婚約者になった瞬間
文中にでてくるあなたというのは九条さんのお父さんです。
次の日の朝九条さんは僕の家にいつもの時間になっても迎えに来ることはなかった。しかし学校に行くと前から九条さんが歩いてくる姿が見えた。
「明音ちゃん。おはよう」
九条さんは僕に目線すら合わさず横を無言で通り過ぎていった。ここでようやく僕は現状がとても悪いことにきずいたんだ。
それからも毎日九条さんに話しかけてみるが僕をスルーするという状況が約1ヶ月の間続いた。
もう一度きちんと話すために九条さんの家に訪れることにした。
僕は九条さんの家のインターホンを鳴らした。
すると九条さんが玄関からでてきた。そのことに嬉しがりつつ悲しいこともあった。
九条さんは無表情だった。最初の頃みたいに。
「明音ちゃん、少しの間でいいから話出来ないかな?」
九条さんは訪れたのが僕と気づいた途端家に引き返そうとした。僕は今九条さんが家に戻ることを止めなければもうこんなチャンスはないと思い思わず僕は九条さんの手を握った。
「ずるいですわ。そんなの……ずるいですわ」
僕はとても驚いた。九条さんから話してくれたこともそうだが九条さんは今まで堪えていた気持ちが爆発したみたいに泣いていた。
突然の出来事に僕はどうすることも出来なかった。次の瞬間九条さんのお父さんが玄関からでてきた。
「お前は霧島とかいう前の坊主か。なんでまたお前がここにいる。去れと警告したはずだぞ。そして明音、これはどういうことだ」
「これは僕が一方的におしかけただけで明音ちゃんは何も悪くありません」
「それならなぜ二人は手を握っているんだ」
九条さんのお父さんは九条さんの後ろにいるので九条さんが泣いているのはきずいていないみたいだ。
「今日は九条さんにいえ、九条さんのお父さんに話をしに来ました。」
「ほう、わけと内容を聞かせてもらおうか」
「先日僕と明音ちゃんが遊ぶことは時間の無駄だとつまり意味のないことだとおっしゃっていましたね」
「もちろん。そうだが」
「わたくしなら大丈夫ですわ」
「明音ちゃん。見届けて」
九条さんは僕の真っ直ぐな眼差しに心が折れたようにみえた。
「それは勝手な九条さんのお父さんの決めつけではありませんか?」
「違うな。遊ぶことは悪いとは言わん。しかし将来ためになる、という題材の上において誰に聞いてもどう答えるかなど決まっていることだろ」
「今誰に聞いてもとおっしゃいましたね。僕はそれを決めるのは誰かでもない、あなたでもないもちろん僕でもありません。それを決めるのは明音ちゃん、そう明音ちゃん自身ではないのですか?」
「それは綺麗事に過ぎない。人生、自分の思い通りにいくことの方が少ないのだ。わかったか坊主」
「ではあなたは試してみたのですか?明音ちゃんは僕の家で遊んでいる時、僕に一つの知恵をくれました。百聞は一見にしかずと。まさしくそうではないのですか?明音ちゃんを縛っているのは明音ちゃんのお父さん、あなたではありませか?」
「もういい。そんなくだらん話を聞いている方が時間の無駄だ。いくぞ明音」
「わたくしは……わたくしは………」
「なんだ言ってみろ明音」
「わたくしは自分の意思で一回やってみたいですわ」
僕は九条さんのお父さんが怒ると思っていた。でも違った九条さんのお父さんはすごく真剣な目で僕たち二人を見て次の瞬間すごく笑った。本当に笑ったのだ。
僕と九条さんは顔を見合わせ、お互いに状況を理解しようとしたがわからなかった。
「確か霧島竜といったな」
「はい。そうです」
「君なら明音を変えられるかもしれないな」
「えっ……つまりどういうことですか?」
いきなり九条さんのお父さんが放った言葉はさっきと言っていることが逆で疑問を感じた。
「明音、一回思うようにやってみなさい」
「はい!ありがとうございます。お父さま」
「明音を頼んだぞ。霧島竜」
「はい、分かりました。」
「明音、だが稽古は今まで通りやってもらうぞ」
「分かりましたわ」
そう言い九条さんのお父さんは家の中に姿を消した。
「やりましたわ」
そう声が聞こえて反応した時にはもう九条さんは僕に抱きついていた。九条さんは自分の顔を僕の胸にうずくめた。
「わたくしは竜さんにこれからもついていきますわ」
「そんな大袈裟だよ」
「いいえ、大袈裟なんかじゃないですわ。わたくしたちはずっと一緒ですわね。旦那様」
「?」
どういうことだ。展開がよくわからない。
「わたくしと旦那様はさっき、わたくしのお父さまの前で将来を誓い合った仲ですわ」
「えーー」
確かにそういう展開かもしれないけどでも……
「まさか、旦那様はわたくしとでは不満ですか?」
「こんなことはないよ。むしろ夢見たいだ。そんなこと言ってもらえて」
「それなら決まりですわ♪」
そうこれが婚約の意味であることを思い出した。僕はこんな大事なことをなんで忘れていたんだろう……
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