第六話:どの科がいいの?
俺達はセシル先生と一旦別れて、レヴィとロイスに心強い味方ができたことを報告しに行くことにした。
「まじかよ、それはとてつもない幸運だったけど逆に考えれば危なかったな」
「そうね、まさか古代魔法を流用してることがばれて、更にはあの完璧な演技までもが見破られるとはね……」
あれで完璧とかサリアもサリアだったけど、レヴィもレヴィだな、おい。
ロイスの言う通り一歩間違えれば世界を救うどころか自分達の事すら救えなくなって笑えない状況になっていたかもしれないな。これからは出来るだけ注意して行動しよう。
「まあとにかくこれからどう動くかを考えよう。今回の失敗を活かして次からはほぼ失敗なんてしないように、且つ失敗したとしてもそこから何とか巻き返せるようにしよう」
「そうね、考え得る最善の策で臨みましょう。それで、次の行動としてはセシル先生の言っていたように、サリアちゃんの正体を隠してしばらく学園に通わせて、頃合いを見て徐々にばらして味方を増やすってのでいいと思うわ」
確かに今のところやれることと言えばこれしかないだろう。問題になってくるのは"ばらすタイミング"と"ばらす相手"となってくるだろうけど、それを考えるのも別に今じゃなくてもいいしな。これはこの作戦の肝になってくるわけだからゆっくりと時間をかけて考えよう。
「じゃあやっぱそうするか。んで、次はサリアの所属する科の話になるんだけど……どうしような」
「私はどこでもいい。でもこの中の誰かとは一緒が良い、かな」
サリアを一人で放置するつもりはなかったけど、どこの科がいいとかがサリア自身に無いようなので一瞬困ったが消去法的に考えたら答えは一つしかないだろう。
「レヴィの解析科がいいと思う。理由はいくつかある。一つ目がレヴィはこう見えて面倒見がすごくいいんだ。だからきっとサリアのこともしっかりと支えてやれると思う」
俺がこうしてまともな生活を送れてるのはレヴィのおかげと言ってもいいだろう。レヴィは結構頻繁に俺の部屋の片づけや夕食を作ってくれたりする。昼食は学園内の食堂で食べれるからいいのだが、夜になると食堂は閉まってしまうからレヴィにはすごく助かっている。だからレヴィならうまいことサリアを助けてくれるだろう。半ば押し付けるようでレヴィには悪いが。
「そして二つ目は逆に、俺とロイスではガサツだし多分細部まで気が回らないからな」
自慢じゃないが、俺とロイスは自分のこともちゃんとできていないのに他人のことを支えろなんて少し厳しい。きっとサリアに負担をかけてしまうだろうからそれだけは避けたい。
「そんで三つ目は単純に適正だな。ロイスはこんなのだけど諜報科って言って、あらゆる情報を調べて、それらをそれぞれ適した科に伝えるようなところに所属してる。けど、欠点があってそこの生徒は大抵仲が悪いんだよ。自分の調べてた情報を他のやつが先に調べてそれを伝えてそれまでの自分の努力が水の泡にーなんてこともざらなんだそうだ。だから今回の作戦と照らし合わせると諜報科は向いていないと言える。んで俺のとこは言うまでもないな」
FHにはサリアは来てはいけない。こんなところでサリアと真に仲良くできる奴なんていない。俺みたいな奴でない限りありえないことだ。FHの仲間たちから昔の話は聞いたことはないが俺にはわかる。
あいつらがどんな顔で妖精を攻撃しているのかを見れば誰でも予想はつく。
――殺されたのだろう。大切な人を。彼らにとって欠けてはいけないピースを失ったのだ。妖精によって奪われたのだ。きっと。
そんなところに妖精のサリアが行って、もし仲良くできたとして、そこで正体をばらしたときに彼らは笑って「そんなの関係ないよ」と言ってくれるだろうか。恐らくその答えは――否だ。
「わかった。レイドと一緒じゃないのはちょっと寂しいけどレヴィちゃんもいい人だしロイスと一緒はちょっと怖いから、レイドの言うとおりにする」
「ちょっとサリアちゃん、なんで俺の評価そんなだだ下がりなわけ!? 俺なんかしたっけえ……」
「日頃の行いよ。じゃあサリアちゃん、これからよろしくね! 正直な話解析科ってほとんどやることないんだけどね。でも、みんなで色々話し合いながら授業受けたり作業したりだからきっとすぐ友達出来るよ」
ロイスが何をしたのか知らないが、あいつがきもくて怖いのはいつものことだから放っておこう。にしてもサリアにずいぶんと俺は懐かれてしまったなー、はっはっは。俺自身としてもサリアと一緒じゃないのは寂しいことなんだがなんだかんだできっとこうして会えるだろうし大丈夫だ。問題ないさ。
そしてロイスはそんなサリアに何をしたんだ。さっきは放っておこうとしたけどやっぱ変更。
「また俺に会いたくなったらいつでも俺の部屋来ていいぞ? 俺もサリアのこともっと知りたいしな。それとロイス、お前後でちょっと残れ」
「なんでだよ俺がなんかしたのかよ……つかサリアちゃんを部屋に呼んでもっと知りたいってお前何するつもりだよ」
何って、逆になんだよ。意味わかんねえし。
「え、え、レイド、そういう……レイドのバカ!! 私という者がありながらそんなことばっか考えて……サイテー!!」
「や、だから何だよそれ。意味わからんから。話についてけてないんだけどっ!!」
俺が若干キレ気味にそう言うと、ロイスがくいくいと手招きしてきた。なんだよ鬱陶しいな。
ロイス口の横に手を当てて片手メガホンを作っていた。普通に言えばいいものをわざわざ……。
ごにょごにょごにょ。
……………………。
おっけーわかった。わかってしまった。というか聞いたしな。これは大変まずいな。なんてったってサリアもこいつら同じくとんでもない誤解をしているようで、顔が若干引き気味だ。違うのそういうんじゃないのマジで。
さて、これはどうしたものか。変に誤解を解こうとしてもただ哀れに見えるだけだし、かといって開き直るのも違うよな。だって俺そんな意図があって言ったわけじゃねえし。
もうこれはあれだ。とぼけるか。
「ん? ロイスそれどういうこと? ごめんけどちょっとよくわかんない。え? マジで、え? 何々怖い怖い。俺の知らない意味あったの? 知らないんだけど。えー、こっわ」
完璧だっ! これはもう完璧に出来上がってるぞ"ちょっとどころかものすごく純粋な天然系男子"がッ!
もうね、これはロイス達がかわいそうだね。俺の掌の上で踊らされてる感じ? たまんないね。その証拠にだってほらみんな黙ってる。なんか険しい顔しながら黙ってるよ。はっはーん。
「レイド」
レヴィがいつもより低い声で俺の名前を呼んでくる。きっと純粋だって思ってなかった俺が、蓋を開けてみれば自分よりも純粋で、どう反応したらいいか困ってる感じだな。とりあえず返事をしとこう。
「んー? どうしたー?」
いつもよりも明るく。すごーくにこやかに俺は返事をした。
「それだけ?」
ん? 何が? 何がそれだけなのだろう。まあいいや適当で。
「えー……うん」
「はぁーーーー……。レイドって前から思ってたけどさ」
なんでそこで溜めを作るのレヴィさん?
やだなー怖いなー怖いけどなんで怖いのか俺っちわかんないー。バカだからわかんないー。あれ? なんかこれデジャヴ……。
「やっぱりどーーーーしよーもない"バカ"ね」
なんで俺バカって罵られてんの? いやもう流石に理由分かってるけどさ。そこまで言われる筋合いないと思うんだけどね。サリアなんて俺のことみてクスクス笑ってるけど、こと演技に関しちゃサリアに"だけ"は笑われたかないね。
「やっぱわかっちゃった?」
「当たり前でしょ。あんな下手くそな、演技とも言えないような何かで騙せると思ったの? やっぱりバカだわレイドは。サリアちゃんは私が責任持って面倒見るからレイドはサリアちゃんにバカが移らないようにしてね!」
おいおいまじかよ。血も涙もないなレヴィさんよお。
バカ云々はいいとして(よくない)、言外にサリアに近づくなって言われたんだけど。どうすればいいのこれ。
ロイスの方を見てみるが、あいつ笑ってるよ。この後覚えておけよ……くそう。
「じゃあ私とサリアちゃんは帰るから。明日もあるしね。じゃあね」
「レイド、じゃあね。色々、頑張って?」
頑張るのは俺じゃなくてサリアの方なんだけどなあ。この状態見てると説得力ねえし言わないけどさ。
そうして俺は、女性陣の居なくなった部屋でロイスが泣くまで――というか泣いてもただひたすらに尻を蹴り飛ばしていた。とはいえロイスも反撃してくるからただの乱闘みたいになったけど。