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へっぽこ転生者軍団の逆襲!~バッドエンド確定のクソゲー世界へ転生って誰得ですか!?~  作者: 廃くじら


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ブラック上司対応メソッド(実践編)

防衛戦の結果について、長くなったので敵サイドと主人公サイドで話を分けました。


今回は敵側から見た戦いの結果と、今後の対応方針について。

──ブシャァァァァッ!!


「…………」


目の前で白い羽をもつ天使が正中線で左右にパカッと両断され、赤い血に似た何かをまき散らしながら床に崩れ落ちる。


どうやって両断されたのかも分からない現象を「この上司はそういうことも出来る」と割り切って受け入れ、神殿騎士アーレスは奥歯を噛みしめ冷静さを取り繕った。


「全く……私を前にダラダラと失敗の言い訳を並べ立てて何がしたかったのか。まさか命乞いをしたかったわけではないでしょうが、近頃は道理わたしのおもいを理解できない愚物が増えて困ったものです。そうは思いませんか、神殿騎士アーレス?」

「はっ」


教皇の問いかけに肯定とも否定ともとれぬ曖昧な言葉を短く返し、頭を下げて表情を隠す。ただそれだけのことをするのに、アーレスはいつ不可視の何かが自分の首を落としはしまいかと寿命が縮む思いだった。


今彼らがいるのは本神殿の最奥にある教皇の私室。先日行われた連邦ノゥム領への侵攻作戦の結果報告を、作戦の指揮を執っていた権天使から受けていたところだ。


とは言って、作戦の成否については教皇もアーレスも権天使からの報告を聞くまでもなく事前に知っていた。報告とは言いつつ、これはその失敗を言いつくろう弁明の場。いや、最初から弁明を聞く耳など持たない教皇にとっては、ただ死刑執行前の様式美でしかなかった。


両断された天使の死体が十数秒ほどで形を保てなくなり、マナに還元され消滅していく。高位の精神生命体である天使は死体が残らない。強い怨念などを抱いていた場合は稀に羽など遺物を残すこともあるが、ほとんどの場合は血肉の一欠けらも残さず神の御許とやらに還っていく。


そのことにアーレスは、死んでも解放されぬことへの憐憫と死体を弄ばれることがない在り方への羨望を同時に抱き、自分がその死体を片付けなくともよいことにそっと安堵していた。


「今回の一件、貴方はどう思いますか?」


唐突な教皇の問いかけに対し、それを予想してたアーレスは驚きこそしなかったものの、一瞬心臓を掴まれ全身の血管が膨張したような感覚を覚えた。


今回の一件──即ち二〇〇余名の天使の軍勢を投入したノゥム領侵攻作戦の失敗。返答を誤ればいつアーレスの身体も両断されないとも限らない。


「貴方も、この作戦には賛成していましたね?」

「…………」


勘弁してくれとの想いを表情に出さぬよう、鉄の自制心で食い留める。


文字通りの殿上人──天使が教皇相手に提案した作戦に、自分ごときがケチを付けれるはずがないではないか。


どう思うかと尋ねられれば、よほど問題のある内容でない限り、「よろしいかと存じます」以外答えようがない。


そして天使の提案した作戦は、戦略的に意味があるかは別として、戦力的には全く失敗する要素のない無難な内容だった──今回のように想定外の要素が関わらない限りは。


そんな言葉尻を捕えて責任を追及されたのではたまらないと叫びたいが、目の前の超越者は間違ってもそんな言い訳が通じる相手ではない。


アーレスは丹田に力を籠め、覚悟を決めて口を開いた。


「今回、侵攻作戦そのものは失敗に終わりましたが、ある意味では単純な成功以上の成果を得たとも言えます」

「ほう?」


一先ず、即死は免れたようだ。

教皇の興味を引くことに成功したアーレスは軽く息を吐いて続ける。


「そもそも今回の侵攻作戦は、悪魔どもにとっても戦略的価値の薄い僻地の攻略。敵兵力は脆弱なゴブリンどものみ。異教の悪魔の妨害があったとしても大勢に影響はなく、天使様の軍勢により容易く蹂躙可能な筈でした」

「しかし、そうはならなかった。薄汚い悪魔はゴブリンを支援し予想外の抵抗を見せ、しかも帝国の兵士と思しき謎の一団の参戦により我らの軍は壊滅的な被害を受けた。これは貴方の目算が甘かったということではありませんか?」


教皇の反駁に、アーレスは精一杯の胆力を振り絞り、ニィと不器用な笑みを浮かべて見せた。


「おっしゃる通りです。敵方は我らの想像を超えて愚かであり、その結果我らは予想外の成果を得ることができました」

「……ふむ。彼らの愚、そして私たちの成果とは?」

「我らにその尻尾を掴ませたことです」


教皇の無機質な瞳に理解の光が宿る。


「繰り返しますが、ノゥム領は戦略的価値が皆無に等しい僻地です。我らにとってさえ実験場の代替地以上の意味はなく、それさえ他にいくらでも候補地はございます」


アーレスの言葉は正しい。敢えて国外にそれを求めたのは国内の実験場が立て続けに襲撃を受けたからで、そこに白羽の矢を立てたことにさほど意味があるわけではない。実験場の候補地はいくらでもあり、作戦失敗の痛手は小さい。精々が下級の天使を一〇〇ほど失ったことぐらいだろう。


「……続けなさい」

「はっ。天使様の軍を害し得る勢力などそうそう存在し得る筈がありませんので、今回ノゥム領に現れた謎の一団は国内の実験場を襲撃した賊と同じ一団か、少なくとも何らかの繋がりを持っていると考えるべきでしょう。そしてこれまで彼奴等は全くその痕跡を掴ませませんでしたが、今回の一件でノゥム領のゴブリンども──あるいは連邦そのものと一定の繋がりを持っていることが判明しました」


確かに。正体不明の害虫を炙り出せたと考えれば、総合的に見て今回の一件の収支はプラスかもしれない。そう考えつつも、教皇は試すように疑念を口にする。


「……尻尾を掴んだ、というのは些か早計では? 賊がゴブリンどもと繋がっているわけではなく、私たちの後背を突くのに都合良しと結果的に連動しただけという可能性もあるでしょう」

「勿論、その可能性は否定できるものではございません。しかし、今回ノゥム領ではゴブリンどもだけでなく、彼奴等の信仰する悪魔めも参戦したと聞きます。狡猾な悪魔が何の勝算もなく無謀な戦いに身を投じたとは考えにくいのではないかと」

「ふむ……」


つまりその勝算が謎の一団の援軍という訳だ。教皇はアーレスの意見を脳内で吟味し、その論理展開に納得の頷きを返す。


「……貴方の考えは理解しました。貴方の言うように侵攻の失敗は残念ですが、賊が愚かにも尻尾を出したのだとすれば、今回の作戦は決して無駄ではないでしょう」

「…………」

「ではその上で、貴方は今後我らがどのように動くべきと考えますか?」

「ノゥム領に継続的に、かつ敵が防げる程度の攻撃を加え、その裏にいる一団の正体と本拠を探るべきかと愚行致します」


教皇の問いかけに、アーレスは予め準備していた意見を口にした。


「賊を探るという目的に異論はありませんが、敢えてノゥム領を攻略しない理由は? ゴブリンどもを捕えて、その繋がりを吐かせればそれで済む話ではありませんか?」

「作戦の中でゴブリンを捕縛し、情報を吐かせる試みは必要かと存じますが、敵はこれまで我らに尻尾を掴ませなかった狡猾な者たち。ゴブリンたちに対し情報を遮断、あるいは偽情報を握らせるなど対策を講じている可能性がございます」


確かにその場合、ゴブリンどもから敵の正体を探ることは難しいかもしれない。だが、敢えて攻略しない理由は?


教皇の無言の疑問に、アーレスは滔々と説明を続けた。


「ゴブリンどもから情報を得られぬままノゥム領を攻略してしまった場合、賊がノゥム領から手を引き手掛かりを失う懸念がございます。また今回の結果を鑑みますに、ノゥム領を攻略するには相当の戦力を動かさざるを得ません。ノゥム領を囮に帝国が何か企んでいる可能性も否定できぬ以上、迂闊に大軍を動かすことは避けるべきかと」

「ふむ……」


教皇は顎に手をやり、視線を宙に漂わせ考えるような素振りをみせた。


前者の理由については理解できる。この際、ノゥム領の占拠より賊の正体を探る方が優先順位は高い。であればノゥム領を囮に賊を引き寄せ、慎重に探りを入れるべきという意見には一理あるだろう。しかし──


「……貴方は賊が帝国と繋がっている、と考えているのですか?」

「可能性としては考慮すべきかと」


理解できないのはその部分だ。教皇はその柳眉を片方だけ吊り上げ、疑問を口にする。


「その理由は? 賊の鎧に獅子の紋章──帝国の皇族に仕える者の証、でしたか?──それが刻まれていた、という報告は先ほども聞きました。しかし正体を隠すように行動してきた賊が、そのようなものを晒して行動するのは極めて不自然。紋章は我らの目を連邦から逸らすための苦し紛れの偽装工作と考えるのが自然でしょう」

「聖下のおっしゃる通り、賊の偽装工作であるとの可能性が最も高いことは事実です。しかし、二つの理由から賊が帝国側の特殊部隊という可能性を否定すべきではないかと」


教皇が無言で続きを促し、アーレスがそれに応える。


「まず一つは偽装工作としてはあまりに稚拙である点。苦し紛れという可能性は否定できませんが、それにしても些かあからさまに過ぎます」


それは確かにその通りだ。自分も報告を聞いて即座に偽装工作であろうと思い浮かべたほど。偽装が偽装の意味をなしていない。


「二つ目の理由は、賊にとって帝国所属という事実が露見するとこが、必ずしも彼らの不利益に繋がるとは限らないことです」

「……不利益ではない?」

「帝国の皇族も一枚岩ではなく、互いに帝国の支配権を狙って争っています。我らを利用して敵対する皇族の注意を引き、力を削ろうと考える者がいたとしてもおかしくはありません」


なるほど。出来るかどうか、戦略的に正しいかどうかは別にして、例えば教国と領地を接している皇族の力を削ぐため、他の皇族が教国のヘイトを稼ぎ戦線の活性化を目論んだ、というのは有り得るかもしれない。しかしとは言え──


「……それが目的なら、もっと他にいくらでも賢いやり方があるように思えますが」

「それに関してはおっしゃる通りかと。あるいはそれは上手くいけば儲けもの程度で、実際の理由は他にあるのかもしれません」


教皇のもっともな疑問に、アーレスは少しだけ苦笑して続けた。


「我ら神殿騎士が神の教えを尊ぶように、帝国の騎士は名誉を重んじます。仮に賊が帝国の特殊部隊だとすれば、それは極めて危険な任務です。万一の時、名も無き兵士として死ぬのではなく、名誉を胸に抱き死にたいと考えるのは自然な発想でしょう。我らが聖印を肌身離さず身に着けているように、彼らも皇族に仕えたという名誉を身に着けることで士気を高める、というのは有り得る話ではないでしょうか」


そういうものか──共感こそできないが、教皇はアーレスの言葉に一定の理解を示す。


超越者である教皇は人間という家畜の感情が理解できない。その彼が敢えて人間のアーレスを傍に置いているのは家畜の目線での気づきを得るためだ。そのアーレスが騎士──人間とはそういうものだと言う。ならばそういうものかと、教皇は疑問は抱きつつもその言を受け入れた。


些か慎重論が過ぎるような気もするが、可能性を軽視して下手を打ち、手がかりを失ったり傷口を広げるのも面白くない。


しばしの沈思黙考の後、教皇は口を開く。


「…………良いでしょう。貴方の言を採用します」


アーレスは無言で頭を下げ、押し殺すように安堵の息を吐いた。

アーレスの意見は意図的に不自然なものとしております。


その理由は次の話で。

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