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転生者たち(+α)の女子会

「こんなに良くしてもらって申し訳ないんだ~よぅ」


真新しいふかふかのベッドの上に腰掛け、クッションを確かめるように軽く弾ませながら小柄なしわくちゃの老婆が呟く。


魔女のようなローブに身を包み、鉤鼻でお世辞にも美しいとは言えないが不思議と和んでしまう容貌の持ち主──神婆ちゃんことゴブリンたちの守護女神パムフレドだ。


「別に気にしなくていい──とは、流石に言えないっすね、これは……」


腰に手を当て呆れたように神婆ちゃんの社を見回す金髪のヤンキー少女──教授。


「毒見の必要まではなさそうだけど、ねぇ……」


長身の女エルフ──毒エルフは台座に山のように積まれた神婆ちゃんへのお供えに、頬に手を当て溜め息を吐いた。


今彼女たちがいるのはオークたちの集落の一角に新たに建てられたパムフレドの社。


社の外ではアークスから派遣された転生者やオークの有志達により、今も急ピッチでゴブリンたちの仮設住宅の建築が進められていた。




第一次ノゥム領防衛戦を切り抜け天使の軍勢を撃退した後、アークスとゴブリン、オークたちの間で今後の方針について話し合いがもたれたが、そこで最初に話題に挙がったのはゴブリンの非戦闘員の扱いだった。


当初アークス側は、ゴブリンたちが天使との戦いに駆り出されることを拒否し、ノゥム領から逃げ出すことを懸念していたが、意外にもゴブリンたちの戦意は高かった。故郷を自分たちの手で守るのだと息巻いており、戦いを義務ではなく自らの権利と認識していたというべきか。


あるいは先の圧倒的な勝利で一時的に調子づいているだけかもしれないが、ゴブリンたちとノゥム領を天使との緩衝材にしようと目論んでいたアークスとしては敢えて否定すべきものでもない。


一方で、ゴブリンたちも決してこれからの戦いを軽く考えているわけではなかった。


非戦闘員は至急ノゥム領から避難させたい──ゴブリンたちの要望を受けてオークは集落へのゴブリンの受け入れを了承。アークスがその移住を支援することで合意し、今はその第一次移住計画のまっただ中だ。


後方支援向きの神材である神婆ちゃんも併せてこちらに移住。

アークスの生産部門・建築班が編み出したオカルトと前世日本の建築技術の組み合わせにより、一日とかからず神婆ちゃんの社は建立が完了していた。流石にオーク領内ということでサイズは小ぢんまりとしているが、家具や内装含め使用者への気遣いに溢れた使いやすいものとなっている。


ゴブリンたちの仮設住宅もこれよりグレードダウンはしているが同様の技術が使われており、半月もすれば移住希望者全員に住居がいきわたる見込みだ。


その様子を見ていたオークたちは使い勝手のよいその住まいを羨ましがっており、地面師たち富豪・商人系転生者は新たな商売のタネの利権を巡って水面下で激しい争いを繰り広げていた。




社の中で女子(?)三人が話題にしているのは、台座に山積みにされた神婆ちゃんへのお供え。これは彼女の信者たるゴブリンたちからのものではなく、アークス所属の転生者たちからの贈り物である。


「それにしても、なんで見ず知らずの人間の子供たちが、あたしにこんな良くしてくれるのかねぇ?」


神婆ちゃんは愛嬌こそあるが、やはりゴブリンの神であり、その見た目は人間の基準でハッキリと醜い。神代まで遡っても一度たりとて人間たちからチヤホヤされたことのない神婆ちゃんは、転生者たちの好意にひどく困惑していた。


『…………』


教授と毒エルフは顔を見合わせ、事情を説明すべきかどうか迷う。


正直『馬鹿どもが馬鹿やってら』『馬鹿なんで無視していいよ』と切って捨てたいところではあったが、転生者ばかのクソみたいな思考と熱意の影響力は実は無視するには危険な領域に至っていた。


十数秒ほどの睨み合いの後、結局毒エルフが諦めたように溜め息を吐き、口を開く。


「……私たち転生者の中には、女神って存在を過剰に尊ぶ連中がいるのよ。へき──っていうか習性みたいなものだから特別気にする必要はないけど、中にはおかしな奴がいないとも限らないから、あまり気を許し過ぎないようにね」

「女神って言っても、あたしはこのナリだよぅ? 人間の坊やたちが欲情するとは思えないけどねぇ」


毒エルフのぼかした表現に、神生経験豊富な神婆ちゃんは直接的な物言いで首を傾げる。


その意見は常識的には正しいのだが、こちらの世界の常識が転生者の常識と合致するとは限らない。今度は教授が疲れたようにかぶりを振って口を開いた。


「俺らの前世──というか業界じゃ、神様ってのは姿がコロコロ変わるもんなんすよ。年齢や属性なんてのはファッション感覚、性別や種族が変わることも珍しくないっすから」


お供えでも食べ物とかはともかく、幻獣・魔獣の羽や爪などの霊的素材は完全にそれを狙ったものだろう。


「ふぅ~ん? 昔、男なのに雌馬に化けて馬の子供を産んだ悪戯っ子の話を聞いたことがあるけど、そういうことかい?」

「それとはまた──いや……馬もいたし似たようなもんすかね……?」


かのトリックスターはソシャゲの女体化のはしりだったのか、と埒も無いことを考える。


「あたしも若い男に化けてあげた方がいいのかねぇ?」

「──絶対やめて。今度は腐ったのが釣れちゃうから、絶対に、やめて」

「お、おおぅ……わかったんだ~よぅ」


毒エルフに肩を掴まれ凄まれて、神婆ちゃんは少し怯えながら頷く。


これ以上馬鹿が増えたら収集がつかなくなる、とブツブツ呟く毒エルフに苦笑しながら、教授は本当の注意事項を告げた。


「ともかく、こういうお供えは馬鹿どもが面白半分で馬鹿やってるだけなんで、あまり真に受けず、要らないものはお子さんたちにでも上げて欲しいっす」

「……失礼じゃないかい?」

「無駄にするより役立ててもらった方が馬鹿どもも喜ぶだろうから気にしないでいいっすよ」

「そうかい。きっと子供たちも喜ぶんだ~よぅ」


ゴブリンたちを想い無邪気に喜ぶ神婆ちゃんだったが、教授の言葉には別の懸念が含まれていた。


この世界では神とその信者は相互に影響を及ぼし合う関係にある。大戦に敗れ醜い姿に零落した神の影響を受けて亜人たちが醜く変貌したのとはまた逆に、信者たちの強い信仰によって神の性質が変化することも実は珍しくなかった。


通常そうした変化は軽微かつ緩やかなものとされているが、転生者が関わる場合はその限りではない。童帝の話では自分たち転生者の霊的資質は一般的な人間と比べかなり高いらしく、転生者たちの膨大な妄念が集まれば短期間で神の姿を変貌させることも有り得ない話ではないのだとか。


実例がないので変化の度合いは童帝にも分からないが、神婆ちゃんがゴブリンの女神として彼らを率いている現状、その性質がゴブリンから乖離するのは都合がよくない。というか一部の転生者はそれを狙っているフシがあるし、怨念もうそうの籠ったお供えなどとっとと手放してもらった方がよいのだ。


できれば神婆ちゃんに悪影響を与えかねない転生者クズどもは根本的に彼女から隔離したいところだが──


──そういうクズどもほど、ゴブリン周りの事情に協力的なんすよねぇ……


そうした転生者を排除してしまえば、これほどの速度でゴブリンたちの環境を整えることはできなかっただろう。


痛し痒しだな、と神婆ちゃん周りの面倒事に教授と毒エルフはこっそり溜め息を吐いた。


「ん? 何か嫌なことでもあったのかい?」

「い~え。何でもないわ」

「そうかい? ん~……あ! そう言えばあんたたち、今日はお仕事の話できたんじゃなかったのかい?」


そう言えばそうだったと二人は顔を見合わせる。

怨念もうそうの籠った素材の山に呆れて忘れそうだったが、教授と毒エルフがここにやってきたのは視察でも移住を手伝う為でもなく、今後の彼らの生活について相談する為だった。


ゴブリンたちはオークから住む場所の提供を受けたが、彼らもただそれだけで生きていけるわけではない。当面の食料などはアークスから援助するにせよ、生きていくためにはこの地で日々の糧を得て生活基盤を整える必要があった。


ノゥム領で暮らしていた時のように採取や狩りで──というのはオークたちの狩場とバッティングしあちらの生活を脅かす恐れがあるため、それ一本でやっていくのは難しい。だが今から畑を作っても開墾や土壌改良だけで何年もかかってしまう。


教授と毒エルフがやってきたのはそうした問題を解消するためだ。


二人は互いに目配せし、まず先に毒エルフが袋の中から土のついた草を取り出し口を開いた。


「これを見て欲しいんだけど……」

「ん? これは……ハルフ草かい?」

「ええ」


神婆ちゃんが一目で言い当てたハルフ草とは、主に薬品調合時の中和剤として利用される素材。さほど珍しい素材という訳ではないが、野生のそれは品質が安定せず、高度かつ繊細な薬品を取り扱う薬剤師にとっては悩みの種となっていた。


霊薬ポーション作りに必要なんだけど全然量が採れなくて。これから天使との戦いを考えれば霊薬はいくらあっても足りないし……何とかならないかしら?」

「ああ、大丈夫だ~よぅ。任せておいで」


毒エルフの問いかけに、魔女の神であり薬草学の大家でもある女神はあっさり胸を叩いて請け負った。


既にハルフ草がこの辺りにも自生していることは把握しているし、雑草との見分けがつきにくく専門の者以外が採取することは少ないためオークとかち合うこともない。


「ホントに!?」

「ああ。必要ならこっちで一次加工まで済ませてやるんだ~よぅ」

「助かるわ! それでねそれでね! 資金は出すからできれば今後のことを考えて薬草園を──」


毒エルフはハルフ草以外に追加で四種類の薬草の栽培などを依頼し、具体的な生産計画はこの辺りの地質の調査を終えた上で、富豪系転生者スポンサーを交えて詰めていこうという話に落ち着く。


打てば響くような神婆ちゃんの「大丈夫だ~よぅ」の返答に、昨今ケガ人が増えて素材の調達に苦慮していた毒エルフはほくほく顔だ。


「──うんうん。それで、そっちのお嬢ちゃんの用事はなんだい?」

「え~と……実は今、精霊鉱から属性を抜いて触媒としての汎用性を高める研究をしてるんすけど──」

「ああ、それなら──」

「うぇぇ……そんな簡単なやり方で? それってここのお子さんたちでも──」


この世界では教国によってオカルト関係の知識が散逸し途絶えてしまった影響で、転生者たちのテクノロジーは個人のアイデアと前世の知識に依存する部分が大きかった。


ここに神婆ちゃんというオカルトの専門家が加わったことで、彼らのテクノロジーは当初全く想定していなかったほどの飛躍的な成長を遂げることとなる。

転生者データ①氷弓兵

種族:ヒューマン 性別:男 年齢:16歳

アークスにおいては戦闘班のリーダーを務める元傭兵。

氷の精霊(狼)と契約した魔匠で、氷の弓矢を具象化して戦う。

メインウェポンは弓だが、剣でも槍でも武器は一通り扱える戦争屋。

本領は戦争であり、正面切っての戦闘では合理爺に一歩劣る。


農家の四男で12歳の時に口減らしで傭兵団に売られる。

15歳の時に教国の侵攻で所属していた傭兵団が壊滅。

一人生き延びた彼はかつての仲間の消息や教国の動向を探りながらバイト生活に突入。

毒エルフとはその時に知り合った。


目標であった仲間の弔いを早々に達成しており、実は今は気が抜けている。

作中では初戦でさらりと約200の異形を単独撃破しているが、これは当時の彼にとってかなり分の悪い命懸けの戦いだった。

仲間の死体を弄ばれたことに口ではともかく内心かなりブチギレており、その後、次々と教国の拠点を攻め落としたのは半ば八つ当たり。

二桁ほど死にかけて、心配した毒エルフに泣かれてようやく落ち着いた。


前世はサラリーマンで28歳の時に過労死。

ゲーム『デモンズガーデン』をそこそこやりこんでいた。

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