『俺』とオーク
大陸中央に広がる【闇の砂漠】 その中心にある【魔王城】 パッと聞くと「そんな場所で生きられる種族なんていない、それこそ悪魔や不死者だけだ」と思うだろう。だが、それは地上に生きる種族の浅はかな考えだ。
「地上に」と言ったな。そう、この砂漠の地下にこそ我ら【闇の種族】が住まう都がある。地上の城なぞ、あくまで飾りでしかない。
いま『俺』はその地下都市の一角、闇の種族の一つである【オーク】達が住む区画に来ていた。
「僕の知らない場所が増えていく…」
嘆く龍治。いいから黙って聞きなさい。
魔王の勅命を受けた『俺』だが、勿論一人でやる事ではないし、そのつもりもない。地上侵攻には軍勢が必要だ。
そう考えた時に『俺』の第一候補に上がったのがオークだ。数を揃えるだけならゴブリンや【コボルド】でも構わないが、あいつらは管理が一苦労だ。
勝っている時は暴走し、少し不利になっただけで我先に逃げ出すのでは使ってられん。敵への嫌がらせに使うのが精々だろう。…増えやすいから間引きは必要だしな。
単体の強さで考えるなら【オーガ】や【ミノタウロス】なのだが、いかんせんこいつらは数が少ない。敵側に明確な驚異でも居ない限り、消耗したくはない。
その点オークは使える。個体数は多く、一人一人が人間の戦士に匹敵する力量を持ち、士気も高い。まあ…
『何か用か? 王子様よ』
従わせるには、まず、ぶちのめす必要があるけどな。
「なるほど。ここで戦ってオークを従えろと」
龍治が納得する。でも…
「ここまで進めちゃったけど、龍治はどうしたい? オークじゃなくてゴブリンやコボルドでもいいけど…」
これはあくまでGMである私の考えだ。プレイヤーの龍治が他のを希望するなら、そっちで進めるべきだろう。
「いやいや、これでいいよ。同じ流れなら僕もオークを勧めただろうしね」
龍治が共感してくれた。そうなのよ…GMハンドブック読むと分かるわよね?
「真輝ちゃんも分かったんだね、うんうん。ゴブリンとコボルドって…」
「弱いのよねぇ…」
「弱いんだよねぇ…」
二人のGMの嘆きが部屋に響き渡った。
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え? 最初のシナリオでシャイン達がゴブリン相手に散々苦戦したじゃないかって? うん、確かに。
でもね? GMハンドブックを読んで分かっちゃったのよ。あれは龍治のサイコロの出目が良過ぎただけだって。
一番最初の戦闘で例えると…
「皮鎧を着たローデリックに」
「ゴブリン四匹の攻撃が2回以上命中して」
「ダメージの合計が7点を超える」
っていうのは、確率で言うと5%も無いのよね。計算してびっくり。まあ、あの失敗があってシャインが生まれたんだから、結果としては良かったんだろうけれど…
ちなみにコボルド…頭部が犬の人型生物なんだけど、ゴブリンよりも更に弱いのよね。しかも、ダメージのサイコロにマイナスの修正が付くというオマケ付き。
あと、この二つの種族に共通して言えるのが【士気】の低さね。
これは戦闘で不利になった時に行う判定で、失敗すると逃げちゃって、逃げられない時は降伏しちゃうの。
で、元々の確率が50%以下な上に、不利になった時にやるチェックだから、誰か一匹が失敗すると連鎖的に失敗しちゃう。だって「味方が逃げ出す」っていうのは「不利な状況」でしょ?
だから、軍隊としてはとても使えない。でもオークは違う。
オークは【ドラゴン・ファンタジー】の公式世界で、独自の帝国を築いているくらい文明的だ。軍国主義で「力」が全てという考えだけど、それゆえ強者を敬う風潮がある。
何より違うのは「物を作る」という文化を持っていること。勿論軍国主義だから武器や防具に偏ってるけど、自分達で装備を整えられるというのは、国造りという要素には欠かせないわ。
だから私が「ハーフ・デビルの黒騎士が率いる部下は?」と考えた時に、オークが一番適していると思ったの。…龍治も同じように考えると言ったとき、ちょっと嬉しかった。内緒よ?
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問いかけてきた門番のオークに、
『用も無いのにこんな所に来るものか。とっとと族長を連れてこい。何なら、お前のクビを切り落として族長の館に放り込んでやろうか?』
と『俺』は凄んで返す。するとオークは怯んだ様子で、
『わ、わかった。ちょっと待ってろ』
と言って駆け出していく。…ふん、鬱陶しい。
「おお~、いつになく強気じゃない。お父さんも言ってたけど、龍治こういうの好きなの?」
生き生きと喋る龍治に、思わず感心する。
「うん! 一度こういうのやってみたかったんだ。小さい時にやってたヒーローゴッコに、ずっと違和感があってね…」
幼い頃の述懐をされてしまった。ま、まあ、子供には子供の悩みがあるわよね(目逸らし)
しばらく待つと、取り巻きを数名連れたオークの族長がやってくる。…武装している事から、展開が予想できるな。
『これはこれは魔王子殿下、我が【鋭き牙】一族に何の御用でございましょう』
跪きもせず『俺』が口を開くよりも先に声を出しやがった。礼儀は知ってたとしても『俺』に尽くす気はないってことだ。
『魔王の勅命だ。これより地上に侵攻する。軍の準備を整えろ』
溜息と内心を抑えつつ声を出す。態度はともかく、ちゃんと従うなら…
『あ? それで指揮するのはお前ってか? 冗談じゃねえ、戦なら俺がやってやるよ。お前は帰って魔王のマントの中に隠れてな!』
言葉を取り繕うのも辞めやがった。やはりこうなるか、と思い『俺』は剣を抜く。
『抜け。貴様は『俺』に媚びへつらう存在だということを、分からせてやろう』
『ふん。後悔させてやるぜ、小僧!』
と言って取り巻きから斧槍を受け取る族長。やれやれ、骨が折れそうだ!
いよいよ戦闘ね! と思って張り切っていると、なにやら計算した龍治が恐る恐る聞いてきた。
「あの、真輝ちゃん? 族長レベルのオークがハルバード使うのって、もし直撃したら2レベルの僕でも即死するんじゃ…」
あ、気づいた?♪
「大丈夫よ、計算したらその確率は5%もないから。あんたのサイコロ運ならへーきへーき♪」
パタパタと手を振って答える私に、龍治は尚も聞いてくる。
「…真輝ちゃん、ひょっとして怒ってる?」
やーねぇ、怒ってないわよ♪ …覚えてるだけで(真顔)
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少ししゃがんだ『俺』の頭上を、斧槍の先端が音を立てて通り過ぎる。大した勢いだ、食らったらタダでは…って避けなかったら死んでたぞ今の? 本当に殺す気かよ。
まあ、それでも『俺』に焦りや恐怖はない。この程度、父である魔王との鍛錬に比べたら子供の遊びだ。それに…
ガインッ!
『ぐうっ!?』
音と同時に弾かれた衝撃に族長が怯む。何のことはない、胴を狙った奴の一撃を『俺』が大盾で弾き返しただけだ。
族長が斧槍の先を見て驚愕する。見事に刃こぼれしてるな、あれではもう使えまい。
それも当然だ。闇のオリハルコンである【ダークメタル】に、ただの鋼の武器が太刀打ち出来るはずもない。確認するまでもないが、大盾には傷一つ付いてなかろう。
分かりやすく例えるなら「分厚い鉄の壁を、棍棒で破ろうとする」様なものだ。それが出来るとしたら、そいつは神の領域に達している者で、少なくともこいつじゃない。
そろそろ終わりにしてやるか。
『フンッ!』
一歩踏み込んで気合一閃、袈裟懸けに片手半剣を振るう。族長はとっさに斧槍の柄で受けようとするが、
ザンッ!
という音と共に、柄と着ていた鎖帷子まで断ち切り、肉体を切り裂く。
『ガアァァァッ!?』
叫び声を上げながら後ろに倒れる族長。
『族長!?』
慌てて近づこうとする取り巻き達。それを『俺』は、
『寄るな』
と一声で静止し、倒れた族長に近づき手をかざす。
『我が闇の神よ、この者の傷を癒し給え【ヒーリングI】』
闇が族長を覆い、次の瞬間には傷はある程度塞がっていた。…正直、癒しってあまり得意じゃないんだよな。滅多に他人に使わんし。
全てじゃなくても、癒されたのは分かるのだろう。族長が訝しげにこちらを見る。
『で?』
『俺』が促すと、族長は視線を逸らし悔しそうに呟く。
『装備が同じだったら、俺の方が…』
ほう?
『なら、使ってみるか?』
そう言って『俺』は片手半剣を持ち替え、柄を族長に向けて突き出す。
『う……』
呻きつつ、族長は震える手を剣に伸ばす。だが、触れる寸前に、
『ダメだ…俺にはこんな【闇】は到底使えねぇ。…俺の負けだ』
と言って項垂れた。ふぅ、やれやれ。
『理解したか。なら、取るべき態度も分かるのではないか?』
再び促す。すると族長は姿勢を正し、宣言する。
『度重なる失礼、誠に申し訳ございませんでした。これより私、族長【ガグ】と鋭き牙一族は、魔王様と魔王子【アンリ】殿下に絶対の忠誠を誓います』
それを聞き、取り巻きのオークも跪く。ここでギャーギャー騒がないのがオークの便利な所だな。
『許す。では急げ、三日…いや、二日で準備しろ』
そう言って振り返り、歩き出す『俺』。背後からは『急げ!』『合戦だ!』などの叫び声が聞こえる。
こうして『俺』の覇道は始まった。
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「チッ、もっと強くしておけばよかった」
思わず本音が漏れる。
「勘弁してください…」




