9:それはカシスソーダ
更新が遅くなりました。
ゆっくりまったり更新なのであしからず。
無事に街に戻った私は、その足でカルさんの酒場へ向かう。もうすぐ日が暮れそうなので、開店しているはずだ。
「カルさん!!私レッドウルフ狩ってきたよ!」
勢いよくドアを開けて笑顔で報告する。カルさんは一瞬驚いた顔をして、すぐに笑顔になり、褒めてくれた。
「そのまま狩りで食いつなぐかい?」
「いや、普通の仕事があるなら皿洗いでも何でもやりたい。」
「だとよ、カシス!」
カシス?
カルさんの目線の先を見ると、一人のスレンダーな青年が目を輝かせてこちらを見ていた。
「嬢ちゃん!料理は出来るか!?」
「料理?まあ、人並みには……」
「俺の店、飯屋やってんだけど、店員が子供身ごもって辞めちまってよ、しばらく手伝ってくんねーか!?給料は1日600ダル位しかやれねぇけど……」
計算。1日600ダルで月に20日働いたとして、12000ダル。部屋代になる!!生活費は狩りで稼いで部屋代を飯屋で稼げばそれなりに暮らせる!!
「やります!!カルさん、ありがとう!!」
「そうと決まれば明日の昼から頼むぜ!俺はカシス。嬢ちゃんの名前はなんて言うんだ?」
「私はランゼです。明日から宜しくお願いします!!」
こんなにトントン拍子に生活基盤が出来上がるなんて思わなかった。それだけで安心する。
料理は好きだったから、力になれると思う。ただ、こっちの世界の食材をまだ把握しきれていないので、まずはそこからだ。
「カルさん、ここってツマミとかある?」
「簡単なやつならね。」
「私、こっちの食べ物まだ朝ご飯しか知らなくて。何でもいいから食べてみたい!」
「そうかい!なら一般的な料理出してやるよ、待ってな!で、黙って突っ立ってないで座りな、ジャック。」
あ、ジャックの存在忘れてた。
「俺の名前、知ってるんですか。」
「この辺で一番の腕利きはジャック・ローズだからね、知ってるよ。」
ジャックがそこそこの有名人だったとは、正直驚いた。狩りを教えると言って放置し、忘れ、結果自力でレッドウルフを倒すハメになったので、師匠という感覚もない。
「ランゼに狩りを教える事にしたんですよ。まあ、教えなくても才能あるみたいで楽ですけどね!」
「そこは教えろよ!本当に怖かったんだから!」
カウンターに並んで座り、今日の出来事を話していると、カルさんがお皿を持って出てきた。
「これがこの街ではメジャーな食べ物、赤肉の葡萄酒煮込みとモルサギのシチューだよ!」
赤肉の葡萄酒煮込みは多分赤ワイン煮みたいなものだろう。モルサギのシチュー、モルサギ、あのモルサギか。
「因みに赤肉は今日はレッドウルフだよ!」
今日狩ったレッドウルフが、こんなに美味しそうな食べ物に変化するなんて!!ドキドキしつつまずは葡萄酒煮込みから食べる。
あ、これ牛肉の赤ワイン煮みたいな感じだ、めちゃくちゃ美味しい。葡萄酒の甘みと酸味が、肉といい具合に絡まりあって、美味しい。
モルサギのシチューも口に運ぶ。肉はクセもしつこさも無く、シチューはミルクたっぷり濃厚で、これまた美味。モンスターって、美味しいんだ。
「どっちも美味しい、すごく美味しい!」
「俺は葡萄酒煮込みの方が好きだけどな。カルーアさん、俺にも葡萄酒煮込み下さい。」
「はいよ!サービスで大盛りにしておくよ!」
これはやばい、ご飯が食べたくなる。この世界はパンが主食なのだろうか、米農家はいないのだろうか、いないのなら私が米農家になりたい。これは白米が欲しい。
明日、カシスさんのお店に行けばそれもわかるか。
食べて軽く飲んで、ジャックが奢ると言ってくれたのでお言葉に甘えて払ってもらい、酒場を後にした。
今のところ、順調に異世界生活をスタートさせている。明日からお仕事だ。