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#2 Operation Torch


アトラス線におけるマグリヴの勝利。

抵抗を続けるマグリヴの姿はレヴァントに抑圧された東方の周辺国を勇気づけていた。

そしてレヴァントの拡大を恐れる西方の大国ユーリカはマグリヴへの支援を強めていた。

ユーリカの参戦。その時はそれがマグリヴの独立を守る唯一の手段だと言えた。




カサブランカ


臨時の首都としての機能を持つ都市。アトラス線の維持で辛うじて保たれている首都エリッサが陥落した場合は此処が首都になる予定だ。

「こうして実際に会うのははじめてですね、シャル中尉。想像より小さいのですね」

「少佐は想像通り、育ちが良いようだ」

「口が悪い英雄ですね、全く」

「それで少佐、どうして私のような部外者をこんなところに呼びつけたのか」

「あなたをここに招いたのは任務があるからです。あなたにしかできない任務ですよ」




「後方で護衛任務か」

「ご不満ですか」

「いいや」

「可愛い王女様が見られて嬉しいですか」

「何を言ってるのか」


「護衛宜しくね」

「恐縮です、王女殿下」

ラウラ・アウレリア・アウグスト。末期状態となったマグリヴで外交を任せられた第三王女。

要人の護衛、確かに傭兵らしいといえば、傭兵らしい。

「頼みにしてますよ、傭兵さん」




無骨なコンクリートの宮殿。冬以前の世界からあるシェルターを改造したものだ。城とは本来そういうものだ。

王女の前に外務大臣が恭しく礼をする。オリッサ商会の総帥でもある人物。老獪な狐といった風な容姿だ。


「マグリヴは基本権を尊重しており、ユーリカとは共通の価値観を持っております。レヴァントを放置すれば、ヘスペリデスの虐殺を世界に広げる結果となるでしょう。レヴァントが砲火でつくろうとする世界秩序を容認する事はできません」

「イデオロギー、それも確かに我が共和国の支援を引き出す材料ですね。しかし王女殿下、自分が信じてる言葉で語ってくれればそれで良いのです」

王を戴く国など信用はしない。

「…このままいけばレヴァントは手に負えない程の工業力、資源を手にします。レアメタルの自給はレヴァントの悲願でした。マグリヴが失陥すれば、レヴァントはユーリカ植民地が抱える資源に依存する必要がなくなります。次にレヴァントは大陸封鎖を行いユーリカを世界市場から追い出そうとするでしょう。ユーリカのシーレーン支配は世界島の主要港湾の封鎖で破壊されます。そして閉鎖経済圏が並立する時代となります」

「それはユーリカの利益に反します。飢えた民も、荒野も我々には必要ありません。しかし海上交通網は我々のものです。それでマグリヴは何を提供しますか?」

「企業にイフリキア一帯の鉱物資源の採掘権を認めます」

「遺物へは手を出させないつもりですね。まあ良いでしょう」

ユーリカはレアメタル資源の安定供給地を手に入れる事になる。イフリキアはマグリヴの主要資源地帯だ。

イフリキアは既にレヴァントに破壊されている。汚染された土地などくれてやる。

「あなた達の独立は我々が保障します。その意味を理解してくださると嬉しいですね」

「ええ」

資本の進出、経済的従属、そのリスクを負うとしても主権を喪うよりはマシだ。

「王女殿下。同盟国として一つ、お願いがあります」

「なんでしょう」

「アトラスの悪魔を引き渡して下さい」

「その人は今は我々の傭兵です。我々の自由にさせてもらいます」

「…あれは貴方の番犬にはなりえません」

「どうやら痛い経験があるようですね、商会には…。ですが答えは変わりません」

「そうですか。ではもはや此方から言う事はありません」



通路には一人の護衛が身動き一つせず立っている。

「王女殿下の護衛ご苦労な事だ。傭兵」

「……」

無言で敬礼をする。

「オリッサを忘れるな。それだけだ」

「……」

都市を包む業火。虐殺される市民。

私はそこにいた。企業の傭兵として。

決して忘れる事は無い。



会談は無事終わった。市場開放を対価とした軍事同盟の締結。ベターと言える結果だ。


「傭兵さん。マグリヴの独立の為、今暫く力を貸して頂けますか。勿論相応の報酬は約束します」

「ハイ、王女殿下」




作戦名称トーチ。


自由の灯台としてユーリカは立ち上がった。レヴァントの侵略からこの小国を解放する為に。如何なる国家も自らの主権を侵されてはならない。独立を守るためマグリヴは戦いを続ける。


「護衛任務ご苦労様。会談は無事成功です。この同盟により戦争は大きく好転するでしょう。世界最大の経済大国が味方に着いた事は大きいです」

「ええ」

「ユーリカの対レヴァント宣戦布告と同時に大規模反攻作戦が実行されます。十個師団の戦力によるセプトへの強襲上陸作戦です。ユーリカ海兵隊の主力を投入し、敵後方に戦線を形成する事が目的です」

「なんて物量だ」

「私達は日陰に追いやられるのでしょうね」

超大国ユーリカはマグリヴの全兵力と同等の戦力を用意してきた。彼らの総兵力はマグリヴに十倍する兵力である。

その時空襲警報が鳴る。

「また爆撃か」

「中尉、王女殿下の身を守って」

「了解」



王女を護衛し防空壕へ向かう。王女は毅然とした態度だ。外務大臣も一緒に居る。苦々しい表情で傭兵を睨む。


「空挺AIWSの降下を確認。近衛師団が足止めをしている間に王女殿下を連れ戦闘エリアから離脱してください。現在第六小隊がAF-30を輸送中です」

「オペレーター、商会は独自に行動を起こすとそちらの参謀本部に伝えてくれ」

「総帥閣下、それはどういう意味ですか」

「私の軍を動かすという意味だよ。何、国際法上は義勇軍となる」

「…」

傭兵は静かに拳を固く握り締めた。



「王女殿下の避難が完了した」

「了解しました。もうすぐ輸送部隊が到達します」

「こちら第六小隊。AF-30サンダーボルトを降ろす。頼むぞアトラスの英雄!」

「お姫様を守ってくれよ!」

「ええ。危険な輸送任務、ご苦労様」



メインシステム起動。

電子機器が更新されている。


「システム、戦闘モード。HMDにターゲットを表示しています。全てのターゲットを破壊して下さい」

「了解」

主兵装選択。155mm榴弾砲。レーダーによる索敵。敵機は8機。


「単騎では荷が重い任務ですが…」

「問題ない」

「そう言うと思いました。敵の冬宮への侵入経路は三つです。東西の経路にUAを配置し、敵機の足止めをしましょう。正面の大広間はサンダーボルトの火力がいかせる場所になりますね」

この作戦では無人機の力が頼りとなる。

「広間を壊してもいいのか?」

「許可します。傭兵」

「王女殿下の許可が降りましたね。兵装の無制限使用を許可します」

「了解」

背部格納庫からUAを2機放出。軽AAIM(対AIWS誘導弾)、40mmグレネードランチャー、20mm機関砲、APS(アクティブ防御システム)を搭載した支援火力用途のUAだ。主力AIWSをも屠る火力を有している。防御力は小銃弾に耐えられる程度だ。しかし装甲化されていない歩兵にとっては恐怖の対象である。誘導弾や砲弾に対してはAPSにより一定の無力化が可能である。APSには飽和攻撃には耐えられないという限界がある。

更に偵察ドローンを放つ。小鳥程度の大きさで敵のレーダーで発見は困難だ。ドローンのパッシブレーダーで敵機の詳細な位置を確認する。


「近衛部隊一個中隊が撃破されました…貴方が頼りです」

「了解」

視程外の敵へレーダー射撃を開始する。予想進撃ポイントを予測した射撃だ。


「初弾命中。2機撃破」

轟音と共に敵機が瓦礫の下に沈む。


「隊長!」

「応答がない!隊長!隊長!」

「こちらフェルミ-2。副隊長として隊長に代わり指揮を取る。155mmは掠っただけでも致命傷となる。各機散開し迂回突破を試みよ」


大広間へ到達。視界は黒煙で悪い。ECMも展開されている。


「戦う気が無いのか…」

敵は牽制射撃を加えているが突撃する気配が見えない。

「陽動でしょうね。UAが突破されたら敗北です」

「ならこちらから突破するだけだ」

敵機を見極める。砲撃の位置から2機だけだ。


兵装選択155mm。制圧射撃開始。



「こちらフェルミ-2。サンダーボルトが動いた。敵を引きつけつつクロスファイアポイントまで後退せよ」


視界が悪い。砲撃で面制圧しながらゆっくりと前進。

「十字路では待ち伏せが考えられます」

「了解」

壁を蹴りあげビルの屋上へ。眼下に待ち伏せ中の敵機を発見。奇襲をかける。


「簡単には倒せんか…」

「こちらフェルミ-3、UAを撃破!」


「東側ルートが突破されました。今は眼前の敵を倒す事を優先して下さい」

速やかに中央突破しなければ後方遮断、包囲殲滅される。更に戦略的敗北にも繋がる。


「こちらフェルミ-2、中央部隊はここで敵をクギ付けにする。呉々も倒そうとは思うな」

残った2機が返答。


「一機撃破。残り二機」

壁越しの射撃で空挺AIWS一機を撃破。敵の装甲は脆い。

「こいつ!」

120mmの射線を見切って回避する。返礼に155mmを浴びせる。

「残り1機」


「単騎で壊滅させるかアトラスの悪魔め…」


「敵機撤退。こちらも後方へ後退を…」


「その必要は無い。増援が到着した」

最新鋭機AF-55Aからなる一個中隊が戦場に到着。ユーリカオリッサ商会(EOC)の誇る傭兵部隊だ。

「此方EOC第一中隊。味方として戦うのは久しぶりだな、シャノン中尉」

「ヘルツォーク傭兵隊長。もう私は商会と関係無い」

「今のところはな」

一個中隊の傭兵部隊の投入。敵空挺部隊は逆包囲を受け瞬く間に殲滅された。


「作戦終了。メインシステム通常モードへ移行します」


翌日。朝のニュースでカサブランカ攻撃について触れられる。そしてユーリカが同盟国として戦争に参戦することも。


「アトラスの悪魔、カサブランカ奇襲攻撃の阻止に活躍。ついに味方からも悪魔呼ばわりですね、中尉」

「困るな」

「ともあれ王女殿下が無事でなによりです。今後の外交政策実行上彼女は必要不可欠な人物ですから」

「あの顔でリアリストだとは思えない」

「あなたもあの悪魔だとは思えないですよ」

「…もう。それで次の任務は何」

「セプトへの強襲上陸作戦に参加し、海兵隊主力の支援、敵防衛部隊の撃破が次の任務になります。サンダーボルトの火力を頼みにしているのでしょう」

「それだけかな…」

「シャル中尉…?」




地中海に展開されたユーリカ新編第七艦隊。強襲揚陸艦を守る様に駆逐艦が輪形陣で囲んでいる。後方には空母4隻を中核とする機動部隊も展開されており、航空部隊の護衛もついている。

水上打撃群が主力のレヴァント艦隊では正面から太刀打ちできない。マグリヴはミサイル艇が主力であり、それが壊滅した現在、海で出来るのは輸送船の提供くらいだ。


艦隊を眺め煙草を吹かしながらフォード大尉は語りかける。

「前線に出られて嬉しい様子だな、オーウェル上等兵」

「そりゃそうだ。レヴァント軍を倒せるんだから」

「今回の作戦はユーリカ国軍最強の部隊が参加している。ユーリカ海兵隊第一師団だ」

「強襲上陸専門の部隊なんて奴らどれだけ豊かなんだ…」

「世界の海上交易を牛耳っているからな。この煙草もユーリカの新大陸植民地アエリスから取り寄せたものだ。今や同盟軍には兵站の心配が無い。この不毛な砂漠にあってな」

「味方で良かったよ」

「今は、そうだな」



「中将閣下。潜水艦からの情報で敵の強襲揚陸部隊を確認との事です」

「情報通りか。後1週間あれば万全な体制で挑めたが、仕方あるまい。作戦通り、沿岸部での阻止戦闘は控えるよう全軍に徹底せよ」

パワーバランスの回復のためユーリカが参戦する事は予想された事だった。

セプト防衛の任務を受けたのは第8軍集団、軍団長はオイゲン・シュテファン中将。与えられた兵力は三個師団に過ぎなかった。戦場のAIWSの戦力差は三倍にまで開いていた。




猛烈な空爆と誘導弾の投射が始まる。海岸に建設された沿岸要塞は悉く破壊された。

「物量の暴力だ。仕事が無くなる」

「これがユーリカの戦い方なのでしょう」

敵よりも多くの火力を用意する。優勢火力ドクトリン。最も確実と思われるやり方だ。


「…無血上陸、地中海要塞の演説はまるで嘘だった訳か」

ユーリカ海兵隊もセプトの無血開城には拍子抜けしたようだ。楽観論が支配し始めていた。

「これでアトラス線にいる十個師団を包囲したことになるんだよね」

「そうなるな」

フォード大尉は疑念を抱いていた。上手く行き過ぎる。


セプトは焦土作戦により再建が必要であった。生き残った住人への補給物資の供給が緊急課題となった。


間も無く砂嵐が吹き荒れた。電探も無効化する砂嵐と解放した都市への補給上の負担から進撃は一時停止になった。




傭兵はHQとの通信を幾度も試みていた。然し反応が無い。

「少佐…少佐……答えて」

通信障害。砂嵐だけではここまでにはならない。ECMを展開しているのか。


HQ

「まずいです…これはまずいです…」

少佐は独り言をぶつぶつと呟いていた。同盟軍上陸部隊は機動性と指揮管制機能を喪失している。ECMを展開している新型電子戦機を見つけ、これを叩く必要がある。

「然しどう司令を伝えれば…」

少佐は頭を抱える。


「…私の任務は味方の支援、そして敵の殲滅、単純だ……」

メインシステム戦闘モード

AF-30は最大戦速で都市を離れる。


「あのコ、絶対に独断専行する…」

少佐はデスクに突っ伏す。


「壊れてくれるなよ…堅牢さが売りなのだから…」

砂嵐に突っ込む。エンジン出力を低くし歩行による前進。

敵は未だ確認できない。近隣のオアシスへと向かう。紙の地図と電算機による予測と感覚を頼りに電探も目視による観測も無く進む。

目標まで10kmというところで砂嵐が止む。

直後、耳を劈く程の轟音。誘導弾の放つ光が見えた。

チャフを放ち3発の誘導弾を回避。殆どの攻撃は後方へ向かう。上陸部隊は飽和攻撃に対応できるだろうか。演習であれば最新鋭の兵器を持つユーリカ軍は砲弾、誘導弾の殆どを迎撃できるだろう。然しここはマグリヴの砂漠の戦場だ。



「だめだ、この機体も」

エンジントラブルでAF-55の半数が故障を抱えていた。

「旧式のAF-30の方が役に立ってる」

海兵隊員が愚痴を零す。その時、無数の光が向かって来た事に気が付いた。


上陸が成功し心が緩む瞬間を狙いレヴァント軍の反撃は始まった。5分間で投射された火力はTNT換算10kt。故障に苦しむ海兵隊の内2割が壊滅。二個師団が瞬時に失われる事になった。指揮統制能力を保ったのは三個師団のみだった。


「…生きてるか、オーウェル上等兵」

フォード大尉が乗るスターファイターが屋根の残骸らしきものから這い出る。コックピットを開き味方の生存を確かめる。

「ハイ大尉…嵐が止んだと思ったらこれだ」

「あー、悪い知らせだ。我々は東西から包囲されつつある」

激しい電子戦の中、時折回復するレーダーは西側から敵部隊が迫っている事を示していた。

「アトラス線から部隊を引き抜いて来たという事?」

「そういうことだな。誰が指揮しているのか、何て機動戦だ…。そちらはHQと繋がるか」

「HQと通信は繋がってない…同盟軍はバラバラだ」

「…第六小隊はオアシス・ペトラルカへ向かう。給水できる場所がないまま包囲されたら目も当てられない。逆にそこを制圧できれば敵の兵站に負担を強いることができる。単独では自殺行為だ。近くの第2中隊に協力を要請してみる」

大尉はコックピットを降り直接交渉に向かう。慣れた様子だ。

「了解」

少年兵はただ頷いた。



オアシス・ペトラルカ



「ペトラルカ東岸、敵機12機、一個中隊。AF-47 11機、AFE-47 1機。最優先目標はAFE-47」

ペトラルカ東岸方面、斜陽を背景にし砂に機体を沈める。レーダーを停止し、目視で偵察を済ませる。電子偵察型AIWSを倒せばこの電子妨害も解決する。

オアシス・ペトラルカには1個師団、約100機のAIWSが配備されている。更に偽装陣地には長距離砲やMLRS多数が見える。ここが彼らの前線だ。AIWS部隊は偽装陣地から現れ、攻勢を開始する寸前の状態だ。放置すれば同盟軍は包囲殲滅の憂き目に遭う。


メインシステム、戦闘モード。

UAを放つ。これらは撹乱に使う。

兵装選択155mm

砲弾エクスカリバー

最新型のエクスカリバーは外部誘導を必要としない。視程内距離ならば問題無く目標へ誘導砲弾を叩き込める。

「1700、攻撃を開始する」


戦力差一対百の戦闘が始まった。


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