1:まずは駆けつけ一杯、生ビール下さい
私は死んだ。苦しむ事はほとんど無かった。20年という短い人生だったが、ニートで働く事もせずに毎日引きこもりの生活をし、元々病弱で最終的には若いのに癌。進行も早くアッサリ死んだ。
細 蘭世、享年20歳。
そう、死んだはずなのだ。しつこいようだが、私は死んだのだ。
ということは、ここは天国か地獄か。はたまた天界か魔界か。中世ヨーロッパを思い出させるような街並み、噴水から出ている水は清く澄んでいる。目が覚めた、というより意識のスイッチが突然オンになったのはどうやら夜で、青い月の元、私は立ち尽くしていた。さもそこを歩いていたかのように。
とりあえず意識がオンになった場所から半径1km程を散策していると、酒場らしき場所を見つけ、入ってみた。言語は分かる、ポケットに見たことが無い硬貨が数枚と紙幣も入っている、飲める、そう思ってカウンター席に座った。
「この辺じゃ見ない顔だね!新参者かい?」
ふくよかで、肝っ玉みたいなオバチャンがニコニコと話しかけてきた。
「気がついたら噴水の前にいて……あの……ここは、どこですか?」
ここはどこなのか。私は、人間なのか。それともこの酒場にいる、ネコミミ少女やオオカミ男のように、人外的なものなのか。状況が全く読めない。
「おいおい、噴水の前だって!?あの噴水は神の加護を受けた神聖な噴水でね、違う世界で満足に生きられなかった命がここに集まる、って伝説があるんだよ!あんたも、もしかしたら違う世界で心半ばで死んで、このアンダーテイルでやり直しなって生まれ変わったのかもねえ!いーね、飲みな!!」
「ありがとうございます……とりあえず生ビール下さい。」
さて。ちょっと意味が分からない。つまり何か。私はいわゆる、異世界転生というやつをしたという事か。あんなに怠くて重かった体は軽く、毎日吐いていた胃袋も酒を美味しく収納している。元気な体で、やり直し?そういう事?
「あんた、名前は?」
「えーっと、ランゼ。おばさんが言う、違う世界での名前だと思うけど、私は、ランゼっていう名前だった。」
異世界転生をすると、名前はどうなるのだろうか?そのままなのか、変わるのか。
でもこの世界に漢字という文字は無いみたいだし、文字も記号みたいだし、細という苗字を捨て、漢字を捨てて、私はこれからランゼという生き物として生きていこうと思う、それでいい気がする。