄生してたから、多分それが元凶かな。

それが死体を操ってたのか、動力源だったのか、その辺りは俺じゃよく分からんけど。


74:★管理人

……そっちの画像データも貰えるかな?


75:氷弓兵

うん。ただこっちはかなりグロいから、後で個別に送っとくよ。


76:名無しの転生者

……さっきの画像データも確認終わったら後で消しときなよ。

彼らはあくまで被害者なんだからさ。


77:氷弓兵

あんがと。

それで、ついでと言うには少しアレな内容なんだけど、皆にちょっと頼みたいことが……


78:名無しの転生者

おお、何でもは聞いてやれんが、言うてみ?


79:氷弓兵

うん。出来れば村人含めてここの遺体を弔ってあげたいんだけど、俺一人じゃどうにも手が足りないんだ。

教国の支配下にあるこの場所に弔っていいのかもアレだし……


80:名無しの転生者

そう言うことならワイに任せとけ。

ワイはザースデン在住の商人や。裏社会の連中とも取引があるし、口が堅くて腕っぷしが立つ連中連れてすぐに向かったるわ!


81:氷弓兵

おお! 最悪一か所にまとめで火葬するぐらいしかできないと思ってたからマジで助かる!


82:名無しの転生者改めザースデンの商人

何の何の! ワイらザースデンの住人を守ってくれた英雄の遺体や。

丁重に弔ってやらんと罰が当たるわ。


83:★管理人

……氷弓兵。一つお願いがあるんだけど。


84:氷弓兵

いいよ。遺体を調べさせて欲しいって言うんでしょ?


85:★管理人

うん。


86:名無しの転生者

ふぁっ!?

いや、必要なことなんは分かるけど、今の話の流れでそれを言うんか!

氷弓兵もそれでええんか!?


87:氷弓兵

いいよ。というかこっちから頼もうと思ってた。

正直、あの核が何なのか、しっかり調べて安全性を確認してからじゃないと下手に埋葬もできないからね。


88:名無しの転生者

む……そうか、土壌汚染とか他の生き物に取り付いたりとか、そういうリスクも否定できないのか。


89:氷弓兵

村の人を送るのは気が引けるから、同僚の遺体を送るよ。

ただしそいつらも調査が終わったらそっちでちゃんと弔ってやって欲しい。


90:★管理人

それは勿論。


91:氷弓兵

それと送るにしても管理人は帝国だろ?

遺体の移送とかどうしたもんか……


92:ザースデンの商人

まあ、そこは蛇の道はなんとやらや。

やり方は後でワイが管理人と個別に相談するわ。


93:名無しの転生者

う~ん、この転生者仲間にも聞かせられないブラックな匂い……頼れるなぁ(苦笑)


94:名無しの転生者

まぁまぁ。

にしても実際、その異形って何なんだろうね?

俺はゲームの方はあんまり詳しくないんだけど、心当たりのある有識者とかいないの?


95:名無しの転生者

心当たりは……


96:名無しの転生者

天使絡みだとあり過ぎて……


97:名無しの転生者

教国──ゲームだと聖王国関連のイベントは、とにかくトラウマになりそうなエグイのばっかだったからなぁ……


98:名無しの転生者

五番目くらいに酷いストーリー展開だと、十三体の大天使がそれぞれ独自に人間を改造して代理戦争始めるってのもあったよね……


99:名無しの転生者

天使とは……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ