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魔王は世界を救いたい!

作者: 天宮 碧

おふざけ短編でございます。頭を空っぽにしてお楽しみくださいませ。





魔王グレゴリウス。



その名の通り、魔界の支配者である。



赤く光る鋭い瞳、敵を蹂躙する際には酷薄な笑みを刻む薄い唇、すらりと通った鼻筋を持つ若い男の姿(ナリ)をしているが、その漆黒の髪から突き出た大きな角はねじ曲がり、魔族の王としての風格をにじませている。



そんな彼は今、魔王の間で泰然として来るべき()に備えていた。




「魔王様!勇者たちがもう城の前まで迫っております!」



そうか。とうとう来たか。



「開門しろ。この長い戦いに決着をつける時がやってきたのだ」


「開門だ!勇者たちを城へ入れろ!」


「布陣はどうなさいますか」



「なしだ」



「え?」



「城内のすべての兵は撤退し、この広間への道をあけよ」



部下は信じられないといった顔をする。



「それでは防御が……」


「よい。ここまで来たのだ。敬意を示し、一対一で私が対応してやろう」


「魔王様……!」



部下の魔族たちは感激し、このように立派な魔王に仕えられていることを誇りに思った。



彼らが衛兵に伝えるため散っていき、魔王グレゴリウスは静かに興奮を高めていく。


重い音を立て門が動いた。


その数時間後、魔王の間まで勇者たちがたどり着き、大きなドアを開けた。



「よく来たな。勇者アレフよ」



腹に響くような重低音の声。



「魔王……!」



ぎりぎりとにらみつける勇者の目は、ボロボロになってもなお誇りを失わない、強い眼光を宿している。



「俺が来たからにはもうお前の好きにはさせない……!」



そんな彼をにいっと口角をあげて面白そうに見やった魔王は口を開いた。



「好きにするさ。なんのために貴様をここまで通してやったと思っている」


「くっ……、やはり罠だっ――――――」


「貴様の仲間になるためだ!!」



「はあ?」



罠だったか。卑怯な!


と続くはずだった言葉は終ぞ喉から発せられることが無くなった。



「……ごほん、くっ……やはりわ」


「貴様の仲間になるためだ!」



「さっきより食い気味に返してきやがった」



聞き間違いかと思いテイク2をやろうとしたが魔王はあくまでも力強く遮ってきた。


仲間からも突き刺さるしらっとした視線を感じながら、アレフは果敢無謀にも魔王に食ってかかった。



「そ、それも罠だな!」


「違うが?」


「そうであれよ!!」



もはやそこにシリアスはなかった。



「こっちはお前を倒すためにここまで血を吐く様な思いで来てんだよ!なんで魔王モチベが仲間になるとかいうんだよ!敵であれ!!スライムでもテイムされるまでもうちょいかかるわ!!」



地団駄を踏む勇者に、これから仲間にしてもらうのに心象が最悪だと気付いた魔王は、何とか挽回せねばと考える。


人間はこういう時なんと言っていたか。


出来れば堅過ぎず、親しみ溢れる感じで声をかけたい。




「どんまい」


「やかましいわ」




捻り出した回答はどうやら間違っていたらしい。


どうしようかと無表情の裏で考えるグレゴリウスにアレフは声をかける。



「第一、なんだって急に勇者パーティに入ろうと思ったんだよ」


「魔王業つらい……」


「そこを頑張ってくれよ……そこでなんで勇者なんだよ。魔王としてチョイス間違えすぎだろ……」



呆れた声で切実に疑問を呈する。



「勇者パーティはモテる」


「うわあ俗っぽい」



力強く返す魔王。


もはや勇者としての最適解を見失いつつある勇者。


なぜ俺は魔王を続けるよう説得しようとしているのか。


もう魔王やめてくれるならこっちの不戦勝だし、いいんじゃないか?いや、勇者パーティに入ろうとしてる時点でダメか。



「貴様は魔王の仕事を知っているか」


「知るわけねえだろ……」



(そりゃそうだ)



その場にいた全員の心の声が揃った。



「まず生まれて直ぐに父からよろ!っていわれるじゃん?」


「先代魔王軽いな……」



もはや地方の自治会の雑用のようなノリである。


地味にめんどいやつ。



「そんで、そっから貴様ら勇者にちょうどいいくらいの難易度のダンジョン用意して、アイテムと罠も自腹でしょ?」


「そうなんだァ……いや、知らんけど……」



勇者は過去一疲れていた。精神的に。



「貴様らで何代目かの勇者だけど、その度にやられたフリしてまた適当なタイミングで復活する」


「見たくなかったなあそんな歴史の裏側」



過去の英雄たち、めっちゃ忖度されてる。接待プレイされてる。


世界の少年の夢は打ち砕かれた。



「子供いないからこんなブラックな環境でも魔王やめられないし」


「魔王って世襲制厨なの?」


「我じゃなくて初代魔王」



初代の影響力って強いよね。分かる。


と目立たぬよう心の中で同意する魔法使い、この中で1番身分の高い第2王子。



第2王子は、初代が「1番能力高いやつ王様な!」と言ったせいで権力争いに巻き込まれ、その陰謀で、政治から離れざるを得ない勇者パーティに組み込まれたのだ。隠居したい。



「そもそも出会いがないし」



出会いとか言っちゃう系魔王、御歳ウン千歳。


そしてこの言葉にも、分かる!恋人欲しいとは思ってるんだけどね!と同意するものが1人。戦士である。


彼は男兄弟の中で育ち、騎士団の中で評価され第2王子の護衛につくも、男やもめの中で出会いなどあろうはずがない。主が勇者パーティに入ると同時に戦士のジョブを与えられたが、勇者パーティの紅一点、聖女に手が出せるほど肝は座っていなかった。経歴を辿ってきても男男男。唯一まともな関係がある女性が聖女というのは急に難易度が高すぎやしないだろうか。



高潔な騎士というのは端的に言えば恋愛偏差値が底辺を這っているのだ。



「出会いって……出会おうとしないだけじゃないのか?だってお前の父親が女性と出会ったからお前が生まれたんだろ?魔王業やってても機会はあるはずだ。第一、初代の言葉を律儀に守る必要性もな―――」



「「何も分かってないやつは黙ってろ!!」」


「ええ!?」



戦士と魔法使いは彼らの地雷を踏みまくった勇者を怒鳴りつける。


当然の事ながら、アレフはなぜ味方から怒られなくてはならないのか分からず混乱した。



「初代の遺言は呪いと同義なのだ。最期の命を振り絞って吐いた言葉だからな」



「めんどくせえもん残しやがって……」



「父は人間界から女を攫い、俺を産ませた」



「おお魔王っぽい」



実際魔王だったのだが。


そして、ちゃんと疑問に答えてくれる魔王が味方の対応より優しいことに少し泣きたくなる勇者、不憫。



「私はやはり、愛のある夫婦関係を築きたいし……」


「ピュアか」



思わずつっこむアレフ。



「それに、単純に世界を救うっていいよね、響きが」


「……はあ」


「すごく、巷で言う英雄物語っぽくて夢がある」


「さっき裏事情喋って英雄への憧れを打ち砕いたやつが何を」



誰が英雄に憧れようと自由だとは思うが、魔王が憧れるのは違うだろう、どう考えても。



「配下の魔族はなんで反対しないんだよ?真っ先に反対すべきだろお前らは」



実はずっと壁際に控えていた、まんじりとも動かない魔族たち。


その眼をカッと開いたかと思うと、



「「「貴様にお前と呼ばれる筋合いは無い!!!」」」



そうかもしれんが真っ先に返す答えはそれじゃないだろう質問に答えろよ婿にお義父さんと呼ばれた舅しゅうとみたいなこと言いやがって。


とアレフは思ったが、賢明なことに今回は口をつぐみ、質問の返答を待った。


人とはどこに地雷があるか分からないものだということを先程の味方からの怒りを浴びて学習したのだ。


勇者アレフは基本的にデキル良い子なのである。



「我らは魔王様に生涯を捧ぐと決めておるのだ!正直魔王様の仰ることは一つも理解出来ていないが、我らはただ魔王様の手足となるのみ!!」



彼らの強い忠誠心と知能の低さだけは理解出来た。


仲間の男共はすっかり魔王に共感してしまい、まあ、悪さしないなら……という嫌な(アレフにとって)空気感を醸している。


援護は期待できなさそうだ。


アレフはそっと黙り続けている聖女を見る。


彼女は自分の能力や容姿に驕ることなく、孤児院や支援団体に寄付するなど、純粋で心優しい乙女である。


邪悪の権化のような魔王のパーティ参入にも反対してくれるに違いない――――――。



「お可哀想に―――。やりたくもない魔王をさせられてきたのですね」



……彼女はあまりにも純粋で心優しすぎる乙女だった。


なんなら美形の魔王にすこし頬を染めていた。結局は顔なのかちくしょう。


この世に神も仏も永遠の友もいないのかもしれない。魔王はいるのに。


紅一点の様子にやさぐれた勇者はケっとでもいいたげな顔をして、魔王に向き直った。


こいつがちゃんと悪をやってくれなければ自分たちの存在意義もなくなり、連れて帰るようなことになれば魔族に唆されあっさり騙されたお馬鹿四人衆と噂されるだろう。


人類の英雄からの転落。


勇者パーティーの中で唯一の平民であるアレフにとって一発逆転の大勝負をこんな形で終わらせたくはなかった。


なにより、貴族であるメンバーにとってそんな不名誉な噂が立てられるのは人生終了の合図と同義では無いのか。



「頼む!魔王が参入することが世間的にまずいなら人間のフリするから!」



もはや駄々をこねる子供と大差ない無茶を言い始めた。


こういうのは、自分の能力を過大評価していて結局約束を守れず、お母さんに尻拭いを泣きながら頼むことになるのだ。


アレフには自信があった。


買い物中駄々をこねる子供を見ただけで共感性羞恥に陥るくらい()()()の経験は豊富である。



「絶対できねえだろ。無茶を言うんじゃありません!」


「できるもん!!」



しゅるん



「へ」




魔王の角が引っ込んでいる。



しゅるしゅる



長く伸びた爪も引っ込み、尖っていた耳は丸くなっている。



「これ、できるパターンってあるんだ……」



したり顔の魔王くん(ウン千さい)の顔が憎らしい。



「ほらな」



ただでさえ無駄に高い段の上に置かれたでかい椅子に座っているくせに、軽く顎を上げてあからさまにドヤ顔をしてくる。すごい自慢げ。



周りで起こる拍手。


よく分からないまま合わせてニコニコで拍手する同胞に脱力した勇者アレフはとうとう腹を決めた。



「…………いいよ、入れば」



「!!!!!!!!礼を言うぞ!!今から貴様と俺は親友だ!!!」


「お断りだよ!!」



感動シーン(笑)に涙する人間と魔族に囲まれて、アレフの受難は始まった。




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