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★童帝と非童貞の契約を見守るスレ その6

「初めまして、と言うべきかな。本名はリスクがあるから、ここでは敢えて童帝と名乗らせてもらうよ」

『…………』


精霊美少女メイド・アーシーちゃんに全身をくまなく精査され、ぐったりした俺たち八人を出迎えたのは“絶世の”という表現がよく似合う美男子だった。


一八〇センチは確実に超えているだろうスラリとした長身。切れ長の目に、鎖骨辺りまで伸ばした艶やかな黒髪。年齢はパッと見二〇歳前後。全身から匂い立つような色気を漂わせている。


「色々と面倒なことを言ってすまなかった。ただこれは君たちのためでもあるのでどうか許して欲しい。アルマスが暴走すると俺だけじゃなく周囲にもどんな影響が及ぶか分からないからね」

『…………』


今俺たちがいるのはサザンピークの九合目ほどにある窪地。

アーシーちゃんの精査が終わった直後、突如として足元の地面が隆起、ほんの一分ほどで全員がこの場所に運ばれていた。ゲームでこんな移動魔法は聞いたことがないが、所謂土遁の術というやつだろうか。


周囲は見渡す限り花や果実が生い茂り、桃源郷のような光景が広がっている。五合目から見上げた時にはこんな場所は見当たらなかったので、結界で覆い隠されていたか、あるいは高位の悪魔が生み出す異界のどちらかだろう。


「精霊との契約に関しては俺も初めてのことだから足りないところもあるかもしれないけど、出来る限り協力させてもらうよ」

『…………』


初めて対面した童帝は想像以上に協力的だったが、俺たちはすっかり気圧されてまともに言葉を発することもできずにいた。


素人目にも分かる超越者としての存在感に──ではなく。


『イトシイムスコ……ウフ、ウフフ……!』


彼の身体にベッタリと絡みつく地母神の麗姿とその執着の強さに。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


★童帝と非童貞の契約を見守るスレ その6



29:名無しの転生者

つーか、このスレも話すことなくて暇やな。

非童貞どもが童帝の山に行ってから今日で三日目やろ?

そろそろ何か反応がないんか。


30:童帝

ご要望に応えてお待たせ~。


31:名無しの転生者

おお、童帝! 待っとったで!


32:名無しの転生者

あまりに反応が無いからなんかトラブルでもあったんかと思って心配してたわ。


33:名無しの転生者

いやいや、精霊を他人と契約させるとか初めての試みなんだし、あんまり急かしてやるなよ。

報告は細かく聞きたいが、そのせいで肝心の契約が失敗したら元も子もないしな。


34:童帝

>>33 気遣いありがとうね~。

>>32 鋭いね。実は結構マズいトラブルが起きてたんだよ。


35:名無しの転生者

ふあっ!? トラブルって何ぞ?

非童貞どもは大丈夫なんか!?


……いや、冷静に考えれば非童貞連中なんぞどうでもええわ。


36:名無しの転生者

>>35 ひでぇ……気持ちは分かるけど。


37:名無しの転生者

それで、実際トラブルってどんな内容だったの?


38:童帝

うん。一言で言うと、非童貞を自称する希望者の中に、一人童貞が混じってた。


39:名無しの転生者

それは……え? そんな馬鹿がいるの?


40:名無しの転生者

いや、男には見栄を張らなけりゃならない時があるんだ。

俺には分かる(経験者)。


41:名無しの転生者

でも、それでトラブルになったってことはつまり……


42:童帝

うん。前世からかなりバッキバキだったみたいでさ。

アルマスが反応して強引に契約を迫ろうとした。


43:名無しの転生者

そうか……バッキバキかぁ……ぶふぉっ!


44:童帝

いやいや、笑い事じゃないんだって!

俺からしたらアルマス挟んでそいつが兄弟になりかけたんだから最悪だよ!?


45:名無しの転生者

…………母兄弟。


46:名無しの転生者

ぶふっ!? いや、兄弟ってそもそも母を介するもんだけど、そのワードは……!


47:名無しの転生者

童帝くんはお母さんを盗られそうになって怒っちゃったのかな~(ニヤニヤ)


48:童帝

おまえら……!!


49:名無しの転生者

はいはい。それぐらいにしとこうぜ。

童帝もその口ぶりだと結局、契約は食い止めることができたんだろ?


50:童帝

……まぁね。ただ猛ったアルマスを宥めるのに丸一日時間潰れて最悪だったよ。

あ、勿論その童貞はとっくに追放したからね。


51:名無しの転生者

猛ったアルマスを宥める?


52:名無しの転生者

「ママ……ママは僕だけじゃ不満なの……?(上目遣いで指を噛みながら)」


53:童帝

……最終警告だ。これ以上この話題を続けたら、呪う。


54:名無しの転生者

ヤバイ! 童帝の図星を突いてしまったよ──


55:名無しの転生者

…………?

>>54 お~い! どうした~?


56:名無しの転生者

…………あ(察し)


57:名無しの転生者

…………う(察し)


58:名無しの転生者

…………そ、それじゃ本題に戻ろうか?


59:名無しの転生者

そ、そうだな。それで童帝。

契約の方はどうなったんだ?


60:童帝

うん。それがウチに来た連中って、大半が精霊と契約する以前の問題でさぁ。


61:名無しの転生者

それ以前の問題?


62:童帝

貧弱で碌に武器の扱いも知らないってこと。

天使や悪魔への対抗手段として契約したいって話なのに、そんな状態じゃ精霊なんて宝の持ち腐れでしょ?


63:名無しの転生者

それは……確かに。


64:名無しの転生者

精霊と契約してる分、オカルト関係者から目を付けられやすくなって、かえってリスクが上がるかもな。


65:名無しの転生者

いや、しかし……俺たち転生者なんて大半そんなものでは?

むしろ、精霊と契約して楽に『俺TUEEEE!』したいというのが今回の話の趣旨だったのではないかと。


66:名無しの転生者

>>65 こらこら……分かるけども!! 俺もそう考えてたけど!!


67:童帝

う~ん、この溢れ出る転生者感……

ただ実際、このまま契約させても有効な対抗手段にはならないし、場合によっては精霊を介して俺の存在がどっかの勢力にバレるリスクもあるからさ。

取り合えず、その連中は山の中をひたすら走らせて体力付けさせるとこからやってるよ。


68:名無しの転生者

うう……正論ではあるんだが、結局何をするにも体力かよ……俺、第二弾に応募しようと思ってたんだけどどうしよっかなぁ……


69:★管理人

まぁまぁ。リスクもある話だし、最初の内はしっかりした人に契約したもらった方が、最終的には皆の利益になるんじゃないかな。


70:TS聖女ちゃん

そんなことより、童帝の今の口ぶりやと、中には問題無い奴もおったわけやろ?

そいつはどうなったんや?


71:童帝

うん。昨日一人目の契約が完了して、ついさっき一通りの安全が確認できたところ。

概要については……本人に直接話してもらった方がいいかな。


72:名無しの非童貞

は~い。

ご紹介に預かった精霊契約者第一号で~す。


73:名無しの転生者

おお! 無事に成功したのか!


74:名無しの転生者

>>72 早速で悪いんだけど、自己紹介してくれる?


75:名無しの非童貞

了解。それじゃスペックから。

連邦在住のフリーター。

年齢は十六歳で、一年前まで傭兵暮らしをしてた。


76:名無しの転生者

待って待って! いきなり情報が重い!

十五歳まで傭兵暮らしって何!? しかも何で今フリーター!?


77:名無しの非童貞

そこから?

いや、普通に農家の四男坊で、十二歳の時に口減らしに傭兵団に売られただけだよ。

田舎じゃ普通にある事じゃないかな?


78:名無しの転生者

そうなの?(ドン引きする都会っ子)


79:名無しの転生者

いや……聞いたことないが(困惑する農民)


80:名無しの非童貞

まあ、そこは地域性もあるのかもね。

下働きをしながら傭兵団で働いてたんだけど、一年前に教国との戦争で傭兵団が壊滅しちゃってさ。

俺は何とか生き延びて、今は清掃員とか非正規のバイト生活ってわけ。

一応傭兵時代のメインウェポンは弓で、刻印は【魔剣】【透明】【生命感知】の三点セットを使ってた。

あ、【魔剣】は【掲示板】入れたから外したわ。


81:名無しの転生者

おお……かなりガチなスナイパースタイルやんか。

そういう事情なら童帝の審査を通ったのも納得や。


82:名無しの転生者

というか、一年前の教国との戦争って……え?


83:名無しの転生者

それより、一つ肝心な情報が抜けてないか?


84:名無しの非童貞

……何のこと?


85:名無しの転生者

十六歳のガキンチョの分際で、どこで童貞を捨てたのかに決まってるだろうが!!!(当方、魔法使い)


86:名無しの転生者

そこかよ!!!


87:名無しの非童貞

初めて実戦に出る前の晩に、傭兵団の先輩が店に連れてってくれた。


88:名無しの転生者

…………え?


89:名無しの転生者

そして答えんのかよ!!!


90:名無しの転生者

商売女か……ならばよし!!!


91:名無しの転生者

何が──いや、言いたいことは分かるけど! 分かるけども!!


92:★管理人

はいはい。脱線したから話を元に戻そうね。

それで、具体的にどんな精霊とどんな契約を結んだの?


93:名無しの非童貞

契約したのは氷精霊(狼)で、スタイルは魔匠だね。


94:名無しの転生者

氷精霊はともかく、魔匠とは?


95:名無しの転生者

魔匠は契約した悪魔やその力を武器化して契約者本人が直接戦うスタイルだね。

ゲーム的に言うとソウルの圧迫が他のスタイルより小さくて済む反面、本人の肉体ステータスを上げないといけないから扱いの難しいスタイルだったんだけど……元傭兵ってことなら合ってるのかもしれないね。

弓使いだったってことは、氷の弓矢を作って遠距離から攻撃するスタイル?


96:名無しの非童貞

うん、そう。今のところ属性弓を作るだけで精いっぱいだけど、童帝からは将来的に氷精霊(狼)を具象化して、騎射もできるようになるかもと言われてる。


97:名無しの転生者

ほ~ん。それはヴィジュアル的に美しいな。

しかし、弓なら属性は風とかのが射程とか弾速とか有利なイメージあるけど、何で氷なん?


98:名無しの非童貞 → 氷弓兵

そこは元々俺が弓に持ってたイメージの問題かな。

ほら、弓矢って“風を切って”風より速く進むイメージない?

射程はともかく、風を纏わせて弾速が普通に撃つより速くなるイメージが湧かんというか……


99:名無しの転生者

ああ~、言わんとすることは分かる。

それに射程にしたって、いくら遠くまで飛ばせてもそれが当たるのかって問題もあるしな。


100:氷弓兵

そうそう。それにやっぱり風には質量っていうか、重さがないからさ。

威力でいうと少し物足りないんだよね。

その点氷は弾速と威力のバランスがいいし、ダメージを与えられなくても当たれば動きを鈍らせることができるから便利。


101:名無しの転生者

ほ~ん。短い間に色々考えて契約したんやな。


102:TS聖女ちゃん

それはええけど、氷弓兵は一旦力を手に入れてそれで終わりか?

折角やし、その力がどの程度天使や悪魔に通用するもんか試してもらいたいところやが……


103:名無しの転生者

おいおい。聖女ちゃんが焦る気持ちは分かるが、あんま無茶言うなや。


104:名無しの転生者

せやで。氷弓兵もまだ契約したてやし、そもそも試すって言ってもどこに適当な天使や悪魔がおんねん。


105:TS聖女ちゃん

それは……


106:氷弓兵

あ、いや……それに関してはちょっと心当たりがあって──

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