俺氏、妖精に向かう
痴呆症だった山田熊代は実にくだらない死に方をした。
死因は病院で食事をしてた時、間違えて携帯電話の電池パックを食べたため。
わざわざ携帯電話の裏ブタを開けて、箸でつまんで口に放りこんだ。
鋭利な入れ歯でかみ砕かれた電池パックが高熱で発火。
それを飲み噛んだため死んだのだ。
そのあと、白い部屋できれいな女性に会い三つの願いを聞かれた。
しかし痴呆が進んだ頭では考えることができず、
「ご飯が食べたい」「遊びたい」「健康になりたい」
と願ったのだ。
そして気づいたら、羽が生えた体に生まれ変わっていたのだ。
しかもすべてのモノが異様にデカイ。
(何が起きた?ここは巨人の国?)
享年97歳。
最初は戸惑った。
痴呆のせいでボケていた頭が正常になり、思考力が上がったゆえに困惑もした。
そしたら、バカでかい子供に追いかけれて、慌てて逃げた。
(なんなんだこの世界は!)
逃げながら徐々に気づく。
世界が巨大なんじゃない。
自分が小さいのだと。
気づいてしまって、逃げながらビビって泣いた。
ボケた頭では久しく感じなかった、感情の波が起きる。
恐怖
ただただ怖かった。
泣きながら何とか逃げ切り隠れる。
だがすぐに誰かに見つかってスマホを向けられる。
だから逃げる。
必死で逃げる。
逃げても逃げても、誰かに見つかり捕まりそうになる。
丸一日は逃げ続けたのではないだろうか。
必死逃げていたら…
黒い服を着た女たちに囲まれた。
一瞬動きを止めた瞬間に、虫取り網のようなもので捕まってしまう。
(やめよ、助けて!)
女たちは小さい熊代を捕まえると、手早く服を着せてくれた。
(え?何をする気だ?)
その時はじめて自分が全裸だったと気付く。
少し恥ずかしくなり身を縮めると、リーダーらしき女が熊代を優しく手で包んだ。
「フェアリーさん、言葉は通じますか?自分は高次元生命体対策本部の第七室の影山早紀と申します。あの・・・言葉通じますか?」
話しかけられて驚いた。
だが、急いでコクコクとうなずいて声を張り上げる。
「お前たち!ワシを捕まえてどうするつもりじゃ!」
女たちが動揺しているようだった。
影山早紀と名乗った女の頬が緩む。
「うわー、ワシ可愛い。」
(意味が分からん。)
そしてそのまま説明された。
彼女らは日本に発生している謎生物に対応する部署の人間であると。
そして熊代もまた謎生物に認定されていることを説明された。
説明を聞くこと数分。
最後に影山は手の上に載った熊代に深々とお辞儀をした。
「フェアリーさん!どうかこのまま我々に同行をお願いいたします。本部で保護させていただきますので。」
熊代は迷った。
一緒に行けばもう怯える必要はなくなるかもいれない。
だが、信用していいかは分からない。
そう迷っていたら・・・
「ぎゃおおおおん(あんた大丈夫か!助けるぞ。)」
「わおおおおおん(妖精さん、捕まってるの?助けようか?)」
ドラゴンとフェンリルが現れた。
いきなり現れたドラゴンとフェンリルに、影山たちは立ち尽くす。
「う、うそ。私・・・死んだかも。」
影山は早くもあきらめた。
熊代は慌てて影山の前に飛び上がって両手を広げてかばう。
「まて、まつのじゃ!こやつらはワシに服をくれただけで危害は加えられていない。だから待つのじゃ。」
「ぎゃおおおおん(そうなのか?俺たちは怯えた感情を感じて助けにきたんだが。)」
「たしかに先ほどまでは怯えていた。じゃが今は大丈夫じゃ。」
「わおおおおん(確かに今は怯えていないみたい。和明さん、これっておせっかいだったんじゃないの?)」
「ぎゃおおおおおおん(まじか!俺はなけなしの勇気を振り絞って飛んできたのに。)」
「見も知らないワシが怯えていたから、わざわざ助けに来てくれたのか…。お主ら、見かけによらず優しいのじゃな。」
「ぎゃおおおおおん(さらに俺は見かけによらず小心者だZE。)」
「わおおおおおおん(おっと。私の方が小心者だね。)」
「お主ら、しかも結構愉快な奴らじゃな…。」
熊代が少し呆れていると、うしろからツンツンつつかれた。
「フェアリーさん、もしかしてドラゴンとフェンリルの言っていることが分かるのですか?」
「は?お主らには聴き取れぬのか?こ奴ら結構愉快な連中じゃぞ。」
「愉快…。そうなのですか?」
和明はこの会話を聞いていて希望を感じた。
「ぎゃおおおん(妖精さん、俺たちの言葉を人間に伝えてくれ!一方的に攻撃されて困ってるんだ)」
ドキュン
いきなり弾丸が和明をかすめた。
「ぎゃおおん?(な、なんだ?)」
「見つけたぞドラゴン!ここで始末してやる!」
それは和明が最初に出会った警察の指揮官だった。
手にはライフルを持っている。
(ヤバイ、逃げなきゃ)
和明は急いで飛び上がろうとした。
すると影山が悲鳴を上げる。
「いやあああ!フェアリーさんが!」
見ると熊代の体が右半分吹き飛んでいた。
影山もわき腹から血が出ているが、自分にかまわず熊代の体からの出血を止めようとしている。
(ヤバイ・・・何かしなくちゃ。でも何をすれば。)
ドキュン、ドキュン
弾丸はまだ飛んでくるが、なぜか和明に当たらない。
「わおおおおおん(和明さん、ドラゴンに回復魔法とかないの?)」
「ぎゃおおおおん(わかんない。今探すから待って!)」
急いで和明は熊代を両手で覆う。
そうしている間にも、
ドキュン ドキュン
弾丸が飛んでくる
和明の横を弾丸はかすめ続ける。
(回復魔法…くそ、焦りすぎてうまく遺伝子から記憶を引っ張り出せない。)
焦って回復魔法を探せない。
だが、和明が何もしていないのに熊代の体は光りながら回復をした。
「ぎゃおおおおん(え、俺は何もしていないのに回復した?)」
熊代はパチリと目を開けた。
「なんと、どうやらワシは不死身らしいのう。」
自己回復しただけだった。
熊代は生まれ変わるときにした三つの願いの一つ「健康になりたい」で常に健康であるように設定されている。
つまり即死以外はすべて「健康な状態」に戻ってしまうのだ。
影山は、手に持っていた鞄を和明に投げた。
「ドラゴンさん、その中にイロイロ入っています。それをもってフェアリーさんと逃げてください。第一室の馬鹿は私が引き付けます。だから覚えておいてください。あなた達の味方もいるのだと。」
そういうと腰から銃を抜き、和明を撃ってきた男に発砲しだした。
「龍山!よくもフェアリーさんを撃ちやがったな!」
パンパンパン
(いや、あんたも撃たれたのに怒るのはそこか。しかも躊躇なく撃ったぞ。)
「ぬかせ影山!邪魔するな!」
ドキュン、ドキュン
「わおおおん(和明さん、今のうちに逃げよう)」
「ぎゃおおおん(そ、そうだな。影山さんの死を無駄にしてはだめだよな)」
「こら、影山はまだ死んでないぞ!」
和明、薫、熊代の3人は上空に飛びあがりステルス魔法で消えた。
三人は姿を消して上空500mほどまで上がると地上を見下ろす。
仲間に取り押さえられる龍山の姿が見えた。
影山は、仲間に手当てされているようだ。
『影山さんは大丈夫っぽいな。』
『そうね、龍山とかいう奴も取り押さえられたみたいだし、一安心かな。』
「おぬしら、よくここから見えるな。わしには全く見えんぞ。」
『俺、ドラゴンなので(ドヤ顔)』
『私、フェンリルなので(得意顔)』
「そうかい、ワシはフェアリーで悪かったのう。」
『いやいや、悪くないぞ。でも俺を頼っても良いのだよ。』
『そうそう、強い種族の私も頼ってくれてよくってよ。』
「おう、そうさせてもらうわい。で、まずは休める場所を探してくれぬかのう。落ち着きたいのでな。」
そして3人は、ワイワイしながら廃ビルに向かった。
影山から受け取ったカバンについている飾りが、ピコピコ光っていることに気づかずに。