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俺氏、眠れなくなる

誤字報告、ありがとうごじあいます。

ドラゴンの佐藤和明とフェンリルの鈴木薫。

二人はステルス魔法で姿を隠し、廃ビルを見つけた。


あたりはすでに暗い。

ビルに入り込み、中で睡眠を取ろうとした。


だが二人にとって予想外だったのは・・・


『俺、眠くないんだけど。』

『私も眠くない。』


上位種族である二人には、睡眠が必要なかったことだ。

和明は、ドラゴンの遺伝子の中にある教養をさぐる。


『しまった、先に種族情報を確認すべきだったな。』

『どういう事だってばよ。』


『どうやら上位種族はあまり睡眠を必要としないらしい。日に2~3時間だけ少し頭の回りが鈍くなるらしいけど。』

『眠らないで、頭の回りが遅くなるだけってこと?』


『正確には、脳を少しずつ眠らすらしい。12の領域を数分ずつ交代で眠らすから眠る必要はないっぽい。完全に眠るとしたら、瞑想か急速回復か進化の時くらいなようだぞ。』

『それってフェンリルも?』


『…薫さんには種族の記憶はないの?』

『うーん、少しあるけど生きるための最低限のものだけっぽいよ。多分フェンリルは親から教育されるタイプなんじゃないかな。』


どうやら上位種族にも違いがあるらしい。


『そうなんだ。一応ドラゴンの記憶にはフェンリルの情報もあるぞ。一日3時間くらい頭が鈍るらしい。ちなみにドラゴンは2時間ほど鈍るっぽい。』

『ええええ、じゃあ眠れないの? 寝るの大好きだったのに。』

『瞑想で代用してみたら?』

『マジか…、転生は失うもの多すぎ…』


ぼやきながら、身を丸めて目をつぶる。

一応瞑想を試すようだ。


『じゃあ俺も瞑想を試すかな。』

和明も目をつぶり瞑想に入った。




そのころ

高次元生命体対策本部


本部長席で佐竹はダンディな顔を苦々しく歪ませている。

手狭な対策本部なので、本部長席といっても大部屋の端っこでしかない。

周りでは所員が忙しく動きまわっている。


そのなかで報告書から目を上げた。


「フェニックス(仮)も見失っただと!あいつらデカイ体でどこに消えるんだ。」


現在、高次元生命対策本部が確認できている存在は


ドラゴン(仮)

フェンリル(仮)

フェニックス(仮)

ベヒモス(仮)

リバイアサン(仮)

グリフォン(仮)

コカトリス(仮)

巨大スライム(仮)

ペガサス(仮)

ネッシー(仮)

フェアリー(仮)

オーガ(仮)

リッチ(仮)


4日で13体発見できた事は良いのだが、佐竹は情けなくも感じていた。


「動画配信サイトやSNSの情報のほうが、我々よりも早いのだから悲しくなるよ。」


13体の幻想生物を発見したのは、ほとんどがSNSだった。

おかげで外見的特徴を示した画像が入手できたのだから文句をいう事ではないのだが。


補佐官の遠山彩姫は、眼鏡をクイッと直しながら苦笑いをする。

「本部長、逆に考えましょう。国民が進んで情報を上げてくれているので。良い事ではないですか。」


遠山とて複雑な気持ちだが、佐竹よりも若いためかSNSの情報が早いことに疑問は感じていないようだ。


佐竹はコーヒーを一口飲み気持ちをリセット。


「そうだな、捜査が進むのだ。贅沢は言えぬか。しかし、対象を補測した後に見失いすぎではないか?現在5体も見失っているのはマズイぞ。」

「確かに良くないですが、相手は未知の存在です。むしろすでに8体を補測していることの方が驚きだと思います。」


ダンディな表情からため息が出る。

「はあ、だが危険度が判明している対象を見失っているのはマズいのだ。しかもデカイ奴を複数見失っている。上に説明するときに困るのだよ。」


「ドラゴン(仮)、フェンリル(仮)、フェニックス(仮)、リバイアサン(仮)、コカトリス(仮)。確かに危険そうなのばかり見失ってますね。」


「そうなのだ。フェアリー(仮)やペガサス(仮)を見失ったならまだしも、やばそうな連中ばかり消えやがった。勘弁してくれ…。」


そこで遠山は映像を再度確認する。


ドラゴン(仮)がブレスでミサイルを迎撃し、無人島の基地を一瞬で蒸発させた映像。


フェンリル(仮)が戦車の徹甲弾を食らったのに、無傷で逃げた映像。


さらに先ほど手に入れた映像も見る。


フェニックス(仮)がグリフォン(仮)と空中で戦い、あっけなくグリフォン(仮)を燃やして撃墜する映像。


リバイアサン(仮)が日本海を潜航していた他国の潜水艦を、次々に三つも空中に投げ出す映像。


コカトリス(仮)が歩いていくと、近くにいたカラスたちがバタバタと死ぬ映像。


そのあとに流れる


中学生に追いかけられて半泣きのフェアリー(仮)や、幼女を背に乗せて優雅に歩くペガサス(仮)の映像には少し癒された二人。


佐竹は近くにあった報告書を手に取る。

「どうやら、すべての幻獣が危険なわけではなさそうなのは救いだが。ベヒモス(仮)はどうしている?」


「はい、北海道道警が見張っていますが農家のジャガイモを奪って食べたこと以外に動きはありません。」

「おとなしい気性なのだろうか?農家に賠償してやれ。それと不自然にならない程度に野菜をばらまいておけ。もしかすると空腹にならなければ暴れないかもしれないからな。」

「かしこまりました。」


指示を出すために立ち去る遠山。

本部長席に残された佐竹は、まだ流れる動画を見ながらふと気づいた。


「フェニックス(仮)とグリフォン(仮)は、なんで喧嘩になったんだ?」


動画を早戻ししてみた。

すると興味深い事に気づく。


『ケーーーーーン』

『ピーーーーヒョロロ』


しばらく会話するように鳴きあってから喧嘩が始まった。


「こいつら、もしかすると会話してるのか?」







2時間ほど瞑想して目がさえた和明と薫。


『俺的には瞑想はありだな。好きに夢を見れた。』

『そうだね、私もアリかな。フワフワして気持ちよかった。』


『瞑想スパシーバ』

『瞑想ハラショー』


二人は瞑想が気に入ったようだ。


『で、どうしようか。』

『どうしましょうかねえ。』


『俺考えたんだけどさ、ペットとかになれないかな。』

『…私はギリギリいけるかもしれないけど、和明さんは無理じゃないかな。』


『ほら、大きさを変える魔法で小さくなれば妖精っぽくなりそうだし。』

『和明さん?』


『羽が生えた小さい存在って妖精じゃん。薫さんとセットでペット枠にギリ行けるんじゃないかな。』

『和明さん?』


『いける!いける!いけるよね、ねえ、いけるって言って、お願い!嘘でもいいから。』

『和明さん、残念なお知らせがあります。』


『嫌、聞きたくない。』

『現実から目を背けても無駄です。ドラゴンが小さくなっても妖精には見えません。』


『いやああああ、うそおおおおお。』

『せめてフェニックスとかなら珍しい鳥とかで誤魔化せたかもしれないけど、ドラゴンはねえ…。羽根がある段階でトカゲにもなれないし。』


『くそおお、この羽根か。これさえ毟り取ればいけるのか。』

『和明さん?』


『やるぞ、やってやる。羽根をちぎる程度できる。俺はできる子、俺はやれる。』

『ちょ、和明さん?』


『うおおおお!やったるわい!』

『ちょっと!マジなの、和明さん!』


和明は自分の背中から生えた羽根をつかむと、力いっぱい引きちぎろうとした。

『えい!えい!えい!』

『うわー、心配して損した。めっちゃ頑丈じゃん。』


引きちぎれなかった。


『くそおお、俺はトカゲになる事すら許されないのかあああ。』

『ごめんね、私だけ犬になれちゃって…。』


和明はしばらくシュンとしたが、すぐに復活。

『いや薫さんは謝らないでよ。転生してからまだ一日目だし。時間かければきっと解決策はあるし。』

『和明さんのそのポジティブさ、尊敬するわ。』


それは薫の心からの言葉だった。

公園で一人泣き言しか言ってなかった自分とは大違いなのだから。


『あ、良い事思いついた。』

『(また何かくだらないことを思いついたんでしょうけど)ほほー、続けたまえ。』


『まずドラゴン感覚やフェンリルセンシズで困っている人を探すだろ。そして助けて匿ってもらうのだ。どうよ。』

『うーん、微妙。』


『えー、俺的には良い考えだと思うんだけど。』

『まあ、微妙だけどやらないよりはマシかもね。おっけえ、まずはそれを試しましょうか。』


そして二人は目をつぶり感覚を研ぎ澄ます。

上位種になった二人は、五感とは違う感覚も持っている。

世界を感じる能力。


和明は奇妙なものを感知する。

『んん?なんか変なのがいるな。11人ほど異質な人間がいるぞ。沖縄から北海道まで分布してる。』


薫も目をつぶりながら小首をかしげる。

『私は関東程度しかわからないから、5人ほどしか見つからなかったよ。っていうかこれは人間じゃないよ。コカトリス、フェアリー、フェニックス、グリフォン、リッチね。』


『まじか、よく分かるなあ。探査範囲は俺の方が広いけど精度は薫さんの方が上か。』

『そうみたいね。どうする?困っている人を見つけるのを優先する?』


和明は腕を組んで考える。

もしかすると、自分たちと同じように人外に転生した人がいるかもしれない。

だったら接触してみたいと思う。

しかし、相手が友好的でなかったら、伝説的な幻獣と戦う必要があるかもしれない。


『興味はあるけど、今は自分たちの安全を優先しないか?ないとは思うけど戦いになったら怖いし。』


言われて薫はしばし思考した。

『そうね。確かにみんなが私や和明さんみたいに小心者だとは限らないもんね。』

『そうそう、俺たちみたいに小心者じゃやなかったらヤバイからね。』


二人は頷きあうと、また目を閉じて感覚を研ぎ澄ます。

困っている人を探して。


数秒目をつぶり二人はまた目を開けて顔を向けあう。


『俺の勘違いでなれば、小さい人外がめっちゃ困ってる気配を発してるんだが。』

『私も感じた。フェアリーっぽいのが「助けてー」って言いながら人間から逃げてるっぽい。』


『この小さい気配はフェアリーなのか。なんか小心者っぽいところが共感できるんだけど。』

『奇遇ね、じつは私も。』


黙って頷きあうと二人はビルの窓から空中に飛び出した。

飛び出すと同時に薫は元のサイズに戻る。


向かうは当然、フェアリーのもとへ。


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