アルデバラン、冬の花は炎魔法で夏に咲くⅡ
季節は秋、私の大好きな季節。
窓から射し込む太陽光がポカポカと暖かくて凄く満ち足りた気分。
「あぁ幸せだわ」
広い教室の隅に陣取り魔法の授業を聴講しながら教壇に立つサンドラ校長を見る。
ヒラヒラしたドレスは女王のようね。
やっぱりトグロ姫だわ。
トグロ姫がピンクの石をピンクのカエルに変える。
「キャー」
凄い騒ぎだ。
カエルはピョンピョン跳び跳ねてピンクのカーリーヘアーから動かない。
トグロ姫は最後に言う。
「明日の夜、地域の貴族を招いて皆さんの歓迎パーティーを開催します」
「キャー」
「ドレスに着替えるように」
(ドレス?どうしよう⋯⋯着た切り雀だわ)
アルデバランは顔色を変えた。
トグロ姫は教室のドアで振り返り、とある小屋の説明をする。
お姉さまには申し訳ないけれど
炊事洗濯庭掃除から解放されたのが嬉しい。
散歩しながら学生課の立札がある小さな小屋まで行く。
ドアに張り紙がある。
トグロ姫の言ったとおりだ。
『自由に入りなさい。そして生活必需品を速やかに持って出て行きなさい』
小屋の中に入ると卒業生が残しただろう生活リサイクル品がところ狭しと置かれていた。
「宝の山だわ!」
青い布や金色の布がそこかしこに放置されている。
古い裁縫道具もあった。
色々と腕に抱えて出ようとするとまた張り紙がある。
『貴女が卒業する時には次の困っている生徒のために何かを残しなさい』
「うふふ。この布で下着とワンピースを作りますわ。カーテンとパジャマやクッション、ドレスもいいわね」
アルデバランは裁縫が得意だ。
今までは布や糸を買うお金が無かったので古びたカーテンの繊維を糸に戻して再利用していた。
金色、銀色、黒色、青色、若草色の布を腕いっぱいに抱えドアに向かう。
足元の小箱からパールを一掴みポケットに入れる。
ドアの端にピンク色の布もあったので足で蹴って外に出す。
アルデバランは小屋に深々とお辞儀をしてから自室に戻った。
針に糸を通しイメージのままに縫い物をする。
お姉さまの金髪に似合う肩口の
開いた錦糸のドレスが出来上がった。
その余り布で薔薇のコサージュも作る。
お姉さま、どんな顔をするかしら?
喜んでくれると良いな。
暫く小物を縫っていて気がついた。
大変だ!私のドレス!
青い布を截断し大急ぎで取り掛かる。
私の髪色と同じ布は光沢がありゴージャスだ。
明け方近くなってドレスは完成したけど何だか他にもやるべきことがあったような気がする。
ふと端にピンクの布が見えた。
私はピンクのカーリーヘアーの女子を思い出し考え込む。
たぶん彼女もドレスは無い。
頭に被っている私のパンツも何とかしなくちゃならないわね。
ピンクの布でチクチクとドレスを縫いあげる。
凄く眠いんだけど⋯⋯少しだけほんの少しだけ⋯⋯
夢を見た。
金色のドレスを着たお姉さまが
お友達の晩餐会で優雅に微笑んでいる。
髪飾りはキラキラと輝き眩いばかりだ。
あんなに幸せそうな顔をしたお姉さまは今まで見たこともない。
ハッとして目が覚める。
手元には縫い終わったピンクドレス。
すぐに裾をリボンのレースで仕上げる。
さらにドレスハットにはパールをちりばめた。
うふふ。
さぞかしピンクカーリーヘアーに似合うわね。
翌日、私はピンクカーリーヘアーの部屋のドアを叩く。
出て来たのは彼女のルールメイト⋯
北の開拓村のヨッシー。
既に簡素なドレスを身に付けて
いて赤い髪にも小花が飾られている。
「ヨッシーとても素敵よ」
「ありがとう⋯⋯あなた名前は何だったっけ?」
「アルと呼んで」
「アルよろしく」
「ルームメイトのピンクカーリーヘアーはいるかしら?」
「ぷっ⋯⋯ダメ!そんな呼び方したら怒らせちゃう!ジェニファーと呼ばなくちゃ」
「⋯⋯ジェニファーいる?」
「ドレスが無いから庭の小屋に行ったよ」
「わかったわ」
彼女もドレスを作るつもりだったのね。
私は再び小屋へと足を運ぶ。
⭐
泣き声がする。
樹木の間からそっと覗くと身体中に布を巻き付けたピンクカーリー、ジェニファーが泣いていた。
「ジェニファー?」
私は声をかける。
振り向いたジェニファーは大粒の涙を浮かべていた。
「⋯⋯」
「あなたのピンクのドレスを縫い終えたの」
「⋯⋯」
「どうか受け取って」
「⋯⋯うぁああんわぁん」
ジェニファーの泣き声は森中に響き渡る。
私はジェニファーのピンクカーリーの頭上にドレスをそっと纏わせた。