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俺氏、若者を感じる

高次元生命対策本部


本部長の佐竹は、第七室室長の影山早紀から報告を受けた。


「折角コンタクトが取れた対象を逃がした理由が、第一室の命令違反だというのか。」

「はい、龍山景樹室長がフェアリー(仮)に危害を加えてしまったためです。」


頭を抱える佐竹。

(あれほど攻撃は本部の指示を仰げと厳命していたのに。)


何とか気を取り直し報告書の続きを読む。

フェアリーとは日本語でコンタクトが取れた事、さらにフェアリーはドラゴンやフェンリルと会話ができたことが書かれている。


「くそ、龍山はとんでもないチャンスを棒に振ってくれたな。」

「龍山室長さえ来なければ、ドラゴンやフェンリルとも意思疎通が取れそうでした。あのバカはクビにできないんですか。可愛いフェアリーさんを撃つとか信じられませんよ。」


佐竹は苦々しい顔で胃のあたりをおさえる。

「それができれば私も嬉しいのだがな。あれは最大野党側からの推薦らしい。クビにするには人的被害でも出んと無理だ。」

「くっ、活動家上がりですか。テロリストや暴力団と変わらない連中と仕事をするのは苦痛です。」

「すまん、耐えてくれ。」


影山早紀は公安あがりだ。

なので、活動家が心底嫌いなのは仕方がない。


彼女は優秀だったが、20代で功績をあげすぎたため同僚と軋轢が起きていた。

高次元生命対策本部への異動も、そういう小さなトラブルの積み重ねと無縁ではない。


だが、興味を持ったヤマにはとんでもなく優秀だったため、佐竹は彼女を第七室長にした。


実際それは正解だったと言わざるを得ない。

高次元生命対策本部で初めて幻想生物とのコンタクトに成功したのだ。


影山は怒りをこらえるように言葉を絞り出す。


「ではせめて、フェアリーさん案件には絶対関われないようにしてください。それと私が仕込んだ発信機の件も向こうには伝えないでほしいです。」


「もちろんだ。いまから第七室はフェアリー対策室と名前を変える。以後、他の対策室のどこよりも優先権をあたえる。」

「はっ、ありがとうございます!」


敬礼する影山は、にやりと微笑んだ。

そんな影山の横から遠山彩姫が現れる。


「影山室長、失礼いたします。ですが龍山室長への発砲はやりすぎでは?見事に両肩と両足を撃ち抜いていましたよね。」

「頭を撃たなかった自分をほめてあげたいです。」


「…影山室長の負傷は、最初の不意打ちで受けた脇腹だけですか。」

「テロリストと正規の訓練を受けた者の違いを見せてやりました。」


遠山は困り顔ではありつつも、どこか微笑んでいるようにも見える。

「職員間のトラブルはほどほどにお願いしますね。」

「それは向こう次第です。」


ニヤリとする影山。


佐竹は手元の画面を見ながら内心ため息をつく。

(たしかに影山は優秀だが、どうにも暴走しそうで怖いな。)


画面には地図が映っていて、廃ビルの個所に赤いマークがついている。

影山が和明たちに渡した鞄のマーキングだ。


(だが、臨機応変で優秀だ。公安出身はこういうところが抜け目なくてありがたいな。)


咄嗟にドラゴンとフェンリルの居場所を特定できる仕掛けをしたのはさすがとしか言えない。


その優秀な影山があげてきたからこそ、報告書の内容が一部気になっている。

フェアリーがドラゴンとフェンリルを「優しい」とか「愉快な奴ら」と表現しているという箇所だ。


(フェアリーは服をくれた影山をかばったという。フェアリーが善良であるのは間違いないだろう。そのフェアリーが気を許したというのが気になる。)


現在は、能力的に脅威度が高いドラゴンやフェンリルを最優先に調査していたが、実は危険度自体は低いのではないかという疑念がわく。


じっさい、影山たちに危害は加えなかったし龍山にすら攻撃していない。


「これは、根底から方針を考え直さないといけないかもしれないな。」




そのころ

埼玉の山奥で、二羽の鳥が身を寄せ合っていた。

炎を身にまとった巨大な鳥と、蛇の尻尾をはやした大きな鶏。


フェニックス(大山加奈)とコカトリス(井上正雄)である。


『グリフォンの奴は頭おかしいわ。』

『いきなり喧嘩を売ってきたのですか。近づきたくないですね。』


『そうなのよ。なんか「俺TUEEE伝説の始まりだ~!俺のパワーは最強だぞ、奴隷になるか倒されるか選べ!」とか言って来たのよ。信じられないでしょ。』

『…良く大丈夫でしたね。』


『腕力自慢らしいから、近づかないで焼いてやったわ。』

『なるほど。そしたらどうなりました?』


『…あっけなく気を失って墜落していったわ。』

『そいつ、馬鹿ですね。』

『ええ、間違いなく馬鹿ね』


この2羽の出会いは1時間ほど前。


コカトリス(井上)は生き物に近づくだけで心臓を石化で止めてしまう事に気づいた。

なので、極力自分の気配を殺して生き物のいない場所を探した。


フェニックス(大山)は、グリフォンが追ってくると嫌だったので気配を消して生物の少ない地上を歩く。


そこで出会った。

お互い、人間ではない大きな気配を近くに感じて確認したくなった。

で、そっと近づき、慎重に会話を始めてみる。


するとコカトリス(井上)はフェニックス(大山)が自身の放つ石化の呪いを無効化していると気付く。

これでコカトリス(井上)はフェニックス(大山)に安心して近づいた。


フェニックス(大山)の方も、言葉を交えると落ち着いた雰囲気のコカトリス(井上)に心を許し今に至る。



しばし会話を進める二羽。


ピキーン

コカトリス(井上)の感覚に違和感が走る。


『おや、東京の方では3人ほど人外の気配をまとった人が一緒に行動していますね。』

『本当に?ちょっとまって、私も気配を探ってみるわ。…えっと、ドラゴンとフェンリルとフェアリーみたいね。』


『ドラゴンとフェンリルですか。また強そうな人達が組んだものですね。そこにフェアリーが一緒にいるというのは違和感を感じますが。』

『そう?出会ったから適当に友達になったんじゃないかしら。』


『しかし…』

『そんなものだと思うわよ。井上さんは考えすぎなのよ。』

『そんなものでしょうか?』

『そんなものよ』


大学院生だった井上正雄と、女子高生だった大山加奈は真逆の性格ながら上手くかみ合いつつある。


お互い鳥系であるという事も気を許す要因になっているようだ。


またピキーンとコカトリス(井上)に直感が走る。


『おや、人外の人が気配を殺してこちらに近づいて来ているようですね。』

『そうなの!ちょっとまって私も気配を探るから。…うわああマジか。』


『どうしました?なにかマズい状況でしょうか?』

『こっちに向かってるの…、リッチだわ。』


コカトリス(井上)の方眉がピクリと動く。


『リッチ。たしかアンデットの魔術師ですよね。』

『うん、アンデットの王として語られることもある骸骨さんよ。』


『念のため逃げましょうか。』

『え?逃げなくてもいいんじゃな?コッチはいざとなったら飛べばいいんだし。』

『少し油断しすぎでは?』

『大丈夫よ、きっとコッチの言葉も通じると思うわ。』

『根拠は?』

『勘ですが何か?』


コカトリス(井上)は小さくため息をつく。

(せめて僕だけでも警戒して身構えないと)


そして待つこと数分。


ローブを身にまとった大きな骸骨が現れた。

身長は2メートル以上。


全身からは死の気配が漂っている。

フェニックス(大山)とコカトリス(井上)は、その異形にゴクリと唾を飲み込んだ。

見つめあい緊張が走る。


するとリッチはカタカタと震える手を上げて

「あ、あの…、言葉通じますか?わ、わ、わたし少し前まで人間だった者なんですけど…。」


「ケーーーーン(うわ、ずいぶん気の弱そうなリッチね。)」

「コケーーーー(たしかに。思ったよりも弱弱しいですね。)」


「あ、言葉が通じてよかった。わわ、私は橋本アズサと言います。」


「ケーーーーン(女の子キタコレ。ねえねえ、何歳なの?)」

「え、えっと、14歳でした。昨日死にましたけど。」


「ケーーーン(私は大山加奈、16歳よ。昨日死んだけど。みんな昨日死んでて草。)」

「コケーーー(いや死んでるのに草はないでしょ。僕は井上正雄、23歳です。僕も昨日に死にました。)」


「し、死んだ人仲間ですね。ちょっと安心しました。」


こうして、埼玉の山奥でフェニックス・コカトリス・リッチのトリオが結成された。

平均年齢は約18歳。




そのころ

廃ビルの中で自己紹介を終えたドラゴン和明、フェンリル薫、フェアリー熊代は複雑な表情をしている。


『つまりあれか、俺たち三人の平均年齢は54歳か。』

「すまんのう、ワシが一人で平均年齢を上げてしまって。」


『ちょっと和明さん、女性に年齢聞いて平均年齢出すのとかやめてよね。最年少の私は気にしないけど。』

『さりげなく最年少という言葉を突っ込んでくるとは。さすが薫さんだ、セコい。』


『…噛みつかれたいの?』

『すいませんした!』


あきれ顔の熊代。

「お主ら、ホント愉快な奴らよの。そういえばほかの人外の連中はどうしておる?影山の話では13体いるらしいが。」


『さすが熊代さんね。その情報は重要。和明さんが感じた気配と同じ数ってことは信ぴょう性は高いわね。』

「ほう、お主らの感覚はすごい物じゃのう。」

『熊代さんは感じないの?』

「草木や風といった自然の気配は分かるのじゃが、動物に関しては良くわからんのう。」


『なるほど、俺達とは感覚の種類が違うっぽいな。能力がかぶってないのは地味に助かる気がする。』

「そう言ってもらえると、非力な役立たずとしてはありがたいわい。」

『そんなことはないぞ。人型で人間と言葉が交わせるってだけでも羨ましいよ。俺たちとしても仲間になってもらえれば心強いよ。』

『そうそう、命乞いする時とか言葉が通じるだけで助けてもらえる可能性が高まるからね。』


「なるほどの、言葉が通じるというのは確かに大きいかもしれんな。で、ほかの人外たちはどうなっておる?」


『ちょっと待ってくれ。えっと、フェニックスとコカトリスとリッチは一緒に行動しているみたいだな。気配からすると、この三人は若そうだ。』

「それは若くして死んだという事じゃろ。可哀そうに。」

『ほかの連中は単独行動のようだ。』

「そうか、ありがとうな。」

『ノープロブレムさ。マダム。』


幻獣たちが少しずつまとまり始める。

それは人間側からすれば、頭の痛い出来事ではあった。


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