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全ての欲深き転生者に終焉を  作者: ふみくん
序章
53/54

村一番の剣士⑦

ーードゴッーー


 元町長の屋敷についた俺は、魔力を込めた足でドアを蹴破る。


 中では優男が見知らぬ女を後ろから犯し、残りの二人がニヤニヤとそれを見ていた。


「何だお前は……ってエリサとエリサを俺たちに寝取られた間抜けか」


 優男は動かしていた腰を止め、女を下がらせるとズボンを履きながらこちらを向く。


 俺は今すぐにでも剣を抜きたい衝動を抑え、三人組を睨みつける。


「……なぜエリサを娼館になんて売った? エリサはお前に惚れてたんだろ? 自分に惚れてる女になぜそのような仕打ちができる?」


 俺の問いに優男はニヤニヤしながら答える。


「これだからこっちの世界の人間は頭が弱過ぎる。会った瞬間に体捧げるほど惚れるなんてことあるわけないだろ。女神様の力で、魅了してやっただけ。エリサはお前に惚れてたぜ。魅了の力が切れそうになったら、知らない男の名前を叫んでたが、それお前だろ?」


 衝撃の言葉に、俺は愕然とする。


 この男にエリサが惚れたと思ったから身を引いたのに。

 俺のことなんて、男として思ってなかったと思ったから諦めたのに。


「娼館に売ったのは面倒だったからだ。確かにエリサは顔も体もあそこの具合もいい女だったが、魔法に対する耐性が高すぎてすぐに魅了が切れる。そうするともう一回魅了をかけるにも、そのまま維持するにも、俺の魔力消費が大き過ぎた。仕方なく薬を打ったが、薬にも耐性が強くて、かなりキツイ薬じゃないと効かない。薬漬けにしたらその通り、頭がイカれちまったってわけだ」


 あまりに酷い話に、俺は怒りを通り越してはどんな感情を抱けばいいかも分からなくなる。


「俺の力があれば女なんていくらでも思い通りだ。エリサは確かに勿体無かったが、ヤク中のイカれ女なんていらない。だから娼館に売った。技は散々仕込んでやったから、イカれた今でも体で覚えてるらしく、なかなか使えただろ?」


 それだけ聞いた俺は安堵する。


 向こうにも何かやむを得ない事情があったのなら、相手を殺す気持ちが揺らぐかもしれない。


 そんな微かな不安が全く心配の要らなかったことに。


 こいつらは蛆以下だ。

 こいつらに生きる価値はない。


 俺は剣に手をかける。


 三人とも魔力はそこそこだが、俺よりは低い。

 何より体から強者の気配は感じない。


 本当はこの世の苦しみを全て味わせた後、自ら死を懇願するくらい痛めつけながら死なせたいが、一秒でも早くこいつらをこの世から消し去りたかった。


「……殺す」


 そう呟いた俺を見て、優男が笑う。


「おお怖っ。でもそれはできない。エリサ」


 優男が声をかけると、エリサがぴくりと反応し、三人組と俺の間に立つ。


「こいつを殺せ。そしたら後で相手してやる」


 その言葉を聞いたエリサの目に生気が戻り、頬をピンクに染める。


「分かりました」


 生気は戻っても正気ではない返事。

 これが邪神の力による魅了なのだろう。


「……エリサ。そこをどけ」


 俺の言葉を聞いたエリサは嫌悪感を露わに答える。


「勝手に人を呼び捨てにしないで、汚らわしい。あの方々を害するというのなら、殺すわよ?」


 エリサ。


 強くて美しい俺の最愛の人。


 それが、邪神の力に溺れるクズどものせいで、穢され、狂わされてしまった。


 それでも俺の前に立つエリサは、俺が一度も勝てていないいつもの構えで、いつもと変わらない隙のない目をしていた。


 いつもと違うのは、俺に向けられているのが本物の殺気であるということだけ。


 そんなエリサと対峙した俺は、腰の鞘から剣を抜く。


 エリサは強い。

 今も俺より強い。


 でも、エリサを倒さなければ何も始まらない。


 エリサを倒し、後ろの三人を皆殺しにしなければ、エリサは救えない。


 俺は一ヶ月前、エリサを救えなかった。


 俺が邪神の力なんてものを知らなかったせいで、エリサはこの男たちにおもちゃのように扱われ、ボロ雑巾のように捨てられた。


 だから今度こそ救わなければならない。


 勝つためには本気を出さねばならなかった。


 エリサを傷つけたくはないが、本気を出しても勝てたことのない相手に、手を抜くなんて選択肢はない。


 多少の怪我はやむを得ない。


 どんな怪我を負ったとしても、俺は一生エリサの面倒を見る。

 たとえ薬で狂い、俺のことなど一生思い出さなくても、俺は全人生を賭けてエリサを守る。


 それが俺の償いであり、決意だ。


 俺は剣を構えた。


 そして、それが合図になったかのように斬りかかってくるエリサ。


 一歩で距離を詰めるその足腰。

 目に負えない速さで振り下ろされるその剣速。


 だが、俺はその剣をしっかりと自分の受ける。


ーーガキンッーー


 金属がぶつかり合う激しい音。


 その音が俺の耳に届くより速く、エリサは次の攻撃を繰り出す。


ーーブンッーー


 俺はその攻撃を余裕を持って躱す。


 たった二振り。


 その攻撃を見ただけで俺は悟る。


 目の前にいるのはかつてのエリサじゃない。


 構えと。

 殺気と。

 何より、エリサは強いという俺の先入観。


 それが俺の判断を誤らせた。


 いつもより軽い剣戟。

 一ヶ月前なら、受けるので精一杯だったエリサの攻撃は、あまりにも軽かった。


 急所から逸れた甘い剣筋。

 一ヶ月前なら、視界と意識の外から迫ってきていた恐ろしい剣筋は、簡単に見切ることができた。


 今、目の前にいるエリサはかつてのエリサじゃない。


 邪神の力で処女を奪われ。

 邪神の力で複数の男から犯され。

 薬漬けでボロボロになり。

 娼館で道具として扱われたのだ。


 筋力が落ち。

 もともとスラリとしていた腕も脚も骨と皮のよう。

 薬のせいか目の焦点はフラフラとし、雑に扱われたせいか、体のバランスもおかしい。


 全くもって嬉しいことではないが、今の状態のエリサなら倒せる。


 俺はそう確信した。

 あとはなるべく怪我を負わせないようにするだけ。


 そう思った瞬間、エリサの後ろの方から声がした。


童貞チェリー狩り』


 その言葉を聞いた瞬間、跳ね上がるエリサの魔力。


 ……そして。


ーーブスッーー


 目の前から消えたエリサの剣が俺の胸を貫いた。


 胸から溢れ出す血。

 肺を貫かれたのか、苦しい。


 息ができない。


 目に映るのは、感情のない目で胸を貫いた剣を横に振る最愛の人。


 さらなる痛みは感じない。

 死ぬ前に見ると言う走馬灯も見えない。


 ただ、目の前に映るのは、ボロボロでやつれてもなお美しい最愛の人の瞳。


「……ご、ごめん」


 俺はそれだけ言うと、倒れ込むように目の前のエリサを抱きしめる。


 言いたいことはたくさんある。


 愛してる、も。

 結婚しよう、も。


 エリサに勝ったら伝えようと思っていた言葉は、結局一度もエリサに勝てずに伝えられなかった。


 ただ、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 エリサを守れなかっただけじゃない。

 その手で俺を殺させてしまった。


 もし正気を取り戻したら、そのことを気に病ませてしまうのではないか。


 神様なんてろくなものじゃないのは、今回のことでもよく分かっている。


 ただ、願わくば、過去のことは忘れて、俺のことも忘れて、エリサに幸せになって欲しい。


 そう祈ったところで、俺の意識は閉じた。


 ……永遠に。

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