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今日、私は貴方の元を去ります。  作者: 蓮宮 アラタ
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悪役は考察する

「――はい、もう異常はありません。病は完全に完治しましたよ」

「そうですか。ありがとうございました。おかげで元気になりましたよ」

「当然のことをしたまでですわ。猊下がお元気になられて良かったです」


 ベッドに横たわるラウスマリー教皇とにこやかに会話をしながら、私は先日の出来事について考えていた。


 教皇にとりついていた『障り』を浄化し、病を治癒してから三日間、私は徹底的に教皇の身体に治癒を施し、自分の持つこの力がやはり『聖女』としての力だと確信していた。


『障り』を浄化し、どんな傷や病をも治すという神の力。

 なぜ『聖女』としての力が自分に宿っているのか。

 精霊たちによって明かされた託宣に選ばれた聖女は二人いたという事実。

 謎だらけだし、分からないことだらけだ。


「あの肺の病がまさか『障り』によるものだとは。道理で医者にも原因不明と匙を投げられてしまってね……。さすがに死を覚悟していたのですがねぇ……」


 すっかり元気になり、上半身を起こした教皇猊下はそんなことをつぶやき、私はふと我に返った。

 そうだ。今は猊下の治療に集中しなきゃ。

 もうあらかた治っているとはいえ、随分寝たきりだった教皇の身体にはあちこちに『障り』に侵食された箇所が残っていて、私はそれらを浄化するために手のひらを当てた。


「『障り』は負のエネルギーが凝り固まって事象として形を成したもの。あれら『不浄のモノ』が引き起こす現象は多岐に渡ります。だから突如湧いて出たような伝染病や災禍はたいてい『障り』が原因なんです」


 大元が負のエネルギーの塊である『障り』は決まって人間に対し悪意を働く災厄の象徴として扱われてきた。

 人間の負の感情やその地に凝り固まった良くない思念の残滓などが長い時をかけて集まり、『障り』となって具現する。


 人間がいる限り発生してしまうとも言い換えることができるそれらを浄化するために悠久の女神は対抗手段として『聖女』という存在を産んだとも言われている。


 ゲームでもヒロインのリーンは各地を周り、『障り』を浄化していたっけ……。

 ――と、そこまで考えたところで、何かが記憶に引っかかったような気がした。

 しかしそれが何なのかが思い出せない。


 何かしら。ものすごく大事なことだったような気がするのだけど。


 うーん、と首を捻って考えこんでいると、教皇が不意に真面目な表情になり、私の方を向いた。


「クラリス様。それについて一つ、お願いがあるのですが……」

「お願い、ですか?」


 手のひらから白虹の光が途切れる。

 よくよく見れば教皇の身体から全ての『障り』の残滓が全て取り払われ、全身が真っ白に輝いていた。

 聖女に治療された証である『祝福』の状態。普通の人だと少し光り輝く程度だというのに教皇は眩いばかりの光に包まれている。

 元々教皇猊下は精霊の加護を受けた聖なるものに属するもの。聖女の力と相性がいいのかもしれない。


 心做しか肉体まで少し若返ったように見えるラウスマリー教皇は、ヘーゼルの瞳に真剣な光を宿して私に告げた。


「あなたに診てもらいたい方がいるのです。今回の件で確信しました。恐らく、あなたにしか治せない」

「どういうことですか?」

「三年前から原因不明の病で伏せっておられる第一王女メドウィカ様を救って頂きたいのです」


 告げられたその名前に、私は目を見開いた。




 ――キネーラ連合王国ウィンゼルキネラ王家。

 その第一王女、メドウィカ・セリス・ウィンゼルキネラ。

 不治の病におかされ、リーンが聖女になったとほぼ同時期に亡くなった『呪われた王女』。

 彼女の死をトリガーに、キネーラ連合王国とグレイブル王国は()()に巻き込まれることになる。


 ――ゲーム最終章『流転の災禍』序章イベント。

 その災厄の顛末の序章が今、まさに始まろうとしていた。



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