第一話:世界を変えよう
「俺たちで人間と妖精、二つの種族の仲を戻そう! きっとこれは俺たちにしかできないんだよ。俺たちだからこそできることなんだ」
俺は、目の前にいる仲間たちとならきっとそれがただの妄想や嘘に終わることはない。そう思えた。仲間だけじゃなく、さっき会ったばかりのサリアがいるからなのかな。
何にせよ、俺たちはきっと世界を変えることができる。そう思うととてもワクワクしてきてたまらなかった。
▽▽▽
――数時間前。
今回の依頼では、対象は"目撃"したのみらしい。もしかしたら今回こそはいけるかも……?
しかし、偶々目撃した時に妖精側が気が付いておらず、攻撃してこなかっただけなのかもしれない。まぁ何はともあれいつものようにやるだけだ。
しばらく森の中を歩くと開けた場所に出た。そこに今回の依頼対象が佇んでいた。その妖精はとても美しかった。ともすれば、一瞬でも目を離したらこの世界から消えてしまうのでは無いかと思ってしまうほどに彼女は神秘的で透き通っていた。
何だろう。この何とも言えない感情。今までも何体かの妖精は見てきた。けれどこんな気持ちになったことは今までなかった。くそっ、もやもやする。
このまま黙っているのも何だしとにかく話しかけてみよう。
「俺に君と敵対する意思はない。できれば話を聞いてほしい」
「…………」
だんまり……か。まあ毎度のことだしもう慣れたって言えばそうなんだけど、今回はこうはなってほしくなかったな……。
俺が無反応の妖精の顔を覗きため息をつくと、その妖精が顔をツーっと上げ、俺のほうを見つめる。
「どうして?」
全く反応しなかった妖精が、静かにそう訊いてくる。何が「どうして?」なのかはイマイチわからないが、きっと俺の「話を聞いてほしい」の部分だろうか。
「馬鹿みたいだって思われるかもしれないけど俺さ、妖精たちと人間に仲直りしてもらいたいんだよ。だからさ、あまり俺からは攻撃しないで、出来れば和解の方向にもっていきたいなって思ってるんだよね」
「じゃあ私が仲良くしましょって言ったら、あなたは何の疑いも持たずに仲良くしてくれるの?」
思いがけない質問に俺は少し戸惑ってしまう。ここで「はい」と答えても仲良くできるのかどうかも怪しいし、ここで「いいえ」と答えたらもしかしたら本気で仲良くしたいと思っていた場合惜しいことをしてしまうことになる。
俺が答えあぐねていると、その妖精は軽く自嘲気味に笑い、小さく呟いた。
「やっぱりみんなそうなんだ。本当の言葉を持っている人なんていない」
「違う、違うんだ。君の言うことを信じたい気持ちは山々だったんだけど、俺だって過去にいろいろあったからそう簡単に信じられないんだよ」
「そうね、それなら私もあなたと同じで、あなたの言う『敵対する意思はない』というのは簡単に信じられないわ」
確かに彼女の言うとおりだ。相手の言葉を信じられないようでどうして相手には信じてもらえると思ったのだろうか。
「わかった。俺が悪かった。信じる。君と仲良くなりたい。君たち妖精と俺はもう一度仲良くなりたいんだ」
彼女はそっと目を瞑つむると小さく頷いた。
「私もよかったらそれに協力させてもらえる? 私もこんなのもう嫌。争いなんて誰も望んでないし誰も得しない」
「あ、ああ! そう、そうだよ。こんな世界、間違っている。他にも仲間がいるんだけど、そいつらも一緒にいいか? 大丈夫、そいつらも妖精とは仲良くしたいって言ってるし、いい奴らだ」
「ええ、もちろんよ」
よかった……。これでこのことは戦わずに済んだ。そういえばさっきのあの感じ、何だったんだろうか……。妙にドキドキして……まさかとは思うが、まさかだよな。
俺は大事なことを言い忘れていたので「そういえば」と言って彼女に向き直る。
「俺はレイド。君は?」
「私はサリアよ。これからもよろしくね、レイド」
▽▽▽
森の中をしばらく歩くと人が二人いた。
「おっせーぞレイドー」
「もう、こんなところに呼び出しておいて遅れるなんてありえないから!」
学園の敷地内だとサリアが目立ってしまう――というか攻撃されてしまうため、俺の仲間には学園の少し外れたところにある森の中へと呼んでおいた。
「悪い悪い。んで、早速になって悪いんだけどさ……」
俺は後ろの方に待機させてあったサリアを手招きして二人の前に立たせる。
「これがその、仲良くなった妖精のサリアだ」
「おっ、おう。まさか本当に仲良くなってくるとか……お前そんなにコミュ力高くなかっただろうが」
「レイドったらこんな可愛い子見つけてきて……」
サリアはてっきりもう少し嫌な方でびっくりされると思っていたらしく、二人の反応に戸惑っていた。
「えっと、私妖精だよ? その、怖くないの?」
「いやーだって、妖精だから危ない、怖いって考え方おかしいじゃん? 実際、前まで普通に一緒に過ごしてたわけだしさ」
「レイドが連れてきたっていうのもあるけど、私はそんな偏見の目で見ないわよ。それに、私たちは妖精たちと仲直りしたいわけだからそんな風には思わないわよ」
サリアは俺の仲間たちの言葉に感動してるらしく、少し瞳がうるうるしていた。
「あ、そういえば俺はロイス。エイジャ・ロイスな! 未来のレヴィの夫だ!」
「違うから! 私はレヴィね。マクシア・レヴィ。そうね、未来のレイドの妻かしら?」
「いや、ちげぇから! まあこんな奴らだけどよろしくな」
「うん。よろしく。うれしいな。こうして誰かと楽しく話せるのは」
きっとサリアにも色々なことがあったのだろう。だからこそ俺たちは成し遂げなければならない。人間と妖精。二つの種族の本来の関係に戻らなければならないのだ。
「俺たちで人間と妖精、二つの種族の仲を戻そう! きっとこれは俺たちにしかできないんだよ。俺たちだからこそできることなんだ」
俺は、目の前にいる仲間たちとならきっとそれがただの妄想や嘘に終わることはない。そう思えた。仲間だけじゃなく、さっき会ったばかりのサリアがいるからなのかな。
何にせよ、俺たちはきっと世界を変えることができる。そう思うととてもワクワクしてきてたまらなかった。