夕暮れ時
気温は暖かいとはいえ、湖の水はやはり冷たく手早く身体を洗うと急いで服を着て焚き火の前に直行した。
「寒っ!」
焚き火の前に行くとパチパチと炎が冷え切った身体をゆっくりと暖めてくれ、ほっと息をつく。
私の声が近くで聞こえたことで上がってきた事がわかったのか男はこちらを向いた。その顔はニコニコしていてこの状況が愉快でしょうがない。そんな表情をしていた。
「どう、スッキリした?」
「うん、おかげさまで。貴方が助けてくれたのよね?ありがとう。」
私のお礼の言葉に男は焚き火に枝を追加しながら気にするなと言った。
話を聞くと彼はクロードと言うらしい。
見た目はどう見ても人間だが、彼は魔族らしい。聞くと魔族も人間もそこまで見た目は変わず、強いて言うなら長生きな事と必ずツノや羽など特徴があるとの事。しかしある程度力のある者なら隠す事も出来るので普通の人間では気が付かないだろうとの事だった。そう言うとクロードは真っ黒な翼をその背に出現させた。
いきなり現れた翼にびっくりして固まっている私を見てクロードは目を細め私の動きを観察している。
私はゆっくり羽根に手を伸ばすとゆっくりと頬を寄せてみる。ドクン、ドクンと翼からは血の巡る音がきこえ、作り物ではないことを私に伝えてきた。
「‥あったかぁーい。」
そう言うと私はすすっと翼に身体を寄せる。焚き火は暖かいがやはり日が暮れ始めたこの時間は風が冷たいのである。あまりの暖かさにこのまま寝てしまいたいくらいである、フカフカだし。しかし、次の瞬間翼はパッとまた消えてしまった。
抗議の目でクロードをみるとなんとも不思議な顔でこちらを見ていた。また肌寒くなったがあの余裕のある表情を崩せただけいいとしよう。
「…それでなんで私を助けてくれたの?ドラゴンに丸呑みにさせて。」
そう、私はドラゴンに丸呑みにされた。正確には口の中に入れただけなので飲み込んではいないらしいが同じ事である。
私の問いにクロードは表情をまた笑みの形に戻すと「あぁ、あれね。」と話し始めた。