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管理人救出作戦②

★管理人救出作戦実況スレ part6


51:名無しの観戦者

ふぁっ!? あの男が上級国民ってどういうこと!?


52:名無しの観戦者

あん? 何を驚いとるんや?


53:名無しの観戦者

上級国民ってたまに聞くコテハンだね。

商人系の転生者で一時期は幹部入りも有力視されてたけど、本人が組織運営に興味がないのと素行の悪さで見送られたっていう、あの。


54:名無しの観戦者

ああ。転生者仲間をカモって金や装備巻き上げたり、獣人を騙くらかして自分のケモナー向けカフェで働かせたりして、その都度周りに制裁されてるっていう、あの。


55:名無しの観戦者

そのくせ無駄に有能で目を離したら何するか分かんないから下手に追放もできないっていう、あの。


56:名無しの観戦者

……ガチでろくでもない奴やの。

商人系のくせして救出作戦に参加しとるってことは戦闘もイケる口か?

確かにそれは驚きや──


57:>>51

いや、俺が驚いてるのはそこじゃない。


58:名無しの観戦者

んん?


59:>>51

上級国民とは少し前に会ったことがあるんだが……その時あいつは女だったんだ。


60:名無しの観戦者

んんん?

どっちかが偽物ってこと? それか変装?


61:名無しの観戦者

よりにもよってアレを名乗る理由はないし偽者の線はないと思うが……かといって変装も……意味ないよな?


62:名無しの観戦者

やましいことだらけやから日常的に正体を隠しとるって線はなきにしもあらずやな。


63:童帝

どっちも半分正解、半分不正解ってとこだね。


64:名無しの観戦者

知っているのか童帝!?──って、そりゃ童帝が知らん筈がないわな。


65:>>51

>>63 あれって本物の上級国民?

俺が前に見た女と同一人物なの?


66:童帝

そうだよ~。

そのタネは──っと、状況が動いたね。


67:名無しの観戦者

上級国民に意識を取られてる隙に戦闘班の連中が管理人の確保に成功したな。


68:名無しの観戦者

ふんふん。この様子だと上級国民は囮で、救出作戦の本命はあっちだったってことね。

あれ? でもだとしたら最初に殺されたあの四人はなんだったの?

管理人を連れて逃げようとしてる連中とはまた別人みたいだけど。


69:名無しの観戦者

死体もいつの間にか消えとるしな。


70:名無しの観戦者

それを言ったら、あの目隠し女は何なのさ?

事前情報じゃ鏡面魔神ドッペルゲンガーって話だったけど、ゲームであんな影から人間? 人形? あんなの出す能力とかあった?


71:名無しの観戦者

いや……鏡面魔神ドッペルゲンガーの能力は、あくまで喰った人間の姿や能力をコピーするだけだよ。

格が上がれば記憶とか人格とかコピーできる範囲が広がるけど、他人を操るような能力は備わってなかった筈。


72:童帝

恐らくあれはベースとなった肉体の持ち主の能力だろうね。

ゲームでそんな展開は聞いたことがないからイレギュラー……いや、ひょっとしたら俺たちと同じ……?


73:名無しの観戦者

お~い、童帝?


74:童帝

おっと、ごめんごめん。ちょっと自分の世界に入っちゃってたよ。

ともかく今回は運が良かったね。

意図したわけじゃないけど、まさか──


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「うわわ──っ!?」

「管理人は確保した! とっととずらかるぞ!」


鏡面魔神ドッペルゲンガーの注意が上級国民に向いた隙をついて、潜んでいた三人の男たちが研究者の少年に駆け寄る。


そして一人が少年を肩に担ぎ、二人が人形ひとがたから彼らをガードする陣形を組んだ後、上級国民に逃走を呼び掛けたのだが──


「──いえ。皆さんはお先にどうぞ。私はもう少しこの方の相手を」


誰かが鏡面魔神ドッペルゲンガーを足止めしなければならないと自らそれを買って出る上級国民。その判断は正しく、戦闘班は躊躇なく上級国民を置いて逃げようとした。


「甘いですね」


しかし再び鏡面魔神ドッペルゲンガーの影から吐き出された無数の人形ひとがたが、逃げようとする彼らの前に回り込み逃亡を妨害する。


「くっ!?」


人形ひとがたは決して動きは速くないが、数だけは多い。戦闘能力のない管理人を抱えながら切り抜けるのは些か以上にリスクと難度が高かった。


やむを得ずその場で防衛に徹している戦闘班にチラリと視線をやり、上級国民は口を開く。


「面白い能力ですね。意思や知性は感じられないものの、死体でも人形でもなく、魂はしっかりと存在している」

「────」


一目で能力の本質を看破され、鏡面魔神ドッペルゲンガーは警戒を高めた。



鏡面魔神ドッペルゲンガーがその影から生み出し操る無数の人形ひとがた。これはこの肉体の持ち主だった女性と、鏡面魔神ドッペルゲンガー自身の能力が融合したものだった。


主である皇太子すら知らなかったことだが、この肉体の持ち主は生前に死霊術師ネクロマンサーとしてのスキルを習得していた。


記憶を読み取ることはできなかったため何故彼女がそのようなスキルを備えていたのかは分からない。ただほとんど独学に近い外法によって習得したらしく、後に自室からは無数の屍肉が見つかった。


何が彼女を駆り立てたのか──そう言えば食らう直前『まだイベント時期じゃないはずなのに!?』と驚愕していたが、あれは一体どういう意味だったのだろう?


事情はともあれこの肉体の持ち主だった女性は確かに死霊術師としてのスキルを備えていた。しかしそれはあくまで基礎。本来なら七日七夜自身の魔力を馴染ませた死体を辛うじて操れる程度のもので、実戦レベルには程遠かった。


しかしその未熟なスキルが鏡面魔神ドッペルゲンガーの特性と化学反応を起こし進化する。


鏡面魔神ドッペルゲンガーとは人の肉と魂を喰らい、その情報から自身を変化させる悪魔である。その内にはそれまで喰らった無数の人の魂の情報が蓄積されており、鏡面魔神ドッペルゲンガーの肉体の本質はそれを投影する影のようなものでできている。


鏡面魔神ドッペルゲンガー自身は魂を独立して操る術を持たないため、一度に模倣し再現できる魂は一つだけ。しかしもし、ここに魂を操るスキルが加われば?


その答えがこれ。死霊術師の女を喰らった鏡面魔神ドッペルゲンガーは、自身が取り込んだ無数の魂と肉の影を素体に、無尽蔵に近い人形ひとがたを生み出し、操る能力を獲得していた。


敵襲が予想される中、皇太子が彼女一人に研究者の監視と確保を任せたのはこの能力を見込んでのことだ。


勿論この能力も万能ではなく、そもそも死霊術師としてのスキルが低いため同時に操れる数や操作性には限界がある。だが数を頼りにする相手には滅法強いし、街中では敵もあまり派手な力は振るえない。こと都市内の対人戦では鏡面魔神ドッペルゲンガーに敵はいない──筈だった。



──ズシャッ!!


鏡面魔神の操る人形が上級国民を取り囲み、手槍で彼の胴を突く。


その一撃は間違いなく命中し、彼の心臓を貫いていた──


「──っと、怖い怖い」


──が、次の瞬間には何事も無かったのように体勢を立て直し、傷一つない姿で復活している。


間違いなく命中していたし、幻などではない。その証拠に上級国民の服は胸元に貫かれた穴が開いていた。


だがその穴から覗く皮膚は傷一つなくツヤツヤしていて、服には出血の痕跡さえ見当たらない。


更に──


──ドサッ!


「────っ!!」


()()()。上級国民のダメージを押し付けられたかのように、操っていた人形ひとがたの一つが突如胸に風穴を開けて崩れ落ちる。


先ほどからこの繰り返しで鏡面魔神ドッペルゲンガーは全くダメージを与えられていなかった。


──いや、それだけじゃない。ダメージを押し付けられる直前、何か違和感が……


未熟な死霊術師としての部分が鏡面魔神ドッペルゲンガーに何かを伝えようとするが、形になることなく頭の中で消えていく。


その間にもまた一体、人形ひとがたが無為に消滅していった。


鏡面魔神ドッペルゲンガーが保有する魂のストックにはまだまだ余裕があるが、このままでは埒が明かない。それにあまり上級国民に集中しすぎると肝心の研究者を逃がしてしまうことにもなりかねなかった。


──攻撃が通らないなら……っ!


「行きなさい!!」


鏡面魔神は上級国民を囲んでいた人形ひとがたに、攻撃ではなく一斉に飛び掛かって動きを取り押さえるように指示を下した。


ダメージを受け流されるなら物量で動きを止めてしまえばいい。先ほどからこちらの攻撃自体は命中していることからも分かるように上級国民の体術レベルは高くなく、また人形ひとがたを吹き飛ばすほどの攻撃手段は保有していない様子。


とにかく動きを止めて、後のことは他の連中を捕縛し始末してからゆっくり考えればいい。


その判断は間違いなく正しかったが──


「いや、それは悪手でしょう」


──バタバタバタッ


上級国民に触れた人形ひとがたが、糸の切れた操り人形のように一斉にその場に崩れ落ちていく。


「────」


ダメージを押し付けられたわけではなく、消滅する気配もない。


だが、倒れた人形ひとがた鏡面魔神ドッペルゲンガーがどれほど思念を飛ばしても、何か壁のようなものに阻まれピクリとも動こうとしなかった。


そこでようやく理解する。


「──そうか。貴方も死霊術師……!」

「正っ解っ!!」


上級国民は糸目を見開き唇を吊り上げ、この短いやり取りで正解に辿り着いた鏡面魔神ドッペルゲンガーを称賛した。


「貴女は無尽蔵に近い魂をストックし、それを活かす影の特性を持つ死霊術師。軍勢ごと吹き飛ばすだけの火力がなければ打つ手なしのクソコンボです。市街戦じゃ敵なしだったでしょうが……相手が悪かったですね。魂への支配力という一点においては、些か私に分があるようだ」

「……っ!」


鏡面魔神ドッペルゲンガーは歯噛みしてそれを認める。


元々彼女の死霊術師としての力はこの肉体が持つ未熟な独覚によるもの。同種の力を持つ者が相手では分が悪い。流石にあちらも人形ひとがたを操ることまではできないようだが……


──完全な千日手ね。


悔しさを押し殺し、鏡面魔神ドッペルゲンガーは静かにその事実を認める。


「……おや?」


その上で彼女は気持ちを切り替え、改めて敵の周囲を人形ひとがたで取り囲み包囲を厚くした。


千日手ならいっそ好都合。


逃がさなければいい。


足止めできればそれでいい。


もはや自分に手がなくとも──その確信が彼女にはあった。

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