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私の水草と熱帯魚

「店長さんー。」


 予想通り、店長さんは外で電子タバコを吸っていた。


「どうした?何飼うか決まったか?」


「そっちは決まったんですけど、水草で迷ってて。」


 店長さんにスマホを渡す。


「今こんな感じなんですけど、どんなレイアウトにして、どんな水草を植えればいいのか、全然想像がつかなくて…。」


 じーっと私のスマホを見つめてから、黙って返してくる。

 電子タバコを咥えて、ふーっと煙を吐く。


「石の配置はいい感じだと思うぞ。もう少しでかい石を入れてやれたら良かったんだが、でかい石は高いからな。ちょっと来てみな。」


 電子タバコをしまって店内に戻る店長さんの後に続く。


 レジカウンターの裏から紙とペンを取り出して、なにか描き始めた。


「レイアウトの基本は三角と凹だ。」


 長方形の中に直角三角形が描かれた図と、凹が描かれた図を見せられる。


「三角にするなら、背の高い水草や流木を片側に寄せて、逆側は低い水草を配置する。凹は右と左に背の高い水草とかを置いて、真ん中はへこませる。」


 三角や凹の中にうねうねとした線や葉っぱみたいな絵が描かれていく。


「手前には背の低い前景草、後ろには背の高い後景草を植える。流木にはウィローモスやナナとかを活着させることもできる。」


「今の私の水槽の感じだと、凹なレイアウトを目指す方がいいですかね?」


「そうだな。石を片側に寄せて、上手く組み合わせて高さを出して三角にするのもありかもな。まぁ好みだ。」


 うーん、どうしよう。

 石を上手く組み合わせる事が私にできるのか……?


「水草の予算はどれくらいだ?」


 ウンウン唸る私を見かねたのか、店長さんは苦笑しながら尋ねてきた。


「えーっと、2000円くらいです。」


 水槽セットで1万円使ってしまったので、あまり余裕は無い。


「2000円かぁ。流木にナナを付けて…、パールグラスと、クリプトかなぁ…。」


 ぶつぶつと呟きながらスタスタと歩いていってしまう。

 慌てて後をついていき、水草コーナーの前で立ち止まる。


「まずはアヌビアスナナ。これは根っこを紐で流木に縛り付けておくと活着するから、流木と組み合わせて使うといい。葉っぱが小さいこっちのプチでもいいぞ。」


「次にパールグラス。今は伸びてるから中景から後景くらいだけど、トリミングしてやれば前景でもいける。切ったやつを植えれば育つからめちゃくちゃ増える。」


「あとはクリプトコリネ。ウェンティーかバランサエがオススメ。ウェンティーは中景、バランサエは後景。」


 水草を指差しながらスラスラと解説していく店長さん。

 カタカナが多くてなかなか頭に入ってこないけど、集中して聞き逃すまいと頑張る。


「今言った3つと、流木1つで2000円だな。どれも初心者向けでCO2無しで育つ。」


 言われた水草とスマホに写した私の水槽を交互に見ながら、レイアウトを簡単に想像する。


「ありがとうございます。流木選んでもいいですか?」


「あぁ。うちのはアク抜き済みだから、軽く洗ってから入れて大丈夫だぞ。」


 2人で流木の置いてある棚に向かう。


「うーん、色んな形があって迷う……。枝みたいなやつもあるんだ…。うわ、どうすればいいんだろ…。」


「好みのやつを選ぶしかないな。アドバイスするとしたら、今のレイアウトなら、大きめのやつを選んだ方がいいと思うぞ。」


 ごゆっくりーと、店長さんはまた外に行ってしまった。


 流木を手に取っては戻し、手に取っては戻しを繰り返し、数十分たっただろうか。ようやく決めることができた。


「これかな…。うん、これだ。この辺にアヌビアスナナをくっつけて、石の後ろに置けば、いい感じになりそう…。かな?」


「決まったかー?」


 いつの間にかレジカウンターに座っていた店長さんに声を掛けられてびっくりした。

 夢中になっていたようだ。


「はい!決まりました。」


「じゃあ水草と魚、買うやつ教えてくれ。」


 欠伸をしながら歩き始める店長さんのあとに続いて、まずは水草コーナーへ。


「えっと、アヌビアスナナと、パールグラス……。んー……、クリプトコリネの……、バランサエで。」


 店長さんは水槽に手を突っ込んで、次々と水草を引き抜き、いつの間にか手に持っていたボウルに移していく。


「パールグラスとクリプトは、このポットを取り外して、グラスウールも外してから1株づつ植えること。パールグラスは一本づつだな。まぁネットで調べればいくらでも出てくる。」


 ふむふむと、一応スマホでメモを取っておく。


「魚は?どれにするんだ?」


 店長さんが濡れた腕をエプロンで拭きながら尋ねてくる。


「ネオンテトラでお願いします。」

 

 はいはいっと呟きながら、店長さんはネオンテトラの水槽に向かう。

 途中で大きめの流しにさっき取った水草をボウルごと置いて、代わりにプラケースと網を手に取った。


「ネオンテトラ、10匹900円だから、まぁ1000円分で10匹ちょいな。」


 脚立に足をかけて、水槽の蓋を外し、水槽に網を入れる。

 網に驚いたのか、ゆったりと群れていたネオンテトラがばっと素早く散った。


 プラケースに水を入れて、網で次々にネオンテトラを掬ってはプラケースに移していく。


「んー……、10……、5か?まぁいいか。」


 蓋を戻して、脚立から降りた店長さんは、さっき水草を置いた流し台の方に向かった。


 プラケースを置いて、ビニール袋を取り出し、少し水を入れてから、プラケースの中身を魚ごと注いでいく。


(そんな乱暴にやって大丈夫なの…!?)


 私が少し唖然としている間に、細いピストルみたいな何かをビニール袋に差し込んでブシュー!っと空気を入れる。

 ビニール袋をねじってパンパンにした状態で輪ゴムをぐるぐるぐるぐるっとしてあっという間に梱包してしまった。


「すご……。」


 初めて見る、鮮やかすぎる熱帯魚の梱包に見とれてしまう。


 次に水草を手に取り、濡らした新聞紙で包んでから、同じようにビニール袋で梱包していく。


 あっという間にネオンテトラと、水草3種が袋に入れられてしまった。


「ネオンテトラ15匹、水草3つなー。」


 空気がパンパンに入った袋を、大きい茶色い紙袋に入れて、レジの方に向かう店長さん。


「ネオンテトラ分はこの前の1万に入ってるから、水草と流木分で2000円な。流木どれだ?」


 これでお願いします。とレジカウンターに流木を置く。


「ナナは、糸使って流木にぐるぐる巻き付けておけばそのうちくっつくから。糸は釣り糸でも裁縫用の糸でもなんでもいい。」


 わかりましたー。と返事をし、袋を受け取る。


「う、思ったより重い…。」

「まぁ生体買うと水が多いからな。自転車なら持って帰れるだろ。ばちゃばちゃ揺らしすぎないようにな。」


 がんばります!と気合いをいれ、店を出る。

 自転車のカゴに、そっと袋を入れ、なるべく動かないように位置を調整する。


「よし!帰って……。」


「忘れてた。ネオンテトラ入れる前に水合わせやれよー。」


 帰ろうとペダルに足をかけた所で店長さんがお店から出てきた。


「水合わせ?」


「水合わせ。やり方はネットで調べれば出てくる。ほとんどうちの水だから水温だけ合わせれば大丈夫だろ。」


 ベンチに座って電子タバコを取り出し始める。お客さん私だけだったし、また休憩かな?


「わかりましたー。ありがとうございましたー、また来ますね!」


「おーう、がんばれよー。」


 ふーっと煙を吐きながら、ひらひらと手を振る店長さんに、手を振り返しながらお店を後にする。


「よし、帰っていろいろやらなきゃ!その前にご飯だ。お腹すいたー!」


 自転車を漕ぐ足にも力が入る。

 ご飯を食べてからやることを頭の中でまとめつつ、帰り道を急いだ。


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