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蛇龍解放作戦①

★蛇龍解放作戦実況スレ part3


1:名無しの実況者

この板では、皆さん注目のアタラ領・蛇龍解放作戦の様子をライブ実況しております。

試験的に担当者の視界を共有し、並行して映像中継を行っておりますが、作戦中につき映像が途切れたり不鮮明となる場合がございますので予めご了承ください。

また「管理人救出作戦」につきましても別板をたてて実況中ですので、気になる方はそちらをご覧ください。




58:名無しの実況者

おおっとぉ!? ノーバイライダー、オルトロス相手にラッシュラッシュ、猛ラッシュ!!!

特攻を仕掛けたはずの悪魔崇拝者たちはまるで近づけない!!


59:名無しの観戦者

お、やってんね。

今こっちはどういう状況?


60:名無しの観戦者

いやさっきようやくまともな戦闘が始まったとこ──あれ?

お前さっき、管理人救出作戦の方見に行くって言ってなかった?


61:>>59

そのつもりだったんだけど、あっちはまだ作戦が始まってなくてさ。

寂しんぼの管理人が、童帝と実況者と三人でアキネータークイズ始めたから戻ってきた。


62:名無しの観戦者

何それ見たい!?

回答者は管理人と童帝?


63:>.59

うん。でも二人ともへっぽこで二〇どころか三〇以上質問しても辿り着かねーの。


64:名無しの観戦者

ちなみにどんなお題?


65:>>59

実況者の脳内彼女。

質問が進むうちに実況者が追い詰められて「どちらとも言えない」を連発してた。


66:名無しの観戦者

……それ、二人とも途中から分かった上でイジってねぇか?


67:>>59

それはともかく、こっちは今どういう状況?


68:名無しの実況者

はい、それでは新しく来られた方もおられるようなので、ざっと今までの流れを振り返ってみましょう。


まず事の発端はノーバイライダーを中心とした調査隊が悪魔崇拝者と蛮族が現地民を捕えて甚振っている現場に突入したこと。

追い詰められた敵は現地民約千人を生贄に蛇龍を召喚しました。

その後、合理爺が現場に到着したものの、蛇龍を倒せば中に囚われた千人の生贄の命が危うく、迂闊に手を出せず膠着状態に突入。

現地メンバーは丸一日以上、周囲を警戒しながら交代で結界を張り、蛇龍を封印し続けていました。


ですが今から約一時間前。

救援部隊本隊が現場に到着したことで状況が変化します。


69:>>59

本隊? 映像を見る限り、蛇龍の周りで戦ってるのは一〇人もいないし、幹部陣も最初からいた合理爺だけじゃん。

本隊っていうほどのもんかね?


70:名無しの観戦者

あ~、ここだけ見たらそう見えるよなぁ。


71:名無しの実況者

それでは分かりやすいように他の部隊の映像もいくつか同時に流してみましょう。


72:>>59

……うん? 何これ?

全然違う場所で皆が敵を追い詰めてる……?


73:名無しの実況者

直接戦闘が起きているのは全部で十四か所。

アタラ領に潜伏していた悪魔崇拝者及びその協力者の拠点をアークスの総力を挙げて一斉制圧しているところですね。


74:>>59

???

いや、マジで意味わからん。

何でそんなことが出来るかもそうだし……そもそも今の最優先は蛇龍の中の人を救出することじゃね?

それが何で全面衝突始めてるのよ。


75:名無しの観戦者

うんうん。その困惑は分かるぞ。

──何せリアルタイムでかじりついて見てた俺らもよく分かってない。


76:名無しの観戦者

それな。

何か説明はあった気がしたけど、俺も勢いと迫力に気を取られて理解が間に合ってない。


77:名無しの実況者

はい。そういった方が多いようですので、改めて本部から通達のあった今回の作戦の概要について説明させていただきましょう。


まず大前提として、アークスは今回の作戦目標に生贄にされた人々の救出だけでなく、アタラ領の制圧を加えており──


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


敵の襲撃を警戒しながら蛇龍の封印を維持し、蛇龍の術式情報を持っている人間を捕まえて情報を吐かせ、生贄を救出する。


『それ、ホントに俺が手を貸さないと駄目?』


氷弓兵の言葉は純粋な疑問であり、そこに皮肉や嫌味はなかった。少なくとも彼の人柄を知る仲間たちはそのことを理解している。


だから仲間たちはその言葉に先入観を一旦捨て、素直な反応を返した。


『いや、捕縛は人手を集めれば何とかなるとは思うが、本気で逃げ隠れされると──』

『ああ。それなら私がサポートできると思うわ。ついでに捕まえた後の──』

『せやけど、それしたら幾ら僻地とは言えあまりに目立ちすぎんか?』

『でしたら、いっそ領地ごと取り込んでしまってはいかがでしょう? つまり──』

『人間周りはそれでいいとして、神族悪魔周りはどうするんすか?』

『それに関しては交渉の余地があると思うよ。彼らの目的は闘争とその為の──』

『……あと気になるのは黒幕が直接手だししてくる可能性ね。状況的に隠し玉はないど思うけど──』

『ならば安心せい。封印には儂が指一本触れさせん』

『じゃあ人員と割り振りを──』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


アタラ領の首都の外れにある貸し倉庫。

アークスの富豪系転生者の一人が商いのために借りていたその場所は、現在『蛇龍解放作戦』の橋頭保として利用されていた。


「……ねぇ毒エルフ。これ、ホントに飲まなきゃ駄目?」


毒々しい紫色の液体が入った薬瓶を指でつまみながら、一人の転生者が顔を歪める。


それに美麗な容姿の女性エルフはニッコリと笑みを浮かべて応じた。


「貴方がお薬抜きでもちゃんと拠点や敵を見逃がさず捕まえてくれるっていうなら別に構わないわ」

「じゃあ──」

「でも飲まずに取り逃がしたら相当悪く言われると思うわよ? これだけの人が動いてる作戦を台無しにしちゃうかもしれないわけだし、お仕置きがブートキャンプや臨死体験程度で済むといいわね」

「…………」


転生者の顔色が蒼白を通り越して真っ白になったところに、エルフは更に追い打ちをかける。


「別に誰も失敗を責めたりはしないと思うけど……手を尽くさずにやらかしちゃったりしたら、そりゃあもう……ねぇ?」

「────」


前世職場でインフルエンザの予防接種を受けないと言った時、似たような言葉で上司に脅されたなと懐かしくも苦々しい思い出を回顧する。


転生者は溜め息と共に覚悟を決め、予防接種よりよほどリスクの高そうな紫色の液体を勢いよく喉に流し込んだ。


「…………」


味は思ったより普通だ。決して美味しくはないが、ごくごく平均的な薬の苦みがあるだ、け──


「────う」

「う?」

「うっひょぉぉっ!!? キタキタキタァァァァッ!!!」


転生者はカッと目を見開き、ハイテンションに嬌声を上げて突然その場で勢いよく駆け足を始めた。


その様子を見ていた他の戦闘班や調薬部門のメンバーはドン引きして数歩後ずさる。


「見えるぞ! 俺にも世界が見える!!」

「……それは良かったわ」

「ああ良かった! 最高だ!! 後は俺に任せろ!! 蛮族だろうとサタニストだろうと、例え悪魔であってもこの俺がバッチリガッチリまとめてズバッと見つけ出して捕まえてやんよ!!」

「そう。じゃあ、このエリアの担当お願いね?」

「任せろ!! 行くぜ行くぜ行くぜぇぇぇぃっ!!!」


転生者は毒エルフから担当エリアの地図を奪い取るとハイテンションで倉庫の外へと飛び出して行った。


単独行動はあまり好ましいことではないが、あれでも一応戦闘班では上位に入る実力者だ。ちょっと悪魔の加護を受けた人間程度なら、百人や二百人相手にしても問題はあるまい。


さて、まだまだここには童帝と神婆ちゃんの転移術で本部から送り込まれてきた戦闘班が百人近く残っている。次々薬を飲ませて担当エリアに向かわせなければ──と、毒エルフが追加の薬品をカバンから取り出そうとしたところで、仲間たちが動きを止めてジッと自分を見つめていることに気づく。


「……貴方たちも早く準備して作戦に取り掛かりなさい」


しかしそう促しても彼らは動こうとせず、戦闘班のメンバーは薬瓶を手に取ったまま固まっている。


「……何? 何か言いたいことでもあるの?」

「いや、その……あいつ、薬飲んでハイテンションっていうか、明らかに人格が変わってるんすけど……」

「悪魔の気配を見逃さないように知覚能力にバフをかけてるんだもの。脳機能の一部を拡張してる以上、人格に影響が出るのは自然なことでしょ」

「………」


仕方ないことではあるかもしれないが、間違っても自然なことではない──が、仲間たちは有無を言わせぬ迫力に言葉を呑み込み、代わりに一番気になっていることを口にした。


「……その、副作用とか後遺症とかは?」

「死ぬことはないわよ」


答えになっていない。


「えと、それは致命的な副作用とか後遺症はない、という意味で?」

「死ぬことはないわよ」


分かった。答える気がない。


『…………』


顔を見合わせる仲間たちに、毒エルフは腰に手を当て溜め息を吐いた。


「……大丈夫よ。前世と違ってこの世界じゃ治療不可能な後遺症なんてほとんどないの。生きてさえいれば童帝の術でどうとでもなるわよ」


毒エルフの言葉に嘘はなかった。

実際、ここにいる戦闘班の面々は訓練で少なからぬ回数の臨死体験と、その都度童帝の術できれいさっぱり完治された経験を保持しているので、毒エルフの言葉を否定することができない。


『…………』


結局彼らはしばし顔を見合わせた後、諦めたように次々と薬品を喉に流し込み──やはりハイテンションに奇声を上げながら次々外へ飛び出して行った。




彼らの自己犠牲と献身の甲斐あって、アークスはアタラ領各地に計二十三か所設けられていた悪魔崇拝者たちの拠点を根こそぎ発見し、構成員たちの捕縛に成功する。


またどうでも良い余談ではあるが、毒エルフの『生きてさえいれば童帝の術でどうとでもなる』という言葉に嘘はなかったものの、脳内に残留した薬物を洗い出すための術は正常な精神性を持つ人間には些か刺激が強く、治療を受けた人間の九割以上が『いっそ殺してくれ……!』と懇願することになるのだが……まぁ、怪しい医者の「大丈夫」は信じる方が悪い。

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