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#6 Balance of Power


「戦略兵器?」

「そう、オルディアは長い冬をもたらした兵器を開発している。それを破壊する事が私の任務」

「オルディアはなぜそんな事を」

「目的は不明だが、このまま進めば結果は、オルディアの地域覇権国家化だ」

「…そんな」

ネストリアの独立は遥か彼方となる。

「協力してくれるか」

「ウン」


「そして一つ問題がある」

「どうしたの」

「…この機体は信頼性が低い」

AF-5Aは機動性や火力、装甲性能の為に信頼性を犠牲にした。

「まさか故障」

「二文字で片付けるならそうなる。トランスミッションの調子が悪い。駆動系に問題を抱えている」

「どうするつもり?」

「必要な部品を奪うしかない、手頃な駐屯地から」

「え」

大丈夫なのか。

「何か問題か」

「もっと平和的な方法は」

「闇市まで探る時間は無い」



「機体は問題ないか」

「駆動系以外は問題ない…。操縦も難しいけど…なんとかなるよ」

「頼もしいな」

「…それより、AF-24なんて旧式機で問題ないの」

「問題ない」

この機体は、信頼性が高くこの酷暑地帯では役に立つ。現地改造の電子戦装置の作動も良好だ。整備も現地で懸命に行われている。戦闘機動は問題なくできる。


「ブリーフィング通り作戦を開始する」

感情が絶えたような声で傭兵は言った。

「了解。ECM作動を確認…」

オルディア軍相手に勝つ。それは余りに非現実的に思えた。然し彼女はそれを信じている。




朝暮攻撃。暁を背に旧式機が駐屯地へ迫る。


「ボギー接近、1時方向。こっちに——」

無線は妨害され友軍に伝わることは無かった。


「AF-47、1機撃破。監視員と思われる」

「ECMは問題無く作動している。敵無線の妨害も機能しているよ」

「了解。作戦を継続する」

「分かった、支援砲撃を開始する」

AF-5Aは前もって割り振った目標へ120mmによる支援砲撃任務を開始する。AF-24がレーザー測量を行い正確な射撃が可能となっている。

「ラージタンクに着弾確認、司令塔、レーダー施設も破壊を確認。弾薬庫も燃えている。…第二段階までの全目標沈黙。作戦を継続する」

「りょ、了解!」

ミナは自分が生み出した戦火に驚愕していた。


「レジスタンスめ、党の敵は粛清する」


「敵機4、他に敵機は」

「此方のレーダーで8時方向に敵機2。支援砲撃を加える!」

「8時方向は任せる」

「了解!」


包囲網は支援砲撃で瓦解。煙弾により視界を奪いつつF-24は撤退。目的地の格納庫に到達。

「目標発見。回収完了。帰投する」

「了解」



渓谷地帯の洞窟に機体を駐める。

「無事撤退できたね」

「食料も手に入れた、休もう」


「連中、列強は敵だーと言いながらユーリカと同じモノを食ってるよ」

ハンバーガーを頬張る。

「胃袋は正直者だな」

「そのようだね、美味しい」

「あんまり掻っ込むと身体に悪いぞ。水を飲め」

「ありがとう。…中尉は凄いな、勝つとは思わなかった」

「的確な電子戦と支援攻撃のお陰だ、アンドルーズ」

「ミナで良いよ」

「では私の事もシャルで良い」

「…シャルは誰に雇われたの」

「オルディアが世界の均衡を壊す事を望まない勢力がいる」



「トランスミッションの交換が終わった、試しに動かしてくれ」

「戦闘機動問題無し」

未亡人製造機(ウィドーメーカー)の汚名も今日で返上だ。これはミナの機体だ」

「シャルはそれがお気に入りなんだね」

「強さは知っている」

AF-57。格闘戦に優れたレヴァントの主力AIWSだ。輸出型のため装備の一部が型落ちになっている。推力偏向ノズルの有無などだ。然し現地改修で国内向けと同等の性能まで引き上げられている。



「これよりサイトDへ向かい戦略兵器を破壊する。ミナの力が必要になる。一緒に戦ってくれるか」

「勿論!」





ノージア-オルディア国境


「ゼロアワーまで16時間です」

「史上最大の縦深攻撃になるな」

超大国メリディシアは彼らが擁する精鋭のAIWS空挺師団をノージアへ展開させていた。航空基地では空挺師団を載せた輸送機群が作戦開始の瞬間を待っていた。



レヴァント-マグリヴ国境



「また動員だ、子供も老人も」

「次は悪魔も味方してくれないようだ。同盟国様は海から眺めるだけだ」

少年兵と老兵は国境線で敵AIWSと睨み合う。地中海ではレヴァントとユーリカの水上打撃群が砲口を向け合い睨み合う。



世界の均衡は崩れようとしていた。

そしてそうなればどうなるかは、前線の兵士達が一番知っていた。



サイトD


HQ


「閣下、やはりこの兵器は悪魔の兵器ですね」

戦術が無力となる。

「この時代に信仰など、オルディアが世界の覇者となるのだ」

「世界大戦を起こす覚悟があるのですか」

「障害は破砕するのみだ。まだ言うことはあるか」

「いいえ閣下」






「…つまり、二機だけで一個師団で守られた基地を攻撃するの」

「そうなるな。しかし作戦通りいけば敵は我々を攻撃できない筈だ」

「あくまで視程外では、でしょ」

「ああ。…作戦開始だ」



サイトDは地平線の向こうにあった。





電子の嵐。レーダーは真っ白で、無線は通じない。雨季の激しいスコールで何も音が聞こえない。視界は10mもあれば良い方だ。




「バラージ・ジャミングだ!敵電子戦機を見つけ、これを叩け!」

「然しサイトの防衛が困難になります」

「敵はレジスタンス、寡兵だろう、こちらには実験機もある」


ブラックウィドーは僚機と目視可能な距離を保ちつつサイトDへ最大戦速で接近。ECMによる妨害で敵の索敵は困難となる。



「ボギー接近!12時方向、数は2!」


「敵機発見。破壊する」

120mmの直射により撃破。

「そうか、もう聞こえないんだよね」

AF-57が信号弾を3発撃つ。サイトDの戦略兵器格納庫へつながるトンネルへ侵入。

“我ニ続ケ”

「了解!」





「ネズミが入り込んだか、忌々しい」

「各区域が次々と破壊されています。収容者の脱走と反乱も起きています。部隊同士の通信も出来ず混乱が広がっています」

「これ以上の遅れは許されない、…大佐、アレは使えるか。レジスタンス狩りには最適だろ」

「了解しました、閣下」





隔壁閉鎖。

AF-57が信号弾と実弾を交互に2発放つ。ECMを停止。無線封鎖解除。


「閉じ込められる」

「これくらいなら120mmの集中砲火で破れる…レーダーに感あり。ボギー1…あれはAX-9…何故レヴァントの機体が」

「見たことない機体だ」

「レヴァントの試作UAだ。何故ここに?」

「ボギーを発見。レジスタンスと認定。これを制圧する」

「…その声、イレーネ?」

赤いモノアイカメラがこちらを睨んでいた。

「誰だ」

「ロッジのメンバーだった人」

「そうか…戦闘データが使われている可能性がある」

「データだけ?本当に無人機なの」

「コックピットがないだろう」

「でも…」


「イレーネなの」


AX-9は躊躇い無く徹甲弾を放つ。


「戦術レーザーは積んでないか…アレは敵だ、ミナ」

「…分かった」


目的の障害でしかない。


敵機はMMPMを放つ。数は16。


「ミナ、フレアを放って、回避に専念して」

「了解」


誘導弾の回避に成功。敵は尚も迫る。


「この距離では120mmが致命傷となる。敵の射線を避けて」

「了解っ!」

高G機動を繰り返している。


AF-57が偏差射撃を加えるも、AX-9は壁を蹴り120mmを回避。そこへブラックウィドーがMMPMを叩き込む。AX-9は30mm機関砲でこれを迎撃。120mmで反撃してくる。此方の回避機動を読んでいるかのような射撃。ブラックウィドーが被弾。

「ミナ!」

「掠っただけだよ…AD値残り70%。アレは敵なんだ…」


「…戦闘パターン…ケースATLASと99%一致…戦闘データ更新…脅威判定を更新...イレギュラーと認定する…」

「…敵の弾が尽きるのを待つつもりだったが、此方のADと燃料が持ちそうにない…格闘戦で蹴りをつける。支援頼む」

攻守が逆転する。

「MMPMを使うよ」

「出し惜しみなしだ」

敵もMMPMを放つも迎撃しきれない。

「よし、1発」

AX-9の電磁装甲により誘導弾の直撃を防ぎきる。

「そんな!?」

「それで良い!」

AF-57の刺突爆雷が電磁装甲へ突き刺さる。戦術反応弾に匹敵するTNT出力の攻撃を受けて電磁装甲が破壊される。然し反動でAF-57の右腕が喪失。


「ミナ、今だ」

「了解!」

120mmのゼロ距離射撃。敵機は大破。戦闘不能に追いやる。



「…まだシステムが生きている…化物だな」



「システム再起動…」


「何」


AX-9は30mmを放つ。


戦略兵器格納庫の扉が開かれる。発射シークエンスへ。


「今の音」

「良い兆候ではなさそうだ」

サイレンが鳴り響く。ただ眼前の敵機を倒さずには進めない。



「何をした」

「データは全て回収させて頂きました。不幸な事故として歴史に残るでしょう」

「何を言っている」

「…ハハ...利用されていたんだよ、君達は。これでレヴァントは罪を負うこと無しに技術を手にできる」

「大佐」

「レヴァントが派遣した技術顧問団の力無くして戦略兵器は完成しなかっただろう。爆発実験データも取ることができる、ここでね」

「裏切ったな」

「…冬以後の世界秩序に楯突いた結果だ。私の忠誠は元よりオルディアにはない…」

大佐は8mm拳銃で司令の眉間を撃ち抜く。


「…此方ノーベンバー。ああ。回収頼む」

レヴァントのVTOL機がサイトの航空基地へ到着する。レヴァントの軍産複合体ルートヴィヒ・ファウンデーションの専用機。後ろに続く裏切り者の群。基地の幹部は買収済みであった。





「…アレは僕が倒す。シャルは、先へ。どうもヤバイ気がする」

「了解した。…死なないで」

「了解!」



「さて、ここには僕と君だけ。殺し合おう」

「敵機、排除する」


誘導弾は撃ち尽くした。120mm砲と30mmを撃ち合う。


「なんで!」

火砲を撃ち尽くす。エネルギーブレードの斬撃で互いに右腕を喪失。ブラックウィドーはなおも左腕で敵機モノアイカメラを打ち砕く。

「脅威判定を更新、イレギュラー……」

「返してよ!」

敵右脚を破壊。

「…システムに深刻なエラー、システム再起動を試みます…」

ビーというアラームと共に敵機は沈黙する。

装甲に守られた敵機メインコンピュータが露わになっている。

煤で汚れた機体製造番号の隣にある記号を見つける。

AX-9 T-2 CODE NAME “IRENE”

ミナは彼女であると確信した。

どこまで人間に残酷になれるんだ。殺されても許されないのか。


「さよなら…イレーネ」


その時 プログラムが走るディスプレイに一つの言葉を見つけた。


“I won't let you die.“


「…僕は、生きるよ。」

そして今は…あの人を死なせない為に戦う。あの人が居てくれたら…僕は——。






「ここが管制室か」

職員は両手を上げている。彼らは非武装といって良い。

「鍵を渡すんだ」

発射に必要な二本ある鍵のうち一つを預かる。

「感謝する。では」


これで最悪の事態は防げるはず、だ。


司令室は死体以外何も無かった。轟音を聞き飛行場へ出る。


「止まれ。レヴァントの機体か?オルディアは軍事通行権まで許可していたのか」

離陸しようとするVTOL機を止める。

「黒百合…ネズミが騒いでいると思ったらアトラスの悪魔か。T-2も破ったようだな」

「レヴァントには悪い事をしているな」

「ハ、先の戦争では儲けさせてもらった。その点では感謝しているよ。しかしこの戦力差で止まれとは、私が指一本動かせば死ぬ立場だと理解するべきでは?」

一個大隊が防衛している。全て企業の傭兵部隊だ。Ludwig Foundationのロゴが見える。オルディア防衛部隊は殲滅されていた。

「財団…。今まで表に出て来なかった組織だな。何が目的だ?」

「君には関係ない事だ、さあ死——」


「その人は死なせない!」

バラージ・ジャミング。スタングレネードと発煙手榴弾で視界が防がれる。

「ミナ」

「今は離脱を」

「ああ。了解した」


「こんな子供騙し…」

これで偵察衛星から眺めているメリディシアの参謀達と私のオペレーターにも伝わるだろう。


「古典的だが上手くいったな」

「ありがとう!」


「これで作戦は最終段階に入る」


サイト-D戦略兵器格納庫が混合爆薬により爆破される。戦略兵器は地下で自爆し永遠に失われた。


オルディアが戦略兵器実験に失敗。オルディア軍は汚染が疑われる半径50kmの区域を封鎖。


レジスタンスの掃討が真の目的であった。




「もう拳銃しか武器がないや」

いつか来た森林地帯。敵の追撃は弱まっている。何か内部事情があるのか。ニュースも入らないから皆目分からない。機体はテルミットで処分した。

「後は国境まで逃げるだけだから問題ない」

傭兵は旧式のモーゼルを構え、警戒を続けている。

「この状況で問題無いのか...」

「...ミナ、ここまでの案内感謝する」

「ロッジが健在ならもっと安全な離脱ルートを用意できたんだろうけど...」

「過ぎた話だ、気にするな」

「ウン」

「...ミナ」

「何?」

「私は逃げられる。だがミナは…」

「僕はネストリア人だから。あの封鎖された場所が故郷だから。そこを解放しなきゃいけない」

「一人では確実に死ぬだろう」

「死ぬは嫌だ。でも…」

あまりに彼女は多くのものを奪われてきた。故郷の独立はその中で取り返せる数少ないものの一つだ。然し一人では死ぬだけだ。

「私は君の戦術的価値を評価している…」

「え?」

「嫌でも、生き残ってもらう。ここまで助けてもらって、見捨てるようで後味が悪い」

「敵には容赦ないのに、半端に甘いよね」

「何を言っている」

「そういうの嫌いじゃないよ」

「子供が上から目線だな…嫌いではないが」


「さて、ミナが生き残る道は恐らくひとつだけだ」

「分かってる。シャル、僕も傭兵として戦う。今の僕にはそれしかないから」

「ああ。その為の小さな組織がある」

「それに...」

「?」

シャルは視線に気づく。

「ううん、なんでもない!」


空から見えない国境線。人間が踏み入れるには危険過ぎる密林。国境の防備もザルだ。監視網を潜り国境線を突破する。


「ここから先はメリディシアの統治下だ」

「神秘の南国とは思えないね」

「全くだ」


VTOL輸送機V-300からロープが降りる。


「エミリーを説得しないとな」

「その人ってどんな人?」

「ああ、彼女は…」


傭兵達は空を見上げた。



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