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今日、私は貴方の元を去ります。  作者: 蓮宮 アラタ
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悪役は受け入れられる

 ――私がキネーラに来て数日がたった。

 馬車の中で泣いたあの日、シスターリゼリアをはじめとする私を出迎えてくれたキネーラの人達は皆歓迎してくれた。


 私の処遇はレイン殿下が決定したもの。

 そのために私がグレイブル王国においては大罪人であるということを知っているだろうに、そんな私を受け入れてくれたリダ・テンペラス協会の人達は優しかった。


 馬車が到着するまでに何とか泣き止みはしたものの、目は腫れていろいろ酷い有様になっていただろう私に何も言わずに微笑んでくれていた。


 次の日には歓迎パーティまで開いてくれて、見たことがないキネーラ特有の料理を食べたり、歌を歌ってくれたりして、とても楽しかった。


 ここの方たちは本当に優しくて温かくて、心まで癒されるようで、私はグレイブル王国での出来事は少しずつ折り合いをつけられるようになった。


 王子のことを思い出すと今でも胸に痛みが走るけれど、こればかりは仕方のないこと。

 失恋の傷はゆっくり癒すことにするとしましょう。

 大方はあの日思い切り泣いたことで何かが吹っ切れた。


 そして私はこのリダ・テンペラス教会の一員として新しい一歩を踏み出そうと気合いを入れた……のだけれど。


「――クラリスお嬢様、紅茶が入りましたよ」

「ええ、ありがとうゼスト」


 ………………なぜ私は、優雅にティータイムをしているのかしら。

 ゼストが淹れた紅茶のカップを受け取りながら、私は首を傾げていた。


 ここは教会が所有する屋敷のひとつで、自然豊かな森と湖畔に覆われた実に綺麗で静かなところだ。

 教会での歓迎パーティを受けたあと、修道女(シスター)として教会にある部屋の一室にあてがわれるものと思っていた私は、パーティが終わるなり馬車に乗り込まされ、この場所に案内された。


「はい、ここが今日からあなたのお家よ」


 シスターリゼリアに言われるままに屋敷の中に案内され、訳が分からないまま屋敷の使用人達にお世話され、そして傍らには当然のようにゼストがいる。

 そうして気づいたら一日が過ぎていた。


 まるでグレイブル王国で公爵令嬢といた頃と何ら変わらない生活を送っている。

 おかしい。おかしすぎる。


 私を置いてった護衛役の騎士の話では私は教会のシスターとしてキネーラ王国に引き取られたのではなかったのか。

 それがなぜこうして、閑静な屋敷で優雅に紅茶を飲んでいるのだろうか。


 ――おかしい。何かがおかしいわ。


 そう思いながら、折角なのでゼストが淹れてくれた紅茶を口に含む。

 今日の紅茶はアールグレイ。お供はクロテッドクリームとバターを添えたスコーン。

 アフタヌーンの定番セットをいただきながら、私は開けられた窓から見える森の木々を見やる。


 ――すると。


『何食べてるの?』

『美味しそう!』

『何これ?』

()()()()だ!』

『違うよスコーンだよ!』


 何やら楽しそうな声が飛び込んできて、開け放たれた窓から小さなもの達が、テーブルの上にやってくる。

 小人の姿をしたもの。リスや鳥といった動物の姿を象ったもの。

 それらは楽しげに、私がいるテーブルに集まると、楽しそうにじゃれあいはじめる。


「……伝承には聞いていたけれど、本当にいるのね。精霊」

「はい。キネーラ連合王国は悠久の女神アルキュラスではなく、自然そのものを信仰する国ですので」


 キネーラ(ここ)に来てから突然現れるようになった伝説の存在に驚く私を、横でゼストが涼しい表情で応える。


 精霊。

 自然の現象や力が具現したといわれる存在。

 悠久の女神の祝福を受けた聖女を有するグレイブル王国では見られず、精霊を信仰するキネーラ連合王国では実際に存在していて、親しまれている存在らしい。


 キネーラに来てからというものの、初めて見るようになったこの存在は何故か私を気に入り、私の元に集まってきて次第にその数を増してきている。

 最初は一、二体程度だったのに、いつの間にやら群がってくる精霊は数を増して――。



「うわぁ……すごいわ。屋敷中精霊だらけ。ここまで精霊が集まっているのは初めて見ましたわ」

「シスターリゼリア!」


 いつの間にやら部屋の中にいた黒髪の美女に、私は驚いて立ち上がった。

 反動で、椅子によじ登ろうとしていた精霊が転がり落ちてしまう。

 私は慌てて、床にぶつかろうとしていたリスの精霊を胸に抱き上げた。


「こんにちは。とてもよく眠れたようね」

「こんにちは。ええ、疲れが溜まっていたみたいで。お恥ずかしい限りです」

「それは良かったわ」


 シスターリゼリアは私の返答にニコリと微笑むと、感心したように室内を覗き込む。


「それにしても見事に集まってるわね、集まりすぎて眩しいくらい。まさかこれほどとは思わなかったわ。さすが『精霊王の愛し子』ね」

「『精霊王の愛し子』……?」


 何なのだろう、それは。

 聞きなれない単語に、私は首を傾げた。


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