山間の暴君
人間~広義に於ける意味で~には、特別な感情がある。
それは“憧れ”と言われるものだ。
力、知識、美、金、権力等々。自分の持たないものに対して「それを手に入れたい」と考え、人生の大部分、或いは全てを費やしてしまう事もままある強烈な想い。
取り分け“強さ”に対する憧れというのは一際目に付くだろう。
子供が騎士に憧れるように、騎士が勇者に憧れるように、勇者が神に憧れるように…
そしてその想いを、人は時として形に表すことがある。
旗にその姿を写し、物事にその名を冠するのだ。
それは力の象徴である“剣”や、守護の象徴である“盾”、破壊の化身である“竜”だったりする。
だが、それらと同列に扱われる魔獣がいることを知っているだろうか?
遥か西の王都には、その名を冠する精鋭騎士団も存在するという。
そう、いま『私』達の目の前にいる、鷲の頭と翼、そして獅子の肉体を持つ“力”と“高貴さ”の象徴。
有翼獅子~グリフォン~である。
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話は少し遡る。
『私』達はハーピーの案内の下、山の中を進んでいた。
道なき道であり、もちろん馬に乗り続けることは無理なので、歩きと大差ない速度である。
『こんなところに馬が居るのかね?』
ぼそっと口ずさんだディーンの言葉は、全員の心を代弁していただろう。
かと言ってハーピーを問い詰める訳にもいかず、一行は黙々と歩き続ける。
ある程度登ると、ちょっとした広場となっている場所に出た。丁度いいわね。
『皆、日も傾いてきましたし、今日はここまでとしましょう。それぞれ野営の準備を…』
『危ないっ!』
ハーピーの声に、とっさに盾を構えていなければ『私』は死んでいたかもしれない。
盾越しに強烈な衝撃を感じ、次の瞬間には~小柄といえど~鎖帷子で完全武装している『私』の体は、広場の奥に吹き飛ばされていた。
「(コロコロ)あ~、ちょっと低かったなぁ。AC16までだから当たってないよね?」
残念そうに言う龍治。相変わらず殺意高いわね。
「不意打ちでライオンに【突撃】されたら、リアルじゃ確実に死んでるよね。…龍っち、もう少し殺意低くてもいいと思うよ?」
ほら、鏡子も同意してるじゃない。
「そこら辺はサイコロに言って欲しいなぁ…」
うんうん。馬4頭とパーティ5人とハーピー1人、10面サイコロで誰を狙うか決めたらシャインになった。っていうのは私の運が悪いってことでしょうけどね?
「龍治、違うわよ? 鏡子が言ってるのは「誰を狙ったか」じゃなくて「2レベルパーティ相手にグリフォンを出すな」って意味だからね?」
「え?」
と不思議がる龍治と、うんうん頷く鏡子。まったくこいつはほんとにもう…
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飛ばされた『私』の周囲に皆が集まり、荒ぶる有翼獅子と対峙する。これが冒頭の状況である。
衝撃は強かったが、直接体を傷つけられてはいないことと、受け身を取った上で草むらの上に落ちたことで『私』自身に大したダメージはない。…痣だらけになってそうだけど。
「吹き飛ばされてダメージ0って言うと、こんな表現になるかな?」
色々無理がありそうだけど、文句は言わない。言うと「じゃあダメージ○○点ね♪」って言われそうだし!
吹き飛ばした相手が無事だったことに警戒したのか、有翼獅子は唸りながらこちらを見ている。
対して『私』は立ち上がり、他の皆はそれぞれ武器を構える。
だが物凄い威圧感だ。何て言うか、生物としての格が違う。全員でかかっても勝てそうな気がしない。
「なにせ、7レベルモンスターですから♪」
「自重しなさいよ!」
「自重しようよ!」
自慢気に言う龍治と突っ込む私達。もう、様式美ね…
『カイ、寝かせらんねえのか?』
『無茶言うな、あんな強力な魔獣に【スリープ】なんぞ効くものか』
弓を向けつつ聞くディーンに、絶望感を漂わせつつ答えるカイヴァン。
『ねぇ、貴方達は初めて会うわけじゃないんでしょ? 以前はどうしてたの?』
『5~6人で囲んで袋叩きだな。それでも半分は殺られるが…』
同じく弓を構えつつ聞くアリシアと、答えるハーピー。
『じゃあ、俺の出番ということだな』
そう言って、盾と手槍を持って一歩前に出たのは…
『バカ、死ぬ気か!?』
カイヴァンの声を無視し、今までの経験で【戦士】として一回り大きく成長していたローデリックの姿だった。
「お~~、ロー君かっこいい!」
褒めちぎる鏡子。そうでしょう、そうでしょう。
「あ~、確かにローデリックはレベルアップした上に【耐久力】を伸ばしてたね。グリフォンに太刀打ちできるのはローデリックだけかな?」
「ええ、HPも19あるのよ? で、龍治に確認…というか、お願いがあるんだけど…」
「え、何でしょう?」
手を合わせて可愛くお願いする私に、訝しげに聞き返す龍治。…ちょっと! 反応おかしくない!?
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「お願い」を聞いた龍治がうんうんと唸る。
「う~んう~ん、確かに出来なくも…でもそれ用に造ってある物じゃないし…リーチも材質も…ああ、でも形状的には…」
考え込む龍治。あともうひと押しかしら?
「お願い! 次からはちゃんと準備するし、今回だけ…ね!?」
ちょびっとひっつく。脇で鏡子が「お~」と言ってるが気にしない。
「分かりました…その代わり、処理的にはこうしようかと」
本来の使い方ではないので、代替案を示す龍治。
え? それだと今のローデリックでも…ええい、仕方ない!
同じ様にうんうん唸った後、私はその案を了承した。
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広場に緊張感が広がる。
エサとしか思ってなかった奴らの中に、一歩自分に向かい踏み出す者が居た。ということに我慢ならなかったのか、有翼獅子は明らかにその者に意識を向けた。
そして一度高く嘶き、【突撃】する為に筋肉に力を篭める。
種族が違う。言葉なんて大層なものじゃない。だがその場に居た全員に、嘶きの意味が通じた。
『不遜である、死んで償え!』
そして始まる神速の【突撃】。人どころか神ですら無事では済まないであろうその勢いに、対峙したローデリックには死神が見えたに違いない。
『おおおおおお!』
だが、ローデリックは恐れずに向き合い、何と盾を捨て手槍を両手で【構えた】。
そして激突する両者、次の瞬間見えたのは…
「(コロコロ)当たり、ダメージは2d8…(コロコロ)9、の倍で…18点!」
「ひいいいい!?(コロコロ)ACは…17? じゃあこっちも当たって…1d6の…(コロコロ)6で+3して、更に倍で…こっちも18点!」
大きく吹き飛ばされ、ピクリともしないローデリックと、折れた手槍が深々と体に突き刺さった有翼獅子の姿だった。




