お婆ちゃんって美少女になるんだろ? 俺は詳しいんだ。
今年一発目の投稿です。
新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
「うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
──ドタン! バタバタ! ドグシャァ!! バリィィン!!──
研究室の中で少年が壊れ、奇声を上げて暴れ回り、物にあたって手当たり次第に破壊する。
異常に気付いた護衛騎士たちが鍵のかかった研究室の戸を外から叩いて呼びかけるが──
──ドンドンドン!
『──博士!? 何事ですか!?』
「やかましい!!!」
少年は自分が一番やかましいという事実を棚上げどころか次元の狭間に放り捨て、理不尽に騎士たちに怒鳴り返した。
少年の奇行には慣れている筈の騎士たちでさえ、流石にこの返しには『えぇ……?』と絶句している気配が扉越しに伝わってくる。
「研究の邪魔だ!! 騒ぐな! 黙れ! 殺すぞ!!!」
『…………』
続いて扉越しに浴びせられた罵声に、騎士たちは顔を顰めて深々と溜め息を吐いた。
繰り返すが彼らは少年の奇行には慣れている。返ってきた反応から、今回のこれも研究で何か上手くいかないことがあって暴れただけだろうとあたりをつけ、すぐに緊張を緩めていた。
理不尽な罵声を浴びせられたことはムカつくが所詮年端もいかない小僧の言うことと思えば腹立ちもそれほどではない。何よりこんな小僧に関わって処罰でもされたらなおのこと馬鹿馬鹿しい。そう割り切って騎士たちはそれ以上何も言わずそっと研究室の扉から離れていった。
一方、研究室の中ではそんな騎士のことなど気にする余裕もなく、少年が親指を噛みながら地団駄を踏み、部屋のあちこちに八つ当たりを続けていた。
──ふざけるなふざけるなふざけるな! 転生者用の掲示板は魔力波長を元に認証されたIDでなければ認知することもできない特別性だぞ!? このシステムの構築に僕がどれだけ時間と労力を割いたと思っている!! しかも幹部用の掲示板のセキュリティは一般転生者のそこから更に二段階認証を設けて万全の体制を敷いてたんだ!! 童帝や教授にも協力してもらってオカルト面での対策も万全だった──いや、万全の筈だったじゃないか! 少なくとも最上位の天使や悪魔でも力技でどうこうできるような代物じゃない!! その筈なんだ……!!
少年の表情からは完全に余裕が失われていた。
彼ら転生者にとって、天使や悪魔勢力に気づかれることなく情報交換を行える【掲示板】魔法は精霊契約以上に重要な生命線だ。少年はその開発者であり、組織における通信部門の担当としてセキュリティには万全以上の体制を敷いて気を遣ってきた。
万が一にも彼らが掲示板で行っているやり取りが天使勢力にでも漏れてしまえば、あっという間に彼らは殲滅されてしまうのだからその警戒はどれだけ強めても過剰ということはない。
しかし今、そのセキュリティを破って多神教の神がアークスの幹部専用掲示板に侵入してきた。神といってもかなり零落し、特別強い力を持っているわけでもない神が、だ。
──セキュリティに穴があった!? こいつ以外にもこんな真似を出来る奴がこの世界にはいるのか!? いやそもそも、こいつが他の連中に僕らの情報を漏らせば──
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
★ノゥム領防衛作戦スレ その1
1:★管理人
はい。そういうわけで俺たちはノゥム領のゴブリンたちを救出することに決まりました。
2:名無しの転生者
いや、どういうわけだよ!?
3:★管理人
・天使の軍勢がノゥム領のゴブリンたちを襲撃した。
・この時期、ここを一神教勢力が攻める理由は不明(推測はできるが確証はない)。
・数は最大でも二〇〇程度と推測される。
・ゴブリン単独での撃退は不可能。
・同盟を結んでいたオーク勢力を通じて救援の申し出があった。
・救援のメリット:オークたちの心証、一神教勢力を削れる。
・救援のデメリット:他勢力に目を付けられるリスク、ゴブリンのバックにいるノード神族の信用度が低い。
・円卓では当初デメリットが大きく救援を断る方針だった。
・円卓メンバー専用スレにノード神族の一柱が乱入。
・なんやかんやで救援を決定 ← 今ここ!
>>2 こういう訳だ! さぁ、分かったな! それじゃ早速具体的な救援作戦の説明と参加メンバーの募集をするぞ!?
4:名無しの転生者
お、おおう……怒涛の情報量……!
5:名無しの転生者
>>3 って、ちょっと待って待って!
勢いで誤魔化されそうになったけど、一番大事な最後のところの説明がないじゃん!
なんやかんやって、何?
というか、専用スレに神族が乱入(ハッキング?)って、そんなことあり得るの?
6:名無しの転生者
いや、それって俺らのやり取りを他の勢力に見られかねないってことで……無茶苦茶マズくね?
7:★管理人
>>5 聞くな!
>>6 言うな!
さあ、それじゃ具体的な作戦に──
8:氷弓兵
ストップストップ。
流石にそれじゃ話が進まないって。
俺らが説明を代わるから、しばらく管理人はクールダウンしてな。
9:★管理人
……………………お願い。
10:氷弓兵
はいはい。任せて。
11:名無しの転生者
……何か、普段冷静な管理人がえらい興奮? テンパってた?
ともかくいつになく暴走気味やったけど、何があったんや?
12:氷弓兵
何がって言うか……理由は管理人本人が言った通りだよ。
セキュリティに絶対の自信を持ってた掲示板に他勢力のハッキングを許した。
掲示板は俺らの生命線だし、そこを侵されたとあっちゃ、通信部門の担当者としては冷静じゃいられなかったんでしょ。
13:毒エルフ
しかもその相手は、神族と言っても多神教の零落した女神の一柱だものね。
ゲームで言えば序盤に出てくるLV二〇台のなんちゃって神族?
これが大天使とか多神教の主神クラスならまだ言い訳もできたんでしょうけど……
14:名無しの転生者
ほ~ん……なるほどなぁ。
管理人がテンパっとった事情については分かったわ。
確かに、管理人からしたら自分のアイデンティティーが揺らぎかねんことやろうし、我を忘れても仕方ないわな。
15:童帝
一応フォローしておくと乱入してきた女神はパムフレドって言ってね。
元はノード神族において千の魔女を統率したとされる魔術の大家だ。
零落したとはいえそれは力の出力だけで、技術面で衰えはない。
16:名無しの転生者
ふんふん。要するに神なら誰でもハッキング出来るとか、そこまでの心配はないってことね。
17:名無しの転生者
いやでも同じことが出来る奴が現れんとも限らんわけやろ?
そもそもこの掲示板や俺ら転生者の存在が外部に漏れたってのは普通にヤバない?
18:名無しの転生者
あ。ひょっとして、幹部陣がゴブリンの救援を決定したのはそれが理由?
19:氷弓兵
>>18 そういうこと。
救援を断ってパムフレドが俺らの情報を他に漏らしたら終わりだからね。
そうされる前に彼女をゴブリンたちごと味方に取り込んで、ついでに掲示板のセキュリティ強化にも協力してもらおうってのが、救援を決断した理由だよ。
20:名無しの転生者
は~……まぁ、そういう事情なら他に選択肢はない、のか?
21:名無しの転生者
いやいや。それって要は脅されてるようなもんじゃん!
そもそも救援のデメリットがデカすぎるし、むしろゴブリンやその女神を排除する方向で動いた方がいいんじゃない?
22:名無しの転生者
>>21 物騒なことを……とは思うが一理ある。
氷弓兵ならなんとかスナイプできたりしない?
味方の振りして後ろからズドン、とか。
23:名無しの転生者
……いや、このやり取りも普通にその女神に見られてるんじゃね?
24:名無しの転生者
>>23 はっ!?
25:名無しの転生者
……今ワイ、ようやくその女神の恐ろしさと管理人がテンパっとった理由を理解したわ。
26:氷弓兵
はいはい。排除云々については、結論から言うと今回は行うつもりはないよ。
これはこのやり取りを見られてるリスクがあるからとかじゃなく、排除するより取り込む方がメリットが大きいと判断したからだ。
27:名無しの転生者
……そう油断させておいて?
28:名無しの転生者
>>27 だから止めろや! 万一にもその女神を怒らせたらシャレにならんぞ!
29:名無しの転生者
よし、お前ら。税務署の監査が入っとるつもりで、ここからは行儀よく話そうな。
30:名無しの転生者
その例えはどうかと……いやまぁ、分かるけど。
31:氷弓兵
続けるよ?
パムフレドを排除すること自体は不可能じゃないけど、彼女を排除したところで掲示板の脆弱性ってリスクは残ったままだ。
ならいっそ、彼女を味方に取り込んで掲示板のセキュリティ向上に協力してもらった方が利が大きいというのが決断した理由の一つ。
32:名無しの転生者
ホワイトハッカーって奴か。
33:名無しの転生者
……管理人の慟哭が聞こえてくるようやな。
34:名無しの転生者
>>31 それは救援するメリットの話だよね?
デメリットの方はどうするつもりなの?
35:名無しの転生者
デメリットって……他勢力に目を付けられるリスクと、そもそも裏におるノード神族が信用できんからゴブリン自体も信用できんっちゅう話か。
36:氷弓兵
正直、前者に関してはどうしようもないというのが正直なところかな。
一応、当面ゴブリンやオークたちを前面に出して、極力俺らの存在は隠すつもりだけど、時間稼ぎにしかならないだろうね。
ただ俺たちの存在がいずれ天使や悪魔に目を付けられるのは避けられないだろうし、それは遅いか早いかの話ではあったんだよ。
37:名無しの転生者
ふむん……いつまでも猶予があるわけやないし、そこは割り切るしかないってことか。
38:名無しの転生者
どの道、ゴブリン相手とはいえ天使が攻めてきた以上、いつまでも他人事じゃいられなかっただろうしね。
──ゴブリンやノード神族の信頼度の問題は?
39:童帝
そこはパムフレドが責任を持つと言ってるよ。
ゴブリンたちは仕える相手には忠実だから、パムフレドが命じれば俺らを裏切る可能性は限りなく低い。
40:名無しの転生者
責任って、そもそもそのパムフレドは信用できるんか?
仮にパムフレドが信用できたとしても、他のノード神族がちょっかい出してくる可能性もあるやろ。
41:名無しの転生者
というか、パムフレドってどんな女神なん?
魔女の神ってのは分かったけど、見た目は魔女っ娘系か若奥様系のどっちや?
42:童帝
どっちでもないよ(苦笑)。
老婆の見た目をしたオールドタイプの魔女で、正直ゴブリンに近い。
43:名無しの転生者
お婆ちゃん系か……了解。
44:名無しの転生者
あれ? 以外に大人しい反応……『何だよ、ババアかよ!?』ぐらいの暴言は出るもんかと思ってたけど?
45:名無しの転生者
>>44 ははは、これだから素人は。
「お婆ちゃん=語尾が可愛い系美少女」やろ。初期ビジュがババアでもちゃんと美少女に成長する。ワイは詳しいんや。
46:名無しの転生者
(……そうなの?)
47:名無しの転生者
(ゲームじゃあるまいし……って、ここゲーム準拠の世界だったなぁ)
48:名無しの転生者
(夢を見るのは……)
49:童帝
(都合がいいので敢えて無視)パムフレドは人格的にはノード神族には珍しい善神で、アルマスとも知己だった。
ゴブリンたちを無碍にしない限り、まず裏切ることはないだろうって話だよ。
念のためパムフレドには聖女ちゃんと契約してもらう予定だから、彼女のことは信用していい。
50:名無しの転生者
聖女ちゃんと契約?
精霊以外との契約はリスクが高いからって禁止されとったはずやけど、どういうこと?
51:童帝
ああ、そう言えば幹部以外にはまだ説明してなかったか。
いい機会だから伝えておくけど、聖女ちゃんはあれで人類最高峰のソウルの持ち主でね。
契約を結べさえすれば、それこそ一神教の神でもない限り、力技で一方的に破棄されるようなことはない。
52:名無しの転生者
ええ……あいつ、ただのマスコットじゃなかったの?
53:名無しの転生者
うそ……だろ……(同じニート族だと思ってたのに裏切られたという顔)
54:名無しの転生者
お前ら聖女ちゃん馬鹿にし過ぎやろ。
仮にも救世主の母体(天使の孕み袋)候補やったんやし、それぐらいの特性があってもおかしないやないか。
それにソウルが高くても格上相手に無条件に契約結べるわけやないやろうし、使えるのは今回みたいに向こうが契約に合意してくれる特殊なケースだけやろ?
55:童帝
そういうこと。
あくまで力技で契約を破棄されることがないってだけだから、今回みたいに相手が協力的じゃないと聖女ちゃんの特性は意味がない。
56:名無しの転生者
……ほなええか(聖女ちゃんがギリニート判定に該当すると判断)。
57:名無しの転生者
パムフレド本人は取り合えずそれでいいとして、他のノード神族のちょっかいは?
ゴブリンが従ってるのはパムフレドだけじゃないんでしょ? 他の連中に命令されたら拙くない?
58:童帝
それについてはパムフレドにノード神族から独立して『ゴブリンの女神』になってもらうことで対応しようと考えてる。
59:名無しの転生者
どういうこと?
今もゴブリンの女神なんじゃないの?
60:童帝
う~んと……そもそもノード神族を信仰してるのはゴブリンだけじゃなくて、裏稼業のヒューマンや亜人にも広く浸透してるんだ。
ゴブリンはその中でも奴隷階級に近い下っ端でね。
だから今、ゴブリンたちが天使たちに攻め込まれてもパムフレド以外の神は彼らを助けようとはしていない。
61:名無しの転生者
……つまり、そのパムフレドにゴブリンたちを引き連れてノード神族の勢力から独立させようって解釈でおk?
パムフレドはゴブリンたちだけの神になる。
その代わり、他のノード神族にはもうゴブリンたちに口出しさせない。
62:名無しの転生者
んん? そんなこと出来るの?
そういう神って、庇護はしないけど便利に使いたいから口だけは出すタイプなんじゃね?
63:童帝
>>62 その通り。
ただ、これはパムフレドの意見でもあるけど、少なくとも当面の間は彼らがゴブリンやパムフレドにちょっかいをかけてくることはないと思う。
64:名無しの転生者
どういうこと?
65:童帝
天使に攻められている現状、ノード神族にとってもゴブリンたちをパムフレドに預けて守らせといた方が都合がいいってことさ。
66:名無しの転生者
……ああ、そういう。
67:名無しの転生者
どういうことや?
68:名無しの転生者
もし仮にノード神族が文句をつけてパムフレドがゴブリンたちから手を引いたら、間違いなくノゥム領のゴブリンたちは全滅する。
ノード神族は自分らでゴブリンを守るつもりはないからな。
そうなったらノード神族はゴブリンっていう手下を失うだけじゃなく、天使の勢力が自分たちの陣地に食い込んでくることになるだろ?
69:名無しの転生者
ああ~。それぐらいならゴブリンの支配権を手放しても、パムフレドに指揮させて盾として使った方がいいってことか。
上手くいけば御の字、仮にゴブリンどもが天使に蹂躙されても元々見捨てるつもりだったんだから損はない。
70:名無しの転生者
ついでに言えば、その気になればパムフレド一柱ぐらいいつでも力尽くで排除してゴブリンどもを取り戻せるぐらいは考えてるんじゃね?
71:名無しの転生者
ありそうな話だね~。
72:氷弓兵
警戒は必要だけど、当面おかしな横やりが入る可能性は低いと思う。
その間、俺らはパムフレドとゴブリンたちを前面に出して周囲の目を誤魔化しつつ、実戦経験を積んで力を蓄え体制を整えるっていうのが、当面の方針。
73:名無しの転生者
なるほどね~。
俺らもどっかでレベリングは必要になるわけだし、そうなるとどうしたって他の勢力には目を付けられやすくなる。
時間稼ぎにしかならないにせよ、ゴブリンを目くらましに使えるってのは悪い話じゃないかもね~。
──でも、その扱いにゴブリンやパムフレドは納得してんの?
74:童帝
……一応は、ね。
パムフレドとしてはゴブリンたちが盾として使われることに不満がないわけじゃないけど、どのみち俺らの助けがないとゴブリンたちの全滅は避けられないから、已む無しって感じ。
ゴブリンたちの方は元々どの勢力からも雑な扱いをされてたから、この程度気にしないと思うよ。
75:氷弓兵
それに盾とは言ってもあくまで俺らの存在を隠すための目くらましとして、だ。
ゴブリンをすり潰すような真似はしないし、そのことは聖女ちゃんとパムフレドとの契約にも織り込む予定だよ。
76:名無しの転生者
ほ~ん。まあ、その辺りが落としどころとしては妥当か。
77:名無しの転生者
アルマス以外の神話勢力と手を結べるってのはデカいし、いいんじゃね?
78:名無しの転生者
ヤケになって掲示板を人質に取られたらどうしようもないしね~。
79:名無しの転生者
ゴブリンたちに救援を出すこと自体に異論はなさそうだけど、具体的に作戦はどうするの?
まだ俺らレベルじゃモノホンの天使を相手にするのはキツイと思うけど……氷弓兵のゲリラ戦中心に戦闘班の精鋭だけでやる感じ?
80:氷弓兵
それなんだけど、今回俺は他にやりたいことがあってさ。
レベル上げ希望者には極力作戦に参加して欲しいと思ってるんだけど──




