やり過ぎの結末
シナリオ終了後、龍治が帰宅した後の加々美家の夕食時。
何気なくつけているテレビのバラエティー番組の音が流れる中、ふと気づいた私は、対面で同じく食事中の父と母に、やはり何気なく聞いてしまった。
「うちの貯金って、どのくらいあるの?」
父と母の動きが、止まった。
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テレビを消し、食器を片付け、改めて私と向かいの椅子に父と母が座りなおす。なに、この雰囲気?
「真輝、確かに家は裕福ってわけじゃない。だけど、お前を進学させるくらいなら何も問題はないぞ?」
「は?」
「真輝? 確かにあなたくらいの年頃だと、欲しい物も高くなるし、友達を羨ましく思うかもしれない。けど決して早まっちゃいけないわ、後であなたと…お母さん達も後悔する事になるのよ?」
「へ?」
え、なに? なんか私が思ってた話と全然違う上に、私への信頼度がガンガン下がってる気がするんだけど!?
お母さんの言葉を聞いたお父さんが、絶望した表情になり…
「ダメだ、真輝! まだ早い! いや、いつならいいって話じゃないが…少なくとも金でどうこうする事じゃ決してない!!」
まるでこの世の終わりのように叫ぶ。何の話よ!?
「ちょ、ちょっと待って!? 何か違うから! きっとお父さんとお母さんが考えてる事とは違うから!」
私は慌てて手を振って、二人の考えを否定するのであった。
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「そ、そうか。ゲームの話か…よかった、本当に良かった……」
心底安心して脱力する父と、それを横から宥める母。あのねぇ…
「も~、もっと娘を信用してよ? いくらお金が欲しくなったって、他人に言えない様な事をして稼ぐ気なんかないわよ…」
同じく脱力しながら言う私。だが、お母さんはそんな私に向かって、
「じゃあ真輝、あなた今のお小遣いで満足してるの?」
うぐっ…
「そ、そりゃあ…もっと有ってもいいような気がしないでもなくもないかな~なんて…」
ぐぬぬぬ、面と向かって言葉が出ない。そりゃ無いより有ったほうが…ねぇ?
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自分の部屋に戻り、改めて問題と向き合う。
何故お金の話を聞いてしまったかというと、シナリオの後始末に困っていたからだ。
今回人口900人の村を攻め落としたということで、当然村の財産は龍治のキャラクター【アンリ】の物となる。
お金だけならまだしも、この【ドラゴン・ファンタジー】というゲームは、得た宝物が【経験値】になってしまうのだ。
村人一人辺り、平均して金貨100枚(100万円)持っていたと言うことにすると、
900人×金貨100枚=金貨90000枚(9億円)
も手に入れてしまう事になる。そして【経験値】も9万点だ。
いくらレベルの上がりにくい【黒騎士】や【魔剣士】でも簡単に上がってしまう。
まあ「一度に上げられるのは1レベルまで」というルールはあるが、それでも余りが消えてしまう訳ではない。【技能】も取れるし【能力値】も余裕で上げられる。
「やっぱり、ちょっとやりすぎよねぇ…」
思わず独りごちる。
とは言っても、別に対策が無い訳ではない。色々理由を付けて削ることは可能だ。だが…
「私がそれをされたとして、嬉しい?」
立場を逆にして考えると、嬉しくはない。そりゃあ理屈はわかる。だが嬉しくはない。
「…どうしたものかしらね」
両手を後頭部で組んで寄りかかり、天を仰ぐ。
結論が出るまで、しばらくかかる予感がした。
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「では、今回の報酬を発表します」
「わ~(パチパチパチ)」
明けて翌日、向かいには期待に目を輝かせた龍治が座っている。…でも、しょうがないわよね?
私は意を決して、お父さんに纏めてもらったルーズリーフを読み上げる。
「村人は900人だったので、平均金貨100枚持ってたとして、金貨9万枚!」
「おおお!?」
「…と言いたい所だけど、実際は土地とか家具とかの資産? を考慮して、現金は半分の金貨4万5千枚!」
「おお?」
龍治のトーンが下がる。
「そして税金…というか【魔王】相手だから上納金? として25%引いて33750枚!」
「…魔王軍はヤクザだった?」
イメージが崩れるわね。
「さらに、あんたは【黒騎士】で闇の神にも仕えているから、もう10%引いて29250枚!」
「どんどん下がっていくね…」
残念、まだまだこれからなのよ!
「さて龍治、あんたはオークの軍隊を率いているわよね?」
「うん。…あ、ひょっとして…」
察したようだ、さすがGM経験者。
「そう、まず【軍司令官】として部族長【ガグ】に金貨4000枚。ああ、この中には部隊長とかの分も入ってるわ。で、300人のオーク【重装歩兵】が金貨900枚ね。その兵士達の武具を整える【武具師】が6人で金貨600枚かかるわ。あと戦争前に野営地も造ったわよね? 人数分のテントとその他で金貨3000枚ってとこね、ちょっと負けといたわ。あと兵糧ね、とりあえずオーク300人の一ヶ月分の保存食で金貨4500枚!」
「あの…僕の取り分は結局どうなるんでしょう?」
龍治がおずおずと聞いてくる。
「以上。これらの必要経費を引いて…龍治、あなたの取り分は…」
ゴクッという音が龍治から聞こえた。
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館の外からヒューッ!という叫び声が聞こえる。どうやら盛り上がっているようだ。いくら無礼講と言ったところで【魔王子】の【俺】が一緒に居ては存分に楽しめなかろう。これでいい。
今夜は戦勝祝いだ。この村にあった酒と食料を全て開放して構わんと言ってある。
僻地の村にしては随分と潤っていたようだ。あの領主は戦はともかく為政者としてはなかなか出来た奴だったのかもな。
『ねえねえ、あんなにばら撒いちゃって良かったの?』
『何のことだ?』
ワイン入りのグラスを傾けながら、問いかけてきた魔剣に聞き返す。
『お金よ。オーク達皆「いつもの倍貰ったぜ」って感じで喜んでるじゃない。あなたの取り分じゃないの?』
『色々敵に合わせた戦だったからな。少し色を付けただけだ。それに…』
『それに?』
【俺】はフッと少し笑って続ける。
『金には困ってないんでな』
『うわ~~腹立つ~~』
魔剣の腹とは一体。
『じゃあ私にもちょうだいよ。宝石とか、立派な鞘とか』
『お前が役に立ったらな』
と返してワインを愉しむ。いい夜だ。
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「龍治、本当にこれでいいの?」
念の為、もう一度聞いてみる。
「うん。明らかに貰いすぎだからね」
最終的な報酬、金貨16250枚。だけど龍治は「勝ったから、オークにボーナスを配ろう」と言って必要経費の内の人件費を2倍払うことにしたのだ。
それによって金貨5500枚が減り、龍治の取り分は金貨10750枚となった。ついでに【経験値】はシナリオクリア分を含めて切りよく12000点とした。
「シナリオ前にも沢山貰ってるし、これでも十分過ぎるよ」
と言ってくれた。…よかった。正直「金貨9万枚じゃないと嫌だ」とか言われたらどうしようかと思ってた。
「じゃあ、成長とかは次の機会だね。ありがとう真輝ちゃん、本当に楽しかったよ」
と笑顔で言う龍治。うん、私も面白かったかな。
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週明け。学校で経緯を鏡子に話したら、
「マキ、やりすぎ」
「言わないでぇぇぇぇ」
…やっぱり、やり過ぎだったみたい。




