表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/44

『デモンズガーデン』ってどんなゲームですか?

「うわぁ……阿鼻叫喚とはまさにこのことだね」


【掲示板】から意識を半分現実に引き戻し、“先輩”が呆れたように呟く。


「いや、よりにもよって『デモンズガーデン』ですからね。叫びたくなる気持ちは分かりますよ」


先ほど【掲示板】において管理人と共にその可能性を彼らに示唆した“俺”は、『俺も最初にその可能性に気づいた時は発狂しそうになったもんなぁ』と遠い目をした。


今俺たちがいるのは先輩が営む薬屋。

“こちら”での数少ない転生者の知り合いだった俺たちは、【掲示板】を試すにあたって二人同じ場所からアクセスしていた。


「その……でもんずがーでん? 私は知らないんだけど、有名なの?」

「う~ん……有名と言えば有名ですけど、あんまりメジャーなタイトルじゃないから、先輩が知らなくてもおかしくはないですね」

「……メジャーじゃないのに有名なの?」


コテンと首を傾げる先輩に苦笑を返す。


「ええ。何て言うか“面白い”とか“凄い”とかそういうゲームじゃなくて、意味不明なぐらい“クソ”なゲームってことで有名だったんですよ。俺も一時期プレイしてましたけど、他に知り合いでプレイしてた人間は聞いたことがないですね」


先輩は意味が分からないと眉間のシワを深くした。


「説明すると少し長くなるので──」

「いいよ。どうせこの様子じゃ、しばらく【掲示板】も機能しないでしょ」


後回しにしようと提案するつもりだったが、先輩に言われてその通りだと納得する。


【掲示板】は『デモンズガーデン』というゲームタイトルを知る者たちの悲鳴で溢れかえっており、とても有益な情報交換ができる状態ではなかった。


管理人もなんとか混乱を収拾しようと奮闘しているが、この様子ではひとしきり吐き出すまで落ち着くことはあるまい。


「……ですね。それじゃ簡単に説明すると、『デモンズガーデン』っていうのはエンデ社っていうマイナーなゲーム会社が出したオープンワールドRPGで──」




──デモンズガーデン──


日本の同人上がりのマイナーなゲーム会社が発表した完全オリジナルのファンタジーRPG。


その特徴は圧倒的な自由度の高さと、楽しませる気ゼロと評判のクソ難易度、そしてどう進めてもバッドエンドにしかならないという狂気的なシナリオ展開だ。


物語の舞台は名無しの大陸。一神教を軸とした「聖王国」、皇帝を中心とした特権階級が支配する「帝国」、そして民主共和制を謳う寄せ集め国家「共和国」の三つの国が存在していて、それぞれ「聖王国」がこちらの「教国」、「共和国」が「連邦」に該当するイメージだ。


こちらと明らかに違うのはゲームでは三国の国力はほぼ同等で、これほど「聖王国」の勢力が強くなかったことだろう。


プレイヤーは所属する国や種族などを自由に選択し、特に決まった目的を与えられるでもなく、思うがままのロールプレイをしていくことになる。



「目的がないの?」



強いて言うならば「生き残ること」が目的だろうか。


ゲーム開始当初は三国がそれぞれ小競り合いを続けているものの、敢えて関わろうとしなければ危険は小さい。


しかし一定時間が経過すると、あちこちで御伽噺の存在とされていた天使や悪魔、魔獣などが出没するようになり、やがて人類は破滅的な結末を迎えることとなる。


それを何とか回避してマシな結末を迎えるのがプレイヤーたちの目的であり悲願だった。



「プレイヤーは普通の人間? 天使や悪魔に対抗する力とかは持ってないの?」



その答えはYESでありNO。


ゲームでは基本的に、プレイヤーが天使や悪魔と契約してその超常の力を借り受けて戦うことが想定されていた。


一神教系の天使と契約した者は「使徒アポストル」、その他の悪魔と契約した者は「頽廃者アウトサイダー」と呼ばれ、そこから更に契約方式や戦闘スタイルに応じて「召喚士サマナー」、「調教師テイマー」、「悪魔憑き」、「魔匠」、「魔女」など職業的な区分がある。



「それだけ聞くと案外普通のゲームだね?」



その通り。世界観にややハードな部分はあるものの、そこまでであればごく普通のゲームと言えただろう。


この『デモンズガーデン』が特殊かつ最悪だったのは、悪魔との契約に「魂の器(ソウル)」と呼ばれる隠しステータスが影響していたことだ。


プレイヤーにはランダムにソウルの値が設定されており、天使や悪魔との契約はこのソウルが許す範囲でしか行えない。


ソウルの値を超えて契約を結ぶこと自体はできるが、限界を超えるとプレイヤーは天使や悪魔に魂を奪われキャラロストしてしまうのだ。


そして前述した通りソウルは“隠しステータス”であり、そのプレイヤーにとっての限界がどこにあるのかは実際にキャラロストするまでは分からない。


そのため苦労して育成した自分の分身が突然キャラロストして発狂したプレイヤーは数えきれない。



「それは……クソだね」



強くなるには強い天使や悪魔と契約するのが一番だが、そうするとキャラロストのリスクが高まる。


しかもプレイヤーのソウルと、天使や悪魔がソウルを圧迫する数値はどちらも成長し、変動する。低レベルから契約相手や内容を変えずプレイしていても、契約相手の方が成長しすぎて結局キャラロスト、というのは召喚士系には特にあるあるだった。


プレイヤーは普通の人間か、との問いに「YESでありNO」と答えたが、キャラロストを嫌って武術や一般魔法で戦うスタイルのプレイヤーも一定数存在した。


一般魔法というのはこちらでいう刻印魔法にあたり、細かい説明はなかったが誰でも三種類まで【盾】や【抗魔】といった簡単な魔法を使える。


しかしそれで対抗できるのは下級の天使や悪魔まで。


結局そうしたプレイヤーは天使や悪魔の餌となり魂を奪われてしまうのだ。



「……天使や悪魔って、そんなにヤバイの?」



ヤバイ。単純な強さもそうだが、一番ヤバイのはゲームに登場する三国が基本的に天使や悪魔に裏で支配されている点だ。



「うわ、マジで?」



残念ながらマジ。


まず聖王国──面倒なのでこちらに合わせ教国と呼ぶが、トップである教皇は大天使が人間に化けていて、幹部連中も天使本人かゴリゴリに洗脳された連中ばかり。


奴らは神話の時代に大戦に勝利した「神」を唯一絶対の存在として崇め、その教えでこの世の全てを塗り替えようとしている。


教国が勝者となるルートでは、人類は自由意志を奪われ、「神」や天使に信仰心を供給するだけの餌となり果てていた。



「エグッ……私たちのいる連邦はどうなの?」



連邦も政治家の大半が陥落済──ただしこちらは天使ではなく悪魔によって。


悪魔とは神話の大戦で「神」に敗れた異教の神の末裔で、その勢力は決して一枚岩ではない。


連邦を構成する十七の国はそれぞれ別の悪魔勢力に裏で操られていて、互いに協力したり足を引っ張ったりしている一番フリーダムな勢力。


総戦力では「神」の陣営を凌ぐが、とにかくまとまりがないのが特徴だ。


連邦が勝者となった場合、世界は悪魔同士の争いにより混沌に堕ち、人類はやはり悪魔の餌や玩具として扱われることになる。



「……帝国は? 帝国も悪魔勢力?」



帝国にも一部の貴族を中心に天使や悪魔の手は伸びているが、皇族はそれを知り何とか対抗しようと苦慮している。



「じゃあ帝国が一番マシなんだね?」



残念ながらそうとも言えない。


帝国は元々の国力は一番大きいものの、天使や悪魔が裏にいない分、戦力的にどうしても劣勢に立たされる。


その劣勢を何とかしようと、皇族たちはそれぞれ危険で怪しい手段に手を染めてしまうのだ。


帝国がどのような方向に進むかは”誰”が主導権を握るかにもよるが、例えば皇太子がトップに立ったルートでは彼は人でも悪魔でもない修羅王となり、天使や悪魔の勢力を大陸から駆逐することに成功する


その代償として人々は修羅王の瘴気に侵され人でないものへと変貌し、死のない世界で無限に殺し合うことになるわけだが。




「……結局、どの勢力もクソってことじゃん」

「その通りですけど、俺に文句を言われても困りますよ」


半眼でこちらを睨む先輩に苦笑を返す。


「どの勢力を勝たせてもバッドエンド確定。じゃあ別勢力を立ち上げようとしてもキャラロストがネックになって戦力が足りない。三勢力を拮抗させて延命を図っても混沌を望む悪神に目を付けられてアウト。とにかく『状況が最初から詰んでる』『キャラが育たない』ってんで、プレイヤーはどう足掻いても蹂躙されるしかないわけです」


ゲーム発表当初は数々の猛者たちがグッドエンドへの到達を目指してこのゲームに挑んだが悉く全滅。


ほとんどのプレイヤーはこのゲームにはバッドエンドしかないのだと結論付け、諦めの悪いごく一部のプレイヤーが攻略法を探し続けていたものの、前世の俺が生きている間にそれが見つかったという話はついぞ聞いたことがなかった。


「……なるほど。クソゲーだね」


先輩が店のカウンターに頬杖をつき、溜め息を吐く。


「でも、それはあくまでゲームの話でしょ? 私も大概長く生きてるけど天使や悪魔なんて見たことないし、国や魔法の形態が似てるって言うのも偶然の範疇なんじゃないかな。違うところもそれなりにあるわけだしね」


楽観視する先輩に、俺は曖昧に顔を曇らせた。


「……何かあるの?」

「いや、その──」


俺がその理由について口にしようとした時、【掲示板】で状況に進展があった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ