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(27)バブル

 昭和末期の徒花(あだばな)のように語られることの多い、バブル経済。――(おおむ)ね、1985年(プラザ合意)から1991年(バブル崩壊――総量規制)ごろまでとされる。


 テレビ番組で記録として象徴的にオンエアされるのは、決まってビジネスマンが一万円札を扇子(せんす)のように拡げてタクシーを停めようとやっきになっている様子。人気のレストランは予約が取れずに数か月待ち、ファッション業界はDCブランドに溢れ(DCは「デザイナー」と「キャラクター」)、日本経済は青天井のように発展していた。――らしい。


 こういう報道を見るたび、私は強烈な違和感に見舞われる。


 だって、私自身は、昭和世代でありながらバブルの恩恵になど特段(あずか)ったことはないのだから。


 ……いや、ここでカン違いしていただいては困るのだが、今のはあくまで一個人としての各論である。報道で紹介されるようなわかりやすいインセンティブがなかっただけで、そうは言っても各種日常活動において好景気の波に支えられていたことはそのとおりだろうし、総論としての盛り上がりまで否定するつもりはない。


「バブル」という一種異様な時代の特異性を如実に印象付けるために、極端なところを切り取って紹介する手法というのは有効だろうし、それはそれで伝わりやすい。たしかにそういう一面があったのも事実なのだろう。


 しかし、テレビで取り上げられるような乱痴気(らんちき)騒ぎは、限られた一時期において、大都会でビジネスマンを張っていたごく一部の層だけが共感できる、ほとんど幻影に近い残像であるように思う。


 少なくとも、都会に住んでいたわけでも経済活動に参加していたわけでもない私には、まるで遠い世界の出来事のよう。ホントに、ソレ、日本の話なの――? 遠い外国のことではないの――? そんな違和感を覚えるほどに、田舎女子にはまるで現実感のない話。


 あんなバカ騒ぎ、当時はまったく認識もしていなかった。――ネットもSNSもない時代の話ですからね、動画どころか携帯電話すら普及しておらず、インスタントカメラが高級品だった時代ですからね。ポケベルとかレンズ付きフィルム(いわゆる「写●ンです」)とかは、この時代に台頭してきたぐらいかなー。


 地方では、好景気の余波は受けにくいが、不況の波はもろに大かぶりする。


 バブルのまえの暗黒時代――1973年のオイルショックから断続的に押し寄せる大波に耐えることは並大抵ではなかったはずで、それまでは製造部門と販売部門が別法人になっていた大企業が合併するとか、日米貿易摩擦とか、否定的な印象を(はら)んだニュースが続いていた。大型間接税(今でいう消費税)導入、国鉄分割民営化もこの時期の話題だ。……バブルの実感はないが、こういうエピソードならそれなりに記憶に残っている。身近なテレビドラマや少女マンガの世界でも、不穏な話題がアクセントとして添えられていたから。


 その傾向が切り替わったのが、1985年のプラザ合意――それぐらいの知識なら、持っている。令和の今となっては、すでに歴史の授業の管轄かな。


 ――今さらバブル経済もないのだが、今、何故、このテーマなのか。


 私の住む近所に、バブル崩壊期のような更地が目立つようになったから。


 ……といっても、バブル崩壊直後とは、ちょっと違う。


 かつて目立っていたのは、大規模開発が途中で頓挫して、駅裏とか不自然に開拓だけがされた状態で、広大に不毛なまま新たな方針が打てずに放置されている、あるいは建造物(ハコ)だけは作ったものの需要が伸びずに捨て置かれている――そんな感じ。


 令和の更地は、都会の雑踏の中で、まるでバグのように埋没しかけている。


「日常の中に当然あるもの」と認識していた商業施設が老朽化や営業不振等で取り壊されて、次が決まらずに時間の流れから取り残されている――とでも表現すればよいのだろうか。長い眠りになるのか、はたまた復活を果たすのか……さすがに傾向が読めない。賑やかな施設が出来て欲しいとは思うのだが、――おそらくは無理だと理性が告げる。好景気であれば、更地でなくても居抜きでテナントが入居したはず。更地にしても、すぐにマンション等の集合住宅が立っていたはず。――にもかかわらず、今は無為な状態で、そこの風景だけがまるで異空間のように不可侵領域。


 ……きっと、人口規模が減少しているから、新たに何かを創造しても、なかなかペイするという図式が思い描けないのだろう。――私の住んでいる地域だけかもしれないが。


 昭和の時代は、明日は必ず今日より便利になっていた。そんな希望に溢れていた。


 ――令和の今は、今日より便利になることはない。


「限界集落」「買物難民」「シャッター街」――そんなのは辺鄙(へんぴ)なド田舎のことだと考えていたが、まさか都市部にまでジワジワ浸透していようとは。


 ……少し感傷的に陥ってしまった令和の猛暑。


 今さら人口爆発期のイケイケ日本には戻れないが。


 近所のショッピングセンターに、新しい飲食店が入った。

 会社の社員食堂には、冷凍パンの販売機が置かれるようになった。

 取り壊しているように見えた道路沿いのファストフード店は、テイクアウトコーナーを改装してリニューアルオープンした。


 昔と同じようにはいかないが、それなりに動いているのだなあと……ちょっとだけ安心。


 ――令和の初秋は、まだ暑い。


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