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アナザー・ドロップ~裁きの漆黒眼  作者: 瑞祥颯
第一章
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2話 体力と心と魔力数値の方程式

「わふっ」

「わ、な、なに⁉ え、犬…?」

「ハジメ、起きた?」

「え、零?」

 茶色いもふもふな、そこそこ重量のあるモノが僕の頭に伸し掛かってきた事に気づき、僕は意識が覚醒してきたことに気づいた。僕の横でどうやら、零は、そのもふもふの正体である小型犬と戯れていたらしく、のしかかってきたその犬をはがしてくれたことで僕は今置かれている状況を理解することができた。

 怒涛の展開が立て続けにあった事が災いしてか、僕はどうやら軽く意識を飛ばしていたらしい。眠ってはいないと思うけれど、それでも小型犬といえど犬に伸し掛かられるまで気づかないなんて、相当気が張っていたのだろう。体を横に向けると見える窓から覗いて見える空は夜である事を示していた。

ゆっくり起き上がると、もう頭痛が起こる事はなく一安心する。特に外傷がある訳でもないし、異世界に飛ばされた影響か何かでなったのだと思えば、それほど心配する事もないだろう。

ようやく色々と切り替えることができてきたのか、頭痛も落ち着いてきたようで部屋をぐるりと見回してみる。室内はそれなりの設備がされてるようで、宿としては十分に機能しているようだ。ベッドは零が寝れる分もあって、僕が眠るベッドとの間にはベッドサイドテーブルが置かれている。

そのベッドサイドテーブルには現代ではよくありがちな宿の案内というようなものは置いてはいないようだがそのかわりに、テーブル上にはメモと、傷薬らしいちいさな小壺が置いてあった。何が書いてあるのかは解らないけれどおそらく、マリカが何かしらフォロー対応してくれているよう事を書いてくれているのだろうと思って、あえて触れずに僕はトイレに立った。

こういう異世界だとトイレなんてボットン便所だろうと覚悟して中を見るが、どうやら意外にハイテクらしい。どういう作りなのかは解らないけれどちゃんと水洗トイレになっているので安心して用をすませ、トイレを出ると、一階を覗いてみる。

さすがに冒険者が新たに来るような時間でもないのか、一階は騒がしい雰囲気がなく、たまにパタパタと軽い足音が聞こえるぐらいだ。ふと、すこし音に間があったかと思うとギシギシと音を立てて階段を上ってくる気配がひとつあった。もしかしたら僕が二階から下を覗いているのに気付いたのかもしれない。

 おや、と思いながら人の気配のする方向に目をやると、マリカがお盆に何か食べ物らしきものを乗せたものを持ってそこにいた。

「あれ、ハジメ、だっけ?もう大丈夫なのか?」

「うん。トイレに行けるぐらいにはもう大丈夫。今日はありがとうね。」

 そう言って部屋に戻ろうとすると、マリカは僕に向かって、お盆を押し付けていく。

「ほら、夕飯。メモにも書いておいたけど、お腹すいたら声かけてって残しておいたろ」

「あ~…ごめん、気づかなくて。飯ありがとう」

 文字が読めなかったんだと言い訳するのもどうかと思ってお礼だけすまして部屋に入っていく。

 もしかしたら零が文字を理解しているかもしれないから文字については後で零に聞いてみよう。

 そう思いながら中に入っていくと、マリカまで部屋に入ってきた。

「…何?」

「何って。あんなとこで倒れこんでた弱っちい人間なんだ、心配するの、当たり前だろ?」

 僕は、ソファ横にあるテーブルにご飯を置いて、ひとまずベッドに戻ったほうがいいのかと思考を張り巡らしていく。

 零はきょとんとしながら僕のほうを見ているが、マリカが来ているので決してこちらのほうには近寄ってくる気配がない。その代わり、零がかまっていた犬がわふっとひと吠えしながら近寄ってきて、飯をくれとぱたぱたとしっぽを振りながらマリカのほうをじっと見やっていた。

「なんだ、モリ―、ここにいたのか。飯なら下にあるよ。行っといで」

 しゃがんでモリーというらしいその犬をなでながら背中をポンと叩いていくと、ててて、とどこかへと消えてしまった。

その姿にしょげている零が僕の視界に移っている中、マリカは じーっと僕のほうを見ながら様子を伺っている気がした。

「…なに?」

「そんなに心配するような事もないかもしれないけど、体、もう問題なさそうだなって。」

「え…?」

「何そんな怪訝な顔してんだよ…頭のほうは特に打ってる気配なかったけど、どっか体傷ついてるかもだろ!そっちのチビ不安にさせたままにすんな」

そっか、零の事気にかけてくれてたのかと思って、僕は素直に謝る。

「君は優しいんだね。でもさっきも言ったけど、もう大丈夫だよ。」

 面映ゆい気持ちになりながら笑って彼女に言うと、なぜか嫌そうな顔をしてきた。

「お前…気持ち悪い奴…」

「何故?!」

「ここらじゃそういう反応する奴なんていないよ。無自覚だっていうんなら、それ直したほうが良い」

喧々囂々だとでも言うかのように言うだけ言って部屋を出て行ってしまう。

訳が分からない、もしかして日本特有のコミュニケーションではここでは生きていけないのかもしれないと思いながら僕は、もらったご飯を零と食べて、さっさと眠る事にした。


 翌日の朝になって、僕は改めて今後どうしようと思い悩む。

 ここは冒険ギルドで、今泊まらせてもらっている部屋は宿でもある。さすがにずっとタダで置いてもらう訳にもいかないだろう。

 改めて自分の手荷物をチェックしてみても、これといったものはなく、いよいよ不安になってくる。零は、親御さんはどうやら勇者だったらしいけれど彼女自身はまだ子供だ。何についても金がまわっていく。漫画やアニメ、ゲームなどでよくあるような異世界らしく魔力やら何やらチートのようなものがあれば話は別だっただろうが、僕にはそれがあるとは思えない。自身がこの世界に呼び出された訳ではないのだから、当たり前だ。

 それでも迷ってはいられない。マリカには何故か避けられてしまっているので、彼女に聞ける訳でもないけれど、ギルドならば受付で聞けば何か対応策があるかもしれないと、一階の受付のほうに僕は足を向ける。

「次の方、どうぞ」

受付嬢の声に吸い込まれるように行くと、僕は言う。

「あの、質問がありまして…ここ以外のギルドって何かありますか?」

「ここ以外、と言いますと冒険者ギルド以外のギルドをお探しという事でいいでしょうか?」

「はい。」

「この集落にはないのですが、一山超えたところに王都がありまして、そこでなら商業ギルドがありますよ。」

「一山…王都…あの、僕、まだ魔力測定とかしたことないんですけど、それはこちらで可能ですか?」

「できますよ~。タダでできますので、今測定されますか?」

「は、はいっお願いします!」


 魔力測定は、水晶に手をやるのを想像していたけれど、ここはまったく違うものだった。

 手を触れていくのは一件、モニターのようなものだった。いわゆるSFのタッチパネルのようなもの。手のひらをなぞる様に簡単にあしらわれた絵の部分を両手あわせて触れていくと、その右横に詳細が多角形グラフで表れていくスタイルのようだ。あくまで近代的な異世界、という事なのだろう。ごくりと唾を飲み込み、そのパネルに手を置いていく。

ダメで元々。もし魔力があればもしかしたらここで少しは稼げるかもしれない。そう思って、測定お願いしてもらったのだけど…

 結果は、まるでだめだった。魔力はまったくないって言っていいほど僅かなものしかない。何かスキルのようなものがあるかなとも思ったけれどそれもない。ダメダメじゃん…思わず落ち込んでへたり込んでしまう。僅かでも期待していたんだなあと悲観していると、階段上で僕が測定結果に凹んでいるのを見ていたらしい零が、受付嬢の近くでもあるにも関わらず勇気を振り絞って僕の所に来た。

「わた、わたしも、そくてい、する」

「あら?いいわよ。ちょっと待ってね。リセットするから」

僕の散々な結果が消えていくのを確認すると、どうぞ~、と言う受付嬢の声に、零はぺったんと、パネルに手を置いた。


 すると、どうだろう。


 魔力Lv・????

 HP…3000000/3000000

 MP…500000/500000

 

 属性 火属性・高 風属性・高 水属性・中 土属性・低 闇属性・超高 光属性・中


 スキル ??????

 ユニークスキル ??????

 装備 呪具


 備考 呪具によりレベル、属性レベルが下がっている可能性あり。



 この結果に思わず、受付嬢が顔を真っ青になっていくのが見えて、異常な結果だということが嫌でも解ってしまう。

「はわわわ…あ、あのギルドマスター呼んできます…っ」

 そう言って受付嬢はどこかへと行ってしまったので、その辺りは放っておいて、僕は零に気になったところを訊ねてみた。僕が気になったのは、装備と備考の所だ。もちろん魔力レベルやHP,MPも異常数値なんだろうけれど零を連れている身としてはそれよりも不穏な単語のほうを気になるというものだ。

「零、これって…?」

「ん、呪具?たぶんこれ。」

零が示すのは、案の定というか、首からかけられている鎖だ。

謎の声が言っていた、‟繋“だというコレは、日本から連れ去られた時にも脳裏をよぎっていたけれど、いわゆる呪いのアイテム、という事なのだろう。どうやっても外せなかったから不思議とは思っていたけれど、ここまで災いとするものだとは思わなかった。

何かがきっかけで、外すことができたら、彼女はいったいどこまで真価がはっきりするのだろうと、一抹の不安を覚えるしかなかった。



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