26 悪役の結論は
「ルイは、無事なの? 彼は今、グレイブル王国でどういう扱いになっているの?」
微かに震える声で問われた言葉。三年間呪いに侵された身体で、それでもなお愛する彼との再会を糧に呪いに打ち勝ったメドウィカ様。
その最愛の彼――ルイス王子の行方が気になるのは当然のことだ。
できれば、こんな残酷な現実は教えたくない。けれど、彼の安否を気にするメドウィカ様に嘘をつくこともできない。
逡巡の後、覚悟を決めて口を開いた。
「ルイス王子殿下は……三年前に父君であらせられる国王陛下の暗殺計画を主導した主犯格として逮捕、第一王子としての身分を剥奪し廃嫡され、行方不明となりました……」
「そんな……!」
静かに告げるとメドウィカ様はショックを受け、顔面蒼白になりベッドに倒れそうになったところを、リジェリカ様に支えられる。
「私は元々第二王子殿下の婚約者でした。私の婚約者が現聖女……リーン様に入れ込み始めた時期と、ルイス殿下が国王暗殺計画の犯人だと露呈したのは同じ時期なのです」
その頃には既にレイン王子はかの教会の一派と手を組んでいたのかもしれない。
なぜならその計画を暴いたのは他ならぬレイン王子なのだから。
これはゲームの中でも記述があったものだ。かのゲームでは既に第一王子は廃嫡になっていて、第二王子のレイン殿下が実質の王太子のような扱いになっていた。
これは悪役令嬢であることを思い出したからこそ、覚えている出来事だ。あのころの『クラリス』はレイン王子と親しくするリーンの存在を妬み、色々と画策していた時期だった。
「ルイス王子がそんなことをする訳がないと、反発する者たちもいました。なぜなら彼はその時キネーラとの同盟を準備していたのですから」
主に反発していたのは第一王子を支持していた貴族たちだ。彼らはルイス王子の無実を信じ、国王陛下に嘆願書を送り、もう一度事の次第を捜査し直してくれと訴えた。
しかしその願いもむなしく、第一王子は大罪人として王族の身分を奪われ廃嫡、有罪判決により、死を待つ身となった。
そしてその判決から三日後、彼は幽閉されていた地下牢から姿を消した。
地下牢は荒らされた形跡がなく、錠部分も綺麗だったことから、内部の協力者の手引きがあったものとして騎士たちが捜索したが、第一王子は見つからなかった。
「――そう。第一王子は見つからなかったのです」
そこで言葉を止めると、ふとメドウィカ様が顔を上げた。ハッとした表情で私が言わなかった続きの部分を口にする。
「つまり、彼はまだ生きていると?」
「その可能性は高いと思います」
第一王子を支持するものは多かった。メドウィカ様から伝え聞いた人となりを聞いても第一王子が国王陛下暗殺を企てるなど有り得ない。
教会側が第一王子の存在を邪魔と考え、失脚させたのなら教会の手の者は国の奥深くにまで入り込んでいる。
それこそ第一王子を廃嫡に追い込めるほどの権力を握っているのだ。
しかしそれと同時に第一王子にも手を貸している者がいる。教会の手から第一王子を隠し、逃げおおせるほどの力を持つもの。
王子の無実を最初から知っていたもの。私はそれが出来る人に心当たりがあった。
「グレイブル王国王妃エリス様の生家、レイダスト公爵家に連絡は取れますか?」
ルイス王子とレイン王子。二人の王子の母親である王妃エリス様。
彼女はキネーラから嫁いできた身であり、私が身を置くことになったリダ・テンペラス教会があるチャーチル自治領をおさめるレイダスト公爵家出身。
彼女であれば、そのツテを使い王子を外に逃がすことは可能だったはずだ。
「エリス様は慈悲深い方でした。自分の息子が無実の罪で殺されるようなことを見逃すはずがありません。きっとどこかに匿われていると思います」
昔、何度かお会いしたエリス様は第二王子の婚約者であった私を気にかけていて下さっていた。聖女候補として選ばれた後も何かと声をかけてくださる、気さくで心優しい方だった。
そのエリス様主催のお茶会で、私は恩を仇で返すような大罪を犯してしまったのだけど。
「レイダスト公爵家ね。今すぐ文を送るわ」
「ルイス……ああ。どうか無事でいて」
リジェリカ様が部屋を飛び出す。メドウィカ様がきゅっと目を閉じて手を組んだ。
全ては私の憶測でしかない。けれどルイス王子は必ず生きている。その確信があった。




