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『夢』

本編に入ります!

「起きろ守部」


「ンゴッ」


誰かがノートで千登世を打った。

クラスメイトの佐々木 (みさお)により突然現実世界に引き戻され、守部(もりべ) 千登世(ちとせ)はなんとも女の子らしくない声を出す。


あれは夢だったようだ。


「おのれ佐々木氏許すまじ…」


「なにが許すまじだ、寝るならプリントの空欄を埋めてからにしろ。」


埋めたら寝てもいいのか。そんなツッコミはさておき、千登世は机の上にある【進路希望調査】に目をうつす。

そこには名前以外なにも書かれていなかった。


「守部、進路は決まってないようだな。」


「うん、決まってないよ。自分でもやりたいことが分からなくてね。私がもう一人いれば何がしたいか聞けるのになぁ…」


「もう一人のお前に聞いたところで同じ質問が返ってくるだけだろ。」


「いやそれが案外そうじゃな……ん?」


千登世が佐々木のプリントを見ると、そこには千登世と同様、名前以外なにも書かれていなかった。


「…佐々木氏」


「なんだ?」


「夢がないことは恥ずかしいことじゃないし悪いことじゃないよ。でもこの時期になってもまだ進路が決まっていないとちょっとキツイね。世の中には数えきれないほど職と夢で溢れているんだ。進路など考えるまでもない。世界は広いぞ佐々木氏。」


「お前がそれを言うか。」


誰もが分かり切っていることを何のためらいもなくドヤ顔で言う彼女に対して佐々木はため息をつく。


「一応言っておくが、俺は本当にのめり込めるものがあると信じてあえて埋めていないだけだ。」


教室の窓辺にある日当たりの良い彼の席。

佐々木は窓越しに見える青々とした空を見上げこう言った。


「俺は…夢追い人だ…」


(なんか佐々木氏が変なんだがこれは私のせいなのだろうか…)


そう、佐々木 (みさお) はそんな男だ。

成績優秀、特に語学に関しては誰よりも群を抜いて優れている。話せる言葉は英語はもちろん、フランス語やロシア語までも網羅している。最近では韓国語を勉強中なのだとか…


「ふぅん…」


「やめろなんだその目は」


「今日の空は青いね」


「俺の質問に答えろ」


「夢を見つけろ佐々木」


「会話をしろ守部」


佐々木は千登世に対し、二度目のため息をついた。


ーー夢


夢に関しては一生考えることのないものだと思っていた。でも今の彼女は高校生、夢を見つけ、その夢に向かって努力し勉強する。そのためにはこの時期に進路を決めなくてはならない。


(そろそろ真剣に考えた方がいいのか。)


そうは思っても彼女は夢追い人である佐々木ほど、夢に対して期待はしていない。ましてや偏差値や理解力は中の下あたりだ。


それに…


「佐々木くんってさ、よくあんな子と話せるよね。」


「見ろよ、守部が喋ってるぜwww」


「俺たち声聞いちまったから死ぬんじゃね?ww」


雪のように真っ白な髪に、黄金色をした大きな瞳。

夢を見つけたとしても、こんな見た目ではどこにも行くことは出来ないだろう。学校だけでも精一杯だ、社会に出るとなると当然、今よりももっと酷い仕打ちを受けることになる。


「帰りに夢でも探そうか」


それを知ってもなお、諦めなのが守部千登世である。


ーーー


結局千登世は夢を見つけることができず、電車まどの外にうつる夕陽に照らされ橙色に染まった空を見ながらさっきまでのことを思い出す。


お花に詳しい千登世は花屋さんを目指そうとアルバイトを申し込むが


「ごめんね〜うちんとことね、毛染めしてる人NGなんよ。あとカラコンもね。商品より目立っちゃいけないから黒染めしてカラコン外してからまた出直してきてよ。」


と、言われた。

他にも数件行ったがほとんどが見た目により却下された。


白髪に金色の瞳、誰が見ても奇妙な見た目だ。

窓に映る自分をみながらそう思っていた。


電車は都市から離れて行くどだんだん人も減って行き、雑木林のトンネルを抜けた頃には車内には千登世しか残っていなかった。


電車はやがて終点の山奥の小さな村に到着し、そこでようやく千登世は電車を降りる。


辺りは暗く少しの電灯だけが頼りの帰り道には虫の声と草木の揺れる音、千登世の足音だけが響いていた。


「ただいまおばあちゃん。」


今とは少し程遠くなってしまった木造和風の家に、千登世はおばあちゃんと一緒にひっそりと隠れるように暮らしていた。


「おばあちゃん?」


おばあちゃんの返事は無く、いつもおばあちゃんがいる台所にはメモが置かれてあり、


『手芸教室の生徒たちと旅行に行ってきます。

ご飯温めてから食べてね、お土産買ってきます。 おばあちゃんより』


と、書かれてあった。



ーーー


「今日は肌寒いな…」


全ての支度を終え、外に出た千登世は部屋着として着ている白いワンピースの上から薄い桃色のカーディガンを羽織る。


家から少し離れた草原に千登世はいつも寝っ転がり虫の声や風、草花の香り感じながら満天の星空を見上げていた。


「夢、見つかりそうにないなぁ…」


そう呟いた千登世は目を閉じ、やがて深い眠りについた。



今日のことは忘れよう。



きっと明日はうまく行くはずだから、



また、明日も頑張ろう。



ーーー



「いやぁ驚いたぁ!まさかあの千登世が夢を見つける気になったとは。」




「え」



目を開けるとあの時と同じ一面の菜の花畑と、


「登喜彦…」


「久しぶり、大きくなったね。」



あの日から全く変わらない登喜彦の姿がそこにはあった。



「はははっ!嬉しいよ、今までなににも興味を持たなかった君が今まさに夢を見つけようと…‼︎そうかそうかもう千登世は大人なのかぁ…、懐かしいなぁ〜あの頃の千登世が、偉いぞ千登世ぇ‼︎‼︎」


「……」


笑い方も、子供扱いするくせも、その喋り方も、なに一つ変わっていなかった。忘れかけていた彼女の中の登喜彦が蘇っていく。



「でも、君が探している『夢』は、もうとっくに見つかっているんだ。」



探している夢はもう見つかっている?

「どういうこと?」と聞こうとするが、続けて登喜彦が口をひらく。


「覚えてるはずないよね。でも、いずれ君はその運命に立ち向かわなくてはならないんだ。」


登喜彦はそっと目を閉じる。


すると、大きな風が2人と菜の花畑を襲った。


「ーっ!?」


千登世の脳内に電流のようなものがはしる。


「私の夢…」


「そう君の夢は…」


「そうだ、私の夢…は…」


思い出したと同時に千登世の視界いっぱいに金色の炎が広がった。



ーーー思い出せないのも無理はないよ、だってここから先の記憶はーーーー


登喜彦の言葉はここで途切れてしまい、朦朧(もうろう)としていた千登世の意識もここで途切れてしまった。



ーーー

ーー



草花の揺れる音、虫の声、なに一つ変わらないと思っていたいつもの草原に全く嗅いだことのない花の香りを感じた千登世は横向きになっている身体を起こす。


そこにはいつもの寝転がっていた草原とは違う、夢でみたあの菜の花畑とも違う全く別の草原。


まるで、別の世界にでも飛ばされたかのようだった。




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