他に方法なかったの?
『逃してあげよっか?』
突然頭の中に響くように男の声が聞こえた。私は思わずビクッと体を振るわせた。周りを見渡すが周りには女性しかいない。
『バレちゃうからなんでもないって顔してきいててね?逃げたいの?』
意味はわからなかったが返事を口にするわけにもいかないので心の中で返事をしてみる。
(‥そりゃ、逃げられるなら逃げたい。けど今動いても周りを囲まれてるし無理でしょう。)
困惑しながらも周囲に怪しまれないよう王様達の方を見つめていると余計困惑する返事が来た。
『‥わかった、逃してあげる。それじゃ、大人しく食べられてね?』
(はっ?)
次の瞬間左側の壁が凄い音を立て崩れ落ち、その穴から大きな黒いドラゴンが飛び出してきた。
「はぁっ!?!」
[[グガァアオォォッッ!!]]
私の間抜けな叫び声とドラゴンの雄叫びは同時にホールに響きわたった。壁をぶち破って侵入してきたドラゴンは躊躇する様子も見せずそのままの勢いでこちらに向かって突進してきた。
「キャーーーーッッッ!!!」
「なぜ、ドラゴンがこんな所に!!」
「まさか召喚の事が魔族にバレていたのか?!」
いきなりのドラゴンの登場で周りはパニックになった。
ドラゴンを止めようと先程の魔術師らしき男達や槍を持った兵士たちが周りを囲もうとするがドラゴンは大きな尻尾を振り回して走っている為近づけない。
ドラゴンは周りの事など御構い無しに一直線にこちらに向かってくる。
「嫌ぁーーっ!!」
「助けてー!!」
彼女達はドラゴンから逃げようと散り散りに逃げて行く。
だが私は動かない。
いや正確には動けないのだ。
それは恐怖のためではなく文字通り、足が地面に張り付いたように微塵も動かす事が出来ないのだ。
他の人から見たら私はどう見ても恐怖で動けない人だろう。
(なっ、なんで動けないの?!)
ドラゴンは目の前まで迫っている。逃げている他の人には目もくれず、一直線にこちらに。
(まさか…!!)
大きな口が目の前に迫っている中、私は先程の言葉の意味を急速に理解していく。
(‥っふ!ぶざけんなぁーー!!)
そうして私はドラゴンに頭から食べられたのである。