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人ならざる者達のアイロニー

チーズ・イン・ザ・トラップ

作者: 砂流

約3000年前、遺恨を残したまま終わった干支選抜戦。第二回が、開催されたら。そんなお話しです。

あなたは、子丑寅卯と、干支の順番がどう決まったかご存知だろうか?


簡単にはこうだ。


昔々、神様が動物たちに向け、お触れを出しました。

「1月1日の朝に神の元に早くたどり着いた1〜12番目までの者を、一年交代でその年の大将にする」

しかし、ネコは話を聞きそびれ、ネズミに尋ねると「1月2日の朝」と言われてしまう。

牛は足が遅いので前日に出発し、神様の元に到着したのは1番乗りでしたが、牛の背中に乗っていたネズミが、ぴょんと飛び降り「神様新年おめでとうございます」と1着になってしまう。


道中、犬と猿はずっと喧嘩をしていて、間に入って鳥が仲裁をしたが、そのまま猿酉戌の順でゴール。

ちなみに『犬猿の仲』はこのエピソードが由来という説もあるそう。

猪は一番乗りだったが、勢いがよすぎて止まれず神様を通り過ぎて最下位。

さて問題のネコ。到着した時すでに干支は決まった後。

それからネコはネズミを恨み、見かけると追いかけるようになったんだとか。


そんなネズミの姑息な作戦で、遺恨を残したまま終えた干支の選抜戦から、早3000年の時が過ぎようとしているある年の大晦日の事。


「大変だ、神様がお亡くなりになったそうだ」


世界で最も脚の速いチーターが、世界中に衝撃のニュースを伝え終わる頃には、動物界はこんな噂で持ちきりだった。


「神様って死ぬのか?」

「干支はどうなるんだ?」


実際に神が死ぬ事はなく、代替わりをするという話のようで、それより問題は後者、噂は徐々に確信へと変わっていった。


「新しい神様に新年のご挨拶をしたら、新たに干支を考え直してくれるに違いない」


この噂に一番震えたのは、ネズミ。


「今度のレースで、絶対に喰われる……」


あれから3000年ずっと追いかけられていた宿敵ネコ。

元はと言えばネズミが悪いのだが、干支の一番手を担って大きな顔で踏ん反り返っていたネズミの態度を、ネコは面白く思っていないはずだ。


「前回のように楽には行かないだろうな、牛じゃダメだ。もっと脚の早いなにか……丁度いいのがいるな」

ネズミは早速支度をして、夜のうちに足速に家を飛び出した。


ネズミがつく頃には、日はとっぷりと暮れていたが、急いで協力の打診をする必要があったので、小さな背を伸ばし、懸命に扉を叩いた。


「おーい、開けてくれ」


「誰だこんな夜中に」

出てきた家の主は、伝言を伝え終えて一休みしていたチーターだった。


「へへへ、お疲れのところ悪いねぇ。おたくは新しい干支の話は聞いたかい?」


「なんだネズミさんか、はい、噂には聞いてますよ」


ネズミは十二支の頭、十二支からあぶれた動物達からは、敬意を持って『ネズミさん』と呼ばれている。


「やめてくれよ、オイラとおたくの仲じゃないか、気楽に話してくれ、それでな、ちょっと相談なんだが」


ネズミは、新たに開催される十二支選抜戦に協力してほしい旨を伝えた。


「はー、なるほど。ネズミさんは前回の優勝者だ。抜け道にも詳しいし、脚の速い自分と協力すれば、1.2位は確実ですね」


そう、この話にはチーターにも十分な旨みがあった。

それに今の地位を利用すれば、ネズミの話にチーターが協力するのは明白だった。


「さすが、チーター!賢いねぇ!じゃ早速出発しようか」


「何を言ってるんですか、自分は世界最速ですよ?朝になってからでも大丈夫ですよ。とりあえず一眠りしましょう」


「それもそうか、しっかりと体調整えないとな」

納得したネズミは、チーターの家の屋根裏で一眠りさせてもらう事にした。



そして迎えた新年。

各動物達は、それぞれスタートをきってきた。


チーターとネズミのコンビは、最後方から次々と動物を抜き去って行った。サイ、キリン、ゾウ、遅い遅い。


道中、犬と猿を見かけたが、相変わらず喧嘩をしている。

鳥は今回は、仲裁には入らず龍と共に空を行くようだ。


「ね、他の動物なんか足下にも及ばないでしょ?」

チーターは得意げにそう言った。


「ああ、流石だねぇ!牛は多分前夜から出立しているはず。目標は牛だ!」


数時間も走ると、黒い巨体が見えてきた。のっそのっそと歩くあれは、牛だ。


チーターは一瞬にして、抜き去り単独トップに躍り出た。


「ははは、やった……やったぞ!」

ネズミは勝利を確信した。



神様の邸宅が見えた頃には、後続は全て、遠くで米粒のような小ささになっていた。


「ネズミさん、1番手をどうぞ」

チーターは門の前で止まるとそう言った。


「そうかい?悪いねぇ、これでおたくも十二支入りよ!

子、チーター、牛ってな。はっはっは」


意気揚々と門扉を開けると、そこにいたのはネコだった。


「え?……なんで?」

驚きと恐怖のあまり固まったネズミに、ネコは高笑いをしながら言った。


「お前、チーターが何科かわかってんのか?」


「……ネコ科か」


そう、チーターは神様の訃報を伝えると共に、世界中にデマを流した。



「新しい神様に新年のご挨拶をしたら、新たに干支を考え直してくれるに違いない」

と。



「だ……だましたのか!?」

ネズミは裏返る声を張り上げた。


「騙すのはネコの特技なもんでね」


チーターが邸宅に入ってきて、こう言った。

「神様の代替わりなんて、そうそうある物ではないので、動物達は知らなかったみたいですね」


ネズミはキッとチーターを睨みつけた。


チーターは視線を意に介せず続けた。

「実はですね。前の神様に、お別れの挨拶に来た順が早かった1〜12番目までの者を、一年交代でその年の大将にする。これが今回の本当のルールです」


「……チーター!自分を犠牲にしてまでして、こんなネコなんかを勝たせてやったのかい!?」

ネズミは信じられないといった顔でそう言った。


「何を言っているんです。1番乗りは自分です」

チーターは言った。


ネズミは混乱した。たしかにチーターと一緒にきたはずだ、それなのになぜ……


チーターはニヤリと笑い答えた

「私の速さを甘く見ないでいただきたいですね。ネズミ君」


「まさか、お前……オイラが寝ている間に…」


チーターは、ネズミが床についた直後、神様の元へ走り、朝までに戻って来ていたのだった。


ネズミは呆然とした。が、すぐに気を取り直した。


「ふん、じゃあオイラが3番目という事だろ?いいよそれで、まだいるんだろ?早く神様に会わせろ!」


この3000年守ってきた地位からは陥落してしまうが、十二支という看板だけは守れたことにほっとした。


「くくく……あはははは」

ネコとチーターは、顔を見合わせた後我慢ならずに声をあげて笑い出した。


予想だにしなかった事態にネズミは呆気にとられていた。

笑いが収まり、呼吸を整えたネコは落ち着き払った表情で、身体を舐めはじめた。レースの汚れを落としているのだろう。


そして、ゆっくり諭すように言った。

「お前は本当におめでたい。既に十二支はネコ科が独占したんだよ」


ネズミは足元が崩れるような錯覚に陥った。

「ば……ばかな!同じ種族が独占できるもんか!」


チーターは、まだ面白いのか、笑いを含んだ声で言った。

「ネズミ君、羊いますよね?羊はウシ科ですよ」


「あ……」




翌年、ネコから珍しく年賀状が届いた。

そこには可愛らしいネコのイラストが描かれており、一言こう書かれていた。

「十二支は、ネズミに小判だったな」


ネズミは一言呟いた。

「ネコババしやがって」

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