ドラゴンって作品格差が大きいですよね
132:童帝
つまり皇太子が使役してるドッペルゲンガーを管理人にけしかけてきたってこと?
133:★管理人
そう! ドッペルされそうになったの!
134:毒エルフ
う~ん……でもまだ呼び出されただけなんでしょ?
単に手すきがいなかったから皇太子がドッペルゲンガーに呼びに行かせただけとかじゃないの?
それか、ゲームと違ってこの世界じゃその側近のお姉さんはドッペルゲンガーじゃないとか。
135:★管理人
皇太子の屋敷で人が足りてないとかあるわけないでしょ!
それに黒布で目隠ししたヒューマンとか普通いないって!
おかしいじゃん、どっかの現代最強じゃないんだから!!
136:毒エルフ
……それを言ったら人に変身できる悪魔にわざわざそんな恰好させる理由もないと思うけど。
137:★管理人
俺に言われても知らないよ!
ゲームでもそういうビジュだったの!
138:氷弓兵
確かゲームじゃ、あのドッペルゲンガーには周囲の人間に変身後の姿を見せたくない理由があったんじゃなかったかな。
皇太子がドッペルゲンガーを捕えるためにわざと使用人の女を食わせたとか──いや、それとも使用人の女に化けて近づいてきたドッペルゲンガーを捕らえたんだっけか?
139:童帝
詳しいね?
140:氷弓兵
確か警備隊長の娘がその食われた女で、ルートによっては皇太子の非道を知った警備隊長が反旗を翻してコロコロされるイベントがあったから覚えてるわ。
141:地面師
だとすると、その女が屋敷の人間と接触する機会は極力減らしたいでしょうし、単なるお遣いという線はなさそうですね。
本当に狙われていたという確証はないにせよ、リスクを避けるという意味では管理人の判断は間違ってなかったように思います。
142:★管理人
そうなの! だから今すぐ助けに来て!!
143:氷弓兵
まぁ今さら屋敷に戻るわけにもいかないだろうし、回収に向かうこと自体は異論ないんだけど……
144:教授
何か気になることでもあるんすか?
145:氷弓兵
う~んと……ゲーム知識ではあるんだけど、確か記憶や知識までコピーできるドッペルゲンガーってかなり高位で、それが現世で力を振るえるようになるのって中盤以降だった気がするんだよね。でも、掲示板の普及とかで多少シナリオ展開が早くなってるとはいえ、出現してる悪魔を見る限り今は精々序盤の終わりかけとかだろ? この段階で実績上げてる研究者をドッペルゲンガーに食わせるのっておかしくないか、と思ってさ。
146:教授
……確かに、記憶や知識を奪えないなら丸損っすよね。
でも何かの理由でそのドッペルゲンガーがシナリオより早く力を取り戻してるって可能性もあるんじゃないっすか?
147:氷弓兵
だとしても、その希少な能力を管理人に使う理由って何?
普通なら敵対派閥の人間を襲わせて政治工作とかに使うんじゃないかな。
148:教授
それは……確かに。
管理人は研究者としての仕事はしてたわけだし、その能力や立場を乗っ取っても何のメリットもないっすもんね。
149:毒エルフ
本人の発想力とか感性みたいなものまで奪えるかは微妙だし、むしろデメリットしかないかもね。
管理人、何か皇太子に睨まれるようなことした?
150:★管理人
してないよ!!
……そりゃ、周りに人を近づけまいと思って気難しい研究者を演じてはいたけど、ちゃんと成果は出してたし皇太子には忠実だった……と、思う。
151:TS聖女ちゃん
なら裏でワイらと繋がってコソコソやっとることがバレたとか?
152:★管理人
それはない。
情報のやり取りは掲示板の秘匿回線を通じて行ってるから外部に漏れる可能性は──可能性は……皇太子の側に神婆ちゃんクラスの技術者でもいない限り考えにくい。
153:TS聖女ちゃん
いきなりトーンダウンしたな。
154:★管理人
うるさいな!?
どうせそんな奴いないんだからいいんだよ!!
……皇太子とその周辺の情報のやり取りは管理者権限を使ってチェックしてるけど、アークスや俺の動きに気づいた様子はない。
というか、バレてたらもうとっくに処分されてるよ。
帝国は裏切り者に厳しい。
皇族に仕えてる人間なんて、裏切りの可能性がわずかでも出た時点で憲兵隊に取り押さえられて徹底的に調査されるんだからさ。
155:氷弓兵
う~ん? それってつまり……
156:童帝
何か気になることでも?
157:氷弓兵
……いや、何でもない。
とにかく今は管理人を回収するのが先でしょ。
今どこ? 帝都は脱出できた?
158:★管理人
まだ。普段より人の出入りのチェックが厳しくなってたから、八番の拠点に隠れてる。
何でもいいから早く迎えを寄越して!!!
159:氷弓兵
了解了解。俺が迎えに行くよ。
神婆ちゃんに協力してもらえば帝都まで二日もかからないと思うから、そこから動かないで。
160:TS聖女ちゃん
お? わざわざ氷弓兵が行くんか?
仕事は大丈夫なん?
161:氷弓兵
あんまり大丈夫じゃないけど、帝国の本拠に潜り込むなら俺が行った方がいいでしょ。
もしその間に何かあったら……戦闘班の指揮は童帝お願いできる?
大まかな方針だけ決めて、現場のことは合理爺に任せとけばいいから。
162:童帝
了解。それぐらいなら任せてよ。
そっちも気を付けて行ってきて──
163:合理爺
悪いがそれは中止だ。
164:TS聖女ちゃん
うお!?
いきなりどないしたんや、合理爺。
というか、本人が掲示板に顔出すとかマジで久しぶりちゃうか?
165:合理爺
円卓の発足式以来だな。
それはともかく氷弓兵の派遣は中止してくれ。
手を借りたい。
166:毒エルフ
随分強引ね。
わざわざ貴方が氷弓兵にヘルプを頼むって……何があったの?
167:合理爺
結論から言うとドラゴンが出現した。
168:TS聖女ちゃん
何ぃっ!? ドラゴンやと!!
…………って、ドラゴンって強いんか?
169:地面師
……はぁ。分からないなら何で反応したんですか?
170:TS聖女ちゃん
いや、ドラゴンと聞いて一瞬強そうやな~、とは思うたんやけど、改めて考えたらこの世界って神が普通にゴロゴロしとるわけやん。
ドラゴンって、言うほどヤバいか?と我に返ってしもうてな。
171:童帝
ははは。まぁ、気持ちは分からなくもない。
実際、この世界だとドラゴンって言ってもピンキリだからね。
神話体系の頂点に立つような化け物もいれば、そこらの魔獣と大差ない蛇がドラゴンと呼ばれてるケースもある。
172:TS聖女ちゃん
ほうほう?
173:童帝
ただ、現時点でそういう強力なドラゴンは本来の力を発揮できないはずだ。
合理爺の腕ならどうとでもなるとは思うんだけど……?
174:合理爺
うむ。斬れと言われれば幾らでも斬ってみせるが、今回は果たしてそうして良いものか……少し判断がつきかねる相手なのだ。
175:TS聖女ちゃん
???
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
連邦最南端の半島国家アタラ領。
山脈と海とに囲まれた閉鎖的な小国家であり、多くの蛮族が棲みつく未開の地。
資源豊富で豊かな土地ではあるが、その住民の狂暴性ゆえに他の連邦国家もほとんど交流を持とうとしない陸の孤島。
住民のほとんどはヒューマンで、ごく僅かではあるがオーガ族の集落も偏在している。
この地を庇護しているのはアスタ神族と呼ばれる鬼神の一団だが、宗教のようなものは特に存在しない。アスタ神族は闘争を旨とする蛮神で、戦いの高揚こそが彼らの糧。蛮族たちは神を知らず、ただあるがまま暴虐に振る舞うことで神と繋がっていた。
こうした特殊性から、ゲーム『デモンズガーデン』でもこのアタラ領はストーリーの本筋に関わってくることはほとんどなく、基本的にどの勢力からも放置されている。
アークスとしても積極的に関わるつもりはなかったのだが、富豪系転生者のもとに他領から不自然に大量の物資が運び込まれているとの情報が寄せられ、念のためにと数名の調査員がアタラ領に送り込まれた。
約半月に渡る調査の末、調査員たちは物資を運び込んでいたのが他領の悪魔崇拝者であったことを突き止める。悪魔崇拝者たちは蛮族たちと組んで一般の村々を襲撃し、住民たちを次々と虜囚としていた。
不思議なことに彼らは捕らえた住民たちを殺すことも働かせることもせず、必要最低限ではあるが食料さえ与えて生かしていた。運び込まれていた物資の大半は捕らえた住民に与えるための食料だ。
だが一方で彼らは捕らえた住民たちを労わることもせず、極力殺さない程度に痛めつけ、嬲って弄んでいた。
残虐な、ただ住民たちの怒りと憎しみを駆り立てるだけの蛮行。
調査員たちにその行為の意味は分からなかったが、それがろくでもないものであり、また見過ごしてはならない悪逆であることだけは理解できた。
「クソが……!」
「……落ち着きなさい。私たちだけじゃ住民を人質に取られたら手の出しようがない」
本部に応援を呼び、捕えられた住民たちの悲鳴に唇の端から血を流し、飛び出したくなる衝動を必死に堪える調査員たち。
しかし彼らが忍耐を保てたのは応援を呼んでから僅か半日。
蛮族の一人が酔って少女に斧を振り下ろそうとする光景を目の当たりにした時、気がつけば一人の男が斧ごと蛮族の身体を蹴り飛ばしていた。
「ぐあぁぁぁっ!?」
突然の乱入者──その異様な姿に蛮族も捕らえられていた住民たちもどちらも呆気にとられ目を剥く。
乱入した男はメタリックな仮面とスーツを全身に纏っており、見る者によっては悪魔とも怪人ともとれる異様な風体をしていた。
「そこまでだ、外道! 例え天が裁けずとも、貴様らの非道はこの俺が許さん!!」
「──何やってんのよっ!?」
隠れていた調査員たちが慌てて飛び出しカバーに入る。仲間の悲鳴に仮面の男は恥じ入ることなく胸を張って言い返した。
「無論、正義だ!! この仮面に誓って、俺が、無辜の少女を見捨てることなどあってはならんのだ!!」
仮面の男の二つ名は『ノーバイライダー』。
ニチアサで有名な仮面のバイク乗りのごとき姿をした悪魔変身能力者であり、乗るべきバイクを持たないことを揶揄してそう呼ばれている。
しかしバイクがないことは彼の戦闘能力の不足を示すものではない。
「とうっ!! やぁっ!! でりゃっ!!」
拳の一振り、蹴りの一撃で蛮族たちが次々と吹き飛び、薙ぎ払われていく。
鋼の精霊と契約し、圧倒的な質量と強度を手にしたノーバイライダーの白兵戦能力は、アークス全体でも十本の指に入る。彼が手加減していなければ、蛮族たちの肉体は今頃汚い地面の染みになっていただろう。
「──あぁ、もうっ!! 全員、あのバカのフォローに回るわよ!」
暴走するノーバイライダーに頭を抱えながらも、他の調査員たちは混乱する蛮族たちを牽制し、捕らえられた住民たちを解放していく。
元々ただの人間に過ぎない蛮族たちと、精霊と契約した彼らとでは決して超えることのできない力の差がある。真っ向からぶつかり合えば、蛮族側に勝ち目はない。
捕らえられていた住民たちは解放者の勇姿に目に希望の光を取り戻す──
『────っ』
──だが、ここにいる敵は蛮族だけではないし、負けると分かって真っ向からぶつかり合う理由は彼らにはない。
「──っ! 奥の杖を持った男!!」
「おおっ!!」
調査員の一人が、悪魔崇拝者と思しき杖を持った男が何か儀式を発動させようとしているのを見咎め、ノーバイライダーがそれを止めるべく敵陣を突っ切る。
ノーバイライダーの突進力は凄まじく、間に入った蛮族たちは鎧袖一触蹴散らされていく──が、殺さないよう勢いを緩めていたことが災いしたのだろう。ほんの一瞬、拳一つ分だけ彼の手は儀式の完遂に間に合わなかった。
──カッ!!!
地面に特殊な顔料で描かれていた陣が光を放ち、調査員たちは咄嗟に目を閉じて防御姿勢をとる。
そして次の瞬間、彼らの身体は後方に飛ばされていた。吹き飛ばされたというより異物として弾かれたような不思議な感覚。
「──ぐぅっ!?」
地面を転がりながら反射的に受け身を取り、体勢を立て直す。
この程度の衝撃でダメージを受けるほど精霊契約者の肉体はやわではない。だが自分たち以外、捕えられていた住民たちはその限りではないと思い至り、彼らは慌てて周囲を見渡す──が、吹き飛ばされた周囲にいたのは彼ら調査員たちだけ。
直ぐ近くにいたはずの住民や蛮族たちの姿はどこにもなかった。
一体どこに?
──グォォォォォォォッ!!!
彼らの思考を遮るかのように響き渡る咆哮と黒い影。
『────っ!』
顔を上げれば自分たちがつい先ほどまでいたその場所で、巨大な黒い蛇龍がその身をくねらせていた。




