与えるもの、与えられるもの(意味は色々)
フーッと溜め息を一つ吐きつつ、領主“剣を極めし者”ログナーが呟く。
『また其方か…』
人聞きの悪い。それに今回は『私』だけのせいではない。
『まあまあ、領主よ。ハーピー達との全面戦争を防げたと思えば良いではないか』
『そうそう、ログちゃんも昔はやんちゃしたじゃない、ね?』
それぞれフォローをいれる“生死の境を超える者”オリバーと“全てを知る者”ルシア。姿は見えないけれど“影を統べる者”も本人か部下が近くに居るのだろう。
『ログちゃん言うな! 何で三十過ぎてちゃんづけで呼ばれなくちゃいかんのだ!?』
あえぐ領主。まあ、エルフから見ればねぇ…
『そっか、年下なんだ。あたしもログちゃんって呼んでいい?♪』
はいそこ、無駄に煽らない。
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どういう場面かと言うと『私』達、ハーピー達の一件を報告しに来たのよね。
もちろん、いきなり領主様に直談判とかしないで『私』は司祭様に、アリシアは姉のルシアに。
そしたらここ、領主の執務室での人払いしての会合となった。普通に謁見の間でやると、周囲に与える影響が予想できないんですって。
「えー? 竜王よりマシじゃない?」
「…どっちも厄ネタには変わんないでしょ」
といって二人で牽制し合う私と鏡子。龍治、元凶なんだから他人事みたいに見てるんじゃない。
『まあ確かに、戦にならずに済んでよかったとは言える。最悪、多数のハーピーに街の中に入られて、大合唱されながらゲリラ戦とかもあり得たからな。その場合どれくらいの被害が出るのか…考えたくもない』
そう言って頭を抱える領主。なにその悪夢。
『で、どう扱えばいい? 退治できないと言うのであれば、ある程度受け入れるしか無かろう。所見を申せ』
気を落ち着かせ、領主として意見を求めるログナー。…アリシア?「ログちゃんかっこいい~」とか言うんじゃないわよ?
『では私から。ハーピーの飛行能力を活かし、伝令や斥候として雇うのはいかがでしょう。いわば傭兵ですな』
司祭様が提案し、ルシア師が補完する。
『それが良いわね。あと長期的に考えるなら、ハーピー達がこちらを敵視しようと思わない関係にしてしまいたいわね。人間が持ってて、ハーピーが持ってない物って何かあるかしら?』
ルシア師の言葉に『私』はピンと閃くものが有った。
『それなら…』
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『ほう! これは中々良いではないか!』
そう言って色々動き、ポーズを取るハーピークィーンと、それを羨ましそうに見る他のハーピー達。
『良かった。なら基本はこの造りでいいわね? 他の方の分は街でこれから作るから、しばらく待って頂戴。 35人分で、そのうち3人は子供と言う事でいいかしら?』
と言いつつ、羊皮紙にメモを取っていくルシア師。
クィーンの分だけかと思っていたのか、ハーピー達が喜びに騒ぐ。
何の話かって? これから人間と交流する為に、まず何が必要かって言ったら、それは服でしょう?
『私』がそう言ったら、ルシア師がハーピーの館に直接出向いてくれたのだ。
服と魔術に何の関係があるのか? それが大ありなのよ。
「ドラゴン・ファンタジーの魔法って、何でもありなのね…」
私が呆れと感心を同時にしつつ呟くと、鏡子は完全に呆れて言う。
「龍っち、これ全部読んだの…? 控え目に言って、頭大丈夫?」
鏡子の視線の先には、積み上げられたサプリメントの山が有る。よくこの中からこの呪文を見つけたものだ。
「全部覚えてる訳じゃないよ? でも人間って不思議だよね。一度読んでると、何かの拍子に頭に思いつくんだ」
龍治が嬉しそうに答える。…褒めてないから。
ルシア師が使ったのは、魔術師呪文の第四位階に分類される【布作成】と言う呪文だ。
この呪文は10m四方サイズの布を作り出す呪文なのだが、師の様に服飾の知識を持っているなら、この様に直接一着の服を作ることも可能なのだ。
え? 布を作るなんて地味だし、冒険の役に立たない?
分かってないわね。この呪文で作った布は、魔力を帯びていないの。つまり【魔法解呪】じゃあ消せない、完全に無から有を作り出せる呪文なのよ。
しかも質も良いし、ルシア師みたいな知識が有れば、複雑な形状の物もあっという間に出来てしまう。それこそロープなんて簡単。まさか、冒険にロープが必要ないなんて言わないわよね?
師がやろうと思えば、街の服飾職人を全員廃業に追い込めるでしょうね。…面倒だからやらないでしょうけど。
え? じゃあ全員分作ってやればいいのにって?
あのね…第四位階っていったでしょ? 普通に依頼したら一回銀貨1600枚掛かるのよ! 王族かっての!
今回は、ハーピー一族への挨拶を兼ねてってことで、特別なのよ。
ちなみに服の形状は背中の開いた、言ってしまえばレオタードの様な物。これがハーピー達に広まれば、とりあえず安心ね。男共の視線的な意味で。
『おおぉぉぉ…』
『マスターは男の心が分からない…』
『見る分にはいいんじゃねぇかなぁ…』
はいそこ、黙ってろ。
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『あ、あの、すいません。出来ましたが…』
気弱そうな青年が、奥の厨房から出てきて、それに対して『私』が答える。
『ありがとうございます。じゃあ、こちらに運んでください』
そう言うと、厨房からどんどん料理が運ばれてくる。それを見てどよめくハーピー達。
料理自体は大した物じゃない。近辺で取れる肉や野菜だが、手が鉤爪なハーピー達でも食べやすいように、串を通している。所謂バーベキュー形式だ。飲み物が注がれる杯も、持ちやすいように大きめの物が使われてる。
『では【イーストエンド】とハーピー一族の繁栄を祈って、かんぱーーい!』
『私』の音頭にハーピー達は首を傾げながら、見よう見まねに合わせる。そして、それぞれが恐る恐る食べたり飲んだりすると、目の色が変わった。
『おおっ!? 肉とはこんなにも美味い物だったのか! この酒とやらも、川の水や獲物の生血等とは比べ物にならん!』
クィーンも大絶賛だ。がっつくハーピー達を横目に、ルシア師やアリシアと視線を交わす。大成功と言って良いだろう。
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人にあってハーピーに無いもの、それは「文化」だ。
空を飛び、歌で心を惑わし、鉤爪で相手を引き裂く事が出来ても、人生を豊かにする文化を作る事は出来ない。
今回ハーピーと共存するに当たり、傭兵として武力を提供して貰うなら、人間が出せるのはこれしかないと思った。
本来ハーピーと言うのは雑食性らしい。
歌で獲物を引き寄せ、思うがままに食い殺す。この一族が今まで人間を食べてこなかったのは、たまたま近くに居なかっただけにすぎない。
だがその雑食さ故、寿命は短い。統計を取った訳ではないが、4~50年程度だと言う。
それもそうだろう。人には無い翼をはためかせ、火も通さずに獲物に食らいつき、生血を飲む。
代謝は多く、危険は高い。どこに長生きする要素が有ると言うのだ。
だが、もうそれも過去の話となる。
これからこの一族は、服を纏い、肉を焼き、血ではなく酒を飲む。ただ襲う為ではなく、街を護る為にその爪を奮う。
そう、それはまるで神話の時代に“導きの神”に火を与えられた人間のようではないか。
………
ちょんちょん、と背後から誰かが『私』をつっつく。
『あの……私達はこの後どうすれば…』
振り向くと、料理をふるまった気弱そうな青年達5名が『私』に申し訳なさそうに聞いてくる。
………
ハーピー達に目を向けると『私』が回想に浸っていた間に皆食べ終わった様だ。満足してるように見える。
………
さて、ここで考えてみよう。人間に限らず食欲が満たされた生物が、次に何を求めるか。…ローデリック達は先に外に出たわね?
確認した後『私』は青年達に向けて、祈りを込めて言った。
『では、貴方達はハーピーの皆さんを「満たして」あげてください。大丈夫です、神は見捨てません。具体的に言うと一週間後には交代が来ます』
『………は? 交代? 一週間!?』
もうハーピー達を見なくても分かる。こっちに向けられてる欲望の気配は尋常ではない!
『では『私』達はこれで! 神の加護が有らん事を!』
と言って出口に駆けだす『私』とアリシア。ルシア師? とっくに【瞬間移動】で帰ったわよ!
『え、あの、ちょっと!?』
戸惑い、とっさに動けない青年達。
御免なさい! 貴方達が「選ばれた」のはそういう所(草食系)なんです!
背後に聞こえるハーピー達(肉食系)の雄叫びと、青年達の悲鳴を振り切り『私』達は、ひた走った。
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東の泉でローデリック達と合流したが、誰も口を開こうとしない。嫌な事件だったわね…(主犯が言ってはいけない)
『…ここに居ても仕方ありません。街に帰り…』
『私』がそう言いかけると、泉の水面が光り出し、精霊が再び現れた。もしかして『私』達を慰めようと…?
『貴女が捨てたのは、この金の良心ですか? それとも銀の…』
『まだ捨ててないわよ!!』
言い終わる前に投石紐用の石を叩きつけてやった。




