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蛇龍解放作戦②

★蛇龍解放作戦実況スレ part3


151:名無しの観戦者

誰があの作戦を──いや、毒エルフの薬を採用したんや……


152:名無しの実況者

本部からの説明によると作戦参加者には事前に同意書にサインをいただいているとのことです。


153:名無しの観戦者

確信犯だろ!?


154:名無しの観戦者

『無辜の現地民千人を救うために協力してくれ』と言葉巧みに誘われて、勢いのまま疑問を口にすることも許されず同意書にサインさせられる戦闘班の姿が目に浮かぶぜ。


155:名無しの観戦者

今時、説明義務違反で同意書が無効にされんか?


156:名無しの実況者

本部からの説明によると『この世界に説明義務などない。契約書の文面が全てだ』だ、そうです。


157:名無しの観戦者

本部の説明準備良すぎだろ!?

やっぱり確信犯じゃねぇか!!


158:名無しの観戦者

……いや、もうやめよう。ここで俺たちがいくらごねたところで、既に奴らは助からんのだ。


159:名無しの観戦者

うむ。せめてコトが済んだあと、連中に文句を言うだけの気力と知力と記憶が残っていることを祈ろう。

あと、ワイらは絶対にサインは慎重にしような。


160:名無しの観戦者

ソシャゲの利用規約感覚で気軽にポチポチしたらあかんな。


161:名無しの観戦者

それはともかくとして、毒エルフの薬──もはや薬と呼んでいいのか分からんが、とにかくその薬物で魔力知覚を拡張した戦闘班が人海戦術で敵の拠点を根こそぎ見つけ出して制圧してる。

それ自体はいいんだけど、あんまり派手に動いたらヤバくないか、色々と。


162:名無しの観戦者

ヤバいって何がや?


163:名無しの観戦者

俺たちの存在が露見するんじゃ──いやもう“存在してる”ってことは広まってるんだろうけど、本部の場所とか構成員とかそういう詳しいとこまで特定されちゃわないかって話。


164:名無しの観戦者

……確かに。こんだけの数の人間がバラバラに動いてたら追跡をまいたり痕跡を消したりも限界があるか。


165:名無しの観戦者

それに敵の目的って騒ぎを起こしてオカルトの存在を衆目に晒すことだろ?

俺らがやり過ぎたら結果的に敵の思惑通りになるんじゃ……


166:名無しの観戦者

むぅ……敵の拠点を制圧するだけならともかく、更に横からちょっかいだされるとマズいか?

アタラ領の政府がどの程度オカルトを認知しとるかは分からんが、下手に反応されたり公式記録に残されるのは面白くない。

それと地場の悪魔──アスタ神族だったか? 騒ぎを起こすためになりふり構わずってんなら最初から自分たちでやってる筈だしちょっかいかけてくる可能性は低いとは思うが……戦い好きって話だし戦闘班に反応して仕掛けてきたらマズい……かも?


167:名無しの観戦者

精霊と契約した俺らは悪魔からしたら栄養豊富な餌だしな。

そういう意味でもないとは言えん。


168:名無しの実況者

それに関しましても本部から事前に説明があり、政府や地場の有力者、アスタ神族を抑えるために別働隊が並行して動いています。


169:名無しの観戦者

事前説明充実しすぎやろ!?

実は幹部が実況者やってますとかいうオチないか?


170:名無しの観戦者

まぁまぁ。答えてくれるなら何でもいいじゃん。

──それで動いてるって具体的にどういうこと?

アタラ領の制圧を作戦目標に加えたって話もあったけど、それと何か関係がある?


171:名無しの実況者

はい。我々アークスはアタラ領の政府およびアスタ神族と相互協力、機密情報保護に関する契約を結び、同盟関係を構築──いえ、アタラ領を支配下に置くつもりです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「……は? 今、何と?」


アタラ領首相・カーヴィスは目の前の巨躯の鬼神から告げられた言葉に声を震わせながら首を傾げた。


場所はアタラ領政庁の最上階にある首相執務室。


つい今しがたカーヴィスが決裁書類に目を通していたところに、既知の鬼神が一人の青年を肩に担ぎ窓を蹴破って飛び込んできた。突然の破壊活動に廊下にいた職員が何事かと騒ぎ立てるのを部屋の外で何とか食い留め、現在に至るのだが──


「同じことを二度言わせるな。我らはこの地を離れる。以降の土地の管理はこ奴らに任せる故、貴様らは今後こ奴らに従え」

「は、はぁ……?」


カーヴィスの声は不理解に上擦っていた。

唯一の救いは普段気の短い鬼神があり得ないほど上機嫌で、そんなカーヴィスを咎める様子がなかったことだろうか。




ここで簡単にカーヴィス首相の立場と鬼神──アスタ神族との関係性について触れておこう。


そもそもアタラ領は民主共和制を標榜する連邦の一国家ではあるが、その民主主義は極めて形骸的だ。


選挙権が与えられているのは一定額以上の納税を行った富裕層で、領民全体の五%未満。アタラ領自体が蛮族が跋扈し旨味が薄い土地ということもあって、統治する側でさえ政治に対する関心は極めて薄かった。


どこからも見向きもされなかった土地を現地の有力者が持ち回りで統治しているというのが実態で、言い方は悪いがカーヴィスたちは政治家というより町内会の役員といった方が近いかもしれない。


町内会と違うのは、誰でも彼でも関われる訳ではないという点。連邦を構成する国家の首長である以上、最低限の能力と格が求められるし、国家運営を担うとなれば余人に語ることのできない秘密に触れる機会もある。


カーヴィスはアタラ領では十指に入る大店の経営者であり、まだ五〇代と同じ立場の者たちの中では比較的若輩で請われれば首相就任を断れない。


目の前の鬼神はそんなやむを得ない就任に伴って触れてしまった秘密の一つだった。


──この地は鬼神が支配している──


驚きがなかったとは言わないが、ただそれだけ。鬼神たちは人の世に興味が薄く、カーヴィスが彼らと関ったことはほとんどない。首相に就任してからの一年半で、鬼神と対面したのは今回でようやく四度目だ。


顔合わせを除けば年次の挨拶や大規模な公共工事を行う際に事前にお供えを持って伺いを立てに行ったことがあるぐらい。今回のように向こうから政庁にやってきたのは初めてだ。


土地の管理と言われても、獣が勝手に自分たちの縄張りを主張しているようなもので、管理どころか口出しされたことさえなかったのだが……




「それでは説明になっていませんよ。首相閣下もお困りでしょう」


カーヴィスの困惑に微笑を浮かべ、鬼神を咎めたのは鬼神が連れてきた糸目の青年。パリッとしたスーツ姿に身を包み、役人にも商人にも詐欺師にも見える整った顔立ちの男だ。


「ん? おお、スマンスマン」


無礼な物言いにカーヴィスは青年が鬼神に殴り殺される光景を幻視したが、予想に反して鬼神は全く気分を害した様子もなくカラカラと笑う。


ひょっとしてこの青年も見た目通りの人間ではないのか──マジマジ見つめるが、しかしカーヴィスの目にはどこにでもいる細身の男にしか見えなかった。


「君は……?」

「ああ、失礼。私は今回彼らと業務提携契約を結ばせていただきました、こういった者です」


そう言って糸目の青年は名刺──帝国や一部の領で流行っていると聞くがこの領では初めて見る──をカーヴィスに手渡してきた。


「アークス……渉外担当『錬金術師』?」

「はい。まあ、名前についてはあまりお気になさらず、役職のようなものだと流していただければ」


色々と引っかかるし気になることはあるが、実際、青年の呼称自体はさして重要ではない。


「……アークスというのは?」

「我々の組織名です。詳細を申し上げることはできませんが、要は彼らのような神や悪魔──人ならざる者たちに対処する専門家集団だと考えて頂ければ結構」


神や悪魔の専門家──目の前のビジネスマン風の青年にはいかにも似つかわしくない言葉だったが、彼の見た目が組織の在り方を示しているわけではない。カーヴィスはそう割り切って続く問いを口にした。


「その専門家集団が我々に一体何の用かね? いや、そもそも土地の管理が君たちに移るとは?」


これまで自分たちが鬼神に逆らわず従ってきたのは、逆らえば何をされるか分からないというのもあるが、一番は鬼神たちが自分たちに干渉してこなかったというのが大きい。開発などで彼らの聖地を破壊することがないよう配意したり交渉を持つ必要はあったが、それ以外は基本的に不干渉。生贄や過度な供物を要求されることもなく、彼らが居座ってくれているお陰で他の神や悪魔がちょっかいをかけてくることも防げた。ある種理想的なヤクザとの関係に近いものだった。だがそれが今後変化するというのであれば──


「ご安心ください。我々は貴方方に何か特別な要求をしようというつもりはありません」

「────」


カーヴィスの懸念を見透かすように、錬金術師と名乗った青年は胡散臭く微笑んだ。


「ところで首相閣下は、昨今大陸のあちこちで怪物の目撃情報がある、という話はご存じですか?」

「──あ、ああ……」


唐突な話題転換に戸惑いながらも、カーヴィスは頷きを返す。


「一部デマや作り話も含まれていましょうが、それらは基本的にここにいる彼らと同様の超常の存在です」

「おいおい。我らをあのような小者と一緒にするでないぞ」


鬼神が不満そうな顔で青年に文句を言う。青年はさして悪いと思っていなさそうな顔で苦笑して続けた。


「あくまで一般に実在が知られていない御伽噺の存在、という意味ですよ」

「それでもだ。いい機会だから言っておくが、どうも貴様には我らに対する敬意というものが──」

「はいはい。今は忙しいので後で聞きます」


青年は鬼神の不満を軽くあしらう。

不遜な態度に思えたが、何故か鬼神は眉を顰め鼻を鳴らす程度で大人しく口を閉ざした。


「……それで、その怪物たちとこの件がどう関係するのかね?」

「そうですね。現在大陸はそうした超常の存在にとっての変革期にあり、今後彼らは力を増して表の世界により強く関わってくることが予想されます」

「……つまり、その連中への対処を、君たちが行うということかね? 鬼神様方ではなく、人間である君たちが?」


その問いかけの行間には『本当にお前らは人間なのか?』という疑念が含まれていたが、青年は気づいた上で敢えて無視した。


「現在このアタラ領は、多領の悪魔どもの侵略を受けています」

「は──」

「ご安心ください。これに関しては我々の仲間が現在対処中です」


唐突な発言にカーヴィスはその真偽を疑うが、横にいた鬼神が頷き肯定したことで一旦その疑念を収めた。


「……本当なのかね? いや、疑うわけではないが、その──」


カーヴィスは言い難そうにチラリと鬼神に視線をやる。


「はい。言いたいことは分かります。ここにいる鬼神たちがそのような侵略を許すはずがないとお考えなのですよね?」

「あ、ああ……」


考えていたことを相当マイルドに言い換えてもらい、カーヴィスは恐る恐る肯定する。


「本来はそうすべきなのでしょうが、現在彼らの境遇はその本来の力を振るうに十分なものではなく、悪魔の尖兵を全て排除することが困難な状況にあります」

「…………」


鬼神は無表情に頷き、その言葉を肯定した。


「そこで我々アークスは彼らに同盟締結を申し出ました」

「同盟?」

「ええ。我々は彼らに代わってアタラ領内の悪魔の排除を請け負う。一方我々は大陸中で活動しており、強い味方を必要としていましたので、彼らには別の戦場に赴き力を振るっていただく予定です。当然、彼らが十全に力を振るえる環境と場を我々が整えた上で」

「うむ。我らの本質は闘神。この地で守り迎え撃つのは不向きであるが故に、な」


鬼神はもっともらしく言うが、その瞳はやけにギラギラとしており、カーヴィスには些か胡散臭く思えた。まるでより楽しい遊び場を提示されて喜ぶ子供のようだ。


実際のところ、鬼神──アスタ神族はこの土地を守れず見捨てるどころか、自分たちの欲のために他領の悪魔に協力し領民たちを生贄にしようとしていたわけだが、鬼神も青年もそのことはおくびにも出さない。


「……事情はある程度理解した。それで、この土地を悪魔の侵略から守る対価に君たちは我らに何を要求するのかね? 首相といっても実際には私は使いぱしりのようなものだ。私一人の判断ですぐに回答することは──」

「ご安心ください。主要十六家の方々には、既に我々の仲間が説明と説得に伺っております」


逃げ腰なカーヴィスの言葉を青年が先回りして遮る。


「また具体的な侵略者の力や規模も分からないでは対価の決めようもないでしょう。具体的な条件については後日じっくりご相談させていただく予定です」


その言葉にカーヴィスは拍子抜けしたように目を瞬かせた。


「ふむ……もっともだが、では今日はただ顔合わせに来ただけということかね?」

「いえ。今後はともかく、まず我々は現在この土地を侵している悪魔どもに対処する必要があります。今回は彼ら鬼神との同盟を対価として既に排除に動いておりますので、今さら皆様に何か要求しようとは考えておりません。ですが排除にあたって些か領内を騒がせる事態が発生することとなるでしょうから、政府の皆様にはその後始末や情報統制にご協力いただければ、と」


カーヴィスは顎を撫でながら青年の申し出を吟味する。


こちらとしても一般市民に動揺が広がるのは避けたいし、協力することに否はない。むしろ積極的に彼らと情報交換を行い協力すべきだろう。


どう考えてもメリットはあれ損はない。


「……分かった。ひとまず今回の申し出に関しては私の権限で対応しよう」

「ありがとうございます」


青年は慇懃に一礼し、手に持っていたカバンから一枚の羊皮紙を取り出して続けた。


「それでは早速、こちらは本件に関する機密保持契約に──」

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