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アナザー・ドロップ~裁きの漆黒眼  作者: 瑞祥颯
第一章
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4話 王都へ

 何はともあれ、ある程度まとまったお金はできたと思う。

 旅はお金がかかるものだから本当は、まだ足りないと言っていいだろうけど、ずっとここでお世話になりっぱなしという訳にもいかない。

 零の故郷に行くという目的もできたのだから、今着ている日本の衣服の恰好という訳にもいかないけれど、服については道中にあるだろう洋服店で購入しよう。


 あとは、危険も伴うはずだから、ナイフ程度でも身の丈に合った武器があったほうがいいかもしれない。

 そう考えると、いくらお金があっても足りないかもしれない。

 部屋で、うがあああ!と頭を抱えているとコンコン、と扉を叩く音がした。


「はい、どうぞー」

「よ。」


 ノックしていたのはマリカだった。今更何の用だろうと思っていると、僕に何か袋をつけつけてきた。

「え、何?」

「服。」

「え?」

「だから服。どうせあんたの事だし…ここんとこ、何か色々ここを出る為に金策してたみたいだし…親父が、大事な金を服買うだけで無くなるのも勿体ないだろうって」

「あ……ありがとう」

 特に彼らに説明した訳ではないけれど、こういう時はありがたいの一言に尽きる。

「中を見ていい?」

「えっちょっと!」

 一言断ってから中を見ると、明らかに新品に見える、男性物のシャツと、女の子用の旅用の服が一式揃って入っていた。エウゲンさんが買ったとも思えない女の子向けの服を見ると、マリカが買ってくれたんだなと思えてくる。

「…なんか、致せりつくせりだね。色々と揃えてくれたみたいだ。本当にありがとう」

 くすくす笑いながら言うと、マリカは真っ赤になる。

「…!金は!親父だから!別に、そんな…」

「うん、わかってるよ。でも、ありがとう」

 僕がそう言うと、小声で彼女は、「お、おう」と呟いた。

 

 服の一式は、着心地のいいモノだった。僕の服は、前開きのシャツにベスト。さすがにズボンも一応中に入っていたけれど、これは予備としてとっておくとしよう。あの後、さらに靴も持ってきてくれてさすがに吃驚したけれど、その靴も長旅にもぴったりで、頑丈そうなブーツで、とても安心する。ちなみにナイフは自分で購入しておいた。あまり高いものは買えないから、小刀といっていいものだけれど腰に付けておけば、何かの時に使えるだろう。

 僕が服を着てみている横で、零も着替えをすませていた。

 零は、シャツの上に防刃ベスト、それにキュロットスカートのスタイルだ。腰には、エウゲンさんの友達が作ってくれていたらしい刀を差している。そして、足元はしっかり女の子らしい長ソックスに太ももまでのブーツを履いていて、冒険者とも劣らない恰好をしている。

 その隣で、仲良くなった犬のモリーがしっぽをぱたぱたとさせて、僕も一緒にお供するぜ!とでも言うようにお利口に座っていた。

「モリーも行く気か?」

「わふっ」

 試しに僕が言ってみると、もちろんだぜ!とでも言っているのか、ご機嫌なまま其処を離れない。まさかとは思うけれど、別れたあと、ついてこないように気を付けたほうがいいかもしれないな。

「零、服に違和感とかはないか?」

「大丈夫。」

「そっか」

 よし、と準備ができたところで、邪魔になるであろう物の保管をお願いしにエウゲンさんがいるであろうギルドの奥の執務室へと向かう。先日入った会議室の隣なので部屋を間違えることはないが、一応ノックは忘れないようにしておこう。

 執務室前にはすぐに着いて、ノックをする。しかし返答はなく。僕はもう一度、ノックをしようとした。

「あんた、何してるの?」

「マリカ」

 何か嫌なものを見たかのようにマリカが後ろから小突いてきた。

「うちの親父、普段からそこ、殆どいないわよ。だいたい裏で新人の剣を鍛えてるから」

「えええ…そうなんだ。」

 なんとなくだけど、あのエウゲンさんの立ち振る舞いを見ていると解る気がする。事務的な事は少し苦手で、体を動かすことが好きで、できるなら新人の腕を鍛えるために何かを教えている、というスタイルはこの数日よく見かけていた。

 でも、そろそろこちらにも来るのではと思っていたからノックしたのだけど、事務作業は大丈夫なのかな?僕の顔が物語っていたのか、マリカは、「ああ…」と思い出したかのように言う。

「親父、事務作業とかガラじゃないからさ。大体はお袋がやってるんだ。お袋は、住居スペースに引っ込んでいるからこっちに出てくる事は滅多にないよ。で、私は冒険者になる!って公言してるから、まだ当分は好きにさせてもらうつもりなんだ」

「へえ…じゃあ、マリカもそのうちに此処を出ちゃうんだ?」

「まあね。ま、それはそれとして。何?その荷物」

 マリカは、僕が引きずってきていた邪魔になる荷物を見て不思議そうにしていた。

「これ、中に貴重な品がいくつか入っているんだけど、さすがに持って行かれないから、貸金庫みたいなのないかなって思って。」

「カシ、キン、コ?それってどういうもの?」

「要するに、持ち運びできない貴重品を、保管する場所をレンタルで提供してくれる場所がないかなって事。…ないかな?」

 俺が言い終わると、マリカは思いっきりしかめっ面で…ゲテモノでも見たかのような顔をしてくる。

「アンタのその知識、いちいち良く解らないわね。そういうものはここらではないわ。せいぜい管理してくれるところと言ったら、銀行ぐらいよ。お金を扱ってる訳だしね。」


 なるほど、と思う。業者に貸す場所はあるかもしれないが、基本的に個人にそういった貴重品を預けるような場所は作られていないし、そこまで管理がなされていないのだろう。

 地球では重要書類なども貸金庫に預けることができたものだが、金庫自体がそれほど流通されていない可能性もあるこの世界では、地球程貴重品管理が徹底されている訳ではないのかもしれない。でもいい事を聞いた。銀行はあるんだな。

「銀行はここら辺にはある?」

「銀行は、隣村まで行けばあるわよ。もしかして、そこまで持ち運びするのも大変だったりする?」

「そのぐらいだったら何とか大丈夫。零のお父さんの故郷まで行くのに、これをひたすら持ち運びする訳にもいかないから、どうしたものかと思っただけ」

 僕のその言葉に、マリカはようやく事のあらましを納得したのか、さっきまでの警戒する顔を解いてくれた。

「ああ…なるほどね。ならちょっと待って。親父呼んでくるわ」

「え?」

 納得がいったらしいマリカは建物の裏手のほうに回って行く。しばらく待っていると、エウゲンさんが面白そうな顔をしながらマリカの後ろを付いてこちらのほうへ向かって来た。

「なんか面白そうな事を言ってるらしいな、坊主?カシキンコっていうのが欲しいって?」

「ええ、まあ…」

「あいにくと、そういうものは王都にでも行かない限りない。というか、王都でもあるか解らない。しかし、お前さんがその貴重品らを一旦どこかに預けたいっていうんなら、うちで保管してやってもいい。こっちに戻ってきたら、預かり費用なんかは貰うがな」

「え…いいんですか⁉」

「面白い話聞けたからなあ。そろそろ、ギルドのほうでも新しい事業をはじめられたらとは思ってたんだ。冒険者達の私物を一時保管するって事も可能だろう?そういう事だ」

「エウゲンさん…」

 渡りに船とでも言うように、笑顔で引き受けてくれる彼には感謝しかない。

 持っていた荷物を彼に渡そうと、手元にあるそれを手前に出していく。

「お、それか。預かってほしいもの」

「はい。おそらくですが、俺の故郷にあったものではあるんですけど、この中にあるものは全て、ここらには無いものばかりです。この集落にある店はすべて拝見させてもらいましたが、この中にある物は見ることがありませんでした。もしかしたら都心まで行けばあるものもあるかもしれませんが。なので、僕が本当に故郷に帰れるようになった時まで預かってほしいんです。それまでには預かり費用が払えるようにしておきます。…お願いします」

「解った。預かり費用については、貸金庫システムを教えてくれたお前さんには親切価格にしておこうと思っている。そうだな、一般価格の十分の一でどうだろう。

 お前さんの旅もいつまで続くか解らないだろう?なら、金の心配はつきものだ。そんなにたくさんは貰えねえ。…そこのゼロの為にも、金は貯めておくんだな」

 ガハハ、と笑いながら言ってくれるエウゲンさん。

 彼の言葉に僕は涙がこぼれそうになった。



 金額についての詳細はギルドの会計士でもある、マリカのお母さんとも相談して決める事となった為、ひとまずは僕はギルドを後にすることにした。この世界はとても不思議なもので、電話やメールなんかも一通りできるらしい。そういう事ができる魔道具があるらしいので、その魔道具は後で手に入れようと心に決めている。

 旅道具を再確認して、いよいよここから、零との旅がはじまるのだと…足を外へと出していった。





 ホボック山脈の麓、ゲティア高原の奥のほうに破魔の森はある。しかし本来そこに入るものは少なく、そのすぐ傍にある集落と、山脈、それに川沿…下流のほうにあるポロッコ村へ行くのがこの辺りではごく一般的なものとなっていた。

 王都へは、ポロッコ村を超え、さらに南のほうへ行くのが正規ルートとなっている。

 正規ルートを使えない者は、大概がポロッコ村からは業者が使うダンジョン産の転移装置で王都に入っていくらしい。

 

 ダンジョンは冒険者がチャレンジする、冒険者レベルをあげたり素材を集めていくためのものである。基本的に倒した魔物からは何かを作る為の素材しかドロップされないものだが、ラスボスを倒すと、その場所が転移装置となって他の場所へと転移されていくらしい。

 その転移先というのはランダムに設定されている事はまったくなく、ある程度は転移先は特定されていて、それがちょうど、ポロッコ村にあるダンジョンの最下層のラスボスがいる場所から王都の大公園の奥へと繋がっている前提の事でもあった。

 

 そう、僕達はポロッコ村にたどり着いていた。

 なぜかマリカも引き連れて。

 

 僕は非力故、ダンジョンで魔物と戦う事はできない。その為に、中に入っていく冒険者にお願いして、同行させてもらうのが良いだろう。

 思い切ってギルドに入って、受付のほうに向かっていく。

「あの、すいません。非戦闘員がダンジョンの転移装置を使う為の手続き書類ありますか?」

「非戦闘員ですね。少しお待ちください」

 非戦闘員が転移装置を使いたいという者は少なからずいるらしく、そういった書類は普通にあるらしい。

 ただ、同行してくれる奇特な冒険者はそれほど多くないようだ。危険手当を払えばあるいは可能なのかもしれないけれど、それほど金を持っているわけではない僕にとってはそれも難しいだろう。

 勇気を振り絞って行った先、ギルドの受付嬢は、僕の行動に特に疑いがあるようではなかった。別に疑われるような事をしている訳ではないが、何事もなく手続きができるのは、よかったと思う。

 手続き書類には、依頼人名と年齢、職業、それに利用理由が記載されていた。

 道中に、零に教えてもらっていたおかげで僕もまた少しはこの世界の文字を理解する事ができたし、書く事も可能になっていた事もあって、何事もなくスムーズに事は進んでいく。

 名前と年齢はあらかじめ考えておいたけれどそのままの自分の名前を書いている。

 職業は、商業とのみ書いておいた。そして、利用理由の項目。職業上の理由でとのみ書こうとしたところで一旦筆を止めた。 

「ここって、職業上の理由って書いても大丈夫かな?本当は個人的な理由があるんだけど、あまり大っぴらに書けなくて」

「個人的な理由ですか。その場合、提出の際に保障金額が加算されてしまいますがよろしいですか?」

「どのくらいですか?」

「ええと、700ペーセですね」

「ならそれでお願いします」

 義務的に処理してくれる受付のお姉さんに感謝だ。何か突っ込まれても困る。

 保障金は少し痛いけれど、それさえ支払えば問題ないのなら、払ってしまったほうが良い。鞄に入れておいたお金を出して、手続きを終わらせていく事にした。


 ポロッコ村のダンジョンは、それほどランクは高くないらしいのか、業者がただ転移装置を使う為に利用する場合が多いらしい。

 それでも僕みたいな非戦闘員にとっては少し骨が折れるらしいので、中を攻略できる冒険者が来るのを待つ為に、ギルドの無料宿を借りて泊まる事にした。

 無料宿は、日本でいう素泊まり宿の激安バージョンみたいなものらしく、飯と風呂のサービスもまったくないらしい。トイレは、ギルド側にある共有スペースにまで行けばあるのでそこを利用するのが決まりのようだ。

 その無料宿で寝泊まりするのに、零もさすがに女の子だからと、零はマリカと同じ部屋に泊まる事になった。僕は隣の部屋だ。

「それにしても、あんた非力の割りによくここまで来れたわねー。」

 マリカが半眼で俺を睨みながら言っている場所は、ギルド近くの居酒屋である。

 さすがに昼ごはんを食べ損ねていたせいでお腹を空かせていた僕達は夕方になってようやく、居酒屋で人心地つく事となる。

 零は、注文していたトットローチっていう何かの鳥のトマト煮込みみたいなものを頼んで、パンと一緒に食べていた。僕はカッテーデールっていう、チーズが乗っかったカレードリアみたいなものだ。

 ここの食文化はよく解っていないから、メニュー内容と実際の味云々については零に聞いてなんとか把握している。

 なんでも、零のお母さんもこの世界の食べ物の事は知っているらしく、よく聞かされていたようだからすぐにどれがどれなのか解ったらしい。

 口の中に含んだカッテーデールは、それほど辛くなかった。チーズは濃厚だし、ルーの部分もそれなりの濃さがあるので味は悪くない。それをもそもそ食べながらマリカを眺めると、マリカはダーチルゲールっていう、鳥の肉の塊…七面鳥の照り焼きに近いものだと思うそれをガブリとかぶりつきながら、透明の酒に手を伸ばしていた。

「非力で悪かったね…」

「ごめんごめんて。これでも、見直して言ってるんだから睨まないでよ」

「へえ…?」

 

 よく見てくれてるのかもしれないとマリカのほうを見ていると、零が嬉しそうに彼女にご飯をおすそわけしようと皿に自分の食べ物を乗っけていく。

「マリカ、これおいしいよ。食べてみて」

「え、いいの?ありがとー!ゼロかわいいっ」

 デレデレするマリカはすっかりお姉さん気分らしく、何かと零の世話をやいている。おかげで彼女達はすっかり姉妹のようでもあり、微笑ましいものだ。

「零、全部食べろとは言わないけど、食べられる限りは食べとけよ?」

「う……うん」

 零は、痩せて見える見た目とは違ってよく食べる方だと僕は見ている。

 けれど、遠慮しているのかたくさんは食べようとしない。それ故に僕はついついこうして構ってしまうのだから苦笑いしてしまう。


「そういえば、マリカさ。割とすぐに僕達に付いてきちゃったけど、お父さんのとこはもういいの?」

 マリカが僕達に付いてきたのは割とすぐ、ポロッコ村に入る少し前の川沿道中だった。

 平坦な道のりで、業者や冒険者が行き来する通りだったから行きかう人達で溢れていて、途中までマリカが追ってるのに気づかなかったっていうのもあるけど、後ろから僕達を呼ぶ声がして振り向いたら彼女がいたのには驚いたものだった。

「ん~?べっつにー。だって家業継ぐって言ってないし。またそのうち出るとは言ってたから親は気にしてないよ。それに、あんたら2人だけじゃ心許ないっしょ。だったら、あたしが居たほうが何かと楽だと思うよ?」

「そりゃ、居てくれるのは助かるよ。ただ、迷惑じゃないかって話」

「あんたホントおもしろいね。」

「おもしろくないから。」

 彼女が言うセリフにはいつもどこかトゲがある。うん、知ってたけど絶対僕の事嫌いだよね。

「私が、零を守りたいだけって事だよ?あんたはついで」

「マリカ…僕の事嫌いだろ」

「バレた?」

 あはは~と悪気なく言う姿に、僕は呆れてしまう。

 ここまではっきりしていると、いっそ清々しいものでもあるけど、敵意が少なからず向けられていれば、誰だってげんなりするものだよね。

「マリカ、ハジメの事きらい、なの…?」

「ごめんごめん、ゼロ。こいつの事は苦手だけど、あたし、ゼロの事は大好きよ?だから、ね。守らせて?」

 何のコントなんだろうな…うん。

 僕の事を好いてくれている零に、僕の事は嫌いだけど、零の事は好きなマリカ。

 なんとも不可思議な三角関係に僕は項垂れていくしかなった。

アルファポリスから移籍連載開始しました。

その為、前話まではすでに公開済みの内容となっています。

一応誤字修正はしているつもりですが、何か気づく事がありましたらどうぞよろしくおねがいします。

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