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#4 White Peace

レヴァントが占領するイフリキア地方最後の拠点バルディア。

ここを解放すれば国境は開戦前へと逆戻りする。

従来の戦争ならばここで外交による解決が行われる。

レヴァントは自らの戦争を喪う事を恐れるようにバルディアを要塞化させていた。終戦へ向けた戦いのため両軍は準備を進めていた。



ヘスペリデス前線基地

「無事で良かったです」

「私はそんなヤワじゃないよ」

「そうですね、これまで貴方はどんな戦いでも生き抜いてきました」

「これに勝てば終わりか」

「最後の作戦、期待していますよ」

「ええ」

砂漠に作られた3重の防衛線。正面戦闘では多くの犠牲が出るだろう。だがそんなことは傭兵には無関係だ。金の為に命をかけて戦う。それだけだ。




「正面からの攻略、か」

「優勢火力をもって血路を開きます」

「逆転したものだな」


「0600、リーメス作戦開始」

動員師団は二十個師団。予備兵力も含めれば四十個師団に達する。敵は十個師団に過ぎないと偵察で判断されていた。空爆で敵の補給線は大きく傷ついているはずだ。航空優勢はこの戦闘で大きなアドバンテージを与えている。


第一防衛線。悪魔の花園と呼ばれた地雷原。


「弾着まで10秒前、衝撃に備えて下さい…」

カウントダウンが開始される。

「5、4、3、2、弾着、今」

水上打撃群の巡航弾投射、地上砲兵部隊の砲撃、航空部隊の爆撃が同時に行われる。

「第一防衛線、無力化」

十分で第一防衛線は攻略された。第二防衛線へ進出。同時に砲火が降り注ぐ。第二防衛線 重砲陣地。

「第2、第3対空師団による迎撃を開始します。無停止進撃を命じます」

「了解。突喊する」

輸送車に偽装されていた100輌に及ぶMTHELが迎撃を開始する。MTHELは高出力レーザーを搭載した自走対空砲である。第2、第3対空師団はもともと制空権の無い戦場でも戦えるように配備された師団だった。

敵の第二射が始まる。MTHELが迎撃すると同時に、重金属雲が形成される。敵第三射。MTHELが重金属雲で無効化されている。

「クローズドアローによる迎撃を行います。進撃を続けて!」

「了解」

即座に近距離地対空誘導弾による迎撃に切り替える。しかし敵の砲撃で瞬く間に先鋒部隊の半数が失われる。第四射、第五射、第六射と敵の砲撃は止むことなく続く。


「オーウェル上等兵、第六小隊も出撃だ」

「了解。前線はヤバイのかな」

「俺たちのような予備兵力が投入されるんだ。相当だな」

フォード大尉は容易ならざる事態であると考えていた。


「こちら…セパレート。敵陣地に到達。敵重砲を破壊する」

公的には存在しない部隊から無線が入る。聴き慣れた声だ。

「全ターゲットを破壊して下さい」

「了解」

敵はAIWSを配備していない。機動性に欠ける砲兵は格好の的だ。

「ノーマルか」

遠距離からの支援砲撃が主任務である自走砲を撃破していく。自走砲では三次元の機動を行うAIWSを視認距離から倒す事は不可能に近い。AIWS部隊が突撃を開始。

「全目標、沈黙」

一方的な虐殺だ。AIWS部隊の進撃で前線には突出部が形成されていた。楔を打ち込んだ形だ。

「第二防衛線、無力化。第三防衛線へ進撃してください」

第三防衛線。都市の外周を囲む対AIWS陣地「パックフロント」。

「これで最後だ」





「駆逐AIWSの群だ。正面からの攻略はできないぞ。どうするつもりだ?少佐」

「問題ありません、大尉。全軍進撃を続けて下さい」


敵駆逐AIWSの120mmが此方を睨む。撃たれれば主力AIWSでは忽ち撃破される。射程距離に近づいていく。



「これじゃ良い的だ」

「参謀本部には考えがあるんだろ、上等兵」

「まあ死ねというのなら死んでやるさ!」

「それが軍人か」


「いいえ私たちは死なない」


「ハイ、貴方達は死なせません!近接航空支援を開始します!」


ユーリカ海軍の近接航空支援機が現れる。30mm多連装機関砲をもって全ての通常地上兵器を撃破できる。


「上からの攻撃なら駆逐型も撃破できるな…」

「よし、突撃!」

第六小隊が先鋒となり、パックフロントへ突撃する。


「こちら第六小隊。第三防衛線突破。バルディアへの血路を開いたぞ!」

「9時方向から敵機多数!砂嵐に紛れて接近したようです!」

「黒のカラーリング…」

「第32特殊連隊か!倒してやる」

「アレはAF-50M2、機動性に非常に優れた機体です。格闘戦は避けて下さい」

「此方ユーリカ海兵隊第1師団。黒いのはユーリカ軍で対処する!マグリヴ軍はバルディアの解放を頼む!」

「了解!」

「仕方ない…私怨で死ねないからな」

「此方は手数で勝ってる…このまま押し切れるか」


空気が裂ける音。砲撃音が鳴ると同時にユーリカ軍のAF-55一機がロスト。

近接航空支援機もレーザーにより瞬く間に撃ち落とされる。

「なんだ!?」


「敵新鋭機を発見。12時の方向。真っ直ぐ突っ込んで来る。機動が人間のそれでは無いな」

大尉の声には僅かに緊張が現れている。

「無人機、恐らくレヴァントの試作機AX-9です。完成していたのですか…。いずれにせよIFFでは敵となっています。敵機を撃破して下さい」

「了解」

「秒単位で師団が溶けているぞ!あんな化け物どうやって仕留めるんだ」

「私が囮になる。それで勝てる」

「死ぬ気か」

「アレを野放しにできない」

「了解した。やるぞ」

「そんな、無茶だ!」

「だがな」

大尉の機体がAF-30を追い抜く。

「囮になるのは年寄りの仕事だ、それで構わないな?」

「……そっちがその気なら、構わない」

「大尉、本気かよ」

「まあ、そうなるな上等兵。俺は長く生き過ぎた」

「ああもう、くたばっちまえ!」

「それで良い」

若者が生き残れば、それで。



「有効射程距離まで接近する。支援を頼む」

「了解。155mmによる間接火力支援を開始する」

「頼む」

砲身を焼き切る程の速射。毎分60発もの155mmエクスカリバー誘導榴弾が投射される。通常陸上兵器の全てを破壊できる火力。光学兵器を減衰させるチャフ弾頭も交えている。これでレーザー迎撃システムも貫通する。

敵APS(アクティブ・プロテクション・システム)作動!全弾迎撃された!」

「レーザー兵器とは違う…電磁装甲?」

「無敵かよ……」

「APSの作動範囲は半径約5m であると推測されます」

「機体そのものを破壊できるのか」

「生身の人間ならひとたまりもないですが、AIWSなら数秒は耐えられる筈です」

「それなら倒せるな!」

大尉は再度接近を試みる。

「敵AIWSから多弾頭誘導弾の射出を確認しました。チャフ・フレアディスペンサーを投射して飽和させて下さい」

「数が多過ぎる...飽和できない」

「中尉、三式弾で飽和を!」

「了解!」

空中に散開した子弾へ誘導弾が突撃していく。大尉機は誘導弾の雨を掻い潜り、APS作動範囲内まで接近に成功。

「懐へ入った、これで——」

敵APSが作動。大尉機の電子機器が故障。大尉からの無線が入らなくなる。


大尉機は銃剣突撃を行う。然し敵に腕部を破壊される。敵は巨大なエネルギーブレードを展開していた。


「俺では時間稼ぎすらできんか…畜生」

大尉機が自爆。敵機は爆発を回避。


「フォード大尉!」


「大尉」

中尉の声はわずかに震えていた。だがその戦闘機動には何ら変化は無かった。

敵APS機能に障害。

中尉機は3式弾を敵機後方へ撃ち敵機へ迫っていく。敵機はMMPMを投射。30mm多連装機関砲で迎撃していく。更に間合いを詰める。敵機は発狂したような弾幕を展開している。ADが削られるが構わず接近を続ける。オーウェル上等兵達マグリヴ軍が懸命に迎撃しているお陰で被弾は少ない。

「まだ…!」

命中弾が得られない。UA2機を展開し155mmによる牽制射撃を加え敵機の機動を制約する。然し数十秒でUAが撃破されてしまう。

「時間は稼げた…」

UAは僅かな時間で即席の地雷原を築いていた。

「これでも喰らえ!」

クレイモア4発の同時起爆。

「敵機被弾!敵の機動力を削ぎました!腹一杯喰らわせて下さい!」

「了解!!」

敵機に155mm砲弾が直撃。擱座。大破する。


「敵機撃破!…良くやりました、シャル中尉。…ユーリカ海兵隊より無線、第32連隊の撤退を確認しました。他のレヴァント軍の防衛部隊も撤退しているようです」

「少佐、これで…戦争は終わりか」

「ええ。これでバルディアは解放されるでしょう。ここからは外交の時間です。後は王女殿下に任せましょう」


「大尉…あと少しで戦争が終わるって時に…」

「……おい、上等兵。人を勝手に殺すなよ」

無線が入る。

「え?」

「無事でしたか」

「日頃の行いが良かったみたいだ。少佐、すまんが護送頼む」

「了解しました!」




バルディアの解放により、レヴァントは戦争の主導権を失った。マグリヴは既に戦争経済が限界に達しており、人的資源の消耗により兵士の動員さえ困難な状況であった。世界のシーレーン(海上交通網)を維持しているユーリカは無際限に戦場が拡大していくことを望まなかった。

そしてレヴァントとマグリヴ・ユーリカ同盟の講和会議が開かれた。講和の場、永世中立国エルヴィア共和国首都アルレアは核シェルターで防備された地下都市だ。

アルレア条約締結でレヴァントの西進は停止した。マグリヴは永遠ならざる平和を手にした。傭兵は次の戦場を求め、去る事になった。



アルレアの人工の森と湖を眺める。アルレアは長い冬の間も拡張を続け、地下に一つの自然を築き上げていた。

「また護衛任務ご苦労様です、傭兵さん」

「恐縮です王女殿下」

「もう私と貴方は友人ですから、そんな風に喋ったら怒りますよ」

「…そう、なら自由に喋らせてもらう、王女様」

「傭兵さん、次は南バシリカですか?」

資源争い兼独立戦争で忙しい地域だ。

「どうかな…。王女様、一つだけ言っておく」

「何ですか」

「ユーリカを信じるな。商会を信じるな。彼らは利益の為なら容易に裏切る」

「そこに属していたから、分かるのでしょう」

「…ええ」

「然し今の貴方は違う。貴方が戦うのは本当は、人を助けたいという思いからで——」

「勘違いさ。さて、講和は成立。護衛任務は完了。お元気で、王女様」

「ええ、傭兵さん」



「少佐、わざわざここまで出迎えなくても」

「今度は何処へ行くのですか」

「王女様の言う通り独立戦争中の南バシリカへ行くか或いは何処かの紛争地帯か、悩んでいて」

「そうですか。情報はありますが」

「マグリヴの諜報部隊は優秀だな」

「情報は友からも得られます」

「…ユーリカの情報か?」

「その通りです」

「ハア、あの国を利用するなんて危険だ」

「貴方は其処を一度裏切ってなお生きているじゃないですか。ユーリカ植民地オリッサの独立運動弾圧に反抗した、商会の傭兵」

「私は少佐の未来が心配だ」

「私も中尉の事が不安なのでついていく事にしました」

「おい、仕事は」

「しばらくは観戦武官で良いでしょう?貴方の貢献で平和が戻ったんですから」

「…優秀なオペレーターと斡旋業者を必要としていたから、私は構わない」

「じゃあ、またよろしくお願いします!」

「ええ」



冬の後


砂漠に覆われていく世界で


一人の傭兵が、戦いを続けていた



END



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