第四話
次の日の帰りのホームルーム後、私たちは一か月後に控えた文化祭に向けて文化祭委員会の会議に出席するため歩いていた。
歩きながらもついつい隣にいる彼──清水君の顔を見てしまう。
なぜ、私が清水君と一緒に文化祭実行委員会をやっているかというと、それは始業式直後のLHRにまでさかのぼる。
──4月
始業式から数日がたち新たな友達ができてきてクラスが生き生きとしてきたころ。
私たちのクラスは係委員会決めを行っていた。
黒板には先生が書いた様々な係や委員会の名前が並んでいる。
学級委員会、風紀委員会、栽培委員会、図書委員会、文化祭委員会、体育祭実行委員会等々中学のころと大体同じようなものが並んでいるなか、高田係なんてものもあった。
これは、担任の高田先生が勝手に作ったもので教科書を配布する時などの荷物持ち係だそうだ。
入る係を考える時間を10分間作るというので、どれに入ろうかと考えながらじーっと黒板を見ていると、隣の席に座っていた人に話しかけられた。
「ねえねえ、なににするかもう決めた?」
「まだかな、ちょっと数が多いから考え中」
「ちょっと多いから迷うよね」
「しかも、たいていの係は決めたら一年間やるんだし…」
「そうなんだよね~変な男子とかと一緒になったら最悪だし」
「あはは」
「…そういえば私自己紹介したっけ?」
「んー、されてないかな」
「じゃあ今しちゃうね。私は、片岡 恵かたおか めぐみ|気軽にメグって読んでくれていいよ!」
「わかった、これからよろしくね…メ、メグ」
「うん、よろしく!あなたは近藤日向ちゃん、であってるよね?」
「うん」
「あーあ、告白実行委員会とかあったらいいのにね~」
「そんなのあるわけないじゃん。それに、そんなのあったとしてもなんのお仕事するのかわからないよ」
「告白を手伝う、とか?ひなた相談に行ってみたら?」
「なんで?」
「なんでってひなた、清水のこと好きでしょ?」
「え、ええ!?い、いや、す、好きってわけじゃ」
「あんなにずっと見ててわからないとでも?」
「え、見てた?」
めぐみちゃんから見てても気づくらい見ちゃってたのかな?
あれ、だとしたら清水君ももしかしたら気付いて…。
「たぶん清水は気付いてないけどね」
「え?!わたし今そんなこと一言も」
「顔に出てたよ~」
「そ、そうなんだ。って、その告白実行委員会はほんとにはないんだって!」
「あー、そういやそうだった。じゃあ何に入ろっかな~」
そのあとも散々清水君に関することでいじられた私は、結局何の委員会に入るのかを決められないまま考える時間が終わってしまった。
(ほんとにどうしようかな~)
最初に決まった学級委員会の二人が司会を務める中、学級委員という決まるのに一番時間がかかるはずの役職を決めるのが早々に終わったことで、次々に他の役職も埋まっていった。
(うーん、まだ決まってないのは体育祭実行委員に文化祭実行委員、あとは係か~)
「じゃあ、次は文化祭実行委員がいいというひと」
学級委員の言っていることも聞かずに何にしようかと悩んでいると、隣の席から身を乗り出してめぐみちゃんが話しかけてきた。
「ねぇねぇ、清水今手あげて委員会入っちゃったけど同じとこじゃなくていいの?」
「え?」
黒板を見てみると確かに清水くんの名前が書いてある。
「あと一人だれかいます「はいっ。わたしやります!」…か?」
「えっと、…じゃあ近藤さんよろしくお願いします」
とつぜん立ち上がって手を挙げた私を見て驚いている人たちがいたような気もするけどそんなの視界に入らなかった。
クラスの人の注目は私に向かっていたけど、時間がなかったから、司会の人が何事もなかったかのように続きを始めるとクラスの雰囲気は元通りになっていった。
「次は体育祭実行委員やりたい人いますか?」
清水くんと同じ委員会に入ることだけを考えてなんの委員会なのかも確認せずに手をあげた私は、無事同じ委員会に入れたことが嬉しくてたまらない気持ちを押さえて自分の入った委員会の名前を確認した。
(文化祭実行委員会?文化祭までお仕事ないけど、文化祭直前は忙しくてずっと清水といれるはず!)
係・委員会決めが終わったあと、教えてくれためぐみちゃんにお礼をいってから、私は幸せな気分で家に帰った。
◇◆◇
「近藤さん?話聞いてる?」
「え?あ、はい。聞いてます!」
「そう?ちゃんと話は聞いておいてね?で、食料品関係のブースをまとめるかどうかなんだけど──」
清水君と同じ委員会に入れた時のことを思い出していたら、ついつい委員長の話を聞きそびれてしまった。
(それにしてもあのときは嬉しかったなぁ~清水君と話すきっかけができたって家で大喜びもして…)
そんな風にまた考え込んでしまっていると、私の右肩がポンポンと叩かれた。
そちらを見てみると清水君が少しむっとしたような顔で話しかけてきた。
「ねぇ、ちゃんと話聞いといたほうがいいって」
「え?あ、うん。ごめんね、清水君」
「いや、いいんだけどさ。さっき注意されたばかりでしょ?」
「うぅ。そうだよね。気をつけるよ」
少し怒り気味のトーンで注意されたので軽く落ち込みながら答えると「はあ~」と清水君がため息をついた。
怒られるのかと思ってビクッと反応すると、清水君が声を抑えながら笑い始めたのでからかわれたのだとわかった。
からかわれたのはちょっとアレだけど、でもこれからもずっとこのままで──楽しく話したりできる関係でいたいなと思った。
私は、好きな人と話すので、いっぱいいっぱいだけど、清水君は優しくて、話すのも面白い。
幸せだ。ずっと、このままでいれたら良いのに…なんてことも思ってみたり…