骨を抜かれた悪魔は捨てられた
この世に絶対は無い。
この世に永遠も無い。
この世は変わるだけ。
始まりがあって終わりがあるだけ、そこに不偏なんてものは存在しない。
そう言うと悪魔はにこりと微笑んだ。
「君は永遠に絶対変わらない愛があると言うんだね?」
「ええ、勿論」
「なら賭けをしよう」
悪魔は美しい。悪魔こそ不偏で変わらない存在ではないか。
「以前、こんな人がいましたよ。
夫に別れを告げられ、理由を聞いたそうです。でもね夫からの別れの理由のどれも納得出来なかったそうなんです」
「納得は出来ないけれど、夫から住処から追い出されて途方に暮れていたら風の噂で知ったそうなんです」
「かつての夫が年若い女と幸せになったと」
「その夫は残酷にも若い娘に恋をして、年上の老いた妻を捨てたんです」
「老いた妻は嘆き苦しみ血の涙を流して自分の心臓を悪魔に捧げ呪い死にました」
「呪われたのは誰だと思います?」
「おや?顔色が悪いですね。大丈夫、永遠の愛が貴方にはあるんでしょう?」
そう言うと悪魔は…。
アキ子は目を覚ますとさっきまで見ていた夢をすっかり忘れてしまっていた。
何かとてつもなく恐ろしくて邪悪な夢だった、忘れてはいけない筈だったのに。
首も肩もガチガチに凝っていた。嫌な汗もかいている。
体が重い。男が離婚してようやく幸せになれるのに。
派遣先でやっと男を捕まえた。震災で婚約者を失ったと悲しそうな顔をすれば、何でも相談して欲しいと言われた。
既婚者だったが奪われるほうが悪い。男の嫁は十も歳上でもう愛情はないと言われた。
派遣先の職場全員に粉をかけてこの男が釣れた。まぁこいつでいいか。
「好きになっても良いですか?」
そっと上目遣いで男を見れば、男は私を抱きしめてくれた。年が明けて四月には離婚出来るから付き合ってくれないかと言ってきた。勿論付き合うに決まっている。
男がとうとう離婚した。
家から追い出したそうだ。猫を連れて。あははっ!これから先お一人様なんて寂しい老後よね。そんな事は顔には出さないで私のせいでごめんなさいと言っておいた。
男は私を選んだのだ。
ゴールデンウイーク明けに職場へ行くと空気感が変わっていた。私と男を見てヒソヒソと話をしている。
今迄職場の男全員からチヤホヤされていたのに何かおかしい。
「工藤さんちょっといいかな?」
呼ばれた会議室には職長とリーダーそれに派遣会社の担当と、男がいた。
「率直に聞くが、君たち不倫してたんだって?」
「!!」
え?一体誰がバラしたっていうの?。男を見れば驚いて私を見る。見つめ合う私達に職長は溜息をついて話し始めた。
「プライベートな問題だからあまり言いたくはないんだけどさ、社内に広まっていてね」
「………」
「まぁ一応社則には倫理に反しない道徳をもって社会に貢献するって言うのがあるからね」
「はい…」
「まあ、そういうことだから工藤さんの派遣の更新は次はないって形に決まったから」
「派遣会社としても工藤さんには期間終了と同時に退社して頂きます」
「…はい」
「後ねぇ、初瀬君、君さ前の奥さんも派遣だったでしょう?駄目だよ。次もし派遣に手を出したらクビだからね」
「はい、すみません」
「全く無害そうに見えてやる事が酷いもんだ」
「どうでもいいけど職場に持ち込まないでくれよな」
職長とリーダーが吐き捨てるように言うと、話は終わったと皆が会議室から出ていく。
「あの…私話してないから、誰にも」
「俺も言ってない」
「あの、派遣会社の寮だからでなくちゃいけないみたいで、一緒に暮らせないかな?」
「……うーん、前もすぐ同棲して駄目になったから…あまり同棲はしたくないけど…。後、俺今さ慰謝料払って金がないんだよね。それでもいいなら」
何これ。困ったら相談しろっていったじゃない。煮えきらないし、頼りにならない。
まあでも、仕事が無くなるけど男の家に転がり込めるしとりあえずラッキーかな。
男と暮らし始めて二ヶ月目に警察から連絡がきた。
「 が死んだって…自殺したって言われた」
男の元嫁が自殺した。
警察は部屋に遺された遺書から、男に連絡してきたそうだ。
警察は自殺した元嫁の部屋の隅に隠れていた猫を保護して、男は警察から託され連れてきた。
「ビルから飛び降りたらしい」
疲れた顔でそう言った。
「死んで欲しいなんて思ってなかった…」
そう言って男は泣き崩れた。
連れてきたグレーの猫は私に全然懐かなかった。
あれから十年経った。あの日連れてきた猫が老衰で死んだ。
男は去年元々悪かった視力が悪化して手術したけど視力は結局回復しなくて失明した。
男はカードも作れないブラックリスト者で元嫁に払った慰謝料の返済とパチンコのせいでいつも生活は苦しかった。
男とは視力が弱ってきた三年前に結婚したけどこれから先どうすれば。
そんな時パート先で知り合った男に囁いた。
「もう、主人が失明して私どうしていいか分からなくて…」
「困った事があったら何でも相談してくれないか」
太って禿げていてチビだが、新しい男を見つけた。
家に帰って男に告げた。
「あのね、別れて欲しいの」
眼の前でパンッと手を鳴らす音で景色が変わった。
ポロいアパートも男も居なくて、只々真っ暗な闇の中に立っている。
「え?」
思い出した、ここは十年も前に見た悪夢の中だ。そして闇から悪魔の姿が作られる。
「どうでした。永遠の愛なんて微塵も無いでしょう?」
悪魔は振り返えりすぐ後ろに立っていた女に話しけた。
頭がグチャグチャに割れてピンクの脳ミソや頭蓋骨が見えている。片目は潰れていて残った目も白目が血の色に染まっている。
女は脳ミソを撒き散らしながら大笑いをした、笑いが止むと満足そうな顔をして悪魔に骨を抜かれてペチャンコになって地面に捨てられ消えていった。
誰かが絶叫している。
あぁ私だ、私が叫んでいる。
賭けに負けた私は。
来る日も来る日も男の元嫁が飛び降りた場所で私は飛び降りている。これが元嫁の呪いだ。
あぁ、ここに永遠があるじゃないか。
すぐ迫る地面を前にして思い、また繰り返すのだ。
そう…永遠に。
絶対に赦さない。
死にたいよ。
毎日が辛くて苦しい。
もし私が死んでたらIFの世界