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せめて男らしく

★人手不足対策会議 part11


51:毒エルフ

とにかくこっちにもっと人回してよ~。

物資も確保できない状態で戦線を拡大するとかアホの所業よ?


52:地面師

いやもう目一杯回してるじゃないですか。

人手が足りてないのは生産部門だけじゃないんですから無茶言わないで下さいよ。

そもそも私が戦線拡大してるわけじゃありません。こっちだって管理の手間は増えるし、流通や兵站線の確保、戦闘後の後始末や隠蔽工作とか、やらなきゃいけないことは山ほどあるんですよ?


53:毒エルフ

だからってこっちに年寄りとか負傷兵とかばっか回されても困るのよ。

そういう人向けの仕事を作るのは簡単だけど、そのチェックや管理に優秀な人間が手をとられるの。

せめて寄越す人間の一割は基礎訓練終えた転生者を寄越してよ。


54:地面師

寄越せと言われてできるなら苦労しませんよ。

あくまで「アークス」は互助組織で人事に強制力はないんですから。

私の一存じゃ限界があるんですって。


55:TS聖女ちゃん

今は経験値の稼ぎ時や言うて、そういう連中は皆実戦に出たがるもんな~。


56:地面師

そう、そうなんですよ!

いくらこっちが後方支援の重要性を説いても、『最終的に後方支援に進むのだとしてもレベルは高い方が有利』と言われれてしまうと……


57:童帝

今、後方支援に回れってのは、組織運営のために自分を犠牲にしてくれって言ってるようなもんだしねぇ。


58:毒エルフ

だからって不器用な連中ばっかこっちに回されても……せめてコボルトちゃん回してよ~!


59:地面師

モフりたいだけでしょ。

コボルトは毛が薬品に混じりやすいから調薬には不適当って話になったじゃないですか。


60:毒エルフ

いーじゃない! そういうのを喜ぶ人もいるわよ!!


61:地面師

駄目ですって。

というか、何で私が人事管理までやらされてるんですか?

私にだって自分の仕事があるんですよ?


62:TS聖女ちゃん

せやかて他にできる人間もおらんしな~。

親方ら生産部門は言わずもがな、闇商人や錬金術師は現場の後始末や隠蔽工作に忙殺されとるし、他にできそうな人間がおらんやろ。


63:地面師

なら暇そうな聖女ちゃんが──……すいません。馬鹿なことを考えました。


64:TS聖女ちゃん

どういう意味や!?

ブラック上司ムーブで管理し殺したろかい!!


65:童帝

う~ん……俺が手伝えたらいいんだけど、表に出れない関係上、人事関連は手を出せなくて……ごめんね?


66:地面師

あ、いえいえ。

童帝は育成以外に同盟相手のチェックや地脈の管理とか、色々動いていただいているので気にしないでください。


67:教授

というか、現場の人手もそうっすけど管理面が限界っすよ。

そろそろ円卓メンバーの追加を考えるべきじゃないっすかね。


68:氷弓兵

あ、それは俺も同感。

最近、諜報活動の指揮に手を取られて全然現場に出れてないから、そっち専門の人材が欲しいかも。


69:毒エルフ

それなら先に食料生産部門を独立させてよ。

今は親方と私で分担して面倒見てるけど、どっちかと言えば技術畑じゃなくて商業畑の話じゃない?


70:TS聖女ちゃん

ついでに娯楽部門も作らんか?

いや、人手が足りんちゅうとる時に何を馬鹿なことを思うかもしれんけど、だからこそ息抜きの場は必要やと思うんよ。

特に戦いが多くなると性欲を発散する機会も増えるやろうし、放置しとくとトラブルや質の悪いのに付け込まれるリスクもあるやろ。


71:地面師

人事管理の専門家は絶対に欲しいですよね。

組織を円滑に回すためには全体をマネジメントできる人材が不可欠です。


72:童帝

皆思ってたより不満が溜まってるなぁ(苦笑)。


73:教授

正直、今までは準備段階であまり動きが無かったから何とかなってたんすよ。

だけど実際に状況が動き出したらトラブルや現場で判断しないといけないことが増えて、今の体制じゃとても持たないっす。


74:地面師

例えるなら一〇〇〇人規模の会社を役員と一般社員だけで回してるようなものですかね。

管理職がゼロなので、我々が末端まで指示を出さないといけない。

一般社員の誰かに権限を移譲しようにも、上下関係や責任の所在が不明瞭なので上手くいかない。


75:童帝

……となると円卓メンバーを増やすよりは、俺らの補佐をしてくれる中間管理職をポジションとして設けた方がいいのかな?

正直、いきなり一部門を任せられそうな人材もいないし、そこから優秀な人が出てきたら円卓に加えるって方向で。


76:毒エルフ

……やっぱりそれしかないのかしら。


77:地面師

嘆いたところで人材が雑草のように生えてくるわけじゃありませんしね……はぁ。


78:TS聖女ちゃん

ん? そんな溜め息吐くとこ?


79:氷弓兵

結局、自分で使えそうな人材見つけて育てろって話だからねぇ。


80:教授

ぶっちゃけ、このクソ忙しい時に他人に仕事任せて育てるってのは超ダルいっす。


81:地面師

それじゃ駄目だってのは分かってるんですけど、育成中はどうしたってミスやトラブルも増えるし、中々気が重いというか……必要なのは分かってるんですよ?


82:毒エルフ

なので出来ればポーンと部門ごと任せて仕事を手放してしまいたいってのが本音なのよね。


83:TS聖女ちゃん

ほ~ん。

せやかて今まで人を育ててこんかった自分らが悪いんやし、そこは踏ん張るしかないんちゃう?


84:地面師

それはそう、なんですが……


85:毒エルフ

優雅なプー太郎生活送ってる聖女ちゃんに言われると腹立つわね。


86:TS聖女ちゃん

しゃあないやんか!

ワイに管理とかできるわけないんやから!!

文句あるんやったらワイに仕事任せてみるか? うん?


87:地面師

くっ……とんでもないトラブルを起こして組織総出で尻拭いをする未来しか見えなくて辛い……!


88:氷弓兵

開き直った馬鹿は強いなぁ。


89:毒エルフ

……いっそオークたちと一緒に肉体労働に回してやろうかしら。

一か月後、オークたちに囲まれてアへ顔ダブルピースをかます聖女ちゃんの姿が──


90:童帝

まぁまぁ、落ち着いて。

聖女ちゃんも、あんまり皆を煽らないようにね?

調子に乗り過ぎるとまたお仕置きだよ。


91:TS聖女ちゃん

ほ~い(股開いて鼻ほじほじ)。

というか、この手の組織の話は管理人が仕切らんとまとまらんやろ。

合理爺や闇商人が欠席するのはいつものことやけど、管理人は今日どないしたん? 生理か?


92:氷弓兵

そうやって地味に『管理人男の娘説』広めるのやめたげようよ。

欠席連絡は届いてないからリアルでなんかトラブルでもあったのかな──


93:★管理人

だすげでぇ゛っ!!!


94:氷弓兵

お。噂をすれば。


95:童帝

何かヤバそうな雰囲気だけど……どうしたの?


96:★管理人

ヤバイの! マズイの!

俺、エロいカッコした悪魔のお姉さんに食べられそう!!


97:毒エルフ

……はい?


98:TS聖女ちゃん

エロ……詳しく聞こか?(ずいっと身を乗り出して)


99:童帝

…………親方に続いて貴様まで。

俺の前で言うに事欠いてエロ姉さん──死にたいのか?


100:★管理人

違う! いや、違わないけど違う!? そうじゃないのぉぉっ!!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


時は少しだけ遡る。


──コンコンコン


外から研究室の戸を叩くノックの音。

これからアークスのメンバーと会議だというのに鬱陶しい。いつものように有能だが癇癪持ちの研究者を演じ、適当に騒いで追い払うかと少年は溜め息を吐く。


「……入れ」

「皇太子殿下がお呼びです、博士。地下室までおいでください」

「────」


しかし直後、ドアを開けて姿をみせた女の姿とその言葉に、少年はヒュンと息を呑んだ。


「……博士?」


首を傾げるその女は黒布で両目を覆っているが、まるでこちらの姿が見えているよう──いや、実際に見えているのだ。


ゲーム『デモンズガーデン』の知識で、彼は皇太子ルードヴィリの側近であるこの女が人ならざる悪魔であることを知っていた。


──どういうことだ何故こいつが今動く偶然なのかいやそれはあり得ないルードヴィヒはこれまでこいつを周囲に情婦と思わせ外部との接触を絶っていたは──


「博士!」

「──あ、ああ。すまない」


咎めるような女の声に、混乱する思考が現実に引き戻される。


「……皇太子殿下がお待ちです。ついて来てください」


だが現実は一刻の猶予もない。

あくまでゲーム知識であり何の裏付けもとっていないが、目の前の女の正体は鏡面魔神ドッペルゲンガーである。皇太子を喰らいその立場を乗っ取ろうとしたものの、逆に皇太子に捕えられ駒の一つとして利用されている悪魔。


鏡面魔神ドッペルゲンガーは対象を喰らうことでその姿を模倣するファンタジーでは定番の魔物。『デモンズガーデン』では鏡面魔神ドッペルゲンガーにも幾つか種類が存在し、低位のものは姿を模倣することしかできないが、高位のものは対象の能力や記憶まで完全にコピーすることができる。


そしてゲーム設定上、目の前の女は元々かなり高位の鏡面魔神。皇太子がラスボスとなるルートでは、彼女が帝国内の要人を次々と喰らい、皇太子による権力奪取に一役買っていた。しかしゲーム開始当初は世界から信仰心や神秘が薄れたことで零落し、姿を模倣するのが精一杯だったはず。だから研究者である自分が手出しされることはあるまいと彼女のことはノーマークだったのだが──


──まだ時期的に記憶や知識を奪えるほど力を取り戻してはいないはずだがゲーム設定を盲信しすぎたかそれとも昨今の悪魔の目撃情報増加により異界深度が増加したということなのかだが仮にそうだとしてわざわざ俺を喰わせる理由は怪しまれるようなことはしていないし個別に研究を進めさせた方が役立つはずだが何故──いや、考察は後回しだ。


「──分かった。だがこの格好で殿下の前に出るわけにはいかん。着替えるから外に出ていろ」


そう言って少年は丸四日着替えもせず黄色くくすんだ白衣の袖を掲げてみせた。


女はそれを見て眉を顰め溜め息を吐く。


「……手伝いましょうか?」

「いらん! ついでにやり掛けの実験を片付ける。五分──いや、十分ほど待て!」

「……殿下をお待たせするわけにはいきません。五分でお願いします」

「ならこのやり取りも時間が惜しい! とっとと出て行け!」


強引に女を研究室から追い出すと、少年はできる限り音を立てないよう、しかし急いで研究資材の奥に隠していたアタッシュケースを取り出す。万が一に備え、いつでも逃げ出せるように準備だけはしていた。


机の上に広げていた研究資料を目につく限りケースに押し込み、後から来た者に研究内容が分からないように簡単に工作を済ませる。


そしてアークスから取り寄せた【透明化】【浮遊】の指輪をはめると、少年は勢いよく二階の窓から外に飛び出した。


──いい機会だ! アークスも忙しくなってきたし、俺もあっちに合流させてもらおう!!




そうして姿を消し皇太子邸の敷地からよたよたと逃げ出す少年を屋敷の中から見下ろす二つの影。


「……よろしかったので? もう少し泳がせておけば、私が記憶を奪う準備も整いましたのに」

「構わん。身中の虫がおったのでは策を練るどころではないからな」

「…………」


納得していない様子の女を無視して、皇太子ルードヴィヒは酷薄な声音で続けた。


「後を追い、可能なら奴がどこと繋がっているかを確認しろ」

「……それが叶わぬ場合は?」

「殺せ──確実にだ」

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