魔王軍、進撃!
【闇の砂漠】中央にそびえる【魔王城】、その地下に築かれた地下都市の南端部分に【俺】はオーク軍を率いて訪れていた。
目の前に広がるのは巨大な魔方陣。そう、これこそは我ら闇の軍勢が地上に攻め込む為に必須なもの。
全員が魔方陣の上に乗るのを確認した後【俺】は魔方陣を起動させる。
一瞬ぐらりとした感覚があり、周囲の風景が変化する。と言っても先程までと大差ない、背後にあった地下都市へと続く道が消え、正面に地上へと通じる上り坂が見えるようになっただけだ。
今【俺】達は【闇の砂漠】の南端部、【魔王城】から距離にして100数十マイル離れた場所に出現していた。
描写を聞いた龍治が感心する。
「なるほど~、砂漠の真ん中からどうやって軍隊を移動するのか疑問だったけど、こんな仕掛けがあった…というか、考えたんだね」
ふふ~ん♪ これが全部じゃないわよ? 他にもちゃ~んと考えてるんだから。
「こう言う魔方陣が地下都市には全部で5箇所あって、他のはそれぞれ砂漠の端っこのこことこことこことここに出られるの。でね? それをこうやって線で結ぶと…」
と言いつつ地図に記入していくと、龍治が途中で気付いて声を上げる。
「あっ!? これって五芒星? しかも逆向きで、いかにも魔王軍っぽいね!」
さすが龍治、よく分かったわね。
「そうよ、こうやって魔王軍は地上に進行するの。しかも人間やエルフが頑張って追い払っても、本拠地は闇の砂漠の真ん中だから、攻め込むのは難しいってわけ!」
我ながらよく考えたと思う。
「凄いね! これだったら人間達を攻めるのもはかどるよ! ありがとう真輝ちゃん!」
うんうん、考えた甲斐が…うん?
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『若、どうしやす?』
側近となった族長【ガグ】が訪ねてくる。若って…まあいいか。…そうだな、まずは情報と拠点か。
『各方面に斥候を放て。他の者はここより少し南に陣幕を張れ。水源の確保も忘れるな』
『はっ。…行け!』
指示と共に数名が駆け出す。さて、とりあえず待つか。
「斥候が戻ってくると、南に半日ほどの所に大き目の村があることが分かったわ。どうする?」
聞くと、龍治は少し考えてから言う。
「村かぁ…小手調べに丁度いいかな? じゃあ、攻めるということで」
軽いわね。まあ私もそのつもりだけど。
「どういう風に攻める? オークも闇の種族で日光が苦手だから、夜襲する?」
攻め手なんだから、わざわざ不利なことする必要ないわよね。その方が被害も少なく…
「なに言ってるの真輝ちゃん? 戦争なんだから、正々堂々に決まってるじゃないか!」
…へ?
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使者が持ってきた書状を広げる手が、プルプルと震える。
だって仕方ないだろう? 自分が治めるこの村を、三日後に明け渡せと書いてあるのを見て、冷静になどいられるか!
使者を殺して送り返したいところだが、そうもいかない。何故なら「使者に危害を加える、もしくは定刻までに戻らない場合、即座に攻め込む」と書いてあるのだから。
ならやるべきことは決まっている。使者を返し、軍備を整え、三日後に決戦だ。降伏など言語道断!
見ておれ魔王軍め、この騎士【アーダン】が貴様らを叩き潰してくれるわ!
「という訳で三日後に正面から戦うことになったけど、本当にいいの?」
「もちろん! 大きな戦争ってワクワクするよね!」
目をキラキラさせる龍治。…よく分かんない。男の子特有のものかしら?
「そ、そう…とりあえず状況を説明するわね? この村の人口は800人くらいで、兵隊は予備役も含めて100人ってところね。対するあんた達魔王軍は、オークが300人で装備もしっかりしてるから、まあ楽勝かしらね」
それを聞いた龍治が、怪訝な顔をして言う。
「…それじゃあ詰まらないな」
…はい?
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村から北に1マイル程離れた平原でにらみ合う両軍。その数はほぼ同数。
『若…本当にいいんですかい?』
ガグが訝しげに聞いてくる。兵数を相手に合わせたのが、余程気に食わないらしい。
『くどい。それとも何か? お前たちオークは同数の人間に敵わないとでも言うのか?』
『っ! 馬鹿言っちゃいけませんや、人間なんぞこっちが半分でも蹴散らしてやりやす』
『その意気だ。…ん? あいつが領主か』
敵陣から、独りだけ騎乗し、立派な装備を身に着けた男がこちらに近づいてくる。よく見ると薄っすら光ってるな、全部魔法の武具か? なら、いい獲物になりそうだ。
『我が名は王国騎士アーダン! 我が領地を侵さんとする魔王の手下どもよ、この宝剣【アトワイト】の前にひれ伏すがいい!』
「おお! 魔剣に名前が付いてるっていいね!」
龍治が妙な所で感心した。…漫画からそれっぽいのを適当に付けただけなんだけど、なんか面はゆい。
口上は終わったか? では返してやるか。
『俺』が自陣から姿を現すと、敵陣の人間共は明らかに怯んだ。ふっ【ハーフデビル】を見るのは初めてか?
『『俺』は【魔王子】のアンリ。面倒な籠城をしなかった褒美に、早めに降伏すれば命だけは助けてやろう』
大きくはないが、よく通る『俺』の声を聞くと、領主は顔を真っ赤にして叫んだ。
『ふざけるな! 全軍突撃――っ!』
「じゃあ戦争ね。まずは両方の戦力を数値にするんだけど、もう計算してあるわ」
といって紙を出す。
・魔王軍戦力:77
・人間軍戦力:38+10(自領の為)
「え、これって緑の上級ルールブックの大規模戦闘ルールだよね? てっきり会話だけで済ませると思ったのに、わざわざ上級ルールまで読んでくれたの? ありがとう真輝ちゃん!」
感謝感激した龍治の称賛が、私に降り注ぐ。
「う、うん。ちょっと頑張っちゃった。喜んでくれてうれしいわ…」
と言いつつ目線を逸らす。…いえない。自分で読み込むのが大変そうだったから、お父さんを叩き起こして全部やってもらったなんて…
え、お父さん? 隣の部屋で何故か死んだ様に寝てますが、何か? …あとでサービスしなくちゃ。
「えーと、兵力差はないから、この数値にそれぞれ1d100を足して結果を比べあうのね。もちろん高い方が勝ちよ?」
あまり突っ込まれないうちに話を進める。
「じゃあ振るね(コロコロ)70!」
「こっちは(コロコロ)59。とすると戦力差が29だから、サイコロ分と合わせて40差かぁ。結構差が付いたわね」
結果を表に照らし合わせる。もうちょっと人間の戦力上げても良かったかしら? でも1d100の競い合いって出目が偏ったとき怖いのよねぇ…
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武具を打ち合わせる音と、戦士が出す気合の声がそこかしこで響く。だがもう終局だな。
人間共の最初の勢いは、故郷を守るという意気込みもあり、まあ良かったが、やはり地力が違う。
オーク達はほぼ全員が戦士であり、訓練も欠かさない。
その自分達の力の延長である、装備作りも妥協はしない。ドワーフと比べても引けはとらないと感じる。
ガグの言った通り半数でもよかったか。と考えながら戦場を見渡すと、独り奮戦している領主と目が合った。
領主は憤慨しつつ、だが悔しそうな面持ちでこちらに向かって叫ぶ。
『魔王子アンリよ! 我、王国騎士アーダンが貴様に一騎打ちを申し込む!』
『俺』の脇でそれを聞いてたガグが鼻で笑った。
『はぁ? こっちにはろくな損害が無くて、そっちはもう敗走始めてるってのに、なに言ってやがんだ』
『いいだろう』
『ちょ!? 若、正気ですかい!?』
失礼だな!? だが『俺』はそれを咎めず剣を抜き、前に進みつつ理由をガグに説明してやる。
『ああいう自分の強さに縋ってる人間を、正面から切り伏せるというのは楽しそうだろう?』
『…へっ、それは確かに』
ニヤリと笑うガグ。少しは『俺』の流儀が分かってきたか。
そうして徐々に静かになっていく戦場の中央で、『俺』と領主は対峙した。
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「こんな状況の一騎打ちも受けちゃうのね。…あんた、ノリだけで生きてない?」
「ゲームでノリが悪い、って言うより良いんじゃないかな?」
うーん、それもそうかしら? でも、いつか足をすくわれそうな気も…あ、黒騎士だから別にいいのかな?(無常)




