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ショートショート7月~

逢瀬

作者: たかさば

年に一度の逢瀬は、今年もやっぱり、雨みたい。

晴れていたら目の前に広がる、星がたくさん見えたに違いないのだけれど。


「ごめんね、お待たせ。」

「ううん、空を眺めていたから、平気よ。」


二人のいる場所から見下ろす空は、どんよりとした雲に覆われていて。

たくさん見えるはずの、町の光が見下ろせない。

このところの地上の星は、ずいぶん輝いて見えるから。

きっと二人は、見たかったと思うんだけどね。


「一年、どうだった?」

「あなたを想って、懸命に機を織ったわ?」


毎日機を織った織姫の指は、少しかさついていて。


「あなたは?」

「君を想って、懸命に牛の世話をしたよ?」


毎日牛の世話をした彦星の肌は日に焼けて。


「あなたのことを思い浮かべて、機織りしてね、見て、この肩掛け。あなたの横顔をイメージしたの。

はい、プレゼント。」

「ありがとう、大切に、するよ。」


彦星は、よくわからない模様の肩掛けをもらったみたい。


―――おかしな色合いの、奇妙な模様。


彦星は、あまり、お気に召さなかったみたい。


「君のことを思い浮かべて、子牛を育てたよ、君によく似た、かわいい雌牛さ。これは、子牛の木彫り。はい、プレゼント。」

「ありがとう、大切に、するわ。」


織姫は、微妙な子牛の木彫りをもらったみたい。


―――牛が私に似てる?!私、牛に似てるの?!


織姫は、少し憤慨しているみたい。


―――一年に一度しか会えないからね。

―――一年に一度しか会えないのだから。


互に、飲み込む、不満の欠片。


二人並んで、川のほとりで、曇り空を見下ろして。

ああ、所々に、人々の願いが浮いているみたい。


「今年もたくさんの願いが浮かんでいるわね。」

「今年は、どの願いをかなえるんだい。」


―――私なんで人の願いをかなえているのかしら。

―――なんで織姫は僕の願いを叶えてくれないんだろうか。


不満を抱いてしまっては、誰かの願いを聞き入れることは難しいと思うの。


「努力をする人の、力になってあげたいと思うわ。」

「努力する人は素晴らしいからね。」


―――人に頼って技術を得ようとするなんて。

―――僕の努力は認めてくれないという事か?


「願った人たちに、努力を続けられるひたむきさを与えたわ。」

「素敵な願いの叶え方だね。きっと皆、努力し続けるはずだ。」


川のほとりで、にっこり微笑みあう、二人。

幸せそうね。でもなぜかしら、空気が、とっても、冷えてきたみたい。

宇宙が近いからかしら。


二人は、川のほとりで、今度は宇宙を眺め始めたみたい。

太古の昔から何一つ変わらない宇宙を見て、二人は何を、思うのかしら。


「こちらの空は、昔から何一つ変わらないわ。」

「変わらない空の下、僕たちも何一つ変わることがないね。」


「私は昔と変わらず、あなたを愛しているわ。」

「僕も昔と変わらず、君を愛しているよ。」


―――相変わらず、あなたは受け身なのね。

―――相変わらず君が主導権を握るんだね。よーし…。


「僕が年に一度のこの時を、どれほど焦がれているか、わかるかい?」

「どれくらいか、聞きたいわ?」


「君を想って、毎日夢に見るくらいだよ。」

「夢で逢えてたなら、幸せね。」


「君は僕を夢で見なかったのかい?」

「私の夢に、あなたは現れてくれなかったもの。」


―――あんたが見ようとしなかっただけだろうが。

―――あんたが勝手に見ただけだろうが。


気のせいかしら、なんだかとっても、空気が張りつめてきたみたい。

宇宙が近すぎるのね、かわいそうに。


「でも、今日、あなたに会えたから。」

「夢じゃない、君に会えたから。」


二人は、見つめ合って、抱きしめ合って。

そっと、唇を、寄せる…。


―――私は、本当に、この人のこと好きなのかしら。

―――僕は、本当に、この人のことが好きなんだろうか。


チュッ…。


―――でも、いまさら確認なんてできないし。

―――でも、いまさら確認なんてできないし。


「「愛してる。」」


―――好きで、いいかな。

―――好きで、いいか。


うん、なんとなく、丸く収まったみたいだから。

私から、プレゼントを、一つ…。


「あ!!流れ星よ?!」

「ホントだ!!」


―――願い事!!彼氏が欲しい彼氏が欲しい彼氏が欲しいイイ!!

―――願い事!!彼女が欲しい彼女が欲しい彼女が欲しいイイ!!


ちょ!!!

あんたらね!!!


よーくわかった!!

この人たちはね、年に一度の逢瀬ってやつにとらわれ過ぎてるただの惰性の恋人なんだ!!


離れすぎてるのも、長く付き合い過ぎてるのも原因に違いない!!

これはさあ、もう異世界行き決定案件じゃないの?


よーし、わかった!


あんたらは異世界にぶっ飛ばします!!



独り身の長い女神をなめないでちょーだい!!



私は、雨雲に覆われた空の上の逢瀬に乱入し…。


「え?!ちょっと?!何、ナニコレぇえええええ!!!」

「はあ?!なんじゃ、こりゃあああああああああああ!」


彦星と織姫を異世界にぶっ飛ばしましたのことよ!!


という事で、残念ながら!!!


地球上から七夕の願い事をかなえる機会は失われてしまいました。



皆さん、自分で、努力、しましょうねー!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] あの二人、そんなこと考えてたんですね。 惰性ですか。 一年に一回しか会えないと、冷めるものなんでしょうね。
[良い点] ぎゃああああ!? [気になる点] ―――願い事!!彼氏が欲しい彼氏が欲しい彼氏が欲しいイイ!! ―――願い事!!彼女が欲しい彼女が欲しい彼女が欲しいイイ!! ↑ ここで盛大に吹いてしまっ…
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