蛇龍解放作戦③→管理人救出作戦①
★蛇龍解放作戦実況スレ part3
232:名無しの観戦者
……なぁ、あの錬金術師が首相にサインさせてる機密保持契約って、誓約呪術書?
233:名無しの観戦者
うん? 何それ?
234:名無しの観戦者
魔術的な強制力のある契約書だよ。
契約を破ったら相手に魂を支配されて、双方の合意がない限り解呪不可っていう一番エグイやつ。
235:名無しの観戦者
ほ~ん。現地民相手に契約なんぞ結んだところで踏み倒されて終わりやろと思うとったが、そういう仕組みなら安心やな。
236:名無しの観戦者
…………
237:名無しの観戦者
ん? >>236何か気になることでも?
238:>>236
……いや、俺は童帝の授業で「誓約呪術書は双方にとってリスクが高いからよっぽどのことがない限りサインするな、使うな」って習ったんだけどさ。
239:名無しの観戦者
まぁ、せやろな。それで?
240:>>236
こう言っちゃなんだけど、たかだか現地民の政治家を口止めするっていうこのシチュエーションは「よっぽどのこと」か?
241:名無しの観戦者
んんん?
242:名無しの観戦者
それはどういう……あ! もっかいさっきの契約書拡大して!
243:名無しの観戦者
何々? どしたんや?
244:名無しの観戦者
う~ん……やっぱり誓約呪術書で間違いないな。
245:>>236
やっぱりか。ということはつまり……
246:名無しの観戦者
用紙のサイズと余白に違和感があるから……
247:名無しの観戦者
お前らだけで分かりあっとらんで、ワイらにも説明してくれや!!
248:名無しの観戦者
いや、映像じゃ契約書の文言までは確認できんが、向こうの首相が目を通して特に違和感なくサインしてることからすると、文面は本当にごくごく一般的な機密保持契約だと思うんだ。
249:名無しの観戦者
それがどないしたんや?
機密保持ならこっちにデメリットはないやろうし、念には念を入れて向こうの行動を縛るのは悪いことやないやろ。
250:名無しの観戦者
いや、首相の口だけ塞いでも他から話が漏れたら意味ないじゃん。
誓約呪術書の強制力はサインした本人にしか及ばないし、まさか関係者全員に一々契約結ばせるわけにもいかないだろうしさ。
251:名無しの観戦者
あ~、どこぞの悪魔みたいに政治家が国民の命を売り飛ばすような契約はでけへんちゅうことやな。
で、それが何なん?
252:名無しの観戦者
つまりそんな意味があるのかないのか分からない契約を結ばせるためにわざわざ誓約呪術書を使うのはおかしくないか、って話。
後から向こうがそのことに気づいたら心証悪くなるだけだろうしさ。
253:名無しの観戦者
…………つまり?
254:名無しの観戦者
あ~……ハッキリ言っちゃえば、契約書に何か細工でもしてんじゃないかってことだよ。
255:名無しの観戦者
はぁ? いや、まさか悪魔が人間に持ち掛ける詐欺やないんやから──
256:名無しの観戦者
ビンゴ。
今映像を解析してみたが、契約書の余白部分に透明なインクで何か書かれてるぞ。
257:名無しの観戦者
ふぁっ!?
258:名無しの観戦者
流石に画質が荒くて文言は読めんが、文字量から推測するに背信行為を働いた場合の罰則──肉体の支配権を奪われるとかかな?
259:名無しの観戦者
でも背信行為の内容は相手に認知させとかないと契約が機能しないけど──いや、他と手を結ぼうとしたら必然的にこっちの情報を漏らすことになるだろうし、情報漏洩さえ禁止しとけばそれで十分なのか。
260:名無しの観戦者
いやいやいや、待て待て待て!
それは悪魔の手口やろう!? 曲がりなりにも世界を救おうっちゅう組織が使ったらあかんやろ!
261:名無しの観戦者
……まぁ、言いたいことは分かるけど俺らにそんな縛りプレイできるほどの余裕はないし。
262:名無しの観戦者
ぶっちゃけそうすることで俺らに降りかかるリスクを軽減できるなら、否定する理由はないよね。
263:名無しの観戦者
ええ……おかしいのはワイの方なんか……?
264:名無しの観戦者
う~ん、>>263の気持ちは分かるし正しいとは思うけど、手段を選んで取りこぼす命があるかもしれないし、一概に錬金術師のやり口を非難はできないかな。そもそも相手がこっちを裏切らなきゃいいだけだしね。
もちろん身内にそういうことをする人がいるってのはあまりいい気分じゃないけど。
265:名無しの観戦者
あ。そこは一応、転生者同士で誓約呪術書は使用禁止って童帝が目を光らせてるから大丈夫だと思うよ。
266:名無しの観戦者
いやそれ、対外的には悪さする気満々やないかぁい!
267:名無しの観戦者
そこは毒を以て毒を制すってことで。
ともかくあの感じだと、政府の方は問題なさそうだね。
268:名無しの観戦者
アスタ神族との同盟条件は、天使との戦いの場の提供とその為の魔力を俺らが支援するってあたりか?
269:名無しの実況者
おっしゃる通りです。
彼らが求めているのは血沸き肉躍る闘争であり、そのために全力を振るえる環境。
気を抜けばいつこちらに牙を向かないとも限りませんが、少なくとも“一番食いでがある”一神教との戦いにケリがつくまでは共闘関係が結べるだろうと、童帝と神婆ちゃんから連名でお墨付きをいただいております。
270:名無しの観戦者
なるほどなぁ。
十分に力を振るえん今のうちに契約を結んで頭を抑えとくっちゅうのは悪くないかもな。戦力はいくらあっても困らんし。
271:名無しの観戦者
どこまでコントロールが利くか怪しいし、痛し痒しではあるだろうけどね。
272:名無しの観戦者
簡単に契約で縛れるような相手なら、こんなことになる前からもっと手広くやってただろうしな──お?
273:名無しの実況者
……たった今、管理人救出作戦の方にも動きがあったようです。
274:名無しの観戦者
救出部隊が到着したかな?
275:名無しの観戦者
まぁでも、こっちの陣容を見る限り、あっちには氷弓兵が行ってるんだろ?
多少帝国の妨害があるにせよ、管理人を連れ帰るだけなら別に問題なさそうだよな。
276:名無しの観戦者
それはそう。
何なら作戦とか仰々しいこと言う前に、知らない間にシレッと連れ帰ってきてそうまである。
277:名無しの観戦者
いや、さっき向こうの板少し顔出したけど、今回氷弓兵は救出部隊に加わってないらしいぞ?
278:名無しの観戦者
ほぁっ!?
279:名無しの観戦者
合理爺はこっちにいるし、氷弓兵が指揮を執ってないなら向こうは一体誰が──
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
──グサササササッ!!
研究者の少年が潜んでいた貸倉庫。そこに救援と思しき四名の人間が姿を見せる。
だが彼らが少年と合流を果たした直後──暗闇の中から吐き出された無数の人影が、手に持つ武器で救援部隊の肉体を一斉に刺し貫いていた。
「…………ひょ?」
唐突な惨劇に少年の口から間の抜けた悲鳴がこぼれる。
だがその惨劇を引き起こした女──鏡面魔神は理解が追いつかないのも当然だろうと、少年を嗤おうとはしなかった。
救援部隊の四名はそれぞれ心臓や頭部を破壊され完全に絶命している。
その事実と建物の外で様子を窺っているもう一人の気配をしっかり確認した上で、鏡面魔神はコツコツと足音を立てて研究者の少年の前に姿をみせた。
「探しましたよ、博士」
「…………」
少年は鏡面魔神を見て顔を引きつらせるが、そこに驚きの色はない。
やはりこちらの正体にある程度感づいており、追手がくることを予想していたのだろう。これは念入りにお話しなければ、と鏡面魔神は嗜虐的に唇の端に舌を這わせた。
「殿下の召喚を無視して無断でこんなところに……これは博士と言えどしっかり罰を受けていただかなければなりませんわね」
「……彼らは」
しかし少年の視線は鏡面魔神ではなく、救援部隊を殺害した十七の人形に向けられていた。
暗闇から突如現れたそれらは、少年の目には一見ごくごく普通の人間に見えただろう。性別年齢風体はてんでバラバラで全くまとまりがなく、衛兵風の男もいれば、商人、街角で花を売っていそうな町娘まで様々。
そんな彼らが無表情で武器を手に取り、救援部隊の四名を拘束し刃を突き立てている。
異様な光景。しかし自分から意識を逸らして凝視するのはいただけない──
「──ああ」
鏡面魔神は少年の視線の先の人形にちらり視線をやり、何かに思い至った様子で頷いた。
「そう言えば、そこの女は元々殿下の屋敷で働いていた下女でしたね。ひょっとして、顔見知りでしたか?」
「────」
何故、自分の見知った、かつて行方不明になったはずの女がここにいて、自分の仲間を刺し殺しているのか──少年が事情の全てを理解できたわけではあるまい。
だがそれでも不吉な事実だけは理解せざるをえなかったはずだ。
「あああああああああああああっ!!!」
少年が絶叫し、鏡面魔神の女目掛けて突進する。
碌に運動をしたこともないのだろう。ただの数歩で身体の軸がぶれ、一目見て素人と分かる無様な突撃。
「ふふっ」
鏡面魔神は失笑し──
「──けふっ」
少年の突撃を囮に背後から忍び寄っていた救援部隊の最後の一人、その喉元を手から伸ばした影の刃で切り裂き、鮮血をほとばしらせた。
──ドサッ
隠れ潜んでいた最後の一人──スーツ姿の青年は力なくその場に崩れ落ち、絶命する。
少年の激昂は注意を引き付けるためのフェイクだったのだろう。既に突撃を止めて再び距離をとっていた。だがそれ以上の動きはなく、視線や周囲の気配を探ってももう隠し玉はなさそうだ。
──ふむ。これだけですか?
鏡面魔神は油断なく周囲に意識を巡らせながら、手応えの無さに拍子抜けしていた。
だが同時に、冷静に考えればこんなものかもしれない、とも思う。
仮に少年が自分たちの正体に感づき外部と繋がっていたのだとしても、教国を除けばこの大陸にまともな力を持った組織などほとんどない。自分たちに対抗し得る刺客などそうそう送り込めるはずもなく、また少年がこちらの力を正確に測れていたとも考えにくい。
たかだか一研究者の迎え程度、ちょっと腕の立つ普通の工作員を送り込めばそれで十分と考えてもおかしくはないだろう。
あの皇太子に仕えているせいで感覚が狂いがちだが、人間は本来脆くてか弱い──
「ふぅ。危ない危ない。危うく死ぬところでした」
「────!?」
──ドサッ
驚愕と共に鏡面魔神が振り返る。
男の声──背後を見やると、そこにはつい先ほど殺したはずの男があった。驚いたような顔つきで鮮血を吐き出していた筈の首をさすっているが、そこには傷一つない。
そして鏡面魔神を驚かせた理由はもう一つ──人形が壊れた。
すぐ傍で四名の救援部隊の身体を刺し貫いていた筈の中年男の人形。それが何の予兆もなく首から血を流して床に倒れ伏し、形を失い影に溶けていく。まるで自分が殺した男の身代わりにでもなったかのようだ。
──いや待て! 他の連中は……!?
そしてそのタイミングで、鏡面魔神は人形に貫かれていた筈の四名の死体が跡形もなく消えていたことに気づく。
殺したはずの人間が消え、またいつの間にか復活している。これは一体……?
「いや……人に化ける悪魔と聞いてはいましたが、やはり隠し玉があったようだ。念には念を入れておいて正解でしたね」
スーツ姿の男はこの場に似つかわしくない飄々とした態度で、ポキポキと首や肩を鳴らしながら苦笑する。
その得体の知れない様子に、鏡面魔神は警戒感も露わに表情を歪め、口を開いた。
「……何者ですか?」
「何者……別に本名を名乗っても支障はないのですが、貴女が聞きたいのはそういうことではないでしょう。そうですね……まぁ、上級国民とでもお呼びください」




