紡ぐ言葉の花束
詩です。小説ではありません。
ページの穴埋めや、雰囲気を変える切り替え用に、ぱらぱらと書いていたものです。「童話めいた小夜曲集」に、あってるかな〜というものを集めてみました。
『扉』
あなたの前には
見た事もない扉がひとつ
幼いあなたには大きすぎ
年老いたあなたには重すぎる扉が
今、あなたは その扉を開こうとしている
その先には迷宮
若いあなたは年月をそこで過ごす
多くの扉があり 後へ戻る事はできず
あなたは心の声に従って扉を選ぶ
気をつけなさい
あなたが正しい扉を開くか
そうでないかは誰にもわからない
道にある印をよく見て行きなさい
心の声は常に二つある……
さあ
でも今は ただ
目の前の扉を開きなさい
それが今までの終わり そして
全ての 始まり
『月光魔法庭園〜月は不思議な夜の魔法〜』
紅を薄く掃いた空に
ぼんやりと浮かぶ
くすんだ青と灰色にとりまかれて
やがて時が満ち
魔法が光を放ちはじめる
遠く 世界の果てまでも
そして 花開く夜の庭
時にあらざる時
地上にあらざる地上に
もうひとつの地平が現れる
それは魔法
現実にはないはずの 幻の地球
白い花々の香は甘く
迷い込んだ旅人は
夜うぐいすの調べに聞き惚れて
現実への道を 見失う
『13時の地平線』
急いで
急いで 正しい時の流れを見つけて
私はこの世界に立って地平を眺めている
早くしないと まやかしの時が真実になってしまう
文字盤が12で終わると 誰が教えた?
もうひとつの時間 13番目の時がその先に口を開けている
時にあらざる時 今がその時
地上にあらざる地上 ここがその場所
12と0 今日と明日の交錯する一瞬に
あなたは13番目の時の中に落ちてしまった
急いで
急いで 正しい時の流れを見つけて
私は地平を眺め この世界の時をはかっている
普段には見つからない 時間の裏の13時
魔法に喰われてしまうよ 早くしないと?
まやかしが真実にすりかわると あなたもまやかしになってしまう
偽りの月光が なかぞらに輝く
真実は扉一枚隔てて永遠の彼方
0と13 魔法が世界を覆わないうちに
正しい時の道のりを 探し当てなさい
早く
あなた自身がまやかしにならない内に
『妖精の恋歌』
いとしい人よ 泣かないで
あなたの嘆きが 私を千の針で刺す
あなたの涙が 私をとらえてきりきりと
千にも万にもの引き裂かれた破片に変えてしまう
風を変えよう 雲を起こそう
あなたのほおにバラ色の輝きがともるなら
朝焼けの空をあげる 夕暮れの雲をあげるよ
細いうなじの為に 露の玉を蜘蛛の糸でつづろう
額には星の光を 髪には花の香を飾ってあげよう
ああ! 人の子よ 愛しいレイディ イヴの娘
泣かないで
あなたの涙が何より強く 深く私を苦しめる
それなのに何故あなたは 地上へ留まる事を選んだのだろう
悲しみや苦しみの渦巻き、うねるこの世へ
何故留まり続けるのだろう……
『夜』
うずまく 風
声をあげる 木々
そして静寂
再び起こる荒々しい波の音
…………
運命の
歯車に似た 深い夜
世界は声をあげて何事かを歌っている
闇が
私の名をつぶやいた……
『夜想』
夜のただなかに一人在り
凛然と
月は歌う
時折野鳥等は声をそろえ
されどまた 歌い止めて耳を澄ます
耳しいの耳に快い
沈黙の旋律に聞き惚れて
夜のただなかに一人在り
凛然と
月は歌う
『スピリチュアル・ビジョン』
透きとおった
ガラス細工のメロディが
絶え間なく
空からおちてくる
何かを思いおこさせる
青灰色の おと
雨は
太古の夢に似ている
とおい昔に地球をとりまき
そして現在にいたるもの
過去をかたりかける
青灰色の おと
きれぎれに過去をうつし
おりおりに時をよみこむ
細い銀の糸は
はるか 太古とつながっている
『桜幻想』
桜の天蓋を透かして月は輝き
地上へと届く光は淡く染まる
あるか無きかの薄紅色が
密やかな甘さと共に舞い降りる
目を上げれば香る群雲
指先に触れる月影
夜は通り過ぎてゆく 只しんとして
『桜幻想2』
月影は薄紅の天蓋を過ぎ
ほのかに笑む
散りてやみ 散りては止み
花の雪降る
夜目にも白く
されど幽けき紅を掃く
密かに甘き
霞 群雲
散りてやみ 散りては止み
その様 如何に伝えん
けぶる天蓋 さやけき影に
花の雪降る
『雨あがりの あさ』
雨上がりのあさ
風はうたい
木々のあいだをとおりぬけ
葉擦れと葉擦れのあいだに わらいごえを
ひびかせる……ゆたかに
そらの 灰色も 水色も
あたらしい 太陽を おぼえようとしている
地面からは しめったみずと
立ち昇る かげろうのような
あらたなねつの かおり
やってくる大気は
うすあおく
薄荷のおとを たてている
*
そらから おとたてて おちてくる
光のつぶは 風のうた
風のうたは わらいごえ
わらいごえは ねつを うえからしたへ
したからうえへと ひびかせて
ひびく かおりは みずのよう
つちのよう みどりのよう ひかりのよう
したから あがるものは 光り
うえから さがるものは 笑う
あいだに あるものは 踊って かがやく
うたう うたう うたう
*
これはわたしの おぼえたての 世界
これは世界の おぼえたての うた
ごらん 世界は
なんとうるわしいのだろう
『両腕にいっぱいの花を抱きしめて』
両腕にいっぱいの花を抱きしめて
25時の地球に少女がたたずんでいる
さやさやと
ふりそそぐ 月の光
両腕にいっぱいの時を抱きしめて
月明かりの世界に少女がたたずんでいる
ゆらゆらと
通りすぎる いくつもの夢
ぱらぱら ぱらり
手と手の間から
こぼれてゆく
こぼれてゆく
それは なに
両腕にいっぱいの月影を抱きしめて
飛びはねては消える夢たちの中に少女がたたずんでいる
おやすみ
おやすみ もう25時
抱きしめた花も時も月影も
やさしい雨にかえて 地上へと降らそう
以前、「雀の子」という小冊子を作った時に、『扉』を一番最初、『両腕にいっぱいの花を抱きしめて』をラストに起きました。ここでもそれを思い出しつつ。




