俺氏、仲間との絆を深める
高次元生命体対策本部
そこで本部長補佐の遠山彩姫は、書類を整理しながら疑問が沸いた。
「佐竹本部長。気のせいかもしれませんが、役付きの人間に「〇山」というタイプの名前が多いようですが…偶然ですよね。」
すると佐竹はあからさまに表情を歪ませた。
「遠山君、今の総理大臣の名前を知ってるか?」
「もちろんです、福山首相ですよね…え、まさか…。」
深く息をしてから佐竹は答えた。
「そう、そのまさかだ。アホ首相からの強い要請だ。龍山みたいな問題のあるやつが採用されたのも、この要請と無縁ではない。」
「信じられないことですね。」
「だが悪い事ばかりではない。遠山君や影山室長のように、優秀だが若い者が高い役職に就けただろ。それを考えたらプラスマイナス0だと思うぞ。」
遠山は一瞬クラっときてメガネを直す。
「今の首相が暗愚だと思っていましたが、想像以上でしたか。」
「政治と無縁な組織で働きたいよ。」
上層部に足を引っ張られる可哀そうな佐竹たちであった。
そのころ、今日も廃ビルに引きこもっている三人組。
ドラゴン和明、フェンリル薫、フェアリー熊代は、なんだかんだウマが合っている。
『俺は気づいてしまったよ薫さん』
『ほほー、何に気づいたのかな和明さん。』
『俺たちは日本にいるから困っているのだ。このまま異世界に旅立てれば勝ち組ではないか…とね。』
『天才か!』
あきれ顔のフェアリー熊代。
「で、どうやって異世界に行くのじゃ?」
『気合。』
『それな。私もそう思うよ、和明さん。』
ドラゴンとフェンリルが腕を組んでウンウン頷きあう姿は、どこか愛嬌がある。
その二人を見ながら、熊代から微笑が漏れた。
(非力なワシはいつか誰かと組まねばいけなかったであろう。ならばこの二人と組めたのは、存外幸運であったかもしれんな。)
この二人の馬鹿さ加減を好ましく思う熊代。
まさに孫でも見る気持ちで、ドラゴン和明とフェンリル薫を見つめる。
姿は小さい少女だが。
「異世界行きを検討する前に、ワシが食事でも出してやろうかのう」
熊代は目の前に次々と食事を出す。
その食事の種類は多岐に及ぶ。
和食、中華、洋食、イタリアン。
専門的なレストラン並みの品目が、大量に出てきた。
涎をたらしそうな勢いで、フェンリル薫はその食事に目を見開く。
『熊代さん!もしかして食事を作る能力があるの!』
「そのようじゃよ。生まれ変わるときにワシが願ったのは『腹いっぱい食べたい』『遊びたい』『健康でありたい』じゃったからの。そのせいで食事は自由自在じゃな。」
『熊代さん凄い!私、一生ついていきます!』
『俺も食事出せるけど、ファーストフードっぽいのしか出来ないから本格的料理はうれしいなあ。熊代さん、マジ優秀。』
「そ、そう褒めるでない。しょせんは神からもらった力にすぎぬ。誇れるものではないわい。さあ、遠慮なく食べるがよい。」
『ありがとう、いただきます!』
『あざっす、いただきます!』
ドラゴン和明とフェンリル薫は、器用に前足を使って食事をがつがつ食べる。
箸を使うドラゴンに、スプーンで器用食事を食べるフェンリル。
その二人を横目に、普通の大人と同じくらいの食事をモリモリ食べるフェアリー熊代(全長約20cm)。
三者三様に突っ込みたくなるような食事姿。
本人たちはもう感覚がマヒしていて、特に疑問にも思っていない。
最初に食事を終えたドラゴン和明は、影山が投げ渡してきた鞄を手に取ってみた。
中には、フェアリー熊代にちょうどいい大きさの服が数着。
スマートフォン。
事務用品。
携帯食料。
現金が100万円ほど。
そして、高次元生命体対策本部に関する資料書類。
(向こうは俺たちが人間の生まれ変わりだって知らないんだよな。なんでスマフォなんか入れてきたんだろう?書類も字が読めなかったら意味ないし。)
これ、影山はべつに意図的に入れたのではない。
フェアリー熊代用の衣類以外は、影山の装備品だ。
鞄の中に入れていたので、成り行きで渡してしまっただけである。
特に現金は影山のポケットマネーなので、影山は後からかなり後悔したのは言うまでもない。
そのあたりで食事を終えたフェンリル薫は、スマホを見つけ喜色を見せる。
『ちょっと和明さん!スマホがあるじゃない。それは私にちょうだいよ。』
『薫さんはスマフォの奴隷タイプ?俺は使わないからほしいなら上げるけど。』
『やった。WEB漫画やWEB小説の続きを見ることができなくて絶望してたの。ありがたいありがたい。』
『ああ…WEBができれば何でもよかったわけね。』
ドラゴン和明は、そっと現金を自分の亜空間収納にしまう。
ドラゴンになったので使うことはないだろうが、つい現金を優先してしまった。
フェアリー熊代は、書類の方に興味を示す。
「ほー、高次元生命体対策本部とかいう組織の事が、イロイロ書いてあるのう。日本にもこのような秘密部署があるとは驚いたわい。」
大きな書類と格闘しているフェアリー熊代に、ドラゴン和明はそっと手を伸ばす。
『熊代さんにも亜空間収納や、ステルス魔法を付与するよ。それ以外にもなんか希望があったら言ってくれ。5~6個なら問題なく付与できると思うから。』
「それは有難いのう。では身を守ったり逃げるのに便利な手段があったらもらえぬか?ワシは貧弱なものでな。」
『いいよー、じゃあシールド魔法と高速移動魔法でどうだろう。ところで熊代さんは自前の魔法は使えないの?』
「そういう便利なものが有ったら、ガキに追いまわされて逃げまわっておらんよ。」
横からフェンリル薫がのぞき込んで来る。
『でもフェアリーなんだから何かあるでしょ。ちょっと能力を覗き見していい?』
「おうおう、好きに見ると良い。ワシの貧弱さが浮き彫りになるだけだと思うぞ。」
『では失礼します』
鑑定魔法を使う。
ドラゴン和明も一緒に見てみた。
名前:山田熊代
種族:フェアリー(幼生)
年齢:97才
肉体強度:弱
魔力:高
魔法:幻惑、幻覚、状態異常誘発、回復操作、能力強化支援、
虫操作、植物操作、念話。
能力:飛行、透明化、水移動、影移動、鏡移動、転移ゲート。
すり抜け、万物対話能力。
祝福:健康(不死身、高速自己修復、不老)
満腹(一日10食分好きな料理が出せる)
あそぶ(いたずら成功率100%)
補測:万人が可愛いと感じる。
『充分チートじゃあああい!』
『うわ、びっくりした。いきなり叫ばないでよ和明さん。しかし言ってることは激しく同意。』
「ビックリしたのじゃ。何を叫んでおる。何が見えたのじゃ。」
和明は、影山の渡してきたノートにフェアリー熊代の能力を書き出して渡す。
『これが熊代さんの能力だ。これに俺がこれから亜空間収納、ステルス魔法、シールド魔法、高速移動魔法を与えるんだ。相当強いぞこれ。』
熊代は自分のステータスを見て目を丸くする。
「これがワシの能力…、ワシ凄いじゃないか。」
逃げ続けた二日間を思い出してため息をついた。
「これが分かっておれば苦労はしなかったのにのう。しかし鑑定魔法とは便利じゃな、この魔法ももらえるか?」
『いいよー。じゃあ付与するからジッとしててな。』
ドラゴンの手で熊代を包むと、集中する。
熊代はしばし光る。
「おお、ワシに新しい能力が追加されたのが分かるぞ。これは助かる。」
すぐに亜空間収納を発動させて、書類資料を格納した。
体が小さいので、これで物を移動させるときなども便利になる。
フェンリル薫はスマホでカシャリとはしゃぐ熊代を撮影した。
『笑顔で飛び回るフェアリー。これをツイッターに投稿したらバズったろうに。残念ね。』
『薫さん、そこはインスタやフェースブックじゃないの?』
『おしゃれ人種どもと一緒にしないで。わたしはツイッターとミクシィ派の31才独身ですが何か?』
『お俺はツイッターとブログ派。ユーチューブよりニコニコ動画好きの34才独り住まいだ、こんちくしょう。』
「二人とも、何を訳の分からない事を言っておるのじゃ。ちなみにワシは産経新聞と朝日新聞を読み比べるのが趣味の97才独居老人じゃ。文句あるか。」
三人はしばらく無言で見つめあい、ガシッと抱き合った。
何かが通じ合ったらしい。